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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その四『逆鬼ごっこ二日目』
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五、『喧嘩するほど仲がいいって』(終)

 小中高大統合部活同好会棟群の大体中央辺りに陣取り、俺は周囲を警戒しながら如月さんが言い掛けた言葉に頭を悩ませていた。

 まあ、武霊と名が付いて、明日に関係あることといえば、自ずと限られてくる。のだが、総務グループという勢力とどう関係あるのかピンとこないんだよな……総務ってことは吹奏楽部とかチアリーディング部とかそんな感じであると考えると、どうにも武霊に直接かかわるイメージが薄い。加えて考えれば、武霊能力だって特殊性は高くても、攻撃力が高い奴があるとは思えないし、そういう風に単純に予測できるタイプであれば、事前に手の打ちようが幾らでもある。脅威度からいえば、今日の文化系三勢力の方が高かった。だからこそ、前日の挑発を利用した偽物トラップとダミー建物トラップの二段構えで対応したわけなのだが……まあ、如月さんも総務グループはそれほど脅威ではないって言っていたことを考えると、あれか? 黒丸君みたいな――

 あれこれ思考を巡らしていると、不意に逆鬼ごっこ終了のチャイムが鳴った。

 そういえば全然時間を気にしていなかった。体感時間では、まだまだって感じがするが……ん~今回は、戦闘中の地雷機雷(フェアリー)や偽物の建物やら道やらを作り出すテストも兼ねていたので、そっちの効果がどんなものか注意を向け過ぎていたかもしれない。こういうずれは場合によっては足元を救われかねないよな……注意しないと……とはいえ、まあ、昨日に引き続き、今日も今日とて無事に切り抜けられたのだから、とりあえずは良しとするか。

 などと思っていると、早見さんが瞬間移動で現れ、こっちに何故か不満そうな顔を向けてきた。

 「ジャミングスモークが邪魔だったんだけど」

 「作戦に文句言われても」

 「というか、如月君戦が全く映せなかったんですけど?」

 「いや、そんなことを俺に言われても。文句は如月さんに」

 「ん~ってかさ、今日は挑発しないの?」

 そんなせめてあなただけでも面白いことやって、みたいな顔をされてもな……まあ、ご期待に沿えるかわからないが、少しだけ布石は打っておくか。

 「……明日は普通にやります」

 「説得力のない言葉ねぇ~」

 俺の言葉に、若干呆れた表情になる早見さん。

 まあ、確かに、俺が普通に戦うなんてことはまずないだろうな……


 「お疲れ様ですわ」

 美羽さんとの待ち合わせ場所である学園庭園に向っている途中、琴野さんとばったり鉢合わせた。

 ちらっとその周囲を見てみるが、村崎さんの姿がない。

 「好美は本日の逆鬼ごっこの後始末をしていますの」

 なんにも言ってない上に、目だけの最小限の動きで確認したはずなんだが、あっさりばれた。これも武霊使いだからなのか、それとも俺がわかり易いのか……まあ、両方って可能性もなきにしも。

 「……壊した場所の修復に不備がありましたか?」

 俺のその問いに、琴野さんは首を横に振る。

 「いいえ、それら以外にも、統合生徒会には雑務があるのですわ。ちなみに、今のわたくしも雑務の途中ですの」

 そう言って手の中に見せたのは、タブレットPCだった。

 ん~……俺の今日の行動とその分析のデータでも入っているのかもしれない。逆鬼ごっこの裏の目的を考えれば、あまり公言できるものじゃないだろうし、それを扱っている人間も少ないだろう。統合生徒会長と副会長、後は教師陣の幾人かってところか? なんであれ、秘匿性を考えるなら、琴野さんが直接情報を持ち運ぶのは頷けることだ。

 「学園庭園に向ってらっしゃるのですわよね? それでしたら途中までご一緒しません?」

 「……いいんですか?」

 「夜衣斗様には既にばれていますので、問題ありませんわ」

 ……もしかして、今さっきしていた思考すら読まれていたのか? 美羽さんや琴野さんもそうだが、どうにもこの町の女性というのは油断ならないというか、ハイスペックというか……

 「……俺は構いませんよ」

 「よかった。では、行きましょう?」


 「ところで、夜衣斗様の思惑は順当に進んでいらっしゃいますの?」

 そう琴野さんが聞いてきたのは、校舎エリアに入った時だった。

 周りには誰もいない。が、そもそも、思惑という言葉ぐらい聞かれても支障はないか。

 「……よくわかりません。思った通りにできてはいますが、それだけを望んでいるわけではないですからね」

 俺の答えに、琴野さんはちょっと困ったような表情になった。

 「黒丸・如月両名との戦闘では不足なのですの?」

 「……そんなわけではありませんけど、彼らは彼らで窮地に陥らせてくれましたからね」

 「発言だけ聞くとマゾヒストですわね」

 「……せめてアルファベットだけにしてください」

 顔が引きつる俺に、琴野さんは面白そうにクスクスと笑う。

 「勿論、そんな資質が夜衣斗様にあるなどと思っていませんわ……サディストの方ですものね?」

 「……俺にどんなキャラを求めているんです?」

 「わたくしこう見えてMですの」

 「…………」

 俺が絶句していると、更にクスクスといたずらっぽく笑う琴野さん。

 「冗談ですわ」

 どうやらからかわれているらしい。

 少し意外だった。そして、そう浮かんだことに、勝手にもっと真面目な人物だと思っていたのだと気付く。

 外向けの顔以外を見せてくれたってことなのかもしれないが、そうだとしたら疑問に思う。なんで急にそんなに心を開いてくれたのだろうか?

