六、『俺は顔を覆って猛省するしかない』(終)
身体を走る強烈なビリビリに、俺の身体が硬直してしまう。
こ、これはまずい!
痺れて動けない状況に、焦り逃れようとするが、どうにかしたくても身体を動かすことができなかった。
差し伸ばされる久楽さんの手。
それが触れた瞬間、俺は図書委員になるわけなんだろうが……まだあきらめる気はない! オウキ!
俺の首根っこを掴んで、後ろに思いっ切り引っ張ってぶん投げるオウキ。
喉がぐえっ! っとなったが、シールドサーバントを急降下させて、液体モードのシールドでキャッチさせたので、とりあえず地面に擦れて怪我する事態を防ぐことはできた。
俺がこんな無茶をするとは思わなかったのか、なんだか傷付いたような感じで差し伸ばした手のまま固まっている久楽さん。
「そんなに……いや?」
「正直、委員会とかそういうのは苦手なので」
などと返したかったが、口が痺れて上手く言葉にできない。
とりあえず、あうあうと言いながら首を横に振る。
ついでに武霊でも態度を表すために、周囲にサーバント達を降下させ、密集させた。
「そう……残念」
などと言いながら、久楽さんがルルラにお姫様抱っこされ、一気にこっちに近付いてくる。
ひらひらと踊るようにサーバントとサーバントの間を抜けつつ、ルルラは久楽さんの額にキスをした?
その瞬間、久楽さんの身体が淡く輝く。
なるほど、こうやってルルラは他人に食べた本のキャラの能力を付与するのか……
だとすると、二人を引き離せば能力の切り替えはルルラのみしかできないということになる。まあ、今更わかっても、あんな状態じゃあ引き離しようがないよな……
思わずため息を吐きたい気分になりながら、シールドサーバント達を俺の前に展開し、多重障壁による壁を形成する。
その周りには横に抜けても、上に抜けても、正面を強引に突破しても、その僅かな回り道を見逃さないように銃系のサーバント達を待ち構えさせた。
オウキもガトリングガン (ヒュドラ)を腰の簡易格納庫から取り出し、多重障壁の一部に小さな穴を瞬間的にランダムで開け、そこから電撃弾を撃ち込み、弾幕を張って俺を守る。
そんなオウキとサーバント達の影に隠れながら、俺はヒーラーサーバントによる治療を開始。
電撃の痺れにまで効くかはわからないが、やらないよりはましだと思ったからだ。
だが、そんな治療の効果を確認するより早く、ルルラが久楽さんを抱っこしたまま、真っ直ぐ俺に向って突撃してきた。
なるほど、やっぱりそのキャラで来るか……
久楽さんが、その左手を前に突き出している。
活動日記の主人公は、その左手に作中に登場してくるとんでも能力を吸収変換する能力があった。
作中説明だと、本来の理の外にある力を、幸運という概念に変換することによって乱れた世界法則を補修する浄化現象だとか説明されていた。
まあ、要するに、左手に触れれば――
シールドサーバントが展開するシールドに久楽さんが触れた瞬間、まるでそこに初めからなにもなかったかのように力場も発生源も掻き消えた。
多重に展開しているシールドサーバントを空気のように突破しながら、俺へと近付く久楽さん達。
シールドサーバントなどの面の武霊能力は、主人公の能力で消滅させ、銃撃や斬撃などの点や線の攻撃は超人格闘家の能力で回避されてしまう。
この組み合わせは、最悪の一言に尽きる。
とはいえ、その能力には隙があるはずだ。
見極めろ! 異なる能力であり、自分の能力ではない、他のキャラの能力であれば、例え作品上で知っていても、どこかに齟齬や使い切れてない部分があるはず。
現実と架空ではあり方そのものが違うのだから!
そう強く思った瞬間、それまで前に進んでいたルルラが後ろに飛び退いた。
なんだ? なんで今、飛び退く?
状況はなにも変わっていない。
シールドサーバントの障壁が前に展開されれば、久楽さんが拳を振るって消滅させ、ガスサーバントが睡眠ガスを放出すれば、腕を横薙ぎに振って煙ごと消し去り、ソードサーバントやランスサーバントの突撃は、ルルラが舞うように避け、ガンサーバントとスナイパーサーバントの銃撃は、身体を少しそらすだけで回避されていた。
しかし、その動きの中で、時より後ろに僅かに飛び退く瞬間がある。
勿論、こっちに徐々に近付いていることには変わりはない。
それでも、僅かに後ろに移動する動作には違和感を覚えた。
なにが違う? なんでだ?
