暴君様×熟成パーティー
暴君様は闇に溶け込んでしまいそうな薔薇の精。
鋭くとがったはずの刃でも時に蜜を与えることによって世界や人間家系を保ってしまう天才だ。
でも、どこか抜けている。
やはり、気にし過ぎているのかも知れない。
「波瑠。早くしなさい!坊ちゃまがお待ちだよ!」
祖父がそう私たちを仰がせる。
「老爺。そんなに慌てなくてもいまいきますわよ?」
その声と同時に私たちは玄関を出る。
目の前には薄暗くなった空と、道端のベンツ。
急いで今日は後ろの席へと押し入れられる。
勢いが勢い過ぎる!!!
思いっきり座席に転がってしまう。車の天井に一度頭をぶち、その後フアフアのシートに横たわる。
すぐに姿勢を正し、残る2人に挨拶をし、見送られた。
・・
一息をつくと、横に誰かがいる気配がする。
生意気暴君だ。
しかし、見た瞬間に凝視してしまう。いや、やり合っていた。
黒い少し派手なスーツに栄えるのは赤い薔薇。
そして、青い瞳だ。
恐いなんて印象はまったくない。
ただ、綺麗で綺麗で綺麗で綺麗しかいえない。
ダンディーとかハンサムなんて男性には言ったほうがいいのか。
一番いえたのは夜が似合ったいると言うことだけだ。
不快にも少し心が躍ってしまったが、すぐに顔をそらした。
お決まりの3秒経ってくすりと笑みを浮かべる。
なんでしょうか?と質問すれば。
「・・・化け狐か。」
と、いつもどおりに返ってくる。
めったにこんな綺麗な格好をしないので少しはなんだかんだ言って褒め言葉を期待していたが外れてしまった。
いや、いつもどおり過ぎて呆れることも出来ないでいた。
「少し気を使ってくださってもいいんじゃないですか?いつも、悪口しか聞いていません。ご褒美の言葉くらい下さいよ。」
「・・・口を利くな。なれなれしい。」
少し、いやかなり傷ついたと思う。
しかし、本当に・・・落ち込む言葉だった。
まだ、日が浅いとはいえ・・こんな態度はない。
そんなことで沈黙が続く。
「・・・今日のパーティー。俺から離れるなよ。わかったか。・・・・・・・・・それと・・」
暴君野郎が出したのはスーツにつけている薔薇と同じものだった。
するとそっと、私の髪につけた。
こんな暴君をはじめてみたので驚きというか何か企んでいそうで恐怖さえも覚えた。
「・・・白いドレスには【赤】が栄える。」
<ドキッ>
いやいや、なんだドキって。
少し、意識してしまった自分に反省した。
到着したのは・・・
相当の金持ち屋敷。
車から出ようとすると、肩をグイッと引っ張られ、全身が車の中へと戻される。
そうこうしているうちに暴君は外へ出ていた。
「・・・褒美をくれてやる。今日だけ俺様がエスコートしてやる。」
「っ・・」
きらびやかな屋敷をバックにどこぞの王子様の言葉を口にした暴君は素敵だと初めて思えた。
初めて。
手を差し伸べる大きな手を喜びの笑顔で受け答えをする。
「はい。よろしくお願いします。柊聖様。」
その上に手を載せた。
・・・
・・・
屋敷の中は、人でいっぱい。
通りかかる全ての人は私たちを見て礼をする。
それだけ、一条家の名とこの人の顔が知れ渡っているのだろう。
眩しいくらいのシャンデリア。見た限り私の口には合わないような料理。
そして、輝く宝石の山。
--恐いくらいに人酔いをしている。
そんなのもお構いなしに暴君様は挨拶ばかりを繰り返していた。
「そちらのお嬢様をぜひ、紹介してくれませんかな?」
突然私に振られる言葉。
3秒を破り今日はすぐ答える頭のいい暴君。
「あぁ、彼女は私の妻ですよ。」
「・・・え?」
私が3秒間にとらわれていた。
妻妻妻妻?!??!??!?!??!!?!?!?!
