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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その二『誰目線の真実なんでしょうね?』
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二、『俺は普通以下の高校生ですよ?』

 待っていた?

 幸野さんの言葉に、俺は前髪の下で眉を顰めた。

 別に待ち合わせの約束はしていないはずだが……

 「一昨日、随分ここのパフェが気に入っていたみたいだったからね。後、逆鬼ごっこを明日から始めるって話も聞いたから、きっと糖分補給をしながら作戦を練るんじゃないかと思ったのよ」

 なんてこともなげに説明してくれる幸野さんだが、

 「……確かにその通りですが、その推測だと、俺がコンビニで甘い物を買って部屋にこもった場合はどうするんですか?」

 「言ったでしょ? 随分気に入っているみたいだったって。私も美羽程ではないけど、武霊使いになってからかなり勘が働くのよ。あ、これは機会があればもう一回食べにきたいなって、強く思っているなってね」

 「……つまり、武霊使いになるとなにを考えているか、黙っていてもある程度筒抜けになると?」

 「個人差もあるし、テレパシーじゃないから、確実性は低いでしょうけどね。そうね……夜衣斗君みたいに心の中で良く考える割にはあまり表に出さない子なら、大体なにを感じているか筒抜けになっているんじゃないかしら?」

 ま、マジですか!?

 「今、ショックを受けているでしょ? 前髪で顔を隠した程度じゃ、この町では感情は隠せないわよ。勿論、なにを考えているかまではわからないから、その点は安心して」

 だとしても、感情を読まれるだけでも十二分に困る。場合によっては読まれたくない感情を浮かべている時が多分にあるしな……

 「まあ、武霊がそれを隠すように意識してくれれば、ある程度は防げるかもしれないけど……隠したら隠したでなにかやましいことでも思っているのか? 考えているのか? と勘繰られるでしょうしね。気にしないのが一番だと思うわよ。というより、そもそも読み取る側が意識しなければ気付かない類なものだから、普通に話している分には相手だって気付きようもないでしょうしね。一昨日は、私自身があなたに注視していたってこともあるし」

 「……ですか……」

 「とりあえず、座って、話があるの……これのことでね」

 そう言って俺に見えるように掲げた手には、透明なジッパー付きビニール袋があり、その中には高神麗華を名乗っていた少女が服用していたタブレットケースが入っていた。


 「夜衣斗君が言った通り、山中を探してみたら、確かにこれが見付かったの」

 俺が対面に座ると同時に幸野さんがそう言い、テーブルにタブレットケースは全部で八個置いた。

 「いくつかは彼女から見付かったものだけど……便宜上、彼女のことは高神麗華と呼びましょうか?」

 「……ええ」

 「あと、夜衣斗君が推察した通り、麗華の首筋には、注射痕が合ったそうよ」

 「……やっぱりそうですか……」

 一昨日の高神麗華(仮)との決着がついた後、俺は彼女の武霊が唐突に強くなったことと、薬物を使って意志力を回復していたと思わしき場面を見たことを話した。

 ただし、美羽さんには救急車が廃校まで来れるかどうか確認して貰うという理由で、その場から離れて貰っている。

 何故なら、そのことを話すということは、必要以上に可能性を考えて行動する必要があるからだ。

 例えば、自警団の中にその薬を作った者あるいは繋がりを持つ者がいる可能性とか。

 あの時は、美羽さんは素直だし、そういう疑念疑惑を抱かせるのは可哀想だという思いからだったが、今はうっかり喋られても困るという理由がプラスαされて、その判断は正しかったと考えている。

 美羽さんを遠ざけたことに対して、幸野さんがなにも言わなかったことを見ると、同じ考えか近い考えを持っているのかもしれない。

 「夜衣斗君の推測が正しければ、首筋の注射痕は、『武霊使い強化薬』。このタブレットケースには、意志力を回復させる『意志力回復薬』が入っていたってことになるけど、このことについて夜衣斗君自身はどう考えているの?」

