四、『スタンダードな武霊ファイト』
金髪縦ロールな霧崎亜美は、不敵な笑顔を浮かべながら、こっちの反応を待っている。
「いや、勝負もなにも逆鬼ごっこ中なんだから、勝手にかかって来いよ」
俺はあきれ顔になりながら、思わず心に浮かんだ言葉を口にしてしまった。
「ふふん。わかってないわね。こういうのはノリでわかったって言えばいいのよ」
などと偉そうに胸を反らす。まあ、ブルンブルン揺れる胸だな……もしかして、ブラジャーしてないのか? 痴女か? 付けない主義なのか? いや、そもそも必ず付けなくてはいけないといものでもないだろうしな……って! なに考えているんだ!? っく、恐るべし乳だな……
心の中で決して他人には知られてはいけない思考をしてしまい、表に出さずにあわあわしてしまう。
そんな俺の状態を、わかっているかわかってないのか、ふふんっと不敵な笑みを浮かべる霧崎さんは、自分の背後にいる武霊を親指で指した。
「この娘は『フレアニアス』。私の武霊。黒樹君の武霊と似たような武霊能力を持ってるわ」
などと説明する霧崎さんだが……
「……捕まえなくちゃいけない相手である俺に、なんでそんなことをわざわざ?」
「私の方だけ黒樹君の武霊能力を知ってるのは不公平でしょ? やるんだったら楽しく公平にバトらないと!」
うわ……やだなーこういうタイプは……基本的に関わらないようにしているのが俺の信条というか生活の知恵というか……というか、基本的に武霊ファイト馬鹿である以外はいい子ね……
改めて彼女を見るが、馬鹿はわかるが、良い子か?
こっちの反応を待っている霧崎さん。まあ、確かにこうも無防備に返事を待っている様子を見ると、良い子という言葉は頷けなくもないな……ん~……仕方ない、不意打ちは止めてあげよう。
最初のフレアニスの火球による攻撃で生き残ったサーバント達を、森に入ってこなかった他の子達対策に回す。
その瞬間、ピックンと反応する霧崎さんとフレアニアス。
「不意打ちしないんだ」
不敵に笑う霧崎さんに、俺は眉を顰める。
火球を使う理由として、俺が森中に配置していたシールドサーバント達を上げていた。
つまり、フレアニアスは、探知系の能力も有しているってことなんだろう。それが見た目の機械的な物なのか、火球を発生させた炎系によるものなのかは不明だが、どっちかによって大きく戦い方を変えなくてはいけない。
「……不意打ちをして欲しかったのか?」
「対応できる自信があるから、どっちでも」
ふふんっと胸を反らす霧崎さん。
わざとやってんのか?
ついついと揺れる胸に目が奪われてしまうのは男の悲しい性だが、ん~無意識であろうと、意図的だろうと、思考がそのたんびに中断させられるのは、よくないな。……多分、余裕があるから、こうなってしまうのだろう。俺は別に巨乳好きとか、特別乳が好きとか、そんなんじゃないから一時的で済んでいるが……呆れるな。どんな時でも、どんな場所でも、どんな状況でも、戦闘モードに切り替えられるようにならないと、この先やっていけないだろう。だとするなら、少々ふざけた感じだが、霧崎さんは最適な相手だ。
「……わかった。勝負しよう」
「ふふん。そうこなくっちゃ。じゃあ、スタンダードな武霊ファイト形式ってのはどう?」
霧崎さんの意外な提案に、俺は眉を顰めた。というか、既に逆鬼ごっこという武霊ファイトをやっているっていうのに、それを無視するのか? というか、スタンダードね……なにをもってそういうかだが……ん~武霊ファイトって言葉を素直に考えるなら、
「……つまり、武霊のみによる決着ってことか?」
「そういうこと」
それはそれで好都合だな。さっき意図したこととは不都合になるが、オウキのみの修行には持って来いだ。
俺の考えを読み取ったオウキが、不安そうな感情を送ってきたが……必ずしも俺が指示できる状況ばかりじゃないんだ。勿論、窮地に陥ったら、指示は出す。だから、それまでは自分一人で頑張ってみてくれオウキ。
思念による命令というよりお願いに、オウキはしぶしぶって感じに同意したような……どうにも思念のみのコミュニケーションだと曖昧な感情は理解し難いな……
小さくため息を吐いた後、俺は霧崎さんに向かて頷く。
「……いいだろう。なんであれ、直ぐに終わらせてやる」
俺のあえて含ませた挑発に、霧崎さんはにんまりと笑みを浮かべた。
「言うわね。その挑発、後で後悔するわよ?」
「……させてみせれば?」
「あはは! 勿論!」
俺の更なる挑発に応えるように、フレアニアスが前へと飛び出した。
フレアニアスの突撃と同時に、オウキが背中にウィングブースターを展開し、一気に上空へと上がる。
それを追うように足や腕・背中にある装甲が開き、ロケットのジェット噴射のように青い炎が噴き出す。
「フレアブースタ。フレアニアスの飛行武霊能力よ」
霧崎さんの説明と共に、一気に上空へと上がり、先に飛んだはずのオウキへと接近する。
