五、『だったら真っ向勝負よ!』(終)
「さあ、仕切り直しと行きましょうか?」
そう俺に不敵に笑い掛ける霧崎さん。
同時に彼女の言葉通りに仕切り直すためか、後ろに大きく飛んでオウキとの間合いを大きく開けるフレアニアス。
距離が離れたことにより、オウキは腰に付けたままのガトリングミサイルポット(ウロボロス)を持ち直すことができたが、果たしてそのまま装填されている冷凍弾ミサイルを撃ったとして、さっきと同じ結果にならないという保証はあるか?
じーっとフレアニアスに目を向けつつ、直前のオウキとの戦いを思い出しながら考える。
見た目に反して、機械系の武霊能力をほとんど使っている様子がない。つまり、炎系がメインと考えても支障はないだろう。
当然ながら、自らが生み出した炎の影響を受けていると考えるのはナンセンスだ。つまり、急激な温度変化を利用した破壊は有効じゃないってことにもなる。
なら、どうする? キューブゲージをあっさり爆発四散させるほどの炎だと考えるなら、真っ向勝負をするのは得策じゃない。ということは……ふむ。この手で行くか。
チラッと霧崎さんを見ると、どうやらこっちがなにかを仕掛けるのを待っているようだ。
なんか期待されているのか、それともどんな策が来ても対応できるって自信があるのか……ん~この感じだと両方だな。
ワクワクした様子の霧崎さんに、俺は思わず深いため息を吐いてしまう。
「……行きますよ」
「来なさい!」
パーッと顔が輝く彼女に、本当に武霊ファイトが好きなんだと、俺は苦笑せざる得ない。まあ、なら、ご期待に応えようとしようか!
「弾丸セレクト! 撃てぇ!」
両肩の簡易格納庫から伸びる弾丸ベルトの内容が、冷凍弾から変わり、即座に新たなミサイルを撃ち出す。
途切れることなく撃ち込まれる小型ミサイル群。
それを見たフレアニアスと霧崎さんが不敵に笑う。
ほぼ同時に横凪に振るわれるフランベルジュ。
斬撃がミサイルにも、オウキにも届く距離ではないのだが、振り始めた瞬間から波打つ刀身に炎が宿り、刃が伸びた。
延長した刀身から炎が吹き荒れ、ミサイル達を次々と爆発させ、オウキへと迫る。
だが、その直前で、ふうっとまるでロウソクの火を息で吹き消したかのように炎の刀身がなくなる。
「消火剤!?」
霧崎さんの驚きの言葉を聞きつつ、俺は密かにほっとしていた。
新たなミサイル弾頭『消火弾』。名前の通り、火を消す白い薬剤が入っている特殊弾だ。なので、フレアニアスの炎にも効果があるんじゃないかと思ったわけなんだが、相手は武霊能力だ。果たして想像通りの効果が発揮されるかどうか、結構、いや、かなり不安だった。
まあ、思惑通りに消えてくれたのだから、これでフレアニアスの武霊能力はほとんど無力化――
「面白い! だったら真っ向勝負よ!」
俺の思考を中断させる言葉を叫んだ霧崎さんは、フレアニアスを見る。
視線を受けたフレアニアスは、頭部のウサ耳を揺らしながらこくりと頷き、再びフランベルジュを振るった。
オウキは俺が命令を飛ばすより早く消火弾ミサイルを連射し、炎の斬撃を無効化させる。
同じ結果になるってわかりそうなものなんだか?
そう疑問に思うが、フレアニアスは更に斬撃を放つ。いや、連撃か?
次々とフランベルジュが振るわれる。
オウキも応え、消火弾ミサイルを途切れることなく撃ち続けた。
一発が破壊される度に、周囲に白い粉が舞い散り、オウキとフレアニアスとの間の光景を白くさせる。
それはつまり、消火現象が更に強まることを意味する。はずなんだが、何故か、フランベルジュから伸びる炎の刃が、一振り一振りされる度に伸び始めた。
「炎の温度は段々と上がるものよ?」
俺の思考が答えに行き着く前に、霧崎さんがそう不敵に口にした。
つまり、時間が経てば経つほど、こっちの手に負えなくなるってことか……なら、速攻で決めさせて貰う!
