暴君様×心からの結び
どうぞ!
葵様は一人で宿命を負ってきた囚人である。
昔から絶えてきた彼女の宝石の涙は、
今、溶け流れ行く。
滴った涙は過去と共に去っていく。
けして、忘れてはならない。
しかし、心からの思いはそんなものを消してしまう。
ずっと彼女に苦痛を与えたくないのなら。
考えさせる時間を与えてやるなと、どこからか聞こえてくる。
それが心と心を通わせた者同士にできる、未来のための糧となろう。
カラメル色のまつげが静かに開いたとたん、固まっていたはずの雫は下へ滴り落ちた。
傾げていたはずの首や背筋がまっすぐになり、垂らした手が膝へと重なる。
「そのあと迎えが着たわ。目を覚ましたときには、お兄様がいて私を受け止めてくれたの。
・・・どう?貴女も同じ事をしたのよ?少し残酷な罰を受けてしまったけど。どうかしら?」
私は涙を流していた。
小刻みに震える手。
「・・・。あなたも引いたの?」
彼女の瞳は長いまつげで見えない。
それは、下をうつむいていることを意味していた。
小刻みに震えていたのは私ではなく葵様だったのだ。
長く生きているのかもしれない。
しかし、小柄な彼女の中に多大なる辛さ、苦しさが押し込まれていると気づくと胸が痛んでくる。
「葵様・・。」
<ギュッ>
「・・・。波瑠・・・。」
「そんなわけないじゃないですか!」
確かに呪いは惨いものである。
母のものであったこの心臓。
しかし、そんなことは関係ないことだ。
・・いや、少しばかり恋の感情は冷えてしまったけど・・
「波瑠はアルと同じ。人間でもいい子なのね・・。波瑠なら受け入れられる・・。」
人間は絶対に許せないのだろう。
あの家系も許せられないのだろう。
そう、彼女らは認識していた。
何年も何年もの月日を繰り返しても脱獄することは出来なかった。
囚人として囚われの身として利用されては利用されてきた・・・彼女たちの気持ちを考えずに。
人間でも吸血鬼でもこんなことを生み出したのならそれは災厄・・悪い奴なんだろう。
こんな心臓なけらばいいのに。
どうすればこの心臓が・・・消えるのだろうか。
しかし、それと同時に葵様が消えることを意味している。
「私は・・何も出来ませんが・・・この忠誠心は捨てません。こんなことでいやになる私の心ではありません。」
しっかりと彼女を抱きしめた。
「ぼ・・柊聖様もいますし、この私もいます。だから、その苦しみを少し分けてください。」
「・・・。恋愛関係はもてないかもしれませんよ・・」
「え・・。わっわかってらしたん・・ででですかっっ!」
「そうよ。貴女簡単だからね。ふふっ。」
完全に失恋モードに突入である。
私はため息をついた。
「ごめんなさいね。貴女の心とてもうれしかったの。うれしかったの。こんな小さな世界の中であなたと出会い楽しかった。・・でも、恐くもあった。もし、私の正体を知ったらどうなるのかしらって。試すような発言もごめんなさい・・。どこか・・強い結びがほしかったのかもしれない。人間のようにすぐきれてしまうような関係ではなく、冷たい関係でもなく。温かく強い結びがほしかったのかもしれないわ・・。」
彼女はささやかな微笑みを見せた。
いつもの彼女のようにしかし、何処か吹っ切れたようだった。
私たちの心の中で確かなものを感じた瞬間だった。
いよいよこの最終です!