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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その六『逆鬼ごっこ四日目』
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一、『待って……いたわ』

 逆鬼ごっこ四日目の昼休み。

 俺は学園庭園の大学側にやって来ていた。

 転校初日の登校時に、美羽さんが「大学区画の方には、学園長の趣味が加わったもっと凄いところがありますから」なんて言っていたのを思い出し、今日の作戦の下見がてら来てみたというわけだ。

 ん~確かに、もっと凄い所って感じがしなくもない。だが……

 若干呆れながら、庭園の中を進む。

 基本のベースは学園大門前にも使われている春の植物であることには変わらないが、その配置や見せ方が大きく違った。

 剪定によって動物や有名建築物を木々に形作っているのは勿論、植木鉢や彫刻などの芸術工芸品を上手く配置してアーチやら柱やら、果ては疑似的な建物まで作り出している。

 例えば噴水。全てが草花で形作られていて、縁や噴出口は勿論、そこに満たされ出ている水さえ、咲き誇る水色の花で表現されている徹底ぶりだ。

 これが切ったり折ったり強引に形作られているというわけではなく、植物としての性質を利用して形成されているらしく、近付いて見てみても切断面や括り付け紐などが一切なかった。

 高い植物の知識とデザインセンスが求められるような物ばかりが、やや無秩序に混沌とした感じで展開されている。

 ……なんというか、できることをできるだけやってみましたって感じもするんだよな……まあ、星波学園には部活や同好会がアホみたいにあるわけだから、色んな主張や考え方を持った連中が多くいるんだろう。そこに加えて、学園長の趣味が加わってしまえば、無駄に豪華で、無駄に気合が入ったこういう場所が形作られるって感じか? そこに武霊なんてものが加われば、色んなことに拍車が掛かるのは、当然といえば当然なことなのかもしれない。そう考えると、ある意味、学生が造り出した庭園ぽさは、学園大門前よりあるともいえる……か?

 どうにも首を傾げながら、うろうろしていると、ウィーンっと音を発てて、亀に似た警備ロボットが背後から迫っていることに気付いた。

 なんとなく後ろを見てみると、トータルガードかと思ったら、若干違っていたようだった。

 いや、多分、同系統であることは間違いないんだろうが、甲羅の上に霧吹きの噴出口のようなものが付いたロボットアームが付いており、よくよく見ると、側面には剪定鋏が付いたアームが付いていたりしている。

 どうやら園芸用の亜種のようだ。

 ん~まあ、一度形を決めてしまえば、後はその形通りになるようにカットすればいいだけだろうから、ロボットでも可能だといえば可能かもしれないが……ところどころ普通の学校の常識を超えた設備がある学園だよな……そもそも人工島の上にってのも、どこのアニメだ? って感じがしないでもないし、学費や寄付金だけでは……ん~とても採算が取れるとは思えないんだけどな……まあ、学園運営のみで儲けようとしているのではなく、琴野グループ全体でって考えると、むしろ、こっちの方が安上がりで済むといえるかもしれない。まあ、素人考えだから、実際の所はどうなんだかわからんが……

 などと考えながら更に奥へと進んでいると、ふとベンチに私服の女性が座っていることに気付いた。

 折り目の付いた黒いロングスカートに、白いブラウスの上に薄い青色のカーディガン。ショートボブに黒縁眼鏡を掛けたその人は、服装と外見からして、教員というより大学生ぽかった。

