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ジョアンヌ・アボンレシリーズ

わたくしの可愛い可愛いおぼっちゃまにお友達ができた

作者: Toshi

 わたくしのお仕えするおぼっちゃまは、ジョアンヌ・アボンレ様。本名は違うのですがおぼっちゃまはひどくこの名前を気に入っていらっしゃるので、わたくしもジョアンヌ様と呼んでおります。

 ジョアンヌ様は、まことに美しく、その姿たるやまるで花の妖精のようでございます。幼き頃はその白く滑らかな肌がぷにぷにとしていてまるで天使が舞い降りてきたのかと思うほどでしたが、最近はぷにぷにさは少し身をひそめ、可愛い系から美しい系へと成長しております。それでも可愛らしいですが。

 先日、おぼっちゃまはクラスメートの近藤あやさんと、念願の友達になられました。今まではその美しさゆえか、友達があまりできずそして自分からも人と一線を引いておられていたのですが、近藤あやさんに一目ぼれをなさったおぼっちゃまは、どうのこうのがありまして何とか友達という輝かしい座をもぎとったのでございます。


 おぼっちゃまは、学校から帰ると嬉しそうに今日何があったかを話してくださいます。近藤さんとお弁当をたべたとか、わざと教科書を忘れて近藤さんと机をくっつけて見せてもらったとか、近藤さんに消しゴムを拾ってもらうために近藤さんの足元に消しゴムを投げたら跳ね返って近藤さんのおでこにあたったとか……。小さな手を忙しく動かして話すおぼっちゃまの顔は本当に幸せそうでございます。(とはいっても、おぼっちゃまの教室に仕掛けてある多数の監視カメラと、おぼっちゃまの制服に仕掛けてある盗聴器で、わたくしはすべて知っているのですが……)


 毎日幸せそうなおぼっちゃまでしたが、ある朝おぼっちゃまは何か考え込んでいるようでした。


「おぼっちゃま、どうかなさいましたか?何か考え込んでいるようですが」

「え?ああ……。いや、なんでもないんだ」

「なにかお悩みでしたらいつでもこのじいやにご相談くださいませ」


 そういうとおぼっちゃまは少しためらっていたようだが、話すことに決めたようだ。そのためらう顔も、言葉にできないほどかわいらしく私のスーツのボタンに仕込んでいるカメラで写真を撮っておきました。あとで見るのが楽しみでございます。


「その、じいや……。僕って友達が今までいなかっただろう?だから、せっかく近藤さんと友達になったけど、どう付き合ったらいいかわからなくて」

「友達、でございますか」

「近藤さんと友達っぽいことをしようと思うんだけど、いつも空回りしちゃうんだ……」


 ションボリするおぼっちゃまにシャッターを押しつつ、ここ数日のおぼっちゃまの行動を思い返す。たしかにおぼっちゃまはこの前も、友達は連れションをするものだと思い込み近藤さんとトイレにいこうとして近藤さんに変態扱いされていたり、近藤さんと遊ぼうとおもってあやとりに誘うと「ふるっ」と言われていたりしていました……。


「だから、友達ってどんなふうに付き合うんだろう?じいやはわかる?」

「そ、そうでございますね……。例えば、苗字で呼ぶのではなく名前をちゃん付けで呼ぶことから始めたらどうでしょうか?」

「ちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃんづけだってぇ~!?!……そうだね、試してみるよ」


 ありがとうじいや!という宝石のような笑顔を見れたのはよかったですが、大変あぶのうございました。私は幼いころ、ジョアンヌ様のおじい様、つまり先々代に拾われてから、ご主人様一筋でまいりましたので、友達と呼べる存在はいませんでした。ご主人様に傾倒するわたくしにご主人様は心配して同年代の子供を紹介してくれたりしましたが、わたくしがご主人様の話ばかりしていたので、どの方とも長続きしませんでした。なので、わたくしも正直友達づきあいというものはよくわからなかったのですが、なんとか年の功でごまかせたようでございます。危機一髪でございました。


