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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その二『誰目線の真実なんでしょうね?』
50/85

一、『ち、違いますからね!』

 日曜日の朝。

 …………鍵を掛けていたよな?

 俺のベッドの横に、またしても春子さんがうつぶして寝ていた。

 今日は普段着ぽい上下赤ジャージの春子さんにジト目を送りながら、初っ端から連続チョップ。

 「うにゃにゃにゃ! 痛い痛い!」

 転がるようにベッドから離れる春子さんに、俺は深いため息を吐く。

 「……マスターキーがあるのかなんだか知りませんが、これでは鍵がある意味がないですよね?」

 「こんな可愛い女の子に夜這いされるなんて、男冥利に尽きるでしょ」

 とりあえず鼻で笑ってやった。

 「酷いわ夜衣斗ちゃん!」

 などと言いながら顔を両手で覆って部屋から出て行く春子さん。

 ん~それにしても、二日連続で起きたら春子さんというのは一体どういうことなんだろうか? ……まあ、昨日の夕食も酒を飲んでいたから、ただ単に酔っ払ってこっちの部屋に入ってきたと考えられる。

 なら、あんまり酒を飲まないように言うべきなんだろうが……美羽さんのお父さんの晩酌に付き合っているみたいだからな……というか、なんもされてないよな?

 そんなことを思いながら自分の身体を触ってみるが、少なくとも寝る前と変わっているようには感じられない。

 まあ、俺の眠りは起きたいと思った時間通りに目覚めることができるほど浅い物だから、本当になんかされたのなら、その時点で起きるだろう。

 自分の結論にちょっと安心しつつ、パジャマから普段着に着替えようとして、ふと机に置いてあった紙袋に目が行く。

 その中には一昨日、美羽さんからプレゼントされた服が入っている。

 ……そういえば、貰ってからの二日間、色々と忙しくて中を確認してなかったな……

 そう思った俺は、なんとなく紙袋から服を取り出し、どんなのか確認してみる。

 …………ふむ……こういうのが美羽さんの趣味なんだろうか?

 正直、ファッションに疎い俺からすると、これが良いのか悪いのかさっぱりわからない。

 とは言え、今日は日曜日だ。

 しかも、今日も今日とて赤井家に朝食どころか三食お世話になるとかのたまわっていたし……なんであれ、美羽さんと必然的に顔を合わせるのなら、これを着て行かないのは失礼だよな。

 ちとドキドキするが、よし、今日はこれを着よう。


 黒く生地薄めのジャケット。

 その下には薄い青の長袖シャツ。

 薄茶色のガーゴパンツ。

 着心地履き心地は悪くなく、清潔感もあって配色のバランスも悪くなく、美羽さんのセンスの良さを感じさせる。

 それを部屋にある道路側の窓ガラスで確認しながら、俺はちょっと溜め息を吐いた。

 少し問題があるからだ。

 とはいっても、服に問題があるわけではない。

 問題なのは、俺自身。

 どう考えても、前髪で顔の大半を隠している俺には似合う感じがしないのだ。

 全体的に明るめなデザインである以上、暗いイメージを抱かせる顔隠しはどうにもいただけない。

 そう思った俺は、手櫛で前髪を後ろにして固定してみる。

 窓ガラスに映る若干鋭い目付きに、嘆息一つ吐き、手櫛を下ろそうとした瞬間、

 「あ、下ろしちゃうんですか? そのままでいいのに」

 という声が、後ろ斜めからした。

 身体が鉄さびに侵されたようにギギギッと下ろしかけた手櫛のまま、声の方へと上半身のみで振り返る。

 美羽家側にある窓。そこに腰を下ろしている美羽さんがいた。

 「おはようございます夜衣斗さん」

 なんて挨拶しながら、ピンクで白い水玉模様が入ったパジャマを着ている美羽さんが、素足でひょいっと俺の部屋に入ってきた。

 不意打ちで女の子が俺の部屋に入ってくるという初めての事態に、俺は思わず固まってしまう。しかも、パジャマ姿で……

 そんな俺に、美羽さんはなにを思ったか小首を傾げる。

 「今回はコウリュウを使ってませんよ? 美羽の部屋と夜衣斗さんの部屋って、屋根伝いに行き来できますからね」

 な、なにそれ? どこのラブコメですか?