 心と心の出来事だから、時間なんてそんなに関係ないのかもしれないが、だとしても、俺と琴野さんは数日前まで全くの赤の他人だった。しかも、俺が男で、琴野さんは女なのだから、普通はもっと警戒はしなかったとしても、もうちょっと節度的な感じな物を持ちそうな気もしないでもない。

 そういう性格だからと一言で切り捨てるのは簡単だが、どうにも違和感を覚えるな……となると、他になにかしらの繋がりがある? 例えば、俺が忘れているだけで、向こうが覚えているみたいな? ん~話の流れも軽いし、流れに乗ってこっちもからかいがてら確かめてみるか。

 「……もしかして、昔、どこかで会ったことがありません?」

 意を決してそんなことを言ってみると、琴野さんはまあっと口に手を当てて驚いた表情になる。

 「夜衣斗様は私を口説きたいですの?」

 うえ!?

 「そ、そんな、は失礼か、いや、でも、えっと……」

 思わぬ返しに、物凄く動揺してしまった。

 そんな俺の様子に、琴野さんはまたしても面白そうに笑う。

 「夜衣斗様はからかいがいのあるお方ですわね」

 ……駄目だこりゃ、どう転んでも手玉に取られてしまっている。単純に戦闘だったらわからないが、ことコミュニケーションとかこういうのでは、どうにも分が悪い。

 まあ、今日の昼に多少なりとも親身になるようなことを口にしたのだ。それで好感を持ってくれたってだけの話かもしれないな……

 などと思っていると、学園庭園に到着して……あっ! まずい!

 と気付いた時には、隣の琴野さんの表情が見る見ると不機嫌そうな顔になる。

 その視線の先を追うと、同じように不機嫌そうな顔になっている美羽さんがいた。

 盛大に嫌な予感がする。

 とはいえ、ここで喧嘩されてしまっては、明日の作戦(・・・・・)に支障が出てしまう。

 なんとかして喧嘩を起こさせないようにしなくては、というか、村崎さんどこ!?

 若干泣きたい気分になりながら、未だに具現化中だったサーバント達を使って学園内を大慌てで探させる。

 「な――」

 「琴野さん。統合生徒会の仕事はいいんですか?」

 美羽さんの言葉を遮って、隣の琴野さんにそう声を掛けると、彼女ははっとして俺を見た。

 「え、ええ。急ぎの要件ではありませんので」

 って、なんでそこでそんな言葉が出るわけ!? 違うでしょ? そこは、ええ、ではごきげんよう。とかそんな感じで颯爽とこの場から去らなくちゃいけないでしょうが!

 思いっきり頭を抱えたい気分だが、そんなことをしている場合ではない。

 「そうなんですか。では、美羽さん帰りましょうか? 今日の逆鬼ごっこで、少々疲れましたので、早く帰りたいんですよね」

 別に疲れてはいないが、この場合、必要な嘘だろう。

 と思ってしまったのがいけなかったのかもしれない。

 「別に疲れているように見えませんけど?」「お疲れになっているようには見えませんわ」

 と二人から首を傾げられてしまった。

 ああ、駄目だ。強力な武霊使いである二人には単純過ぎる嘘は通じない。ど、どうする!

 思わずあわあわしてしまっていると、同時に同じことを言ったのが気に食わなかったのか、視線を合わせ、バチバチとし始める美羽さんと琴野さん。

 「というか、コトサラが夜衣斗さんと一緒にいるから疲れたんじゃないの?」

 いや、嘘ですからね。

 「わたくしは楽しく夜衣斗様とお喋りをしていただけですわ」

 確かに琴野さんは楽しかったでしょうね。

 「なんでコトサラが、夜衣斗さんと楽しくお喋りしてんのよ。あんた統合生徒会長でしょ!? 逆鬼ごっこ中にそんなことしていいと思ってんの?」

 「分別は心得ていますわ。わたくし、どこかの誰かさんと違って、自分の立場をしかとわかっておりますもの」

 「どっかの誰かって誰よ?」

 「単純で、おバカなお人ですわ」

 「誰が単純で馬鹿よ!」

 「あら? 赤井さんだと誰が言いました? あらあら、自覚がおありだったとは意外ですわ」

 「馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!」

 「わたくしは言ってませんわ。少なくとも名指しでは」

 ぶちって音が聞こえた気がした。

 駄目だ。逃げよう。

 と思い、じりじりと後ろに下がるが、安全圏内に辿り着くより早く美羽さんがコウリュウを無音具現化。琴野さんもそれに応えるようにヒノカを無音具現化してしまう。

 や、ヤバい!

 なりふり構っていられないと思った俺が、背を向けてダッシュした瞬間、互いがファイアブレスを吐く。

 強烈な爆発に巻き込まれ、宙を飛びながら俺は思った。

 喧嘩するほど仲がいいって、女性同士の間でも通じるんだろうか?






  間章その四『逆鬼ごっこ二日目』終了


   次章


    間章その五『逆鬼ごっこ三日目』

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