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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その五『逆鬼ごっこ三日目』
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三、『というわけで、私と勝負しなさい!』

 まだまだ俺のところまで来るには距離があったし、場所を特定されていない。

 そう思い込んでいた。

 だからこそ、執事超能力者の武霊能力に、テレポーテーションがあることを知っていながら、それを警戒していなかったのだろう。

 そんな自己分析をしながら、俺は脳内ディスプレイ内にいる自身のアバターにため息を吐かせた。

 咄嗟に思考制御でクイックアップ機能を起動したため、自分の身体を動かせないための代行行為なのだが……ゆっくり流れる光景を見ながら俺はもう一回アバターにため息を吐かせる。

 正直、クイックアップ機能は、極力使いたくなかった。

 これに頼り切ってしまうと、脳にダメージが蓄積されて、万が一の時に使えなくなってしまう。なんて窮地に陥る可能性がある。

 なにより、平常時に咄嗟の判断ができなくなると、機能起動より早い攻撃に晒された時に、対応できなくなる危険性だってあるんだが……まあ、やってしまったものはしょうがない。

 それにしても……この人達、仲が悪いんだか良いんだかよくわからないな……

 瞬間移動してきた二人の両手には、犬耳メイドが出したと思わしき、自動拳銃が握られていた。

 瞬間移動もそうだし、自動拳銃もそうだし、今もそうだし、なんだかな。

 二人が持っている銃口は、それぞれ、オウキや俺を警護しているサーバント達に向けられている。その後ろでは執事超能力者が二人の武霊使いが攻撃対象にしている以外に両手を向け、犬耳メイドは、三人を上手い具合に壁として使いつつ、俺を拘束しようと接近している。

 クイックアップを使ってなかったら詰んでいたって思うほどに、高度な連携攻撃って感じに見えた。

 まあ、メイドも執事も、役割こそ違えど、職場環境はほぼ同じなわけだから、個人的にいがみ合ってはいても、仕事? では完璧な協力体制が取れるってことか? なんか複雑そうな関係で、色々と興味をそそられるが、やっぱり傍から見たい二人だ。

 というわけで、早々と退場して貰おう!

 俺は自分の周りに仕掛けていた機雷地雷(フェアリー)を起動させる。

 同時にクイックアップ機能の加速度の調整を行い、少しだけ時間が流れる速さを上げた。

 ほぼ停止した状態から、スローモーションへ変化した周囲の光景の中で、木の根や落ち葉に覆われた土の中から楕円形の白銀球体が飛び出す。

 その数、百。俺の見える範囲は勿論、木の後ろなど、見えない場所も含めて、半径百メートル内にみっちりと機雷地雷(フェアリー)を仕掛けさせて貰った。

 機雷地雷(フェアリー)に埋め尽くされた周囲に、驚愕する二人が武霊に対してなにかを指示しようと口を動かしているが、遅い!

 白銀球体が炸裂し、内部に込められた低威力設定電流弾(サンダー)が周囲を満たす。

 一瞬だけ電流の世界となり、電撃に晒された四人がビクッと身体を振るわせ、硬直する。

 武霊の二人はこの程度なら平気かもしれないが、生身の武霊使いの方はそうはいかない。

 電光が消え、周囲の木々が少し焦げ、独特の匂いが立ち込める中、クラスメイトの二人はゆっくりと倒れ、途中でその姿が消えた。当然、武霊も同時に霧散化したわけだが……ちょっとやり過ぎたか?

 そう考えながらクイックアップ機能を停止させ、ほっと一息吐く。

 ちなみに俺は、最初っから展開しているシールドサーバントのシールドの中にいたので、ノーダメージ。

 というか、ここに素直に姿を現している時点で、俺自身が罠となっているとか思わないんだろうか? 相手のターゲットを囮に使うなんて、トラップの初歩の初歩だと思うんだけどな……まあ、なんであれ、これで厄介そうな二人は倒せた。残りは、如月さんが警告してくれた――

 不意に、目の前に黒い羽根が大量に降り注いだ。

 っく! シールドモードセレクト! 気体。

 思考制御で展開しているシールドの強度を上げると同時に、黒い羽根から衝撃波が発生した。

 刹那的に周囲が黒くなり、収まった後には、吹き飛ばされた周囲の木々の凄惨たる状況が目に入る。

 そういえば、昨日も退場したところを見ていなかったな……

 若干呆れながら上空を見ると、そこにはやっぱり黒丸君とルシフェルがいた。

 昨日と同様に、武霊に両膝を持たれ、その膝の上に乗りながら十字に腕を組んでいる。

 なんか言っているようだが、こっちはシールドに囲まれているため、なにを言っているか聞こえない。まあ、近くに飛んでいるスカウトサーバントなら音声を拾えるかもしれないが、わざわざ間接的に聞くまでの内容じゃないだろう。どうせ、流石は我が宿敵と書いて友とか、そんなことしか言ってないだろうし。

 とはいえ、そろそろ黒丸君にはご退場願いたいな。彼とルシフェルの攻撃パターンは大体わかったし、非常に丈夫なのも確認できているが、それ以上があるのかどうか、いまいちわからない。

 まあ、昨日は現れて直ぐに如月さんのトモロに吹き飛ばされたから、もしかしたら隠し玉を持っているかもしれないが……なんであれ、それを使うのをわざわざ待ってあげるほど俺は優しくないし、暇じゃない。

