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14、訪ねた先は……



「誰だね、こんな嵐の夜に」


 ランプを片手に上品そうな中年の男が顔を出した。



 熊みたいに大きな、ヒゲ面の山男でも住んでいるものだと決めつけていたが、意外にも細身で繊細そうな感じの男だった。




 男と目が合い、俺は一礼した。


「おや、旅人さんかね。いったいどうしたんだね?もしかして、この大風に寝食に困っているのかな?」


 男は俺たちを観察するように見た。頭から足の先までビショビショの、さぞかし憐れな旅人に見えることだろう。


 自分はどんな姿になっているかは知らないが、アルなんてかなりショボくれている。



「ははん、図星だね。お入りなさい」


 男は一人で納得したように笑みを浮かべ、道を譲るような格好でうやうやしく、戸口へと俺たちを招き入れた。



 それに素直に従い、軽く頭を下げて戸をくぐる。濡れたまま入ってイイのか一瞬とまどったが、男は、いとわしくない様子だった。


 すぐに足元の石畳に水溜まりができ始めた。



「風邪をひいてはいけないから、早く着替えたまえ」


 そう言いながら男は部屋の中央へ火を起こしに行った。自分で全部するところを見ると、どうやら一人で住んでいるらしい。家人も見当たらない。



 家の中に区切りは一切なく、高い天井の大きな一部屋になっているみたいだ。わりあい、空間自身は広い。


 だが、薄暗く浮かび上がる部屋の様子は、まるで物置のように物だらけだ。おそらく男は画工なのだろう。何枚も立てかけられた絵や画架、石像なんかも所狭しと置いてある。



 無造作に置かれた道具類の間を通り抜け、点けてもらった火のそばへと行く。


「どうせ荷物の中の着替えなんかも、ぐっしょりなんだろう?僕ので申し訳ないが…」


 男は言いながら部屋の隅のタンスから服を引っ張り出してきて、火のそばの長椅子へ適当に並べた。


「これで存分にオシャレを楽しみたまえ」


 ナハハと楽しげに笑いながら、軽い足取りで何かをしに部屋の隅へと向かった。


 よほど来客が嬉しいのか、男は楽しそうにしている。よく分からないが、面倒見のイイ人みたいだな。



 と、並べられた服を見る…オシャレか。全部、寝間着じゃないか…。



 動くことをやめると急に身体が冷えてきた。張りついた重い服を脱ぐ。服と一緒に貸してくれた手ぬぐいは日なたのにおいがした。



 さすがに下着は借りるわけにはいかないだろうから、冷たいが水気を取るだけで我慢する。着てりゃ乾くだろ。


「下着も貸そうか?」


 遠くから男が言った。からかうようにニタニタ笑う雰囲気が伝わってくる。


「遠慮しておく」


 すかさず断り、そのまま寝間着を羽織った。



 男は遠目にも判るほどの汚れがついた服を着ている。汚れは絵の具か何かなのだろう。いろんな色をしているのが見て取れる。


 歳は五十代くらいだろうか、白髪と黒髪が半々くらいで混ざっている。顔つきは穏やかで陽気そうだ。



 ふと、横にいるアルを見ると、もじもじといつまでも着替えずにいた。


「馬鹿。何してんだ」


「いや、シャレやなくてハラ具合が…あの~、すみません、便所、どこですか~?ちょっと腹具合、悪いんですけど…」


「冷えたのだね。こっちだよ」


「めっちゃヤバめやから、ちょー、便所行ってくるわ。ついでに腸も出してくるわ」


 いつものことだが、頭もハラも弱い奴だ。まったく、困り者だな。



 アルは男について玄関とは反対にある戸から出て行った。




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