↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その二『誰目線の真実なんでしょうね?』
53/85

四、『人形の館事件』

 「そう……ん? それはそのうち教えるわ…………ええ、勿論わかっているわ。ありがとう……うん。それじゃあね」

 携帯電話を切った幸野さんは、疲労感を感じたかのように目を瞑って深いため息を吐いた。

 通話相手は星波病院のウィンディーネ先生。

 なんでも彼女は、星波病院内で武霊関係の治療を全て受け持っているらしく、また、幸野さんの飲み友達の一人であるため、今のような多少の無茶というか、少々、いや、かなり変なお願いも訳も聞かずに引き受けてくれるのだから、かなり仲がいいようだ。

 「……彼女は起きていましたか?」

 俺の質問に、幸野さんは首を横に振る。

 「……そうですか……それで……」

 ん~自分の口から再び問うのかなりはばかられるな……

 なんて躊躇っていると、幸野さんはあっさり答えを口にしてしまった。

 「乙女だったそうよ」

 まあ、女性だから多少は忌避感が薄いのだろう。なんであれ、

 「……そうですか……では、ほぼ確定ですね」

 「そうね……」

 ようやく目を開けた幸野さんが視線を下に落とす。そこには俺のノートパソコンがあり、とある事件の情報が映し出されているはずだった。

 通称『人形の館事件』。

 それは非常に特殊にして大規模な地下売春組織『人形の館』が、何者かによって壊滅させられた事件であり、弱者同盟事件の最初の事件だったのではないかといわれている事件だった。

 弱者同盟事件の共通点は、いじめの被害者・貧困者・病人などのなにかしらの弱者に、強力な化学兵器などを送り付け、事件を誘発させるというもの。

 だからこそ、弱者、つまり人形の館で売られていた子供達の誰かが、内部から崩壊させたといわれている人形の館事件は、弱者同盟事件の一つではないかと思われている。

 人形の館は、高層ビルの一つを大々的に改造し、客が求めるフェチズムを満足させる対象を提供するという組織であり、売られていたのは全て誘拐などをして手に入れた未成年の美少年美少女達だった。

 商品である彼らは、客が求めるフェチズムに耐えられるように、薬物や暴力などの使った調教により心を壊され、調整され、組織名の通り、人形のようにされていた。

 そして、客が求めるフェチズムは、当然、世間一般では確実に嫌悪の対象になることばかり。

 花瓶にされる。椅子にされる。キャンパスにされる。動物に見立てられ狩りの対象にされる。サディズムの対象とされ嗜虐を受ける。ダーツの的にされる――

 わかっている範囲だけでも、怒りが込み上げてくるようなことを、人形にされた少年少女達はされていた。

 一番最悪なのは、純潔を買われた子達だ。

 人形の館で最も高額なのが純潔だったらしく、同時に、それを失った人形は、一気に商品価値が下がり、それまで行われていなかった行為が売りに出されるようになる。

 そのどれもが命に係わるような行為ばかりであり、つまり、その事件で唯一生き残り、外に散っていた子供達を確認する方法として、その独特な反応と共に、純潔であることが一つの証明として使われていた。

 彼らは組織の人間、あるいは自分を買った者以外の命令は聞かないようにされていたからこそ、純潔が一つの確認手段となり得たとか……まあ、警察が認めていない非公式な確認方法ではあるのだが、その当時にそういうことがされていたというリークがマスメディアにもたらされ、一時期大騒ぎになっていたから、認めてはいなくてもやっていたのは間違いないだろう。だからこそ、高神麗華が乙女であるかどうか確認して貰ったんだが……考えてみると、口に出さずに、ノートの画面を見せるだけで意図は伝わったんじゃないか? 無駄に恥ずかしい思いをしてしまったな……

 「まさか、あんなに世間を賑わせた事件の被害者だっただなんて……」

 「……あくまで可能性が高いって段階ですので、まだ確証を持たない方がいいでしょう」

 「そうね……でも、この事件の被害者であるって考えると、最悪な方向に可能性が広がってしまうわね」

 「……ええ、人形の館事件で出てきた客の死体の中には、政治家・企業家・芸能人などの一定以上の権力を持った人物が多かったですからね……しかも、組織が壊滅した際に、顧客リストが一部焼失していますから、間違いなく生き残った人形の館の客は、未だにのうのうと暮らしているでしょうし、そんな人物が星波町のことを知ったら、人形とされた少年少女達を武霊の実験体として使おうと思う付く可能性は高いでしょう」

 「ある意味、実験体としてこれほど最適な人材はないでしょうしね」

 「……そうですね……望めばどんなことでもするようにさせられた彼ら彼女らなら、どんな人体実験も可能でしょうし、また、そうであるのなら、イメージの意図的な付与だって可能かもしれません」