 どう……ね……さて、どこまで考えを口にするべきか……まあ、ここはそんなに悩む必要はないか。

 「……武霊をかなり深い所まで研究できている人物、あるいは組織がこの町に密かに存在していると俺は考えています」

 その俺の答えに、幸野さんは深いため息を吐いた。

 「そう思うわよね……夜衣斗君がそう予想する通り、星波町には武霊を非公式に研究している者、もしくは者達がいるのでは? って話はあるわ」

 まあ、誰しもが思うことだよな……

 「でも、それはあくまで噂の域を出ない話。今までそれらしき物証や現象がなかったから、私も信じてはいなかったんだけど……」

 チラッとテーブルの上を見て、眉を顰める幸野さん。

 「ただ単に私達がそれに気付いていなかっただけだったのね……だとすると、ここ最近起きている武霊の急激な変化は、それが影響しているのかしら?」

 「……可能性は高いと思いますが、そういう武霊能力を持った武霊使いがいるって可能性は考慮すべきでしょう……とは言え、そうなるとその武霊使いが起きている時に高神麗華に接触したってことになりますからね……環境、状況、タイミング、形状的に、少なくとも彼女に関しては、武霊能力ではないと考えた方が自然な気がします。勿論、現状で、それに関連付けられるのはそれしかないってだけなので、あまり早計に決め付けるのはどうかと思いますよ」

 まあ、俺に関しては、明らかに他の武霊使いでも、薬でもない要因ぽいしな……

 そう思っての俺の発言に、幸野さんは頷き、少し微笑んだ。

 「必要だと感じたことには饒舌になるのね?」

 「……いや、その……別に、まあ、そう……なんですかね?」

 唐突な指摘にしどろもどろになる俺に、幸野さんは愉快そうに微笑む。

 「別にいいのよ。それはそれで面白いし」

 そんなこと言われると、苦笑するしかないんですけど……

 「話を戻すけど、誰が味方で、誰が敵かわからない状況は不味いわね」

 「……それに加えて、今まで非公式武霊研究が明らかになっていなかったということは、こっちの武霊能力・知識を上回っていることは確実ってことです」

 「そうね。普通に過ごしていてもわからない場所。かつ、武霊部や自警団が調べ回っても気付けない場所に彼らの研究施設があるって考えると……やっぱり武霊能力で創り出した異空間とかがあるのかしらね?」

 武霊で創り出した異空間……

 ふと、自称最後の敵のことを思い出した。

 彼がどこまで非公式武霊研究に関わっているかどうかは不明だが、少なくとも現状の町以上に武霊の知識を持っていることは確実であり、意志力回復薬についても彼自身が作った物じゃない望んでないと否定はしてはいるが、深く知っているのは間違いないだろう。

 とはいえ、どう考えても自称最後の敵のことをこの場で口にするのはまずいよな……俺の死の運命に大分関わっていることだし……下手すると、本格的に幸野さんを俺の死の運命に巻き込みかねない。

 だが、高神麗華に関することは避けては通れない。既に町規模で起こってしまったことである以上、俺が黙っていてもいずれ誰かが気付く、その際にもしこのまま黙っていたら、あらぬ疑いがこっちに向けられる可能性だってある。なんであれ、今この場でずっと思考に没頭するというわけにもいかないだろう。

 とりあえず、話を変えるために、テーブルの上を指差す。

 「……これ、どうやって直ぐに見付けたんです?」

 「え? ああ、それは勿論、私の武霊」

 幸野さんの背後から、白い巨大な犬が半透明な姿で現れ、直ぐに引っ込んだ。

 「コロ丸は犬だからね。そういう探し物は得意なの」

 なるほど……ん~……

 「……もしかして、コロ丸ってかつて飼っていたペットが基になっていたりします?」

 「ええそうよ。幼い頃に飼っていた犬がそのまま大きくなったって感じかしらね?」

 そのまま大きくって……明らかに人より大きな姿に、その程度の感想ですか……

 「勿論、本物じゃないとわかってはいるわ。とはいっても、ついついあの子と重ねてしまうのよね……だから、私はいつも休みになると、コロ丸を制御具現で具現化しながら、ちょっとおしゃれして散歩することを習慣にしているのよ。ちなみに外れない確信はあったけど、もし夜衣斗君がここにくる予測がはずれていたら、散歩がてらに春子の所に行こうと思っていたわ」

 なるほど……やっぱり、武霊にはその武霊使いごとに違った思い入れが出てくるんだな……基とするのが憑いている人物の根底にあるイメージだからだろうが……上手い取り入り方と言ったら、言葉が悪いか?