空に上がりながら両腰にガトリングミサイルポット(ウロボロス)を出していたオウキが、通常弾の小型ミサイルを連射した。
「炎の衣!」
霧崎さんの命令に、フレアニアスが応え、その全身が炎に包まれる。
フレアブースタとは違う赤い炎にミサイルが接触した瞬間、彼女を包み込むほどの爆発が生じた。
爆炎がフレアニアスを包み込み、下から見えるオウキの姿を隠す。
即座にオウキの視界を借りると、炎の中から飛び出すウサ耳少女が見えた。
咄嗟に指示を考えようとしてしまうのを強引に止めると同時に、ガトリングミサイルポット(ウロボロス)を自分の前に交差させるオウキ。
バッテン状になったガトリングミサイルポット(ウロボロス)の銃身に、炎に包まれた高熱の拳が叩き込まれる。
インパクトの瞬間、腕のブースターの出力が上がり、更に拳から黒い爆発が生じ、オウキの全身が巻き込まれた。
黒い爆炎の中からオウキが飛び出し、くるくると回りながら落ちていくのを目撃し、眉を顰める。
今のは明らかに選択ミスだ。爆発を無効化するように突撃してきたということは、フレアニアスに炎系の武霊能力は効き難いということなのだろう。だとすれば、防御ではなく、別の弾丸をセレクトすればよかったんだ。つまり、冷凍弾……って、あ~考えてしまった。
俺の思考を読んだのか、オウキがガトリングミサイルポット(ウロボロス)のミサイルを、通常弾から冷凍弾に変える。
後悔する俺に、謝罪の感情を送ってくるオウキだが……まあ、やっちまったものはしょうがない。
追撃を加えようと迫るフレアニアスに、冷凍弾ミサイルを撃ち込もうと連射する。
しかし、フレアニアスは、その手から炎の塊を撃ち出し、撃ち出された直後のミサイル達を破壊してしまう。
近距離で爆発させられたため、その衝撃で体勢を崩したオウキに対して、フレアブースタ全開の前蹴りを放つフレアニアス。
避けることができなかったオウキの胸に、装甲を纏った足が突き刺さり、拳と同様に爆発が起きた。
蹴りと爆発の威力が重なったことにより、ウィングブースターの出力を越えてしまい、オウキは地上へと叩き落されてしまう。
地面が震えるほどの強烈な威力に、地面に減り込むオウキ。
「フランベルク!」
好機と見たのか、霧崎さんが新たな指示を飛ばす。
主の命を受けたフレアニアスが両腰に手をかざすと、赤い装甲がスライドするように開き、炎と共に剣の柄が飛び出す。
彼女がその柄を握り、一気に引き抜くと、現れたのは、波打つ剣身が特徴的な片手剣だった。
二振りの片手剣を取り出したフレアニアスは、オウキに止めを刺そうと急降下する。
刃が届こうとしたその瞬間、オウキはガトリングミサイルポット(ウロボロス)の銃杷から手を離し、両腕内側の簡易格納庫から震王刀と飛び出させ、掴むと同時にフレアニアスの剣を受け止めた。
拮抗する様子を見せる両者の二刀流。
フランベルクの刀身が段々赤くなっているのを見ると、熱で焼き切るタイプの剣なのだろう。
対する震王刀は、振動によって切り裂くタイプの刀だ。
どちらに軍配が上がるのか、科学的に見れば予想は立てられるかもしれないが、これは武霊戦だ。科学というより、どちらがより高い具現化率で具現化しているかが勝敗を決する。つまり――
唐突に、震王刀の刀身が焼き切られる。
やはり武霊のみの具現化では、具現化率が劣るか。
そう考えながら、俺は事前に指示を出していたシールドサーバント達によるトライデントタックルをフレアニアスにぶつけさせ、オウキから離すと共にそのままキューブゲージで閉じ込める。
感謝の感情を送ってくるオウキに、心の中で応えながら、少しだけ溜め息を吐く。
武霊使い戦で、武霊のみで戦わせようというのは無謀だったな。軽率な考えだった。これは素直に反省すべきだろう。
そう思った時、フレアニアスの方を見ていた霧崎さんがこっちを見た。
「ようやく本気になった?」
どうやらオウキのみで戦わせていたのはバレバレだったらしい。
「じゃあ、こっちも本気で行くよ」
って、今まで手加減していたのかよ!?
驚愕する俺を見ながら霧崎さんは新たな指示を飛ばす。
「フランベルジュ!」
フレアニアスが背中に手をかざすと、背部の赤い装甲がスライドして開き、大型の柄が炎と共に現れる。
その柄を引き抜こうとするが、今のフレアニアスはキューブゲージによって閉じ込められている。そんな状態では剣を取り出すことはできないはず。
だった。
フランベルクと同じ波打った剣身が僅かに現れた瞬間、爆発といっていいほどの炎が吹き出し、立方体シールドの中が赤一色で埋め尽くされる。
とてつもない圧力が内側から掛かっているのか、シールドにひびが入った。
まずい! と思った次の瞬間には、砕け散り、強烈な爆発が巻き起こる。
吹き荒れる炎が消えた後には、自身とほぼ同じ長さの大剣を正眼に構えているフレアニアスが立っていた。