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武装守護霊  作者: 改樹考果
プロローグ『選択の武霊使い』
8/85

8、『逃げながら問う』

 コウリュウが眼下に見える家がミニチュアみたいに小さくなるまで上昇すると共に、前へ向かって飛び始めた。

 それと共にかなりの風を覚悟した。

 だが、さっきの上昇の時もそうだったが、何故かコウリュウに乗ってから風を一切感じなかった。

 それどころか何かしらの力で俺と赤井さんの身体はコウリュウの背中に押さえ付けられているように感じられる。

 その為か、コウリュウに掴まる必要もない。

 ついでにいえば、赤井さんに触れること無く、狭い背中に立ったままでいられたので、ある意味とても助かった。

 それにしても、やっぱりこの力は念動力なんだろうか?

 そう思った時、下の方で閃光が生じた。

 気が付くとかなりの上空に剛鬼丸の姿があるのを、コウリュウに続いて飛び上がったオウキ越しに確認。

 「うわ! 追ってきた!」

 赤井さんも気付いたのか、そんなことを言って身体ごと振り返り、俺越しに後ろを見た。

 その際に短い髪が少しだけふわりとし、なんだか近くにいるせいかいい匂……うぉ! 何考えてんだ俺は!? これじゃあ、変態じゃないか! いや? そういえばどこかの学者が、髪はフェロモンを撒き散らすとかなんとか言っていたから、これは男の悲しい性って奴か?

 「うう~どうしよう? コウリュウと剛鬼丸って相性が良くないのに……」

 俺が男の本能と葛藤している間に、そんなことを赤井さんはぽつりとつぶやいた。

 PSサーバントにより強化された聴覚はしっかり彼女のそのつぶやきを捉えていたが……相性ね……

 背後にいる剛鬼丸は、オウキとコウリュウを警戒してか、閃光を使ってジグザグに飛びながら追ってきている。

 どうやら後ろの閃光で前に進み、前の閃光で急ブレーキを掛け、身体の方向を変え、を繰り返して空を飛んでいるのか?

 にしても、オウキへの突撃といい、こんなでたらめな空の飛び方といい、とんでもない丈夫さだ。普通、あんな速度で動けば、五体がバラバラにならないか? まあ、何であれ、これって、俺の最初の死の運命なんだよな? だから、剛鬼丸は俺を追ってきている? ……いや、違うな。最初に剛鬼丸が倒したのは骸骨犬だった。だとすると……そうか! 手近にいた意志力の塊であるはぐれを喰い終わったから、その次に近くにいた俺とオウキを狙っているってことか!? 更に考えれば、俺達の攻撃で骸骨犬達は弱っていた。もし、剛鬼丸が動物的な行動原理で動いているのなら、弱った獲物を狙うのは自然だよな……だとすると、俺が赤井さんから離れても、コウリュウの方を追ってしまう可能性がある。どれくらい苦手だかわからないが、情報を得る為にも時間稼ぎをする必要があるな……

 そう思った俺は、

 「オウキ! セレクト! シールドサーバントご!?」

 剛鬼丸の誘導と邪魔の為にシールドサーバントを五十機出させようとした。

 だが命令を言い切る前に、不意に意識の薄れを感じてしまう。

 原因がわからず一瞬困惑したが、

 「五十機!」

 強引に命令を口にし、五十機のシールドサーバントをオウキから出させた。

 シールドサーバント達が俺と剛鬼丸との間を邪魔するように飛ぶ中、俺は必死に失いそうになる意識の薄れと闘い……

 「な、なんて無茶をするんですか夜衣斗さん!」

 無茶?

 ふらふらになって俺に対して、振り返った美羽さんがそう言うと共に、うえ!?

 いきなり俺に抱き付いた。

 女の子に免疫のない俺は思わず固まってしまうと、

 「ごめんなさい。意志力を回復するのにこれが一番手っ取り早いです」

 そんな説明をした。

 今着ているPSサーバントのコートと簡易格納ホルダー以外の場所は、触れている感覚をダイレクトに感じさせる。つまり、素肌で触れている事と変わらないので、む、む、だー! ヤバい! 余計なことを考え得るなよ俺! 他のこと! 他のこと! そうだ! い、意志力が人の何かを成そうしようとしている意識の力であるのなら、確かにコミュニケーションによって回復するのだろう。コミュニケーションは意志のやり取りであるわけだから……だとすると、より直接的なコミュニケーション行為にすればするほど意志力の回復力は上がるということになる。そういうことが可能なら、何かを強く思うことでも意志力の回復は可能なのだろう。こうして考えることと、赤井さんが抱き着いてくれていることが重なってか、意識の薄れは急速になくなった。

 だが、疑問は残る。

 まあ、その疑問は自分で考えるより、目の前にいる先輩武霊使いに聞くのが確実だよな……

 そう思った俺は、

 「……あの、もう大丈夫ですから」

 何とかそう言うと、

 「え? そうですか?」

 直ぐに赤井さんは俺から離れてくれた。

 ちょっと名残惜しいと思ってしまうのは男の正直な反応か……って! 何考えているねん俺! 今はそんな場合じゃないだろうが! ええい! 本当に色々としっかりしろ黒樹夜衣斗!

