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武装守護霊  作者: 改樹考果
間章その一『ようこそ星波学園へ』
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三、『別の意味で弩ストライクだったからだ』

 どういうコンセプトで作られているのか、校舎の玄関は校門の直ぐそばにはなく、校舎と体育館の間を抜けた先にあった。

 体育館の隣には室内プールと書かれた建物、その隣にクレー舗装のグラウンドとあって、玄関はそのグラウンドの前に作られている。

 グラウンドで運動部らしき人達が走っている姿とかを見ながら、美羽さん先導で玄関に入ると、俺はちょっと眉を顰めた。

 何故なら、下駄箱の靴入れ一つ一つに非接触式ロックがつけられていたからだ。

 つまり、設定した生徒カードがなければ靴入れは開かないってことだよな? ……ラブレターとかの下駄箱での伝統イベントがここではないってことか……まあ、俺には関係ない話だからどうでもいいが……

 持ってきていた学園指定のスリッパに履き替え、とりあえず非接触式ロックがない来客用の下駄箱に革靴を入れ、職員室に向かう。

 校舎内の廊下はなんの飾りっ気もないものだったが、壁側には所々大型モニターの掲示板などがあり、天井には小型の監視カメラ・角や部屋の入口にはなんかの操作をするためのタッチパネルモニター台などがあった。

 まあ、なんというか、内部も色々と普通の学校にはなさそうな、少なくとも俺が前にいた学校にはないものがやたらと目につくな。

 この分だと掃除ロボットとかもいそうだが……いや、それはないかな? 確か、生徒に掃除させることも教育の一環だと聞いたことがあるから、少なくとも校舎内は配備されていないだろう。

 とはいえ、これだけ広大であるのなら、そういう系統のロボットがあっても不自然ではないな。警備ロボットだっているぐらいだから、他のロボットのテストだってしている可能性は大いにある。

 その可能性にちょっとワクワクしながら美羽さんの後をついて行っていると、ほどなくして職員室に辿り着いた。

 職員室の壁にも巨大なモニターが付いていたが、今まで見掛けたモニターには学園に関する記事や連絡事項などが映し出されていたのに対して、これには人の名前とその人が担当すると思わしき教科やクラスが映し出されている。

 よく見るとその映し出されている名前が暗くなっているものがあり、ほとんどの明るくなっている名前の隣には在室とか準備室と表記されていた。

 なるほど、これで先生が職員室にいるか、どこにいるかがわかるわけか。

 これは便利だが、ここだけしか見ることができないとなると不便さを感じなくもないな。ふむ……もしかしたら、廊下にあったタッチパネルモニターとかでもこれを見ることができるかもしれない。

 ん~先生に用がある時は便利だが、これはこれで問題がある気がしないか?

 先生の居場所がわかるってことは、サボったりとか不良行為とかをしやすくなりそうな気が……いや、監視カメラとかがあったから、根本的にそういうのがやり難い環境だよな。

 「失礼します」

 俺がちょっと考え事をしている間に、美羽さんはさっさとノックしてスライド扉を開けて職員室に入ってしまった。

 不意を突かれた形になったため、心の準備とかしている余裕すらない。

 こっちは初めての学校で、緊張しまくりだっていうのに、もうちょっと配慮が欲しいが……美羽さんからしたら緊張するようなことじゃないんだろうしな……ここは美羽さんに合わせて、強引に付いて行こうか。

 そう思った俺は、美羽さんに倣って同じことをして職員室に入った。

 中は普通だな……

 向かい合わせに設置された机が幾つかの島を作り、その上には雑然と様々なフォルダやら本やらが置かれている。

 漫画とかで見掛けるような光景だが、まあ、ここら辺は同じ職業である以上、それほど大きな違いは出難いのかもしれない。

 なんて思いながら職員室を見回すと、ちょっと遅れて入ったため、既に美羽さんは一人の先生に話し掛けていた。

 机に座っているその先生を誰か確認すると、町役場前で出会った高木弥恵先生だった。

 今日の高木先生は、昨日と同じ大きめのサングラスを掛けてはいるが、少し花の柄、鈴蘭かな? が入った黒い着物を着ていた。

 仕事中も着物を着るのか……

 「おはようございます黒樹君」

 俺の接近に気付いたのか、こっちに顔を向けて微笑む高木先生。

 これで全盲だというのだから、とんでもない人だよな。

 そう思いながら、美羽さんの隣に並ぶ。

 「……おはようございます」

 「事務局で聞きました? 縁とは不思議な物ですね」

 そう言う高木先生に俺は苦笑するしかなかった。

 確かに不思議とういうかなんというか、まさか昨日会った人が俺の担任になるなんてな……まあ、二年のクラス担当だって聞いた時になんとなくそうなるんじゃないかと思っていたが……

 「またまた。そんなこと言いながら弥恵先生はわかってたんじゃないんですか?」

 なんでかクスクスと笑いながら美羽さんがそんなことを言う。

 というか、わかっていた?

