「わたしの時間を、あげましょう」
連載途中の暇つぶし程度の物語ですが
読んでいただけたら、とても嬉しいです。
連載中「死神様がいるセカイ」
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僕がこの世界からいなくなったら。
そんな事を時折考える。
考えては、項垂れ、考えては、空を見る。
僕の世界はいつも真っ暗で。
答えはただ一つ。
誰にも悲しまれないままで。
何も変わらない。
ある日、僕の元に一人の少女が訪ねて来た。
彼女は言う。
「あなたの時間をください」と。
僕は笑って答える。
「あげられるほど立派なものじゃありませんよ」と。
少女は悲しそうな顔をして俯く。
だから僕は
「わたしの時間を、あげましょう」
そう言って、彼女が望むだけ時間を差し出した。
ある日、僕の元に一人の青年が訪ねて来た。
彼は言う。
「あなたの時間をください」と。
僕は笑って答える。
「何時間欲しいですか?」
彼は指を折り折り数え、ピースサインを僕に向けた。
だから僕は
「わたしの時間を、あげましょう」
そう言って、彼が望むだけ時間を差し出した。
ある日、僕の元に二人の男女が訪ねて来た。
僕は言う。
「わたしの時間を、あげましょう」と。
二人は笑って答える。
「今度はあなたにプレゼントです」
驚いて顔を上げる。
「僕らに時間をくれた、お礼です」
そう呟いて、青年が僕の目に手を当てた。
まず初めに、光があった。
そこに人影が二つ、揺らめいていた。
そしてそこには、色があった。
青年が言った。
「あなたの時間をください」と。
少女も言った。
「あなたの時間をください」と。
そして僕は答えた。
「あげられないほど、素敵なものです」と。
そして思った。
僕は何時間、彼らに与えたのだろうか、と。
その日から、僕の周りには、色が溢れた。
その色、ひとつひとつを並べて、小さな紙に世界を映し出した。
僕のその『作品達』は世界中に羽ばたき、沢山の人に時間を与えた。
それは、美しいものを愛でる時間であったり、懐かしい思い出に浸る時間であった。
僕は今、最期の『時間』を創り上げる。
それは、真っ黒に塗りつぶされていて、とても汚かった。
だけど、それが僕自身が長く見てきた世界だった。
その中に、二つの点を置く。
それはさながら、あの二人のようだった。
ある日、僕の元に二人の男女が訪ねて来た。
青年は言う。
「あなたの時間をください」と。
少女も言った。
「あなたの時間をください」と。
そして僕は答えた。
「残り全てをあげましょう」と。
こうして、僕は、この世界からいなくなった。
そして世界は何も変わらなかった。
ただ一つだけ。
ある人は僕のために涙を流し、ある人は僕のために祈りを捧げた。
またある人は、僕の『作品達』と僕の『時間』の本を書いた。
こうして、無くなったはずの僕の時間は、今だに刻まれ続けている。
盲目だった僕が視力を与えられて
絵描きとして活躍し、最後は自ら死期を選ぶ
というお話でした
あなたの『時間』は、価値あるものですか?
もし「あなたの時間をください」と言われたら、どうしますか?
そんなことを考えながら読んでもらえたら幸いです。
そしてその質問の向こうに答えが見えることを願っています。