毒少女おいてけぼり
サブタイトルはてきとーです。
「行くわよ?」
志津香が構えを取る。
「来なさい」
和花奈が構える。
「最初は――」
「グー!」
「ちょぉおおおっと待て!」
明らかにおかしい。
「お前ら、なんでジャンケンしようとしてるんだ?」
「ジャンケンだって立派な勝負よ?」
「うん、そうだよね」
「志津香」
「何?」
「ジャンケンを立派な勝負だと認めるなら、毒を立派な戦いとして認めてやれよ」
俺、おかしいこと言ってないよね?
「……嫌よっ!」
「……なんで?」
聞くと、志津香は顔を寄せてきて――コソコソと小さい声で言ってきた。
「意地よ。なんか文句ある?」
……はぁ。
「お~い。和花奈さ――んんんんんん!」
口が塞がれた。もちろん口でじゃないぞ? 志津香の手だ。
「決闘しましょう?」
「めんどくさ~い」
「……そう。あなたは、私に勝てない事を認めるのね?」
「むっ? そんなこと言ってない!」
「じゃあ、やりましょう?」
「いいよっ! 受けてあげる」
「――ぷはっ!」
やっと解放された白門は、文句を述べようとしたが、志津香の魔力が大きすぎて視覚化できるようになったそのオーラのようなものを見て言葉を失った。
白門はやっぱ、ここは普通じゃないんだなと改めて思うのだった。
二人の少女が、対峙している。
本当は、今すぐにでも教室に戻りたいんだが、審判を任されてしまった。
「いくわよ」
「いいよ」
先手は志津香だった。その手には黒い細剣を持って……あれ? あいつ、どこから持ってきたんだ? とりあえず、突き攻撃を何発も連続で出して相手に攻撃する暇を与えていない。
だが和花奈の方もただ避けてるようには見えない。誘い込んでるように、あらかじめ罠を仕掛けてあった場所に誘い込んでいるように。
「ふっ。かかったね!」
その声は、和花奈のモノだった。余裕そうに口元に笑みを作っている。
「何がかかったのよ。そんな余裕そうにしてると――っっ!?」
突然、志津香が苦しみだした。悪い予感は外れてくれなかった。
「どうしたっ!? おい、志津香!」
慌てて声をかけるが、痛みのせいか返事が返ってこない。
「――くっ!」
なるほど。志津香が動けないのは、毒のせいか。
「え? ……ふふっ。苦しいよね? 悔しいよね? あんなに否定してた毒に一瞬でやられちゃうんだもん。あはははっ!」
「おいっ! お前。その毒、安全なのか?」
一応な、一応。仮にも俺はあいつの騎士だからな。
「あ~。あと十五分くらいしたら死んじゃうかもね~」
興味のなさそうに言う和花奈に腹が立った白門は叫びながら彼女の方へ殴りかかった。
「うぉぉぉおおおおおぉらぁぁあ!」
――ひょい。
あっけなく、避けられた。
「!? な、なにすんのさ!」
「お前は、俺の主人を傷つけた! だから殴って、毒を抜かせようとした」
「…………はは~ん」
にやりと笑って続きの言葉を言う。
「あんた。志津香のこと好きなんでしょ?」
何言ってんだ?
「数時間前に会って、契約結んだからって、そう簡単に助けられるとは思わない! なにか、特別な感情を抱いてない限り!」
だから何言ってんだよ。
「俺が好きなのは……」
「好きなのは?」
にやにやしているが、ぶち壊させてもらうぜ!
「俺が好きなのは、昔からだッッ! 正確には幼稚園から片思いだッッ!」
「あはははは! そうだよね~。昔から好きだよね~。あはははは……昔から?」
ぶち壊し成功だぜ!
「えっと。昔から……幼稚園から……なんだ……」
動揺してる今しかない!
「志津香っ!」
振り返って駆け寄ろうとするが無駄だったようだ。
志津香は仁王立ちして顔を赤くしていた。
「ハクくんは私が毒で倒れてたのに、何してたのよ!」
「わ、悪い! あいつが勝手なこと言うから」
「そ、それに……好きだとか寝てる間に言われても……」
どうしたんだろうか? 声が小さくなっていき『それに』までしかはっきり聞こえなかった。え? 都合のいい耳だって? なんのこと?
「うぅぅぅぅう! なんか悔しい!」
和花奈が割って入ってきた。
どうやら仲間ハズレにされたことが悔しいらしい。
「和花奈。あなた、やるわね」
「そ、そうかな? あははは」
志津香に褒められて和花奈が上機嫌になっている。だが突き落とすように志津香は言う
「でも、私たちには勝てないわ」
勿体つけるように、間をあけ――
「だって、私は、相棒がいるもの。ふふっ」
「馬鹿にするなッッ! あたしにはこれがあるもんっ!」
そういって、どこからともなく出した短剣。小柄な体によく合っている。
それは置いといて、不思議すぎる。一瞬目を離した隙に武器を手に持っているなんて、おかしい! 魔法か? なんでもアリだな。
「ハクくん。これ、使いなさい」
そう言って差し出してきたのは、さっき志津香が使っていた黒い細剣だった。
「え、でも素手で大丈夫じゃない?」
はっきり言って、細剣での戦闘経験がないから素手のほうがやりやすいと思った。
「どうせ、これで戦ったことないからでしょ?」
志津香にはバレてしまっていたけど。
「仕方ないわね。これならどう?」
ため息を一つ吐いて、魔力を物質化していく。やがてそれは、日本刀の形になった。
「――ッッ!」
「こんなの創ったことがなかったんだからこれで我慢しなさい」
すげぇ。我慢しなさいって言ってたけど、こんな重くて、黒々としている刀なんか――?