 「有名ですよ。弥恵先生のクラスは変わり者が……」

 不意に美羽さんが言葉を区切って、俺の方を見てしまったって顔になった。

 「あ、や、夜衣斗さんのことじゃないですからね」

 あ~なるほど、それを気にしたのか。

 「……まあ、変わり者といえば変わり者ですからね俺は」

 「ち、違いますって! 夜衣斗さんは武霊使いとして前例のないことをして人ですから――」

 「そう必死に弁解しなくてもわかってますよ」

 あわあわと両手を振りながら弁解を口にする美羽さん。

 その必死な様子に俺は思わず苦笑してしまった。

 まあ、なんであれ、このままあわあわさせるわけにはいかないよな……

 「……多分、その変わり者の対象の中には、特殊な武霊使いとしての側面もあるんでしょう。昨日教えてくれた通り、高木先生が学園の教師陣の中で最強の装備型武霊使いであるのなら、そういう生徒が担当するクラスに集められるのは当然なことだと思います。加えて言えば、特殊な武霊を根底イメージとして持っている人間は、普通とは違う思考趣向を持っている可能性は高いでしょうね。特殊であるということは、普通とは違うってことの表れでしょうし」

 とフォローしてみると、美羽さんは目を白黒させてしまった。

 ん~これは俺が言っていることの半分も理解していない感じだな。

 そんな風に美羽さんを見ていると、今度は高木先生がクスクスと笑い出した。

 「あまり喋らない子かと思ったら、喋る時は喋るのね。それに少ない言葉でよく考え、色々と理解できている」

 「……誰だって思い付くことですよ」

 「そう。黒樹君はそう思うのね」

 俺の否定に、高木先生は妙に面白そうに微笑み、椅子から立ち上がった。

 「そろそろ行きましょうか? 朝のホームルームが始まってしまうわ」

 そう言って机に立て掛けられている杖を手に取った時、美羽さんがちょっと慌てた。

 「あ、あの、ですね弥恵先生。美羽が夜衣斗さんの放課後の学校案内をしていいですか?」

 その美羽さんの提案に高木先生は首を傾げる。

 「別に構いませんけど、あまり喋り過ぎないようにしなさいね。美羽さんはうっかり口を滑らすことが多々あるのですから」

 「も、勿論、わかってますよ」

 若干上擦った返事をする美羽さんに、高木先生はなにを思ったのか、小さくため息を吐いて、苦笑した。

 この感じだと、美羽さんの様子から既にうっかり口を滑らせていたことに気付いたのだろう。

 だが、高木先生は美羽さんに対して特になにも言わなかった。

 ふむ? 苦言ぐらい言われるかと思ったが……高木先生が良い先生なのか、それとも教員が関知しない部分なのか、あるいはその両方なのか……まあ、なんであれ、変わり者が集まるクラスか……また胃がキリキリしてきたな……


 教職員室がある一階から、二階に上がると、教室の通路側の壁は全面曇りガラスになっていた。

 なので、高木先生に連れられて二年の教室に来た時に、俺が通る度に中の生徒がざわつくのがありありとわかってしまう。

 後から遅れて、しかも先生に連れられているのだから、俺だということがわかるのかもしれない。

 自意識過剰だと思いたいが、集まっている情報を統合するとな……そのうち胃に穴が開くんじゃないか?

 キリキリとする腹をさすりながら高木先生の後を付いて行っていると、

 「緊張しているの?」

 振り向きもせずにそんなことを高木先生が言った。

 「……それほどメンタルは強くないので」

 「一昨日と昨日あれだけのことをやってのけたのだから、そのうち慣れるわよ」

 「……だといいですね」

 などと会話しながら先へと進む。

 昨日もそうだったが、杖を突いているとはいえ、その足取りはとても全盲だとは思えない。

 しっかりした足運びと速さで歩いていることから考えると、もしかしたら聴覚・触覚・嗅覚あるいは味覚も含めて視覚以外の感覚全てを使って周囲の環境を理解しているのかもしれない。

 だとするのなら、視覚のように見える範囲が目の見える範囲に限定されていないということになり、こうして背後にいる俺の様子を感じ取ることもできる……ということになるんだろうか?

