暴君様×出会う世界/雫に映る物語
葵様は、人形のような人である。
確かに知らなかった。
確かといえるほど確実だった。
人は人間とは他の者の心に寄り添うほど事実を知る。
その時、何を感じるのだろう。
何を心に秘めるのだろう。
私は少し曖昧でいて勝手な感情で彼女の過去を心に映す。
連ねて連ねて高ぶる感情の・・
目から溢れた感情の雫が映す物語。
雫に映る君の物語。
雫に映る人の物語。
彼女は子供たちに手を取られ町へ向かって行った。
山を下りた町通りはおじいさんのところとは違う華やかさを持っていた。
おばさんやおじさんがにこやかで温かくて明るい印象。
彼女はそんなところに惹かれていったのかもしれない。
味わったことのない心地に心を躍らせている。
「ねぇ!お姉ちゃんの名前。なんていうの?」
「私の?・・・私は、葵・・。」
そう彼女が名乗ると『葵姉ちゃん』そう呼ばれることになった。
嫌そうではない。
現実、妹である彼女にとって誰かのお世話をしたり面倒をみたりする立場は案外新鮮で憧れだったりするのかもしれない。
彼女はいつの間にか子供等の世界を輝かしいものに見えてきていた。
そこは天国。
天国だったに違いない。
彼女には無いものがある。
町の中には食べ物を売っていたり服があったりジュエリーがあったり・・
人ごみがあった。
求める人で溢れかえっていた。
彼女の人生に無いものがあった。
そんな中、子供たちに遊びを習いながら、買い物を済ませていったのだ。
手をとる子の名はアルと言った。
遠く離れたこの地で彼は光のドアを開けた。
彼女の手を強く握り、彼女の心を温かくしてくれる。
「ねぇ、葵姉ちゃんはなんで笑わないの?。」
そんな疑問が彼女の傷痕をえぐる。
アルと会った時から・・いや、おじいさんと会った時から・・もっと前から、彼女は笑わなくなっていた。
「僕はこんなにお姉ちゃんといると楽しいのになんで??もっと笑いなよ!」
彼女はアルを不思議に思ったのだろう。
彼女は、自分だけが出来ないことに恐ろしく思ったのだろう。
自分自身に問う。
自分自身に問う。
自分自身に問う。
自分自身に問う。
自分自身に問う。
答えを言わずに彼の元から走って行った。
夕暮れ。
アル等から去って行った彼女は、人通りが少なくなった道を両手に買った物を抱えながら下って行く。
優しい人々の笑顔を思い出しながら、唇の両端をあげてみる。
でも、何かが違く手やめて立ち止まった。
ふと見た小さな道。
瞳が大きく見開いた。
「こいつっ!逆らいやがって!」
目の前に映ったのは人間の醜さ。
一人の人間に大勢がいじめる。
しかし、彼女は人間のその光景に驚いたわけではない。
一人の人間こそアルだったのだ。
彼女はただ助けるもなく立ち続ける。
泣きながら立ち続ける。
「人間も私たちも・・・結局は同じなのだろうか。」
彼女は胸を荷物で押さえつけた。
「相手の気持ちも考えず、ただ私欲のために犠牲者を出す。同じ生き物なのに・・同じ生き物だったのに。
人間は醜い。本当に死ななければわからない。愚かなモノだ。」
彼女は彼等に近寄っていく。
いじめるものたちは彼女の存在に気づかずに、幸運だったのかその前にあとを去った。
彼女はアルの近くに行き座る。
「いじめられていたんだね。アル。」
彼は下をうつむいたまま頷いた。
そして、笑っていたはずのあるの目から涙が溢れてきた。
彼女はアルの頭を優しく撫でる。
「お家に帰ろう。アル。」
今度は彼女から彼の手を強く握ったのだった。
彼女は何処か違っていた。
まっすぐ走っていた。
まっすぐ前を見ていた。
おじいさんの家に着いたのは彼女ただ一人。
アルは彼の家に戻っていった。
「おじいさん、今帰りました。」
「おーお帰り。今日は鶏肉を焼いたけんのぉ。こち来てたべなさい。」
おじいさんは手で招いた。
彼女はそういえば名乗っていなかったので名だけを告げたのだ。
「わしはジルじゃ。葵・・ここら辺ではつけない名じゃな。」
彼女はまた無言で返した。
少し待っていろ、そういったおじいさんは席を立ち上がり、姿を消した。
しかし、おじいさんは何分経ってもこないので様子を見に行くことにした。
「おじいさ
「このくらいの女の子だ。この町に入らなかったか?」
「さぁ、わしはここら辺にいますがそのような子は来ませんで。」
黒い男たちがおじいさんに聞いている。
彼女はすぐに身を隠し耳をすませた。
黒い男たちは、「この町ではないか」といってきた道を帰っていった。
おじいさんが私に気づいたのか歩いてくる。
きつい目で彼女はおじいさんを見つめた。
「貴方も、人間だ。金でもにぎられてこの私の身を差し出すのだろう。」
「はっははー。そんなことわしはせんよ。金よりも大切なものなどたくさんあるのじゃ。それよりもわしが失って恐いのが子供等じゃよ。」
「そんなの戯言だ。この私が信用するとでも御思いか。」
おじいさんは哀しい目で彼女を見た。
「その傷も、怪奴も、きっとわけありなのじゃろう。わしは気にせん。」
飯だよ、といってその場を動く。
彼女はまだ警戒していた。
彼女の今までの仕打ちからして、それが当たり前だったのかもしれない。
それでもご飯を食べる。
「いいか、葵。わしにとって飯を共にする者は皆、家族も同然。葵はわしの孫みたいなもんじゃな。」
「孫・・」
傍から見ればそうだろう。
実際は少し年上だというのに・・・残酷な事実だ。
しかし、彼女は何も言わなかった。
おじいさんの言葉で解禁された心の鎖。
初めて彼女は微笑んだ。
その次の日から、彼女はおじいさんの手伝いを始めた。
「おじいさん!
----あれ。おじいさん?
彼女は知らなかった。
時間に疎かったのかもしれない。
幸せな日々はそう、長くは続かない。
あれから、もう15年経っていた。
いつの間にか彼女はただ一人おじいさんの家で暮らしていた。
投稿が遅くなりました!
雫に映る物語はあと、4、5回くらいです!