 「これのことだけど」

 俺が武霊について少しだけ悪い印象を抱いた時、何事かを考えていた幸野さんがテーブルの上にあるタブレットケースを指差した。

 「これからこれ以上情報を引き出すには、他の人の協力が不可欠だわ」

 なるほど……そのことか……

 「……俺の武霊で調べることは可能でしょうけど、その結果に忘却現象の影響を受けてしまっては外の協力を得ることができなくなりますからね」

 俺の言葉に頷く幸野さん。

 「夜衣斗君も、麗華が偶然この町に現れたとは思ってないのね」

 「……ええ。住んでいた場所、現れたタイミングなどもその理由として考えられなくもないですが、一昨日のわずかな期間での接触でも、まともではないと感じさせるような人物です。そんな人間が、偶然この町に現れ、しかも一ヵ月以上留まって武霊使いになり、連続殺人犯になる。全てが偶然と片付けるにはご都合主義的過ぎます。勿論、弟を自称する少年の存在も気になりますが、彼自身が自主的に動くタイプには見えませんでしたからね」

 「そうなると、彼女達を引き込んだ者達がこの町にはいて、作り出した薬の実験体として利用していた。と考えるのが自然ね」

 「……だと思います。そうなると、少なくとも非公式武霊研究を行っている者あるいは者達には、外にも協力者がいる可能性が非常に高い。そうであるのなら、彼らのことを調べる穴として、外の協力者が使えるでしょう。なんせ、忘却現象の影響で詳細を知らせることができないでしょうからね。となると、下手に武霊で調べてしまうと、その協力者が何者か調べるのに支障をきたす可能性があります」

 「せっかく調べたことが、町を出た途端に忘れられてしまえば、調べようがなくなるものね」

 「……ええ……ただそうなると、警察、もしくは、大学かに協力を求め、科学的捜査をして貰うのが一番ベストなんでしょうが……」

 「ピルケースの指紋とか、中に入っていた成分とかを調べて貰うってこと?」

 「……指紋が見付かる可能性は低いとは思いますが、万が一という可能性を捨てるには、こっちの情報が少な過ぎます。どんな可能性でも賭けるべきでしょうし、中に入っていた物の成分に貴重な物が混じっていれば、そこから流通系統を調べることだって可能かもしれません。ですが、警察・大学などのそういうことができる機関の中にも、非公式武霊研究を行っている奴と繋がっている者がいないとも限りませんからね……」

 「それはそうかもしれないけど……そんなことを言っていたら、なにもできないわよ?」

 「……ですよね……幸野さんには、誰か、警察組織、もしくは、大学に、信頼できる人はいないんですか?」

 そう幸野さんに聞くと、迷ったような、困った様な顔になり、

 「……警察にいないこともないわ」

 なんだか歯切れの悪い言葉を口にした。

 俺が戸惑っていると、幸野さんは苦笑して、

 「私は信頼しているのだけど……あまり周りから信頼されるタイプじゃないのよ」

 どういうことだ?

 「近い内に夜衣斗君に引き合わせるわ。その時に協力者にしていいか判断して」

 判断してって……

 「……俺に判断を仰がなくても、幸野さんが大丈夫だと思ったら、協力者を増やしてもいいと思うのですが……」

 「夜衣斗君はこれ以上この件に関わる気はないの?」

 「いや……それは……」

 下手に関わらない方がいいのは当然だろうが……

 「私としても、これ以上は子供の夜衣斗君を危険な目には遭わせたくないわ。でも、夜衣斗君は、非公式武霊研究者にとって――」

 一瞬迷ったように言葉をつぐんだ幸野さんだが、俺相手にそういう配慮は無用だと思ったのか、

 「……研究対象にしても十分価値のある存在よ」

 と正直に口にした。

 まあ、そりゃそうだろうな……

 俺は苦笑しながら頷く。

 「……ええ、それはわかっています。今後、何らかのアクションが俺にある可能性が高いでしょう。そうなれば、俺の意思に関わらず、関わってしまう可能性が高いとは思います」

 「そこまで分かっているのなら、逆に積極的に関わるべきだと私は思うわ。守るより攻める方が易いでしょ?」

 「……それはそうかもしれませんが……俺は普通以下の高校生ですよ?」

 その俺の言葉に、幸野さんが唐突に噴き出した。

 そ、そんなにおかしなことを俺は言ったか?

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