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12、迷いの森 後編




 そこまでの道のりは木々もまばらで、わりあい迷いにくそうだった。感覚からして一キロもゆかない所に泉があった。木々に守られるようにして、ひっそりと湧いていた。


 たしかにそこにはエルフらしき女がいた。人間ではあり得ないような緑の髪に、とがった耳。空想物語などに登場する姿をそのまま実体化したようだ。



 …だけど、よく見りゃ、女というより男が女装しているらしい。


 しかも、女装しているのはさっきの男じゃないか。剛毛の生えたゴツい腕や脚がヒラヒラの服から出ている様は気持ちが悪い。二、三日は夢に見そうだ。


「あの~、耳、いがんでますけど…大丈夫なんですか…?」

 アルがエルフもどきに言った。エルフに扮した男は、あわてて自分の耳に手を遣った。


「あらヤダ!あなたたちが歩くの速いから、あせってつけ間違えちゃったみたいだわ」

 エルフに扮した男が野太い声で言った。



 …島の王よ、一人二役させるにしても、もう少し配役を監督したほうがイイと思うぞ。




 エルフに不思議な笛をもらって問題の大木まで戻ってきた。


「これを吹くと……うじゃうじゃ出てくんだよナ?」


「せやろ…あれが、うじゃうじゃゾロゾロついてくるんやで。ところで誰が吹くん?」


 たしかに現実問題として切実だ。


「オレは今、ちょっと頭痛がすんだよナ~」


「俺は急用が…それと、大のほう、だいぶガマンの限界やし」

 ボンとアルは、さりげなく俺に笛を押しつけ、木から離れていった。



 …って、こら!


 何が頭痛だ、何が急用だ。責任逃れをしやがって。ジェンスに至っては俺の横で他人事のように、ただ上品に澄ましてニコニコと笑ってやがる。


 まったく、何かとハラの立つ連中だ。これからは溺れていようが何だろうが、放置してやるからな。覚えてやがれ。



 三人は少し離れた木の陰で、怖いもの見たさといったようすで興味津々にこちらを覗き見ている。目が合ったから思いきりにらみつけてやると、三人の顔は同時に幹の向こうへ引っ込んだ。


 つくづくハラの立つ奴らだ。まとめて殴り倒してやりたいほどだ。



 無理やり持たされた笛を仕方なく吹…こうと思うのだが、うじゃうじゃと八つ足が這い出て、ゾロゾロゾロゾロついてくる様を思い描いて二の足を踏んでしまう。




 えーい!どうにでもなれ!



 意を決して半ばヤケになってそれを吹く。だけど、たしかに吹いているはずなのに、予想に反して笛からは音が出ない。



 不審に思っていると、手ほどの大きさの八つ足が木のウロからゾロゾロゾロゾロゾロゾロと這い出し始めた。


 飛び上がりたいほどの不快感を押さえ込み、逃げ出したい気持ちをかなぐり捨て、音の聞こえない笛を吹きながら例の大木から離れる。この勇気!自分で自分を褒めるぞ!



 ソレの行列は俺の歩みに合わせてついてくる。俺が止まるとソレらも止まり、俺が歩くとソレらも歩き出す。


 その時、何を思ったのか、その内の一匹が一定の距離を破って足早に追いついてきて俺の足を登り…



 背中を這い上がり…



 払う間もなく襟首から服の中に…





「◎※☆〇★#ッっ!」



 もう、今日かぎりで人間を廃業してもイイとさえ思った。






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