 そんな風に色々と葛藤している俺を赤井さんはじーっと見て、ほっとした表情になり、

 「よかった。初めて武霊を具現化した人って、大体意志力の消費が激しくって、下手したら意志力切れで意識を失っちゃうんですよ」

 などと聞いてもいないことを説明してくれたが……

 「……どうして俺が初めて武霊を具現化したと?」

 「え? だって、あんなに特徴的な武霊を美羽が知らないなんてことは無いですよ。美羽、こう見えて学園で『武霊を研究する部活』に所属してますから」

 武霊を研究する部活? 気になる言葉だが、それの詳しい質問は後回しにして、赤井さんが本当に武霊を研究しているというのなら、これはかなりの僥倖だといえる。

 「……じゃあ、剛鬼丸に関しても詳しいですよね?」

 「はい、詳しい……ですよ」

 俺の問いに、表情も若干暗くなった。

 さっきの感じからして、自警団員の人と知り合いだったんだろう。

 少し心配になる美羽さんの反応だが、今はそれを気にしている場合じゃない。

 脳内ディスプレイで出したシールドサーバントの確認を行うと、次々と反応が消えていたからだ。

 この感じだと、あんまり時間はなさそうだな……

 なら、ちゃっちゃと確認すべきことを確認しよう。

 そう思った俺は、思考の為に腕を組み、片手で口を覆い、鼻だけでゆっくり深呼吸。

 赤井さんがこの癖に不思議そうな顔になったが、気にせず、口を覆う片手を少し開け、

 「……剛鬼丸を倒せそうな武霊使いはいますか?」

 俺の問いに、赤井さんは少し戸惑って、

 「いることはいますが……多分、『その人』は、昨日今日のはぐれ戦で大分消耗してますし、他の人は旅行に行ったりしてて……町にはいません」

 まあ、ゴールデンウィーク中だしな。それにしても、昨日今日ね……自警団員の人も言っていたが、骸骨犬の発生は、本当にイレギュラーみたいだな。ふむ。ということは、赤井さんも平気そうにしているが疲弊しているってことか? いや、

 「……赤井さんも」

 「あ、美羽でいいですよ」

 はあ?

 「だって、美羽だって夜衣斗さんのことを既に夜衣斗さんって言ってますし」

 そう言って赤井さんはにっこりと俺に笑い掛けたが、初対面の女性をいきなり下の名前で呼ぶ? 俺の常識からするとありえないことだし、今の今まで下の名前で呼んだ女性なんて……一人いたことはいたが、あの子は妹みたいなもんだしな……

 俺が色々と葛藤していると、赤井さんは急にしゅんとした感じになり、

 「ダメ……ですか?」

 なんて言うもんだから、何だか俺が悪いみたいじゃないか! めっちゃ心にグサリと来た! くぅ~こういうことに時間をかけている場合じゃないし……ええい! 男は度胸と覚悟!

 「み……美羽さん」

 「はい」

 俺の呼び掛けにあ……じゃなく、美羽さんは嬉しそうに微笑み、下の名前で呼んだり呼ばれたりするのって、彼女のこだわりなんだろうか? 今はそんなこだわりを気にしている場合じゃないっていうのに、この人結構ば……天然か? と、とにかく、

 「……美羽さんも……さっきので意志力は回復したんですよね?」

 その俺の問いに美羽さんは少し困った顔になり、

 「はい。でもあれって同じ人とは一日一回が限度で、一度ああやって回復すると、それ以降は他の人にやっても回復量が、違う人でもする度に減ってきてしまうんです」

 ということは、俺は回復したが、美羽さんはあんまり回復してないってことだな。

 つまり、美羽さんは今日何度か同じことを他の人でやってるってことになるが……なるほど……だから抱き付くことに慣れた感じが在ったのか……まあ、つまり、

 「……大本が回復しない……固体が流体になることで僅かに体積が増える的な回復ってことなんですかね? 外的要因による状態の変化? だから、同じ要因では変化がそれ以上起きない。まあ、多少は意志力の相互譲渡があるかもしれませんが、所詮は他人同士の譲渡ですか……ら……」

 俺の口にした疑問に美羽さんは目を白黒させて、

 「え、ええ」

 と頷きはしたが、なんかわかってない感じだな……まあ、やっぱりというか何というか、ちょっと可愛かったから別段いいといえば良いが……俺も大概余計なことを考えているな……

 脳内ディスプレイ内のアバターにため息一つ吐かせ、

 「……俺は今日初めて星波町に来ました」

 「え!? 今日!? 何度か来たことがるとかじゃなくて!?」

 俺の告白に美羽さんは自警団員の人と同じように驚く。

 「……今日が初めてです。少なくとも、そういう記憶はありません。なので、幾つか確認させてください」

 「確認?」

 美羽さんの疑問に、俺は頷き、

 「……武霊は、武霊を具現化する度に意志力を消費される。また、その武霊の……『武霊能力』と言うべきですかね?」

 「あ、はい。武霊能力で合ってます」

 「……を具現化する度にも意志力が消費される。それが例え、設定上備わっている装備とかでも……違いますか?」

 「いえ、それで合ってます」

 やっぱりそうか……だとするとかなりまずい。いや? 逆に光明が見えたか?

