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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その一『ようこそ星波学園へ』
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四、『……そういうのはどうかと思いますよ?』

 朝にホームルームが終わった直後、俺は漫画とかアニメとかで見る転校生のよくあるパターン・ワーッと人が集まって質問攻めになる。のを覚悟していたんだが……だーれもこなかった。

 これは本当に自意識過剰だな……恥ずかしい!

 なんて思わず赤面していると、俺の前に座っていた男が、椅子ごとくるりと振り返った。

 耳が隠れるほどの長髪で、若干猫を連想させる細目の男。

 そんな奴が、妙に親しげな笑みをこっちに向けてくる。

 まあ、別に嫌な感じをする笑顔じゃないが……

 「俺は『村雲(むらくも) 勇人(ゆうと)』。よろしくな黒樹」

 いきなり名字の呼び捨てか? 随分馴れ馴れしいが、ん~これも嫌な感じはしないな。

 「……よろしく」

 頷いて挨拶すると、村雲君はにやりと笑った。

 「一昨日と昨日の動画見たぜ。大活躍だったな」

 ……まあ、聞かれると思っていた質問だから、別にいいっちゃいいが……

 「……運が良かっただけさ」

 「謙遜すんなって。例外的に武霊使いになったことや、その武霊を自在に操れたことだけじゃなく、自警団の中でトップレベルの武霊剛鬼丸や、二十人以上の犠牲者を出した高神麗華を倒した。これを運が良かっただけで片付けるのは無理があるぜ?」

 「……例外的に武霊使いになれた要素はわからないが、俺が武霊をいきなり操れたのは武霊能力との相性が良かったのと、幼い頃からずっと考えてきたイメージだったからだ。剛鬼丸に勝てたのだって、はぐれ化という武霊使いがいない状態だったし、高神麗華に関しては今までの戦い方とは違う方法で襲い掛かってきたことが大きく影響していると思う。だとするなら、運が良かったと言えるんじゃないか?」

 俺の返答に少し驚いた様子を見せ、またにやりと笑う村雲君。

 「なるほどな……謙遜じゃなくて冷静に自分を見ているってわけか……まあ、それでも俺から言わせれば謙遜って感じがするが、なんであれ、珍しいタイプだよな黒樹って」

 珍しい? 俺が?

 「……まあ、いきなり武霊使いになったわけだからな」

 「いやいや、そうじゃないって」

 パタパタと片手を振る村雲君。

 「普通、そんだけ大活躍したら調子に乗るもんだぜ? 特に空想系オリジナル系の武霊持ちはな」

 なるほど、確かに普通ならできない活躍をすれば、空想にふけっている、仮想に憧れている青少年は歓喜乱舞し、調子に乗るのかもしれない。

 とはいえ、自分がそうなるというのはどうにも考えられないな。そういうタイプじゃないし……いや、自称最後の敵に叩きのめされてなければ調子に乗っていたか?

 「まあ、その感じなら大丈夫そうだな」

 「……なにが?」

 「色々だよ。とりあえず、武霊に関してなにか困ったことがあったら俺に聞けや。こう見えて去年までは武霊ランキングで上位に入っていたし、武霊部部員でもあったからな」

 武霊ランキングね……ん? 入っていた? でもあった?

 「……なんで過去形なんだ?」

 「ん? ああ、春休みに武霊を失っちゃったってな。ランキングは勿論、武霊部も武霊使いじゃないと無理なんだよ」

 どこか遠い目をしながらそんなことを言う村雲君に、俺は眉を顰めた。

 春休みに? だとすると……

 「……大原亮?」

 その名前に村雲は、細い目を少しだけ開けた。

 「会ったのか?」

 「……武霊にだけな」

 「そう……か……」

 ため息一つ吐いて、村雲は目を瞑って片手で額を抑えた。

 「まあ……気を付けろよ? あいつは強力な武霊を狙ってくるからな」

 「……ああ」

 「とはいってもしばらくは安全だろうけどな」

 しばらくはね……

 「……なにかあるのか?」

 「まあ、そのうちわかるさ」

 にやりと笑う村雲に、俺は察しがついてしまう。

 ん~先に色々と知ってしまうというのも考え物だな……なんか面白くない。


 さて……これは一体どういうことなんだろか?

