五、『武霊の、いいえ、武霊使いの戦い方を見せて上げます』
地雷機雷には飛行能力が備わっている。
といっても、サーバントほど高速で移動できるわけではなく、風船のような感じにふわふわとしか移動できない。
しかし、だからといって素早く動かせないというわけではないのだ。
つまり、逆鬼ごっこ開始前に、サーバント達に持たせて地雷機雷を空中に設置させていたということ。
更にステルス機能も独自に付いているので、上空で姿を隠すことなく飛んでいるサーバント達が良い囮となって美羽さんとコウリュウに気付かせずに済んでいたようだ。
勘が鋭い相手でも、近くに別の目立つ存在があればそれによって気付きを誤認させることができる。ってことなんだろう。動物とかだったら話は違ってくるかもしれないが、人間であるのなら本能だけで認識せず、理性によって認識することも多い。そこを突けば、武霊使いの勘の鋭さにも対抗することができる。これは良い発見だな。とはいえ、手加減が必要な逆鬼ごっこではあまり有用とはいえないか……
俺の目の前では、周囲で炸裂した粘着弾地雷機雷により、全身をねちょーっとした白い物体に覆われ、もがいているコウリュウ。
だが、もがけばもがくほど、粘着弾の粘度は強まり、身動きが取れなくなる。
ブレスを使って焼き切ろうにも、口周りも覆われているため、開かせることができない。
具現化率の違いで、コウリュウに効く攻撃はそう多くないだろう。鱗などの強靭な防御力は勿論、念動力による障壁がレベル2になったことにより、強度は倍以上になっていると考えられる。
……まあ、考えてみればそもそもレベル1のコウリュウを知らないんだよな……
などと思っていると、あえて粘着弾の影響化から外していたコウリュウの頭上で、美羽さんがこっちを見上げているのに気付いた。
その顔は余裕の笑みを浮かべており、しかも、俺の視線に気付き、
「武霊の、いいえ、武霊使いの戦い方を見せて上げます」
そう宣言されてしまった。
次の瞬間、美羽さんがコウリュウの頭から飛び降りる。
思わず俺が慌ててしまう中、コウリュウの身体が一気に縮み、粘着弾の白い物体がその急激な変化についていかず、レベル2の巨体に合わせた形で空中に留まってしまう。結果、中でレベル1となったコウリュウが自由に動けるようになり、小さなファイアーブレスを吐いて、穴を開け、そこから一気に抜け出した。
高速飛行で落下中の美羽さんを背に回収したコウリュウは、そのまま一気に上昇して地雷機雷が配置されている場所より上に移動してしまった。
なるほど……大きさを自在に変えられるのなら、それを利用した戦術も可能になるのか……確かに、武霊の、武霊使いの戦い方だな。
とはいえ、レベルダウンは、こっちの好機だ!
「弾丸セレクト! 『重力弾』!」
俺の命令に応えたオウキが、弾丸ベルトの内容を変え、小型ミサイルを上空に向けて適当に撃つ。
直接コウリュウは狙わない。狙いは直接撃破じゃないからだ。
乱舞されたミサイル達が、美羽さん達がいる空域から少し離れた場所で炸裂する。
その瞬間、黒い球体がその場に現れ、大気がそこに吸い込まれ始めた。
当然、強力な乱気流が発生し、コウリュウが翻弄されるようになる。
重力弾は、弾頭に重力発生装置が詰め込まれており、撃ち込んだ周辺に瞬間的な重力を生じさせることができる代物。
直接当てれば、強力な攻撃力を発揮するが、殺傷能力が高過ぎるので美羽さんの近くで使うことはできない。だが、こうして周りに炸裂させることで、動きを封じることができる。更に!
「弾丸セレクト! 『光線弾』!」
弾丸が切り替わり、ガトリングミサイルポット(ウロボロス)から撃ち出されるのは、レーザー光線。
光線弾は、弾の代わりに光線を撃ち出す弾丸であり、全ての銃器を即席のレーザー銃に変えるものだ。
そして、ガトリング機能によって連射される極太のレーザーは、コウリュウの周りに発生している高重力場の影響を受けて曲がる。
詳しい原理は知らないが、光は高い重力によって曲がるという知識が俺の中にはある。つまり、俺のイメージ(知識)で作られているオウキの武霊能力に、その現象が例え間違ってても反映されるということだ。
湾曲したレーザーが四方からコウリュウに襲い掛かり、貫く。
かに見えたが……
レーザー光線を受けたコウリュウは平然としていた。
まずい!
そう思うと同時に、重力場が弱まり、それを見切ったのか、一気にコウリュウが急降下してくる。
「コウリュウは、自分が吐ける属性に対する耐性が高いんです! だから、レーザーは効きません!」
わざわざ説明してくれる美羽さんの声を聴きながら、オウキと共にウィングブースターを最大出力にして逃げる。
学園上空で追走劇が始まるが、元々飛ぶことが前提のコウリュウの方が僅かに早い。
徐々に追い付かれてくる状況だが、それはそれでおかしな感じではある。
追いながら攻撃する手段なら向こうにだっていくらでもあるだろう。
ブレスないし、鱗を飛ばす防御鱗とかいうものもあるはずだ。
なのに、それをやってこない。
なにかを企んでいるのか?
疑念が浮かんだ瞬間、下からなにかが飛び出してきた。
それは赤い鱗。しかも、レベル2のままの大きさのだ。
瞬く間に囲まれ、その場に留まされてしまう俺とオウキ。
防御鱗の囲いの外に、コウリュウが止まり、その背中に乗っている美羽さんが言う。
「レベル2の状態で使った武霊能力を、武霊がレベル1になってもレベル2のままにする部分具現化の応用です」
さっきからわざわざ説明してくれるのは、美羽さんのお人好しが炸裂しているってことなんだろうか? なんであれ、レベルが上がればこういう応用の幅も利かせられるのか……敵が使えば厄介だが、自分が使えれば……いや、使えないことをあれこれ考えるのは意味がないな。
そう思って、意識をゆっくり迫ってくる巨大な防御鱗に向ける。
美羽さんの言葉が真実であれば、防御鱗にも様々な耐性が付与されているはずだ。
今のところコウリュウが吐けるのは、ファイア・アイス・サンダー・レーザーの四つを確認しているが、全部で七つあるという話だから、少なくともあと三つ……ある程度予測はできなくはないが、破壊するには単純に攻撃力が高い物じゃないと無理か……だが、具現化率の差で、レベル1のオウキでそんなことができるのか? 弱点属性を突くことができないのは痛いな……だが、やるしかない。
「チェックメイトです夜衣斗さん!」
その言葉と共に、防御鱗が俺を拘束しようと一気に迫ってきた。