身体の痺れはまだ治らない。動きたくても動けない上に、クイックアップ機能も使えない。PSサーバントを着用しようにも、サーバントが出せるオウキの肩の簡易格納庫はガトリングガン(ヒュドラ)の弾丸ベルトで埋まっているため、新たに出すことができない。前もって用意しておけばよかったんだが、ちょっと想定不足だったな……
後悔しつつも、久楽さんとルルラの動きを観察し続け、一つの結論に行き着く。
避けられない攻撃というのが存在している。
具体的にはわからない。しかし、俺に近付けば近付くほど、弾幕密度が上がっているのだ。
単純に考えれば、点と線の攻撃を四方から放てばいいかもしれないが、それはそれで事前準備が大き過ぎて、相手に読まれてしまうだろう。
なら、それと気付かれないように、密度の濃い、いや、わかっているのに避けられない攻撃を加える!
そうと決めた俺の頭脳は、一気に回り出し、どうするべきかの解を導き出す。
ほぼ同時に、俺の作戦を思念で受け取ったオウキが、ガトリングガン(ヒュドラ)に込めていた弾丸を電撃弾から睡眠弾に交換し、久楽さんに向って連射する。
回避するために舞うルルラだったが、その動きは無駄になった。
何故なら、久楽さん達に届く前に多重障壁の一番外にいたシールドサーバントが穴を閉じ、弾丸を途中で止める。
炸裂した睡眠弾が、白い煙を発生させ、俺と久楽さんとの間に白い壁を作る。
俺側の穴も閉じているので、こっちに影響が生じることはない。
この刹那、こっち側の動きは一切見えなくなる。
当然、久楽さん達は意図的に見えなくさせた方を警戒するだろう。
しかし、狙いはこっちではない!
久楽さん達の背後には、学園庭園がある。
本来ならそこで俺は罠を張り、委員会連合を先回りさせて倒すはずだった。
だが、彼らの連携が凄まじく、思うように誘導することができなかったので、作戦を変更せざる得なかった。
しかし、その作戦は途中まで行っており、使う予定だった罠の一部が、学園庭園には残っていた。
勿論、配置が都合よく展開されていた訳ではないので、修正するのに若干の時間が掛かったが、丁度良いタイミングで、それもさっき完了している。
これで終わりだ! 地雷機雷起動!
マイナーサーバントにより、久楽さん達の背後まで移動させた白銀の楕円球体が、次々と地上に飛び出す。
仕掛けられているのは、電撃弾。
久楽さん達がいる一帯が電撃に覆われる。
しかし、その電撃地帯は、久楽さんの左腕の一振りで掻き消されてしまう。
勿論、それを見越しての地雷機雷の起動だ。
続けて、ガンサーバント、ガトリングモード!
上部に付いた銃身を六連回転式に変更した白銀の円盤が、花咲き誇る花壇の中から次々と飛び出し、電撃弾を途切れることなく連射させる。
久楽さんが腕を振るい、少しだけバランスを乱した瞬間であり、例え回避運動が可能だったとしても、避ける隙間もなく放たれた弾丸を武術で避けられるはずはない。
そう、武術ではだ。
サンダーが着弾しようとした瞬間、久楽さん達の姿が掻き消えた。
ルルラが瞬間移動能力者にキャラを切り替えたのだろう。
勿論、そうすることも予測済みであり、どこに転送してくるかも読んでいる。
俺の背後に久楽さんを抱えたルルラが現れた。
ただし、それは睡眠弾の白い煙で視界を防ぐ前までの位置だ。
向こうは俺が痺れて動けないことを見越しているようだった。
だから、俺はそれを利用して、互いが見えなくなった瞬間に、シールドサーバントのベッドを切って、仰向けに倒れていた。
つまり、ルルラが現れたのは、俺の真上で……おおっ!? く、黒いアダルティな物が!?
俺がルルラのスカートの中を見てしまったのと同時に、シールドサーバント達がシールドを切り、電撃弾が睡眠弾の煙を巻き込みながら久楽さん達に着弾するのだった。
顔上で消えるルルラを見ながら……わざとじゃないとはいえ、物凄い罪悪感なんですけど……
逆鬼ごっこ終了のチャイムの音を聞きながら、俺は顔を覆って猛省するしかない。
というか、切り替えろ俺。明日はいよいよ美羽さんとの対決なんだぞ……
と心で決意を固めながら、顔の温度が急上昇するのはどうにも止められない俺だった。
間章その六『逆鬼ごっこ四日目』終了
次章
間章その七『美羽VS夜衣斗!』