 あっという間に今日の授業は終わり、帰りのホームルームも終わってしまったのだが、朝から今まで、俺に話し掛けてきたのは村雲のみだった。

 あれだけ注目され、また戦っている姿が星波動画に流れていたことを考えれば、警戒するのは当然だといえる。

 そう考えると、質問が殺到することはなかったというのはまだわかるが、それがずっと続くというのはどういうことなんだろうか?

 しかも、どうも俺を避けているような感じするんだよな……

 転校初日の緊張のためか、授業終わりの後に毎回トイレに行っていたんだが、俺が視線を向けるとさっと目を反らし、廊下にいた生徒はささっと教室に入ってしまった。

 クラスメイトのみならず、他のクラスまで避けられているとなると……怖がられている? それとも嫌われているんだろうか?

 いくら逆鬼ごっこの件で迂闊に喋れないとはしても、それに抵触しない話なら問題ないだろうし、誰もが美羽さんみたいにうっかりさんってことはなかろう。

 思わずため息が出ると、帰り支度をしていた村雲が笑った。

 「気にすんなよ黒樹。こいつらが」

 クラス中を見回す村雲に、こっちをチラチラ見ていたクラスメイトがさっと顔を逸らす。

 「近付かないのは、条約があるかさ」

 条約?

 「……たかだか学生に随分大仰な言葉が出てきたな」

 思わず口に出た言葉に、村雲は苦笑する。

 「まあ、俺も大仰だとは思うがな。武霊に関することだしな……ただでさえ星波学園は本来なら四つに分けられている学校が一つにまとまっているんだ。その生徒達をまとめ律するにはそれなりの秩序が必要になるって感じなんじゃないのか?」

 「……それっぽい名前もその一つってことか?」

 「じゃないか?」

 ささっと鞄に教科書を詰め終えた村雲は、片手を上げた。

 「じゃ、月曜日にな」

 「……ああ、じゃあな」

 さっさと帰って行く村雲の背中を見送った後、ふと視線を感じる。

 特に考えもなくその報告に目を向けると、隣の席に座っているクールビューティーのクラスメイトとまた目が合った。

 実は彼女とは今朝から何度も目が合っている。

 どういうわけか、どうにも彼女の目線が妙に気になるようで、見られるたびになにか妙な感覚に追われていた。

 他のクラスメイトの視線には、特になにかを感じるということはないのだが、いや? 感じることは感じるが、彼女だけが特別に違いを感じるって感じか?

 幸野さんの言葉を思い出せば、武霊使いになった者は、勘などの第六感が強化されるということだった。

 つまり、その部分が、他のクラスメイトとは違うなにかを、彼女の視線から感じてしまっているということなんだろう。

 ……もしかして、生理的に嫌われているとか?

 そんなことを思っていると、彼女が席から立ち上がり、鞄を持たずに教室から出て行ってしまった。

 鞄を持って行かないということは、部活にでも行くんだろうか?

 まあ、あんまり詮索するのもなんだよな……もしかしたら本当に嫌われているのかもしれないし。

 そう思うと、予測であるとはいえ、深いため息を吐かざるを得ない。

 「なにを溜め息吐いているんですか?」

 はい!?

