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14、理不尽の街 後編




 気を取り直して三人目の賢人を探すことにする。



 街で一番高い塔にいると通行人に聞いて、塔までやってきた。


 塔の階段を昇り続けていると、ちょうど上から、白髪に長い白ヒゲのそれらしき老人が降りてきた。気難しそうな顔をしている。


「あなたが三賢人の一人でいらっしゃいますか?」


「いかにも」

 ジェンスが声をかけると、老人は威厳を見せつけるような態度で応えた。


 ジェンスは鍵のことを質問した。


「塔の裏手に池があるのだよ」


「池ですか」


「池?何のことだね?」


「今、池とおっしゃいましたよ」


「私は、そんなことを言った覚えはない!」

 賢人は怒った顔で言い張り、ぶつぶつ言いながら塔を降りていった。


 ジェンスは俺のほうを向いて口をとがらせて肩をすくめた。


 賢人らの言うことはウソばかりで話にならない。これじゃあ賢人じゃなくて、愚人だろ。



「なぁ~、変なジジイなんかに聞くより、詩ぃの暗号解いたほうが早いで」


 アルは俺を見上げて呆れ顔で言った。まあ、それは言えるな。だが、暗号もイマイチ意味が解らないが。



 意味はないが、自然に足は上へと向かっていた。


「合わせて考えると、どう?なぁ、エアリアルはどう思う?」


「ええっ?俺も考えるんかいな。そんなん、分かるわけないやん。脳ミソ垂れかかっとんのに」


 ボンとアルが持参の落花生を放り投げて食べながら言った。行儀の悪い連中だ。ノドに詰めるぞ。


「そんなこと言わずに真面目に考えろヨ」


 二人は歩きながら、俺を挟んで両側から互いを小突き合い、ふざけ始めた。多弁の奴が二人もそろうと、うるさくてたまらない。まったく、何かと騒々しい。


「考えてもヨダレと鼻水ぐらいしか出ぇへんわいな。あとは、おならしか。何なら一つ、ひり出そか?臭ぅても知らんで~?」


「そんなの役に立たないじゃんか」


「うるさい。少しは黙ってろ」


 俺が言うとボンとアルは一度に黙った。そして、二人とも口を突き出して明らかに不満げな上目遣いで俺をじっとりとにらむ。



 二人は歩みをゆるめ、俺から少し離れてブツブツと何か言い出した。



「…あいつは男前だけど偏屈だからナ~。きっと、それで女ができないんだせ」


「ホンマや。あんな奴、中身で女の子に逃げられるわ。朴念仁で頭が古うて超カタブツの、若年性ガンコ親父やからな」


 ボンが腹いせにアルの耳元でひそひそと言い、アルもニタニタ声で同調する。


 しかし、二人のひそひそ声は大きいから、よく聞こえているのだが。



 ひとしきり俺の陰口を叩き、ボンは窓から外を見た。



「お、おい!見てみろよ!この街、手の平みたいな形してるぜ!」


 ボンは立ち止まって、とつぜん大声で言いながら手招きした。街並みを指差しているようだ。


「あーっ、ホンマや!手ェの形しとる。一二三四五…ちゃんと指、五本あるやん」


 …待てよ、今、何かひらめきそうに…。



 解った!



「暗号は一と三と五の指のことじゃないのか」

 俺が言うと一同は空間をにらんで一瞬考えた。


「そうか!!『いのさのご』ってのは、数字か!」

 ボンが嬉しそうに叫んだ。


「せやったら、両端と真ん中の指の先に当たる三ヶ所に水晶の鍵があるんかな?」


 アルが自分の手の平で確認する。おそらくそうだろうということで、一と三と五に当たる路に見当をつけてから俺たちは塔を駆け降りた。


「鍵は三つもあるから三つに別れようぜ」ということで三つに別れた結果、余ったアルが俺にくっついてきた。


「この路をまーーーーーーーーーーっすぐやな?せやったら、競走せぇへん?」


 マトモに走って勝負になるわけがないだろ。脚の長さを考慮すりゃ分かる。


「じゃあ俺、走りで、お前は歩きやからな。ぜったい走ったらアカンで!」


 そうきたか。それはそれで逆に勝負にならないだろうが。



 一本道だから迷うこともないだろうから、勝手にやらせておくか。


 俺が黙っているから賛成と取ったらしく、アルは意気揚々と一人で走り出した。まったく、子守は疲れる。



 街、というか、村に毛が生えたくらいの街だ。これでも、この国一番の大都市なのだろうが、都には程遠い。


 地面は舗装されていない。幾筋も刻まれた轍に路の中央は浮き彫りにされ、いびつになっている。


 すれ違う物売りや牛飼いも何だか悠長な雰囲気だ。


 だが、面積もあまりない完全な孤島のくせに人口だけは多いようだな。



 何百メートル歩いただろうか。塔の上から目星をつけた場所へ着いた。


 そこは、鍵屋だった。


 アルが店の前でボンヤリと俺を待っていた。



「鍵あるとこ、鍵のお店やで。なぁ、これって…セコない?」



 …たしかに。





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