志津香のところまで追いつきたい……
壮大な白門争奪戦が終了し、体育館には一旦誰もいなくなった。
――否。一人だけ残っていた。
「ふっ……白いの……お前も楽じゃないな」
彼の名前は、光城秀。白門と同じ一年でA組の男子だ。そして、初日に白門が初日の夜に遭って職員室を教えてもらった人物でもある。
「それにしても、来た初日にパートナーを決めているとはな」
なかなか変な奴だ。しかし相手にするにはちょうどいいくらいになるのか……一対二で。
秀は一年なのに序列SSランクの5……羅姫より序列が五つも上という、この学園でもイレギュラーな存在だった。
ただし彼にはパートナーがいない。彼の思考は孤高主義だった。
「誰かを守ろうとするなんて……邪魔な思考が入るだけだ……」
そう言って彼は踵を返し体育館を後にした。
「あれ~? 優樹菜先生どこだろ?」
白門は決闘が終わったあと一旦外に出て再び体育館に訪れていた。
「志津香は保健室の先生に引き渡したし……俺は俺の方で修行してようかと思ったんだが」
稽古の約束をした先生がいない。これは先に何かやっていた方がいいかな。
そう思い、片手に一本の長剣を出した。
「これは慣れたものだな。よくもまぁ、一日でここまで成長できるものだよ……自分とあの薬が恐ろしい」
「だなー恐ろしいなお前ー」
「――! ……ビックリさせないでください」
突然声が聞こえたと思ったら、案の定、後ろの方に優樹菜先生が立っていた。
「本当にお前の成長速度は恐ろしいわ。前から、魔法使いの奴らと戦ってたからって言ったって、限度というものがあるぞ」
「ちょっと? ちょっと待て。前からってなんだ前からって」
道場では何度も道場生と戦ったことがあるが……魔法使いと何かやったのは志津香がナンバーワンでオンリーワンだ。
「言葉遣いが気になるけど……まぁいいや。あそこの道場な、魔法使いを育てるための道場だったんだよ」
「はぁ…………嘘は言ってないんですね?」
一応聞いておく。別に嘘なら嘘でもいいんだが……。
「私が嘘言う必要あるか? 相模の頃からお前は魔法使い相手に……薬物身体強化連中相手に戦ってたんだよ」
薬物身体強化連中ね……。ドーピングじゃねぇか。まぁ俺もその一員なんだけど。
「あいつら、子供の頃からあんなことやってたのか……」
思ってみると、あいつらはなにか背負ってた気がした。親とかも毎日のように見学に来てたし……何かあるのかな。
「そういや、一人この学校に来てなかったか? 光城ってやつ。あいつは相模のところのやつだぞ」
「光城? 聞いたことないですけど……男ですか?」
「そうそう、って知ってんじゃねぇか」
「昨日の夜に職員室までの道を教えてくれた人だと思います」
だってこの学校、男が三人しかいないし。大輔さんと俺を合わせて二人……てことは残りは一人だから必然的にあの人しかいないんだよな。
「ま、そんなことはどうでもいいやー。今度の乱闘試合、楽しみにしてるかんな?」
ケラケラ笑いながら、昨日戦った位置まで移動する。
「さ、鍛えてやる。きな?」
昔見た構えだ。隙がなくて、威圧的な……。
心身が震え上がる。筋肉がキュッと引き締まって、うまく動かない。
「秀ってどんくらい強いんですか?」
「う~ん。お前と志津香がいっぺんに戦って互角? くらいじゃねぇか?」
それは……俺が足を引っ張ってるんだな。
――なら……
「もっと強くならねぇとな!!」
全身の筋肉を使って、白門は飛び出していった。