 美羽さんの声が唐突に背後から聞こえてきて、俺は思わずビクッとしてしまう。

 いや、だって、背後は外であり、かつ、ここは三階だ。

 普通は背後から声を掛けられるとは思わない。まあ、どうやって背後にいるかは直ぐにわかったから、それ以上の困惑はないが……

 自分の情けなさと、美羽さんの行動に俺は少しだけ溜め息を吐き、振り返る。

 「……そういうのはどうかと思いますよ?」

 「そういうってどういうの?」

 俺の言葉に小首を傾げる美羽さんは、人ぐらいの大きさになったコウリュウに跨って宙に浮いていた。

 まあ、美羽さんの日常には武霊は欠かせない要素になっているのかもしれないが、あんまり感心しないな。

 そんなことを思っていると、美羽さんは窓枠に手を掛け、ひょいっと教室の中に入って来てしまった。

 「……窓から入ってくるのはどうか? ってことですよ」

 「え~別にいいじゃないですか。土足じゃないんですし」

 「……スカートで空を飛ぶのもなんだと思いますよ?」

 「大丈夫です。ちゃんとスパッツ履いてますから」

 そう言ってスカートに手を掛けようとしたため、俺は反射的に空を見た。

 「うふふ。そんなはしたない真似、いくら美羽でもしませんよ」

 空を飛んで、窓を飛び越えてくる人の台詞だとは思えないな……

 「それに、今飛んできたのは、無駄な時間を使いたくなかったんですよ。廊下から行くとコトサラに会いますから……」

 若干忌々しげな声の調子に、思わず美羽さんを見るが、特に表情の変化はない。

 というか、コトサラ?

 「じゃあ、行きましょうか夜衣斗さん?」

 「……ええ」


 校舎案内といっても、設備が妙にハイテクだったりする以外は、普通の学校施設と変わらないようだった。

 一階に教職員室などの教師関連施設。二階が一学年。三階が二学年。四階が三学年。五階が特別教室。

 あと、地下にも色々と施設があるらしいが、少なくとも普通に学業を受けている分にはあまり使わない場所らしい。

 そもそもこの場所が、元空港として作られた人工島であるため、先に地下空間が造られた。

 そのため、下は地上以上に膨大な空間になっているそうだ。

 小学校からずっと星波学園に通っている美羽さんでさえ、行ったことがない場所や立ち入り禁止のエリアとかがあるとかなんとか。

 ん~地下に立ち入り禁止エリアね……そこはかとなく危険な香りがしなくもない。まあ、学校施設であることを考えれば、危険だからというより、広過ぎて管理し切れないとか、不良のたまり場にしないとか、そんな感じかもしれない。

 そんなことを考えながら案内を受けていると、唐突に美羽さんがため息を吐いた。

 む、無言で案内を受けていたのは流石にまずかったか?

 などと思わず思ってしまうが、美羽さんの視線は俺ではなく、五階の奥の部屋に向けられていた。

 多分、あの部屋が最後に案内してくれる場所なんだろうが……ん? 統合生徒会室?

 それなりに立派に作られている引き戸の上に付けてあるプレートにはそう書いてあった。

 高校校舎にあるってことを考えると、もしかしたら、統合生徒会に任命された者がいる校舎に統合生徒会室は作られるのかもしれない。

 などと考えながら、足の重い美羽さんの後と付いて統合生徒会室の前に辿り着く。

 美羽さんはノックしようとして、その直前でピタリと拳を止め、こっちにちょっとだけ振り返った。

 「あの……ちょっと美羽が変になるかもしれませんけど、気にしないでくださいね?」

 変になる? 美羽さんが?

 意味のわからない言葉を口にした美羽さんは、俺が疑問を口にするより早くノックしてしまう。

 「どうぞ」

 中から女の子の声が聞こえてきた。

 美羽さんはゆっくり息を吐いて、引き戸を開ける。

 何故か無言で入る美羽さんに続いて部屋に入ると、そこには円卓上のテーブルが設置されていた。

 そのテーブルの一番奥に、黒髪ツインテールの白人系のハーフだとわかる日本人とは違う整った顔立ちをした青目の美少女がいる。

 そのハーフ美少女は、俺に対して微笑んだ。

 「ようこそ星波学園へ。わたくしは『琴野(ことの) 沙羅(さら)』。現統合生徒会長をしている者ですわ」

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