暴君様×真実の欠片
暴君様の第一印象は冷酷で口数も少なく話すときには心に突き刺さるような言葉ばかりだった。
彼は非常に奇妙で不愉快であって神秘的でもある。
私は葵さまに見せる素顔なのかわからない笑みをいつも監視していた。
瞳の青さがどこか紅の色に見えて、そしてたまには残酷な暗闇にも見えた。
あんなに葵さまは純粋な瞳をしているのに、全てを見てきた歴史さえも感じるような気配を察していた。
--あれは、一条家に着たばかりの頃。
礼拝堂に向かう柊聖様の後を興味深くもついて行った。
外は肌寒い。
花見満喫が出来そうな見栄えなのに体感では立秋の季節だった。
花々が礼拝堂への道を明るく照らす。
少し隠れつつも、背中を見続けた。
歴史を感じさせてくれる古い礼拝堂の門が開く。
気味は悪かったが私も後に続いて中に入ることにした。
忍び足の音は聞こえない。
一つの足音だけが高く響き渡った。
しかし、息の音までは2つあったのだ。
つまり、一人は礼拝堂のイスに座っていた。
その人こそ、私の祖父だったのだ。
なぜ、ここにいるのかわからない。
祖父が立った後、2人は静かに礼拝堂の像の後ろに消えたのだ。
消えた姿を駆け足で追っていく。
像の後ろには世にも奇妙なもう一つの隠し扉があったのだ。
まだ、ここに来た日が浅い私にとってはじめてみるものだった。
そっと扉に耳を当てた。
静かな呼吸が2つ聞こえる。
--衝撃の事実を知ることになる。
私は息を呑んだ。
そして、気配いや殺気が私を指した。
私はすぐに扉を離れ、礼拝堂を出ることになる。
『事実』
それこそ、私が世界を滅ぼしかけるサインとなる。
走りながら先ほどの会話を何度も再生した。
会話は暴君の「では、話せ。」から始まった。
・・
・・・
「柊聖様もご存知の通り、我が公家二使家は20年前、最大の危機に見舞われました。それもこれも、我が家に伝わる最古の一族から連なる【特別な血】が原因でございます。20年前とは公家二使家の女頭領でありました波瑠の母、瑠子亞様があの“争い”のカギとなります。」
「・・・あの、【血の争い】か。“我が家”はあの時は※臥せんしていたからな。・・・」
「はい。その血を託され熟成を迎えようとしている今、もう一度、あの出来事が起きようとしているのです。いや、あの時以上に酷くなるやも知れませぬ。【あの子】が利用されるのだけは止めなくてはいけませんのじゃ・・。瑠子亞様のためにもどうか主君、柊聖様に純血のお力をお借りしたい・・。お嬢様にもご迷惑をかけますがどうか、どうかお願いします。・・話は以上でございます。」
「・・・。お前には我々も昔から力を借りてきている。・・・それぐらいのことはやらせていただこう。・・・ただし、お前には、保安のため、葵に“懸けて”もらうぞ。」
・・・
・・
祖父はその答えに承諾した。
血と争いと言う言葉が気になるが、私はそれど頃ではない。
初耳だ。
お母様が我が家を滅ぼしかけた原因なのか?
そして、【私が】利用されるとはどういうことなのか?
まだ、この頃の私は知る余地もない。
ただただ、花々の中を駆け巡るだけだった。
しかし、きっと殺気を感じたので私の存在に気づかれたかもしれない。
いや、自分の忍術に少し期待を今はしておくべきだろう。
そうしなければ、ある意味自分の精神が保たれないことを実感していた。
やっとついた屋敷には今は薔薇たちが周辺を囲っている。
赤はもちろん青や黒などもあった。
当然、処理されてい生えたばかりの棘だってある。
その棘は危ないと自覚しているはずなのに、目の前のプリンセスはぼんやりとした瞳でそれに触れようとする。
やっぱり体が反射的に動くので、繊細な体に傷を作ることはなかった。
突然触ったのに驚いたのか、青い瞳を大きく開かせそして、白に少しピンクかがった頬が上がり笑顔になったことを意味した。
感謝の言葉はいらない。
その顔でまさにありがとうと言ったのだから。
葵様はあまり声をお出しにならない。
歌うことが好きな彼女は声を大切にしているのだと言う。
そんな努力もとてもかわいらしい。
二人で触れ合う時間。
彼女はそっと私の手を触れた。
別、GLと言っておきながら私にイヤラシイ知識はなかったのでどきどきするばかりであった。
滑らかな肌が気持ちいい。
「・・・なにをしている。」
しかし、少し鳥肌が立ったようだ。
その手は、すぐに離れていく。
空気の読めない奴だ。
ずかずかと歩いてくるのは、我がアルジ、暴君である。
すぐに私は席を離れ、廊下の端により頭を下げた。
厳しい社会だ。
こんなに恨めしく思っていても頭を下げなくてはいけないなんて。
暴君の後ろには祖父がいた。
先ほどの会話が思い浮かぶが、顔色一つ変えず接する。
ただ無性に無表情になるだけだった。
そうこうしていると、暴君が口を開く。
葵様の身長にあわせ膝を折る。
開いたまま3秒を厳密に守る。
「・・・。急にパーティーの招待が届いたんだ。大事な会合でもあるため、葵はここに残れ。葵にはこの老爺がつくからな。・・・わかったか葵?」
「はい。お兄様。」
綺麗な声と急変した優しい声。
しかし、やはり暴君は他のものには暴君でしかない。
「・・・波瑠。お前は俺の付き添いだ。それ相応の服装を葵と選んで来い。・・・調子は扱くなよ。お前」
こかねえよ!おめぇじゃねえし!
心の中で激怒した。
それとは裏腹に葵様は喜んで袖を引っ張りにいく。
私はただそれに集中した。
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「いいのですか。パーティーなどに連れ出しても・・」
「・・・あぁ、ここに置いたら葵が危ないからな。俺が・・・責任を持つ。」
執事は礼をして去って行った。
残られた主はただたに薔薇を見つめた。
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久しぶりに葵様は声を張り上げる。
「どれがいいかしら?波瑠はなんでも似合うから迷ってしまうわね。」
「いいえ。私なんてただのメイドですよ・・。お嬢様のほうが、お美しいです。」
かわいらしく笑う。
案外言葉にした真剣な告白だった。
まぁ、流されて正解だったはだった。
はしゃいだ葵様はこれと差し伸べる。
「この白い薔薇の模様のドレスがいいわ。貴女自身の引き立つ色。」
「え?」
「・・・貴女のイメージの色を引き立たせてくれる色を選んだの。それがこの白よ。そうね。これにしましょうね!」
シルクの生地が滑らか過ぎてここで貧富の差を感じてしまうがその上に重なっている薔薇の模様のレースがとても素敵であった。
私たちは早速、急なパーティーの準備を始めた。
ここで聞いた事実はあとで一部分でしかないことを私は知る予知もなかった。
※臥せん・・・病気で寝込むこと
続けて次話を読むと話が繋がります!