 視線をその手に持つ文庫本に落とし、熱心に読んでいるのか、俺が立ち止まり見ていても気付く気配はない。

 正直にいえば、注目するのは失礼だし、気にしないのが一番なのだろうが……

 俺は躊躇いつつ、その背後を見てしまう。

 そこには大きなリボンでポニーテールを作っている青髪のメイドさんがいた。

 アニメとかで見るメイドさんが良くしている両手を自分の前で重ねて待つ姿勢のまま、彼女は目を瞑って大学生さんの後ろに控えている。

 なんというか、またメイドか……って感じがしなくもないが、それだけで歩みを止めたりはしない。これは勘なんだが……多分、この青髪メイドさんは、武霊だ。

 そう思った時、すぅーっと目を開ける武霊メイド。

 髪と同じ青い目をこっちに向けて、にっこりと微笑み頭を下げてきたため、反射的に軽く会釈を返してしまう。

 さて、どうしたものだろうか? まあ、武霊メイドだからといって、このまま見続けるのも失礼だしな。というか、理由がない。

 そう思って、俺はその場から離れようとした時、武霊メイドさんが、自身の主人の肩を軽く揺すった。

 んん!? なんで?

 武霊メイドさんの不可解な行動に戸惑っていると、ゆっくりした動きで大学生はこっちを見た。

 「待って……いたわ」

 へ?

 大学生のセリフに、戸惑うしかない。というか、待っていた?

 思わず周りを見回すが、俺以外誰一人としていない。なので、その言葉の対象は俺しかいないのだが……ん~面識はないよな? まあ、ここ数日のことを考えれば、こっちに面識はなくても、向こうは顔を覚えているのは不思議ではないが……だとするのなら、待ち伏せということになる。だが、俺はここに来るということ誰にも告げていない。行動を予測されたのか、予知能力でもあるのか……

 いぶかしむ俺に、大学生はゆっくりした動作で、自分の隣のスペースをポンポンと叩いた。

 「(すわ)……って」

 ……人のこと言えないが、独特な喋り方の人だな……なんにせよ。俺に用があるというのなら、立ち話でもいいんじゃないか?

 俺が一向に座る気配を見せないことに、大学生さんはゆっくりと首を傾げる。

 「い……や?」

 なんか眼鏡の下の目が潤んでるんですけど……何故この程度で泣きそうになる!? というか、武霊メイドさんの目が痛い。ああ! もう!

 俺は深いため息を吐いて、ベンチに近付き、

 「……失礼します」

 一言断ってから大学生さんの隣に座った。

 が、

 「…………」

 なぜか、再び文庫本に目を落とし、黙ってしまう大学生さん。

 こっちとしても、さて、どうしたものか? って感じなので、こっちから話し掛けるべきなんだろうか?

 声に出さずに悩んでいると、大学生さんが文庫本の茶色いカバーを外して、その表紙を無言で見せてきた。

 ある超常の活動日記(ダイアリー)と銘打たれている長く続いている人気のライトノベルだ。

 あまりにも幸運な高校生の主人公が、幸運であるが故に様々な事件に巻き込まれ、毎回死ぬような目に遭う。って話で、俺も好きで読んでいる。

 表紙からして、五巻か……

 「……冒頭の日記描写は面白いですよね」

 とりあえず、それを切っ掛けに話を望んでいるようだったので、当たり障りない感想を口にしてみたら、大学生さんはにっこりと微笑む。

 「私も……好き」

 なにこれ、妙に間を開けられると、違うとわかっていてもあらぬ勘違いが浮かんでドキッとしちゃうんですけど……

 俺が思わず勝手にドギマギしていると、大学生さんはゆっくりと頷いて、

 「わか……った」

 と何故な納得して立ち上がり、振り返りもしないで去って行ってしまった。

 えっと……なにが?

 困惑して大学生さんの後ろ姿を目で追っていると、横から武霊メイドさんがこっちに一礼してきたので、反射的に会釈を返してしまう。

 俺の反応に武霊メイドさんはにっこりと笑って、自分の主人の後を追い始めたが……あの、誰か説明して? 情報少な過ぎて、推測すらできないんですけど……

 などと思いながら呆然としていると、ふと、大学生さん達が向かっている先に、窓がない黒い大体三階建てぐらいの建物があるのに気付いた。

 隣には学園大講堂があるので……ん~確か、大学図書館だったか?

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