 唖然としながら、ちょっと辛くなってきた腕を下ろし、前髪を元に戻す。

 「だから、前髪は上げといたままの方がいいですって」

 そんなことを言いながら、俺の額に両手を入れて、前髪を上げる。

 な、な! なー!?

 唐突過ぎる、しかも自然で避ける暇もない動きに、脳波大混乱を起こし、思わず仰け反ろうとしてしまった。

 だが、下半身は道路側の窓を向いたまま。

 そんな状態で仰け反ってしまえば、バランスを崩すのは当然で……結果、

 「夜衣斗さん!?」

 倒れる俺を支えようとした美羽さんごと倒れてしまう。

 幸いにもベッドが近くにあったためにその上に落ちることができた。故に、身体的ダメージはない。

 が、美羽さんが俺に乗っかっていることに、カーッと顔が熱くなってしまう。

 丁度俺の胸に顔を埋めるようになっているため、美羽さんの吐息を感じることができるし、異常なほど高まった心臓の音を聞かれてしまっているかもしれない。

 「いたた。すいません夜衣斗さん」

 「い、いえ」

 俺の脇に手を立てて起き上がろうとする美羽さん。

 そのタイミングで、ガチャリと俺の部屋のドアが開いた。

 「お~い夜衣斗ちゃん。そろそろ……」

 俺の上で、美羽さんとドアからノックもせずに入ってきた春子さんの目線が合う。

 ちょうど俺を美羽さんが押し倒したかのように見える格好に、春子さんは目をパチクリさせ、ちょっと顔を伏せながら赤らめ、ゆっくりとドアを閉め出す。

 「おじゃましました~」

 「ち、違いますからね! 違いますよ春子さん!」

 大慌てで俺の上から起き上がり、春子さんを追って部屋から出て行く美羽さん。

 ……本当にどこのラブコメだ?


 朝のひと騒動の後、赤井家で朝食を頂いた俺は、商店街に向っていた。

 いつも使っている黒いリュックサックを背負い、その中にノートパソコンを入れている。

 オウキの、というか、王継戦機の設定を見直しながら、明日から始まる逆鬼ごっこの作戦を考えようと思っているんだが……

 ちらっと隣を見る。

 隣には、何故か美羽さんがいた。

 今日の格好は、薄ピンクの長袖シャツを肘のところまで巻き上げて、裾を出した状態にしつつ腰より上にベルトを巻き、余った部分を腰にたらして白黒太めボーダー柄のスカートにアクセントを加えつつ、さり気ないロザリオのネックレスを首元に掛け、足元も十字架をデフォルメした感じのフラットシューズ。

 袖の巻き上げも、シャツの上にベルトもしているのも、ファッションの一つとして使っているんだろうか? そんな使い方初めて見たな……

 なんて思いながら俺の視線に気付いたのか、隣を歩いていた美羽さんが小首を傾げる。

 いや、小首を傾げられても困るんだがな……どうやら俺の困った感じを変わっていないようなので、軽くため息を吐いて正直に思ったことを言うことにした。

 「……日曜日まで俺に付き合うことはないですよ? 商店街までの道のりなら覚えてますし」

 「別にいいじゃないですか。美羽、暇ですし」

 「……いや、暇だからって、友達と一緒に遊べばいいじゃないですか」

 「美羽の友達は大体部活やっているか、隣町に住んでいるかですからね。なかなか学校がある時以外に時間が合うことがないんですよ」

 「……なるほど……でも、女の子が日曜日に男と一緒にいるのはあらぬ疑いを掛けられる可能性がありますよ?」

 「別に構いませんけど?」

 なんて不思議そうに言う美羽さんだが、それってそう見られてもいいと思っているのか、そんな風に見られない確証があるのか、それとも俺に対してそんな風に全然見れないのか……物凄くヤキモキしたが、それを言葉にする勇気は俺にはない。