 おぼっちゃまを高校まで車で送り、「いってきまーす」という鈴のような声を全身で感じながら私は図書館へと、友達の付き合い方を探しにまいります。


 熱中して探しすぎてしまいました。気づいたら4時間ほどたっておりおぼっちゃまの盗聴器から確認する限りおぼっちゃまは現在お昼休みのようでございます。最初はおぼっちゃまから「あ、あのよかったらお昼ごはん一緒にたたたべてくれないかな・・!?」という何とも精一杯のお誘いをしていたのですが、最近では近藤さんのほうから「ジョアンヌ、一緒にごはんたべよ~」と誘ってくださるようになって「うんっ!」というおぼっちゃまのかわいらしい声が聞こえてきます。この時のおぼっちゃまのお声が本当にうれしそうで、近藤さんといつも一緒に食べていたクラスメートの方にお願いをしたかいがあったものでございます。

 友達の付き合い方は十分調べ終えましたので、ジョアンヌ様の声をBGMにお屋敷へと帰ります。ジョアンヌ様と近藤さんのおしゃべりはだんだん円滑になっていてとても微笑ましいものです。


『あ、あの近藤さん。近藤さんのこと、あやちゃんって呼んでもいいかい?』

『あ、あやちゃん!?!?』

『だって、僕たち友達だよね……?』

『……くっ!しょうがないな、いいよ別に』

『やったぁ!あやちゃん!あやちゃん!』

『もう、うるさい!はやくお弁当食べなさい』


 おや、どうやら名前呼び作戦は成功したようでございます。ジョアンヌ様の喜びがイヤホンを通じて届いてまいります。



 ここまでは、ほくほくとした気持ちだったのでした。しかし、次の瞬間わたくしは絶望の底に落とされることとなってしまいました。


『ジョアンヌの家って、じいやがいるなんてすごいよねー』

『そ、そうかな?あやちゃんの家にはいないの…?』

『いないよ!っていうか普通いないんじゃないの…?このご時世』

『えっ!?そうなの……?』

『うん、あ。剛田くーん!剛田くんの家はじいやいる?』

『いや、もちろんいない。しかしじいやを持っているジョアンヌ様が素て……』

『ほらね~。たぶんこの高校にきてる人はじいやが家にいる人はいないとおもうよ』

『そうなんだ。普通の人にはじいやがいないんだ……。僕じいや離れしたほうがいいのかな』

『そうだねぇ、じいやももう年だしねぇ』


 近藤さん、余計なことを・・!私はまだそんなに年をとっておりません!それ以上余計なことをいうのはやめてください!と心の中で叫びながら、心臓はドッドッと早く打っております。


『そうだね……。じいやは十分山田家につとめてくれた。これ以上無理をさせてはいけないね。僕、じいや離れすることにするよ!』


 ジョアンヌ様のその声を聴いてわたくしは目の前が真っ暗になってしまいました。いつか、いつか来るとはわかっておりました。しかし、もう来てしまうなんて。現実が信じられません。




 その日から、ジョアンヌ様は私に対してよそよそしくなりました。帰ってきて制服のお着替えを手伝おうとすると、「じいや、一人でできるから。出て行ってくれる?」と言ったり、夜のお食事を口に運んで差し上げようとすれば「僕一人で食べるから。じいやは自分の分をたべてよ」と言ったり……。日に日にジョアンヌ様とのふれあいは減っていき、わたくしの枕を濡らす夜は増えてまいりました。毎晩毎晩泣いて暮らし、どんどんと睡眠時間はへってしまいました。それでも寝る気にはならず、ただただジョアンヌ様の見ていないところでは涙をながしてしまいました。