 そう思って、なにやら口上を述べているであろう黒丸君に対して、森の縁に設置しているスナイパーサーバント達のスコープを向けさせた。

 武霊がどんなに頑丈でも、多角的な狙撃を武霊使いに向ければ、そう簡単には防げないだろう。

 撃て! そう狙撃の指示を出そうとした時、気付いた。

 黒丸君の上に、真っ赤な炎の塊が出現したことにだ。

 思わず上空を指差し、黒丸君に警告を送ると、ルシフェルの方が先に気付いたのか、その全身を黒い翼で覆った。

 直後、炎の塊がこっちに向かって急降下し始め、黒丸君達を弾き飛ばし、俺の周りに展開しているシールドと激突する。

 強烈な衝撃と共に、視界全てを埋め尽くすほどの炎が吹き上がった。

 俺も周りに設置していたサーバント達が次々と消失していくのを脳内ディスプレイで確認しながら、ぞっとしてしまう。

 明らかに武霊使いを考慮していない威力の範囲攻撃だ。

 まずい! このままでは! シールドサーバント達!

 俺の意思に応えたシールドサーバント達が、森に入っていた武霊使い達の下へ急行し、彼らを守らせる。

 次々と子の武霊達が炎と爆発に巻き込まれ、焼失していき、それと共にシールドサーバントに保護されていた武霊使い達が転送されていく。

 僅かに遅れて、その武霊使い達を保護していたシールドサーバント達が、シールドごと燃え散らされてしまう。

 俺を守るシールドサーバント達も限界になり、次々と壊れるが、オウキがシールドリングを出し、自身を含めて守ってくれたため、ギリギリ事なきを得る。

 吹き荒れる炎が収まり、周囲の光景が露わになると……目の前に広がった惨状に、俺は愕然する。

 何故なら、森だった場所が、一瞬の内に焼け野原と化していたからだ。

 なんて威力だ……というか、

 「馬鹿かあんたは! 俺が他の武霊使い達を庇わなかったら、大量の焼死体が出来上がっていたぞ!?」

 そう俺が叫んだのは、俺の前・火球の落下地点に立っている気の強そうな瞳を持った金髪縦ロールの女性。

 彼女の背後には、赤いメタリックボディーな装甲を身に纏ったウサ耳少女がいた。

 フィギュアみたいな武霊だな。そういえばああいうデザインの作品群が在ったか? まあ、見たことが無いデザインだから、オリジナルタイプだろうが……いや、そんなことより……

 その彼女は、赤いジャージを身に纏ってもなお、強調されるグラマラスなボディを後ろに反らし、

 「ふふん。きっとあなたならみんなまとめて守ると信じていましたからね」

 勝手な信頼に俺は前髪の下で強く眉を顰める。というか、ちょっとカチンときた。

 「よく知りもしない相手に、他人の命を預けるというのは感心しない」

 思った以上に重さのある言葉になったが、縦ロールな彼女が硬直したので、こっちの怒りは十分に伝わったようなので良しとしよう。

 「きょ、強者は弱者を守るのは義務よ。圧倒的な強者であるあなたなら尚更よ」

 少々動揺しながら再び胸を反らして、自分の理論を口にする縦ロール。

 その際に胸が揺れて、ちょっと意識がそっちに向きかけたが……あ~もう!

 「勝手な理論を俺に押し付けるな! 強者という意味では、あんたも同じだろうが、『霧崎(きりざき) 亜美(あみ)』」

 俺が自分の名前を言ったことが意外だったのか、びっくりした顔を俺に向けた後、再び巨乳を揺らしながら背を反らした。

 「あっはは。なに? 私のファン?」

 「アホかボケ! あんたには色々と気を付けろって忠告してくれた親切な人がいたんだよ! その人からのなにも言われていなかったら、間違いなく被害が出ているレベルの攻撃をしやがって! しかも、おかげで余計に意志力を喰う作戦に組み替えなくちゃいけなかったんだぞ! 残りの逆鬼ごっこ! 途中で意志力切れになったらどうしくれる!」

 「そ、それはごめんなさい」

 俺の私怨入り混じった激昂に、たじろぎながら謝る霧崎。

 「で、でも、ほら、実際に被害は出てないし、シールドサーバントだっけ? あれが大量に配置されているのはわかってたからさ。言うほど危険なことをしてないのよ? ほら、やっぱり武霊ファイトは派手じゃないと」

 「……つまりなにか? 俺があんた対策をしていたから、森エリアを燃え散らすほどの高威力の武霊攻撃をしたってことか?」

 「そうそう。そういうこと」

 ……だとしたら、馬鹿だが、思った以上に計算高いかもしれないな。過激なパフォーマー気質って感じか? ……まあ、なんであれ。

 「迷惑な女だ」

 正直に思ったことを言うと、再び彼女は胸を反らし。

 「よく言われるわ」

 ……なにが誇らしんだか……

 思わず深いため息を出すと、彼女はビシッと俺に対して指を指した。

 ついでに偉そうに胸を張って、その巨乳っぷりを強調しつつ、

 「というわけで、私と勝負しなさい! 黒樹夜衣斗!」

 ……なにがというわけなんだ?

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