 そうなると同然、これ以上なにかを言える訳もなく、自然と美羽さんと一緒に喫茶店白猫屋珈琲に入ることに……ならなかった。

 「なにをしてらっしゃいますの?」

 不意にそう声を掛けられたのは、見るからに不機嫌そうな琴野沙羅さんだった。

 昨日と同じツインテールだが、着ている服は黒をベースにした水玉模様のワンピースで、美羽さんと同様の控えめな体付きがよくわかる格好をしていた。って、なにを考えてるんだか俺は……

 「なにって、見てわからないの?」

 ぐいっと俺より前に出て、挑発するようなことを言う美羽さん。

 「休みの日とはいえ不用意な接触は感心しませんわ。特にあなたは既に夜衣斗様の逆鬼ごっこに参加を申し込んでいるのですよ?」

 「だからなによ? プライベートで美羽がなにしようとコトサラには関係ないじゃない」

 「またコトサラと言いましたわね!」

 「うっさいわね! コトサラにコトサラって言ってないが悪いのよ!」

 と、昨日と同じ感じで口喧嘩を始める二人。

 まあ、武霊を出さないだけマシだと言えるが、学園じゃないからか?

 そう思ったが、ふと琴野さんの背後の方を見ると、そこに白い着物を着た村崎好美さんがいた。

 どうやら彼女がいるから武霊まで出すには至ってないようだ。

 というか、私服が着物って……変わった女子高生だな……

 思わず村崎さんを見ていると、俺の視線に気付いた彼女は、無表情無言で頷き、手で喫茶店に入るように促してきた。

 この二人のことは任せろってことか?

 そう思って、言い争いを続けている美羽さんと琴野さんを指差した後、村崎さんを指して小首を傾げると、彼女はまた頷いた。

 ん~……まあ、彼女の方が二人と付き合いが長そうだから、任せても問題ないだろうし、仮にこの場に残っても、俺にできることはなに一つない。

 そう思った俺は頷いて、喫茶店の中に入った。

 だが、店内には日曜日だからか、ほとんど満席になっており、どこにも座る場所がないようだった。

 客層はどう見ても未成年ばかりで、何故か全員、見世物感覚で店頭の言い争いを見ている。

 おかげで、俺に注目されることがなくほっとしたが……ふむ。ここのパフェをまた食べたかったんだけどな……まあ、しょうがない、今日は諦めるか。

 そう思った時、白猫屋珈琲マスターと目が合った。

 反射的に会釈すると、物凄く強面仏頂面の顎鬚オヤジは、親指でカウンターの隣にある階段を指差した。

 そこには『許可なき者は立ち入り禁止』と書かれたプレートが付けられている。

 つまり、許可されたってことか? なんで? というか、なにがあんの?

 ちょっと戸惑うことだったが、なんか無言の圧迫感を強く感じ始めたため、二回頷いて、そそくさと上がった。

 二階に上がってみると、そこも下と同じ白い日本猫の置物や絵が多く飾られている内装になっていた。

 唯一の違いは、カウンター席がなく、テーブル席のみになっていることぐらいかな?

 そう思って見回してみると……何故か、窓側奥の席に幸野美春さんが座っていた。

 腰まであるポニーテールは昨日と同じだが、着ている服がくるぶしぐらいまである白い長いワンピース、マキシワンピースって奴だったけ? まあ、とにかく、大人な感じの服装を着ている。

 さっき見た琴野さんのワンピースが途端に子供っぽく見えていきたな……まあ、実際に子供と言えば子供だが……

 なんて思っていると、幸野さんが俺を見付けて、予想外なことを口にした。

 「待ってたわよ夜衣斗君」

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