 「それが高神麗華の場合は、高神麗華は嗤うだったってことね?」

 「……マイナーで、それでいて様々な武霊を集めることができる丁度いい作品ですからね」

 「となると、弟を自称していた少年、こっちも便宜上、高神礼治と呼びましょうか? 礼治も、人形の館の被害者なのかしら?」

 礼治ね……

 思い出すのは一昨日、学園大橋で会った時の姿。顔付きは美少年なのに、年相応の幼さと柔らかさがある笑みがないと、一つ違えば獰猛な印象を抱かせかねないその容姿と、異様なほど姉としていた麗華に懐き、彼女の言うことを叶えようとしていた言動。ふむ……

 「……俺は学園大橋で一回会ったきりですから、なんとも言えませんが、少なくとも高神麗華と同様の異常性を感じられましたね。まあ、今思うと、彼女よりは軽度って感じもしなくもないですが……なんであれ、この事件の被害者であるかどうか、また、同じように被害者が他にも使われているかどうか確認するためにも、人形にされた子達のリストは欲しい所です。どこまで信憑性があるかどうかわかりませんが、被害者となった子供達の生存リストで保護されていない子達が何人かいるという話ですからね」

 「あるいは、保護された子供達が使われている可能性だってあるわね」

 「……ええ、そこら辺を確かめるためにも、やはり警察の協力は必要不可欠ですね……確かめることもできますし」

 「確かめる?」

 「……武霊のことに、警察上層部か、日本政府が関わっているかをですよ」

 「随分……大きなところが出てくるわね」

 「……最悪な方向を想定するなら、自分達が相手にできる限度以上の相手を想定範囲内に入れるべきでしょう」

 「そうかもね……それで、どうやって国が関わっているか確認を取るの?」

 「……正式な手順で資料を請求し、それが潰されるかなにかしらの妨害・改変をされれば、明らかにそっち方面でのなにかしらが関わっているということになりません?」

 「確かにそうかもしれないけど……できればそうであってほしくないわね」

 「……ええ、想定される中で最も最悪な事態ですよ。まあ、国際状況や、町の現状、日本国内の内情などを考えてみると、その可能性はかなり低いと俺は見ていますけどね」

 「どうしてそう思うの?」

 「……国がやっているわりには、日本の影響力は高まってませんし、町に国レベルの影響を示すなにかがあるかといえば、なさそうですし、国内状況も、武霊なんて技術を開発できていたのならば、弱者同盟事件は勿論、その後の東京ラグナロクだって、あそこまで酷いことにはならなかったと思いません?」

 「確か、弱者同盟事件で、国会議事堂が占拠され、東京ラグナロクで、東京湾が火の海になったって話だものね」

 「……経済的損失を考えれば、秘匿している技術を使ってでも止めるべき事件だったでしょうからね……まあ、例えば、その二つの事件の黒幕が、実は武霊研究をしている者達と同一人物、あるいは同組織だったら、色々と納得できなくもないですけどね」

 「それは飛躍し過ぎじゃないかしら? 未知の技術の確立のために、自国そのものが場合によってはなくなりかねないほどの事件を起こす? せいぜい、町が限度な気がするわ」

 「……まあ、どう足掻いても仮定の域をでない話ですからね。今あれこれと言葉だけで話し合っても、あまり実がないと思いますよ」

 「それはその通りね……駄目ね。夜衣斗君と話していると、どうしても会話が弾んでしまうわ」

 ちょっと楽しそうに笑う幸野さんに、俺は苦笑した。

 ジャンルは明らかに違うが、幸野さんも俺と同系統のタイプなのかもしれない。とはいえ、その弾んでいる話題がな……まあ、この話題しか、今の俺には話す話題がないのだから仕方がないが……って、思考が脱線しているな。とりあえず、言うべきことだけは言っておこう。

 「……その、さっき、幸野さんが守るより攻める方が易いとは言いましたが、なにも守ることが攻めにならないなんてことはないと、俺は思います。特に、今のような手掛かりが少ない、味方が少ない状況下では、下手なことをするより、守りに専念して、相手のミスを誘発するべきだと……とは言っても、これは個人的な私見ですし、万が一の場合を考えて、主導権は幸野さんに在るべきだと思います。ですので、最終的な決定は幸野さんに任せますし、従いますよ」

 その俺の言葉に幸野さんは苦笑した。

 「私にね……夜衣斗君なら、下手な判断はしないと思うけど?」

 「……根拠は?」

 「根拠を言っても、夜衣斗君ならそれを否定するでしょ?」

 「……まあ、きっとそうでしょうね」

 「なら、教えない」

 いたずらっぽく笑う幸野さんに、俺としては困るしかない。

 「まあ、そういうわけだから、この件に関してはどちらが主導権を持つとかしない方が良いと思うわ。一つの考えに絞られてしまえば、選択肢が狭まってしまう、気付くことができない選択肢が発生してしまう可能性があるからね。私としては、できればそれは避けたいと思っているの」

 「……高校生の考えなんてたかが知れていると思いますけど?」

 「ここで重要になるのは、年齢や立場より、夜衣斗君が町の外から来たってことよ。町にずっといた私より、来たばかりの夜衣斗君にしか気付けないことだってあるでしょうからね」

 「……それは……」

 自分に自信が無い俺としては、幸野さんの指示の下に動いた方が色々な意味で安心するんだけどな……

 「それにしても……そういうことだったのね」

 ん?

