13、理不尽の街 前編
《理不尽の街》
三つ
捻りたる街
いのさのご
………………
街へ着くと、何だか分からないが、ものすごく街の人間に歓迎された。
「勇者様だ!」
「勇者様がいらした!」
よく考えりゃ、馬鹿正直に着けているこのタスキのせいだろう。
『勇者様御一行』が到着するたびに手放しで歓迎をしなきゃならないなんて、恥ずかしくてバカバカしい法律だな。俺ならば、しょっぴかれても逆らうだろう。
「常闇の大魔王を倒してくれる勇者様だ!」
道行く人間はバンザイでもしかねない勢いで次々と歓迎の言葉を吐く。ご苦労なことだ。
「常闇の大魔王って、どんな奴なんスか?」
目の前で半ばヤケクソに歓迎しているオヤジにボンが問う。
「常闇の洞窟に住む、悪い魔物です。早く倒して、この地に平和をもたらしてください!」
あまり答えになっていないような気もするが。
それは、あの迷惑な国王が言っていたことと同じだな。…といっても、やはりすでに平和そうに見える。
「この国の中心にある常闇の洞窟へ入るには、八つの水晶の鍵が必要です」
「その鍵って、この街にもあるんでしょう?」
ボンが問う。この街に住む三賢人なる者が水晶の鍵のことを知っている、と、ごていねいに説明してくれた。
三賢人の一人目は路地裏にたたずんでいた。長椅子に腰かけ、両手で杖をつきながら空を見ている老人だ。
さっそくジェンスが水晶の鍵について問う。
「水晶の鍵は、この路を右へ曲がって最初の家の入口を入ってすぐの机の上にあるんじゃ」
ジェンスは礼を言って戻ってきた。
言われたとおり路を右へ曲がる。曲がってすぐの所に最初の家があった。開け放たれた玄関から机が見えている。
その机の上を見た。が、鍵はなかった。
もう一度、聞き直そうと思い、さっきの老人の所まで戻った。しかし、もう老人はいなくなっていた。
「どーすんだよ!」
「ホンマや!さっきのん、ウソやん」
ボンとアルが憤る。怒っても仕方がないだろ、相手がいないのに。
「ん~、ともかく次へ行ってみようよ」
ジェンスが提案する。変わり身の早い奴だ。
二人目の賢人は噴水の縁に腰かけている学者ふうの老人だ。周りに弟子のような若い取り巻きが数人いる。
さっそく水晶の鍵についてボンが聞いた。
「一番大きな屋敷にあると言えばあるし~、まあ、ないこともないんじゃないかな~」
「いったい、どっちなんスか?ぜんぜん解らないですヨ!」
「あ、私は忙しいんだよ」
学者ふうの賢人はボンを手で追い払い、取り巻きを伴って逃げるように去っていった。
「何だよ、あれ!」
「ホンマや!エエ加減なジジイやなぁ!くそジジイ!」
口の悪い奴だ。