黒々って言ったけど、訂正。その色はだんだん白に侵食されていく。やがてその刀に黒の面影などなくなり、真っ白な刀になった。
「どう? その黒、かっこよ――え!? なんで白くなってるの?」
それは、俺が聞きたい。
「白門は、私と対等なの? 私の黒と……」
「あのさ~。いつまでほっとくつもり?」
しまった! 完全に忘れてた。
「もう始めていいかな?」
「え、ええ。いいわ」
「じゃ、先手もーら――いっ!」
取りに来たのは白門の首だった。
だが、白門の動きはさっき飲まされた薬のおかげで格段に上がっている。
「あ、あれ!? 当たんない!?」
当たらなければ、短剣に塗ってある毒は意味をなさない。なんで毒塗ってあるのわかったかだって? そんなの簡単だよ。ドロりとした紫色の液体がぽとぽと地面に落ちて、地面を抉っていっているからね……俺まずくね?
「当たらないよ! そろそろやめない? 液体が危なすぎて……」
「当たらないなら当たらないで、まだ手はあるもん!」
和花奈はその場に立ち止まり、魔力を、毒霧に変えた。周りは紫の霧に包まれていく。
「息は吸わない方がいいと思うよ? あたしの作った毒だから、あたしは効かないけどね」
完全に毒の効果範囲に入ってしまった。すぐに異変に気づいて息を止めたから良かった。だが、この状況をどう突破――
「ハクくん!準備が出来たから行くよ!」
そうだな。俺たちは二人で一つのチームだったな。
なにかしらの方法を考えたであろう志津香を心配せず、和花奈の場所を探った。
……右に気配を感じる! ていうのは冗談で、右から和花奈の声が聞こえるんだよ。
「3」
謎のカウントダウンを始めた志津香の意図はすぐに理解できた。
カウントがゼロになったとき、仕掛けるッッ!
「2」
結構、息苦しいんだけど……。
「1!」
行くぞ!
「風魔法『ウインド・サーカス』っ!」
志津香の手から発せられた風が中を踊り、毒霧を晴らしていく。
「――はぁぁあ」
やっと空気吸えました!
「毒霧は晴れたぜ!」
「あ、あわわわわ」
慌てたようで、壁に向かって走る。だが、追い詰められた和花奈は、肩を震わせるだけだった。
「いいよ。き、君たちに殺されるのなら本望さ……」
仕方ないか。
「高宮流、投擲術! 日本刀バージョン! てい!」
白門が投げた刀は和花奈が張り付いてた壁に、突き刺さった。
「ひっ!?」
「こっち向いて!」
「ハ、ハイ!」
いい子だ。根は悪くないんだろうな。
「君は悪い子だ! 自分の命を粗末に扱うな! 人を簡単に殺そうとするな!」
「……へ? 殺そうとしていませんよ?」
この期に及んで嘘をつくか。和花奈。
強気にでて子供扱い作戦は失敗してしまった。
「さっきの、毒は痺れ毒です。あの程度じゃ、数分体が痺れて動けなくなるだけだよ」
あ、口調が戻った。
「し、痺れ毒?」
「はい、痺れ毒」
あの、志津香さん。さっきの苦しみ方は演技だったのですか?
志津香の方を向くと、ニヤニヤ笑っているのが見えた。
「まさかお前ら、グルだったのか?」
「いや、はじめは痺れ毒なのになんであんなに苦しがってるのかわからなかったんだけど、途中で気づいて悪乗りしちゃった!」
テヘッ――じゃねえよ!
「で、白門。あなた戦闘中に、その。好きとかなんとか……」
急な方向転換にびっくりだよっ!
「あ、ああ。言ったけど?」
「あの、あたしを置いてかないで~」
ちょっと引っ込んでいて欲しい。俺を騙したくせに。
そう、視線で訴えると、志津香だって騙してたじゃん、と返された。
「志津香はいいんだよ。俺の姫だから」
「なんで、そんなに黒い姫の肩を持つの!」
「? 誰?」
「会話の流れから察しなさいよ。私のことよ」
そういや、黒のイメージが強いな、志津香は。薔薇とか、細剣とか……。
「なんか、かっこいいな!」
「だからあたしを置いてくな!」
「そうでしょ? 白門はさしずめ、黒い姫を守る白い騎士ってとこかしら?」
「白い騎士か。いいな。志津香だけの騎士ってところが」
「ハクくん。そんな恥ずかしいこと言わないでよ」
「ご、ごめん」
「だーかーら……あたしを置いてくな!!」
「「ちょっとうるさい!」」
あ、ハモった。
「ご、ごめんなさいぃぃぃ」
とりあえず、俺の別名は志津香を守る白い騎士になった。
更新遅くてすいません。待ってくれていると信じて頑張ります。