 そんな考えに至った時に、ピタリと高木先生が止まった。

 二年一組か……

 スライド扉の上にある文字を見ながら、俺はあんまり教室の中を気にしないようにしていた。

 とはいえ、耳から否応なしにクラスメイトが騒いでいる声が聞こえてきて……なんか頭がくらくらしてきたな……

 「さあ、入りましょうか?」

 そう言って高木先生はスライド扉を開けてしまう。

 その瞬間、曇りガラスが一瞬の内に普通のガラスになり、教室の様子が丸わかりになった。

 瞬間調光ガラス!?

 た、確か、教室に区切りを作らず、常に見られるようにすることで学校で起こる問題を起こし難くする方法があるとは聞いたことがあるから、全てが見えるようにするのはわからんでもない。

 が、それなりにこのガラスって高かったよな? 壁を排除した学校はあるとは聞いたことがあるが……

 思わず呆れかねない設備に強引に意識を持って行きつつ、なるべく俺に集まっている視線を意識しないように努めながら高木先生に続いて教室に入る。

 これだけ見られている状況でついて行かないなんてのは流石に耐えられない。

 転校生が先生に呼ばれるまで廊下で待機している状況は、見えないことを前提にしているだろうしな。

 だとするなら、さっさと中に入るのが正解だ。

 と言い聞かせながら、これで間違ってないかという不安感をなんとか消そうと頑張る。

 うう、なんかさっきより胃が痛くなってきてないか?

 胃痛と、くらくらする意識になんとか堪えつつ、教壇の立つ高木先生の隣にそれなりに離れて立った。

 そこで初めてクラスメイトの姿を確認することができたが……あ~なるほど……確かにこれは変わり者の集まりだわ……

 目の前に広がるちょっとここは日本の、いや、現実の学校か? と思う光景に、俺の緊張は吹き飛んでしまった。

 なんせ三分の一ぐらいが、見た感じインドからアラブにロシアに、アメリカ? イギリス? まあ、明らかに肌の色やら顔付きが違う人達ばかりいるかだ。

 しかも、日本人は日本人で、何故か猫耳を付けている人や、メイド服やら執事服やら着ている人がいたりする。

 制服はいいのか? 制服は……

 「ホームルームを始める前に、紹介するわね。ご両親の仕事の御都合で星波学園に転校してきた黒樹夜衣斗君よ。名前を黒板に書いてくれる?」

 そう言って高木先生は黒いチョークを俺に渡した……黒いチョーク?

 よく見るとチョークではなく、チョーク型のデジタルペンだった。そして、黒板も液晶タッチパネルになっているようで……こんな所までハイテクか……

 「黒樹君?」

 高木先生の呼び掛けに促され、俺は液晶黒板に名前を書いた。

 汚い字なので嫌になりつつ、

 「黒樹夜衣斗です……よろしくお願いします」

 そう言って一礼して、クラスメイトを真正面に見ると……当然、全員俺を見ていて、拍手、口々に歓迎の言葉を言われ……ちょっと仰け反り掛けた。

 それをぐっと我慢して……ちょっと大仰し過ぎやしないか?

 歓迎の騒ぎに一区切りついた所で、手を叩きクラスメイト達を静かにさせる高木先生。

 「はい。じゃあ、窓側の一番後ろにあなたの席を用意してあるはずだから、そこの席に座ってくれる?」

 視線を言われた場所に向けると、確かに席が一つ空いていた。

 ドキドキしながら頷き、というか……窓側の一番後ろって……いや、まあ、どうでもいいか……開いている席へと向かう。

 自分の席にもう少しで着くという時に、ふと妙な感覚を覚えた。

 全員から好奇の視線を受けているので、そのせいかとも思ったが……なんというか、その視線の中になにか妙なものが混じっているような……まあ、気のせいだろう。緊張でどうにか――

 そう思った時、ふと目があった。

 俺の隣の席に座っている黒髪黒目で腰まである三つ編みの女性。

 彼女と目があったのは一瞬だったが、それでも他のクラスメイト、外国人や制服じゃない人達以上に注目してしまった。

 何故なら、その容姿が美羽さんとは別の意味で弩ストライクだったからだ。

 制服の上からでもわかる無駄のない引き締まった筋肉質な身体付き、かつ、座っていてもわかるほどに出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる日本人基準では十分過ぎるほどグラマラスな体型。

 可愛いよりカッコいい顔立ちで、なんの感情も浮かんでない表情が、それを際立たせ、クールビューティーって感じだった。

 さっきとは別の意味でドキドキしながら、俺はゆっくり自分の席に座った。

 なんというか……俺ってこんなに気が多かったんだな……

 隣のクラスメイトに覚えた感覚に、何故か感じる罪悪感と共に俺は戸惑うしかなかった。

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