どういうことっっ!
「ほう、この方がですな。そう思いましたぞ、こんなにも目を引き付けるようなお美しさをお持ちですので、きっとそうだと。いやいや、お目にかかれて光栄ですぞ。」
金持ちはそういった。
美しいかは別として、見られている感じがあったのは確かだ。
しかし、それは美しい。そういう気配ではなかった気がする。
「ありがとうございます。」
平然と暴君は答えた。
金持ちへの挨拶を終えるとすぐに問う。
小さく小声で。
「あの柊聖様・・妻ってどういうことですか・・!・・・」
「あぁ、めんどいからそういっとくんだ。」
変な返答だ。
なんの意図も感じさせない。
直感としては女が面倒だからとかなのだろうか。
可能性としては一番、高いな・・。
その会話を10回くらいはしただろうか?
私たちは広いベランダへと足を進めた。
「・・・しかし、なんで俺ではなくお前の話題ばかりになるんだ。可笑しい。」
「・・」
口を控えさせていただいた。
ここでなんか言うとまた変なことが返ってきそうだ。
「・・・お前がそんなに男共は綺麗に見えるのか?」
「そんなことはないですよ?私、きっと浮いているのかもしれません。すみません。案外、緊張するものでして。」
「・・・いや、いい。・・浮いているか、いや、そう、引き立たせているのかもな・・。まぁ、いい。お前は少しここにいろ。」
「どこに行かれるのですか?」
そこは察しろというので問うのをやめた。
トイレかなとか思いつつ。
綺麗な夜空を見つめていた。
今宵は満月である。
星空も今日ははっきりと見えている。
涼しげな風が顔に当たり酔いがだんだんさめてきた。
ロマンチックなことに座っているだけで、男の人に声を掛けられる。
人生初めてのことに緊張はしたが楽しかったは楽しかった。
「隣の席。いいでしょうかねぇ?」
黒と白が織り交ざったような綺麗な人が隣に座る。
金持ちらしく豪華な仮面をかぶっていた。
「今宵は月が綺麗ですねぇ。」
なんども、この会話をされ少し退屈してきたがちゃんと返答をする。
「こんな日は甘い香りがするんですよねぇ?」
すると、本当に少しお花の甘い香りがした。
男が手に出したのは、その香りが入っているとされる小瓶だ。
香水かな?と思いそう問うと、彼はいいえと返した。
目の前に見せられるのは小瓶の中に入った透明な水のようなもの。
男はそれを目の前で軽く振る。
すると、見る見るうちに中身は紅く染まった。
「うわぁ。すごいですね。どうなっているんですか?」
「確かめてみますぅ?」
男はなにもないかのように蓋を簡単に開けた。
私は顔を近くに寄せる。
「え!?」
透明の紅かった色の液はすぐに奇妙な別色に変わった。
私は、安心していたのかもしれない。
信じすぎたのかもしれない。
息苦しさに、目の狂いに、体の変化さえもわからないくらいになっていた。
男は、油断した隙に液を飲ましていたのだ。
「20歳に熟成される特別な高貴な血。でも、不快にも貴女の体は少し遅れてしまったようですねぇ。この薬は熟成を早める薬。恨むならご主人様をうらみなさいねぇ。貴女方が呼ばれたのは全てこのため。熟成するためだけに集められた仮のお遊び。
『熟成パーティーへようこそ』」
男は倒れていく私の体を持ち上げ、天へと高く飛んだ。
つまり、こんなにも高いベランダから飛び降り私を誘拐したのだった。
その時、私は意識を飛ばしていた。
暴君様は5分後、事態を知ることになる。
20年前、公家二使家を滅ぼしかけた『特別な血』
それを狙う者たちの正体を私は甘く見ていた。
そんな、絵本の世界で私は優しさと悲しさを暴君によって知ることになる。