「じゃあじいや、僕これから毎日電車であやちゃんと学校に通うから、車で送らなくていいよ。じいやは家でゆっくりやすんでいてね?じゃあ、いってきまーす!」

「……は、い」


 以前はとてもいとおしく感じたいってきますも、今はただ悲しい響きに聞こえてまいります。わたくしはもうこの屋敷にいる価値はないのでしょうか……?そう思うと視界がフェードアウトしてきて……


 「じいや!?」


 ジョアンヌ様の驚く声が聞こえてまいります。しかしわたくしはその場で意識を失ってしまっていたのでした。






「うっ……」

「じいや!?起きたんだね!?」

「お、ぼっちゃま」

「あぁ、よかった!橋田さん!お水を持ってきて!」

「かしこまりました」


 目を開けると自室のベッドの上でございました。ジョアンヌ様が、心配に私によりそっていて、メイドの橋田がわたくしに水を渡すのが見えます。


「じいや、心配したんだよ。三日も目を覚まさなかったんだから……。お医者様は、ストレスによる心労だって……。じいや何か悩み事があるの?もしあるんだったら僕に、打ち明けてくれないかな……?」

「いえ……」

「ぼ、僕じゃ、頼りないかもしれないけど、でも僕じいやの力になりたいんだ!」


 目を潤ませてわたくしに詰め寄るジョアンヌさまは胸きゅんどころでないほどの可愛さで、ついついわたくしは、ここ最近の寂しさをジョアンヌ様に話してしまいました。


「最近、ジョアンヌ様がよそよそしくて……じいやはさびしゅうございます!」

「そ、それは……だってっ!」

「じいやはもうジョアンヌ様にはいらないものなのでございますか!?じいやはもう……」

「そんなことはない!じいやは僕にとって大切な人さ……!だからこそ、無理をしてほしくないんだ」

「無理などしておりませんっ!ジョアンヌ様のお世話をしているひと時こそが、じいやにとって最高の幸せなのでございます」

「じいや……」


 おぼっちゃまは考え込んでいる様子でした。わたくしはただただおぼっちゃまの心が変化することを祈るばかりでございました。


「わかった、無理にじいや離れしようとするのはやめることにするよ」

「おぼっちゃま……!」


 ああ、戻ってこられた!私のおぼっちゃまが!私の心は舞い上がります。


「だけど、僕これからは普通の人が一人でやることは自分でやるから。じいやも僕の成長を見守っててくれないかな……?」

「そんなっ」


 わたくしはまだまだおぼっちゃまのお世話をしたい!それは…ただの老いぼれのわがままなのでしょうね……。


「じいやが世話をしてくれるのはうれしいんだけど、僕もこのままじゃダメだっておもうんだ。あやちゃんの隣にたてる立派な人間になるために、僕は自分のことは自分でやる。そんな大人になりたいんだ」


 まっすぐと自分の意見を述べるジョアンヌ様の瞳はまるで先々代のものそっくりで、懐かしく悲しい気持ちにさせられました。


「わかりました。」

「じいや……!」

「ジョアンヌ様のご成長のため、わたくしは少し身を引かせていただきます。しかし、一つだけ、お願いがあるのですが」

「何?じいやの願い事ならなんでもきくよ」

「……どうか、私を解雇なさらないでください。私の命が途絶えるまで、ジョアンヌ様にお仕えすることを許していただけませんか?」

「じいや……!いいのかい…?こんな僕だけど……」

「ジョアンヌ様だからでございます」

「わかった。どうか無理のない範囲で、これからも僕のサポートをお願いするよ」

「ありがとうございます」


 これで将来安泰でございます。ジョアンヌ様のお世話が減ってしまうのは大変心苦しいですが、死ぬまでジョアンヌ様のそばにいられる。これほどの幸せはございません。


 いつかジョアンヌ様にお子様が生まれて、ジョアンヌ様とお子様の成長を見守る――。そんな未来が訪れるまで、どうか私の命よ、ながらえてください――――。


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