暴君様×逃げた世界/雫に映る物語
またまた過去!
過去の謎を終わらせてこその次ですよなぁww
真実をときます!
葵様は一つの薔薇を毟り取り、ぶらりと手をたらし車椅子に深く座り込んだ。
つかれきったように目をまた閉じ始めた。
少し傾いた頭。
垂れるふわふわの髪。
大きな屋敷の大きな通りで小さな彼女は深い深い眠りに入った。
「少し、声を出しすぎました・・。また、儚い夢でも見てみましょう。波瑠、貴女に私の過去を見せて差し上げます。愚かさと夢のような儚さを持つ人間を見せましょう・・・ ・・。」
白い肌に滴る涙の雫がダイヤのように固まった。
そこに映るのは悲しい物語。
彼女もまた、私たちと同じかもしれない。
身近に感じた物語。
世界とは案外狭いものなのかもしれない。
月が淡く輝く晩餐の頃。
漆黒の夜に、ある一つの馬車が漆黒の道を走っていた。
華やかなドレスに似合わない鉄の手錠は重く冷たく両手を頑丈に拘束していた。
痛々しくも胸には生々しい手術後の跡が残っている。
治りにくい純銀の糸は白い肌にはっきりと見えていて血の塊も生々しく見えている。
しかし、人間の普通の速度の治りよりは少しばかり早い。
それは彼女がまだ幼い事を示している。
馬車の窓から谷の下に町灯りが見える。
乏しいが見える。
「トイレに行きたいからここでおろして。」
「はい。」
黒い男は扉を開けて彼女を下ろした。
彼女の脇を持ち上げ連れて行く。
道の端に来た。
下は緩やかな坂である。
「!!!」
彼女はおもいっきり男を吹き飛ばし、その坂をすべり落ちていった。
彼女は闇に飲まれ姿を眩ました。
谷の下の地面につき、彼女は灯りまで走り去っていった。
それは風のごとく速く速く。
彼女は疲れ果て、町に行く前に山の川に倒れこむ。
およそ10キロくらい走ったのかも知れない。
足は草や木々で傷ついている。
服もぼろぼろである。
どれだけ治りが早くても胸に純銀がある限り無理な話。
そう、彼女は吸血鬼であった。
ちろちろと静かな清らかな水の音。
生命の生きる音。
その中で彼女は気を失った。
・・・
・・
・
・
目を覚ましたところは木のいい匂いがする小さな家だった。
朝だと思う。
体が若干重そうだ。
だが、彼女もまた、少し古いが制御システムをクビにつけているから大丈夫らしい。
=吸血衝動は起きない。
起きて気づくのは手錠がないことだ。
服も変えられている。
傷も綺麗になっている。
誰かがお世話をしてくれたようだ。
<ガンッ>
彼女はその音にびくついた。
「お~起きとったか。体調はどうじゃ?」
目の前には年相応のおじいさんが声を掛けた。
手には鶏を抱えている。
そして、おじいさんの後ろに目だけを見せる子供と思わしき方々がいた。
「ほれ。そんな恥ずかしがらんで入らんかい。」
「こっこんにちわぁ。」
小さい子供が3人いた。
どれもおじいさんより綺麗な服を着ていた。
瞳や髪の色もおじいさんと違う。
・・・奴等はもしかしたら商人の子供なのだろうと感じた。
おじいさんよりいい暮らしをしている。
そう思えてたまらなかった。
おじいさんは朝食を進めてきた。
私はありがたく受け入れた。
なぜか子供たちも食事に混ざって彼女に質問攻めできている。
彼女は曖昧に答えた。
「そうじゃ。お前さんどこの子かね?ここら辺では見ん顔で。山の方で倒れとったからびっくりしたっと。」
彼女は無言を返した。
おじいさんはそれ以上問い詰めなかった。
手錠を見ただろう。
傷も見ただろう。
しかし、おじいさんは何も聞かなかった。
子供等はただただ何も知らずはしゃいでいる。
「そうだ!おねえちゃん、僕らの町においでよ!」
「え・・・」
「そうじゃな。服やなんやら買ってきたらええ。」
おじいさんは承諾した。
彼女は子供等と食事後買い物に行くことになった。
・・・
彼女はまだ未来を見る力を操作できていなかった。
決められていた運命だとも知らず、しかしこれから閉じ込められることは知っていて、それがいやで逃げ出した。
心臓を変えたとき、記憶が一気に襲い掛かった。
この人たちのようにはなりたくない。
そう思って逃げ出した。
まだ、体の強い彼女は未来ではなく今を生きている。
これは、血の争いが終わった後のお話。
これは、呪いの心臓を持つものの定めの悲しき物語。
雫に映る物語は何本かあります。
これは過去の記憶です!