 なにか納得したように微笑む幸野さんに、俺は思わず目を瞬かせた。

 「どうして直ぐに逆鬼ごっこを受けようと思ったのかって理由よ。要するに、逆鬼ごっこを利用して、武霊使いのレベルを上げる気なんでしょ?」

 幸野さんの確信を持った問いに、俺は苦笑してしまった。

 まあ、あれだけ俺の考えを話せば気付かれるのは当たり前か……って、別に幸野さんに気付かれても、全く問題ないよな。

 そう思った俺は、正直に狙いを口にすることにした。

 「……自分が狙われているとわかっている以上、なるべく早く俺自身も、俺の武霊も武霊オウキに慣れる必要がありますからね……数日使って見てわかりましたが、空想と現実では、例え空想が基になっていたとしてもかなりの違いがあるようですから……」

 「ええ、その通りよ」

 俺の言葉を幸野さんは肯定して、また苦笑。

 「なんども言ってるけど、夜衣斗君はやっぱり普通以下の高校生じゃないわね。夜衣斗君ぐらいの年齢の子が武霊に目覚めると、そこまで自分自身を見られないし、ましてや武霊のことなんて冷静に見られないわよ?」

 それは……確かにそうかもしれないな……俺だって、サヤに死の運命があるとか教えられなければ、きっと武霊オウキや武霊使いになった自分に対してここまで冷静に見れなかったのかもしれない。つまり、

 「……買い被り過ぎですよ」

 思わずため息が出てしまい、幸野さんから三度目の苦笑されてしまった。

 「まあ、とにかく、夜衣斗君がそういうつもりなら、しようかと思っていた武霊の手解きはしない方が良いわね?」

 「……いや……それは……どっちが良いんでしょうね?」

 俺の問いに幸野さんは微笑む。

 「武霊って武霊使いごとに同じイメージでも大分違うから、当然、個体個体で使い方も大きく違うわ。特に現実に基があるタイプと、夜衣斗君のオウキみたいなオリジナルタイプは、全く別物って言ってもいいかもね。だから、動物タイプの私が余計なアドバイスをすると、かえってできることができなくなってしまう可能性があるの」

 「……それはつまり、武霊の能力がイメージで形作られているため、先入観が入ることにより、変にイメージが固定されてしまう。と言うことなんですかね?」

 「だと思うわ。もっとも、それでも夜衣斗君の立場から考えれば、その弊害を無視してでも手解きをして、早く武霊に慣れさせる必要があるって思ったんだけど……夜衣斗君には杞憂だったようね」

 そう言いながら、幸野さんは自分のスマフォと星電を取り出した。

 「現状でできることは少ないとは言え、連絡手段は必要でしょ? とりあえず、両方の番号とアドレスを交換しましょうか?」

 そう言われたため、俺は思わず戸惑い、躊躇ってしまう。

 幸野さんは交換に躊躇う俺に優しく微笑んでおり…………うう、交換するだけなんだから、する必要はないとわかってはいても、心臓がむやみやたらにドキドキしてしまう。顔もきっとかなり赤くなっているだろうが……女性を待たせるのは失礼だよな……覚悟を決めろって俺……と、とにかく、なるべく平然を装いって……って、バレバレなんだっけ……ああ、情けないな俺。

 「……わかりました……ちょっと待ってください」

 若干俺の方がまごついたが、なんとか交換し終えた。

 「それじゃあ、なにかあったら連絡してね」

 そう言って、幸野さんはテーブルから立ち上がり、二階から下りて行った。

 入れ替わりに、顎鬚マスターが上がってきて、俺の前に白猫パフェを黙って置いて去って行く。

 思わずマスターの背中とパフェを交互に見てしまうと、パフェの下にメモが挟んであった。

 『今日のお礼よ』

 と書かれたそれに、思わず窓越しに下を見ると、頭を押さえている美羽さんと沙羅さんに挟まれる形で幸野さんがいた。

 俺の視線に気付いたのか、幸野さんは見上げて手を振ってくるが……喧嘩し続けていた二人に鉄拳制裁したのか? ……思ったより手が早いかもしれないな……ふむ……気を付けよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。