作戦を思念のみでオウキに伝えつつ、脳内ディスプレイからサーバント達に命令を送る。
まず、上空に待機していたスカウトサーバント二機がオウキの下に降下し、側面からアームを出して、ガトリングミサイルポット(ウロボロス)の銃杷を受け取り、代わりに撃たせる。
両手が開いたオウキは、両腕の簡易格納庫から震王刀を出し、二刀流となって、フレアニアスにゆっくりと近付く。
他に特に目立った動きはしない。というか、必要ない。
「なんのつもり?」
そう霧崎さんは問いを口にしたが、直ぐにフレアニアスの異変に気付いたようだった。
正確にはフランベルジュの炎のだが。
オウキが一歩近付く度に、その分だけ炎の刃の発生距離が小さくなっていた。
武霊能力同士がぶつかった場合、具現化率が高い方が優先されて効果を発揮する。
では、武霊能力が発生させた物理現象同士、もしくはその物理現象と武霊能力ではどうなるのだろうか?
武霊能力で形を維持し続けるものは、町を越えれば瓦解するが、完全に形作ったものは、町を越えても形を保ち続ける。
つまり、物理現象の方が武霊能力より上位に位置するということだ。
だからこそ、フレアニアスが発生させられた炎は、消火弾の影響を徐々に少なくさせることができたのではないだろうか?
例えば、温度が高まることによって生じた大気の熱膨張風などにより、粒子である消火剤が影響を受けた。風で粉が吹き飛ばされたからこそ、熱が上がれば上がるほど、その力が大きくなり、炎の刃が伸び始めたと推測できる。
勿論、直接消火弾ミサイルを斬っているのだ。影響を熱膨張風が発生する前に消火剤の影響を受けているからこそ、一気に炎の刃がオウキに届くことはなかった。
武霊能力を使って間接的に物理現象を起こさせ、武霊能力の効果を半減させるのは、流石は武霊ファイト馬鹿だといえる。
だが、種を推測できてしまえば、同じことを、いや、それを逆手に取った方法を取ることなど簡単にできるのだ。
つまり、俺がやったことは酷く単純。
消火剤が風によって吹き飛ばされないように、吹き飛ばされても意味がないように、囲んで、増やして、密度を上げたのだ。
風というのは、要は大気の流れだ。つまるところ、閉鎖空間を作ってしまえば、その中ででしか動きようがなくなる。
シールドサーバントで大きなキューブゲージを作り、オウキとフレアニアスを隔離し、途切れることなく消火弾ミサイルを撃ち込み続ければ、内部の消火剤が例えどんなに激しい風を起こしても、影響を与えられるというわけだ。
徐々にキューブゲージのシールド範囲を狭めるシールドサーバント達。
それに伴って、消火剤の影響力が強まり、フランベルジュはとうとう振るっても炎の刃を発生させられなくなった。
そして、オウキもフレアニアスに震王刀を届かせる位置まで歩き終わっている。
剣撃戦が始まる。ただし、俺からは既に見えなくなっているほどキューブゲージの中は真っ白になってしまっているので、ガキンとかキンとか音は聞こえても、どっちが有利か不利かわからない。
勿論、オウキの視界を送って貰ったり、脳内ティスプレイを使えばある程度は理解できるかもしれないが、これほどの接近戦だ。俺の思考はただ邪魔になる。
隣を見れば、霧崎さんもじーっと真っ白なキューブゲージを見ているだけ。
特に指示らしい物をしている様子はない。まあ、思考のみで行っている可能性は否定しきれないが……
そう思った時、唐突に剣撃音が鳴りやんだ。
無事かオウキ!?
そう思念で問うと、背後から半透明なオウキが出てきた。
ぎょっとして隣の霧崎さんを見ると、彼女の背後にも半透明の霧崎さんが出ていて、苦笑している。
「相打ち……ね。今度は正式な武霊ファイトで戦いましょ?」
そう言うと同時に、彼女は転送された。
逆鬼ごっこのルール上は、こっちの勝ちだが……ん~なんとも微妙な勝ち方をしてしまった。……まあ、なんであれ、勝ちは勝ちだし、明日もまだ逆鬼ごっこは続くんだ。意識を切り替えて行こう。
そんなことを思っていると、逆鬼ごっこ終了を知らせるチャイムが鳴った。
今日も倒し切れなかったか……そういえば、またしても黒丸君を退場に追い込めなかったな。初日以外別の武霊使いによって吹き飛ばされているとはいえ、こう毎回ちょっかい掛けられるのは少々困りものだ。明後日の美羽さん&コウリュウ戦は、多分、他の厄介な武霊使いを相手にできるほどの余力はないと考えられる。なら、明日中に黒丸君を倒そう。
そう決意しながら、俺は学園大門へと向かうのだった。
間章その五『逆鬼ごっこ三日目』終了
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間章その六『逆鬼ごっこ四日目』