 「……あの剛鬼丸がオウキと同じ武装守護霊なら、今使っている閃光飛行もかなりの意志力を消費するはずですよね? ……そうであるのなら、こっちが意志力を節約して逃げ切れば、勝手に具現化が解除されますか?」

 そう推論した俺だったが、美羽さんは困った顔になり、

 「確かに具現化に使っている意志力を全部使い切れば、剛鬼丸は消滅します。ですが、あの剛鬼丸は、オウキやコウリュウとは『違う具現化の仕方』になってますので、直ぐには意志力切れになりません」

 「……どう意味でしょう?」

 「通常の武霊の『本体』は、オウキだったら『夜衣斗さんの中にある』んです」

 はぁ? 何言ってんだ? 現にオウキは俺の後ろに……

 副眼カメラで後ろを見ると、確かにオウキはそこに飛んでいる。

 「後ろにいる具現化しているオウキは……え~っと、映写機によって映し出される映像みたいなものなんです」

 映写機によって映し出される映像?

 「……つまり、映写機がオウキの本体で、フィルムが俺で、スクリーンが現実で、映像が具現化したオウキ?」

 「ええ、そんな感じです。ですので、私達の武霊が倒されても、意志力さえ残っていれば、再具現化は可能なんです。勿論、その分意志力が消費しますので、多用は禁物ですけど」

 ん~なるほど……理解はしたが……

 「……では、剛鬼丸の場合はどう違うんですか?」

 「剛鬼丸の場合は、もう完全に本体が外に、あの剛鬼丸の中にあるんです」

 「……本体が?」

 「はい。だから……えっと、どれだけ武霊が武霊使いのイメージどおりに具現化しているかの割合を具現化率って言うんですが」

 お? 予想したとおりの名前なのか……まあ、わかりやすい単純な名前だしな。

 「武霊使いが具現化した武霊って、『ある具現化の仕方』を使わない限り、どんなに頑張っても百パーセントにならないみたいなんです」

 百パーセントにならない? というかある具現化の仕方? 具現化トリガーか? いや、それだったらあるなんて言葉は使わないな。ということは、それには複数ある?

 「具現化率が低いと武霊はその分だけ弱くて脆くなって、逆に高くなると強くて頑丈になるんです。っで、はぐれは、本体が具現化した武霊の中にある影響か、具現化率百パーセントになってるんじゃないかと言われています」

 「……それは発生するタイプもはぐれ化も同様?」

 「え? あ、はい。えっとそれで……具現化率が高くなると、強さ以外にもメリットがあって、意志力消費の効率も良くなるんです。とは言っても、意志力の供給源である武霊使いから完全に離れちゃってますから、その内消滅するのは間違いないんですけど……」

 「……なるほど……はぐれ化した武霊の具現化時間は武霊使いの武霊より長いんですね……それで、その具現化時間はどれくらいかわかります?」

 「はい。最低でも数時間。最長で一日以上具現化していたこともあります」

 数時間から一日……

 「……剛鬼丸の武霊使いが、意識を取り戻した場合、武霊は元に戻りますか?」

 希望を込めての問いだったが、美羽さんは首を横に振り、

 「一度はぐれ化した武霊が武霊使いの下に戻った記録はありません」

 悲しそうにそう言って、コウリュウの首を見る美羽さん。

 多分、コウリュウが持っている自警団員の人に視線を向けているのだろう。

 ん~なるほど……やっぱり殺されない為には剛鬼丸を倒すしかないのか……では、どうやって倒す?

 そう思った時、

 「田村さん……星波自警団の中でも五本指に入るほど実力者だったんですよ……それなのにはぐれ化を起こしちゃうなんて……」

 なんてつぶやくように言った為、俺は思わず頬が引きつった。

 五本指って……自警団がどれくらいの規模か知らないが、そんな人の武霊を倒さなくちゃいけないのか? 初バトルで? いや、さっき倒せる人はいることはいるって美羽さんが言っていたから、何とかなるか?

 思わずそんなことを俺が考えていると、丁度砂浜が見える場所に来た。

 どうやら町への被害を抑える為にか、海の方に向かっていたらしいが……視界に入ったその光景に、俺は思わず絶句した。

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