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武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
39/85

27、『転剣銃王』

 馬鹿な!

 自称最後の敵の声が背後から聞こえたことに、俺は驚愕した。

 何故なら俺の目には、未だにこっちに銃口を向けている自称最後の敵の姿が映っているからだ。

 当然、一瞬たりとも目を反らしていない。

 それなのに、背後にある副眼カメラを確認すると、そこにはもう一人の自称最後の敵。

 「「ドッペルゲンガーサーバントとステルスサーバントだったか? 僕も同じような剣と銃を考えていたんだよ。こっちはドッペルゲンガーソード・ステルスガンと名付けているがね。それを君がジャミングスモークを使ったと同時に使わせて貰った。転剣銃王の背後でやったから、君の指示・意思を受けていないオウキにはわからなかったんだろう」」

 ご丁寧に解説どうも!

 歯軋りしたい気分だが、低減モードとはいえクイックアップ機能中ではできない。

 「「ちなみに、今、僕は君の背中に銃口を向けている。PSサーバントは、本体が弱点。そうじゃないか?」」

 なにもかも見抜かれているのかよ……

 もう一度副眼カメラで背後を確認すると、確かに自称最後の敵はその手に持つ自動拳銃を俺の背に向けている。

 自称最後の敵が言う通り、PSサーバントは本体を破壊されるとパワードスーツは溶けて消えてしまう。

 デザイン上、パワードスーツ化したPSサーバントの本体は、ロングコートに露出する形で首筋下部分に出ている。

 それ故に、背後を取られれば、あっさり壊されかねない弱点といえば弱点だが、防御力はPSサーバントの中で最も硬いから……いや、駄目だな。そんなことを承知で向こうだってわざわざ言っているはずだろうしな。

 「「クイックアップ機能を切ってくれるか? 実の所を言うと、少々この状態は面倒でね」」

 副眼カメラで見る自称最後の敵の拳銃を持ってない方の手は、普通にノートパソコンをタイピングしている。

 低減モード中に通常通り動いて見えるということは、それだけ早く動いているってことで、確かに面倒か……どちらにしろ、俺に抵抗する選択肢はないな。

 俺は自称最後の敵の言葉に従い、クイックアップ機能を切った。

 「「さて、今の攻防で、君自身はやはり及第点だと確認できたが、それだけではこれから降り掛かる死の運命。特に、今日のように避けられない(・・・・・・)宿命の悪意が(・・・・・・)関わる死の運命(・・・・・・・)は変えることができないだろう」」

 避けられない? ……つまり、

 「……いくら予知しても必ず俺の前に現れる宿命の悪意があると?」

 俺の問いに、自称最後の敵はにやりと笑う。

 「「その通り。僕が予知できた宿命の悪意は七つ。『渇欲』『恐怖』『本能』『支配』『快楽』『択一』『守護』の七つだ。その内の渇欲は既に退けてはいるが、果たして残り六つを退けられるかどうか、最後の試しをさせて貰おうか?」」

 その自称最後の敵の言葉と共に、転剣銃王の全身から無数の刀身と銃身が生えた。

 剣山のように転剣銃王の身体を覆う剣と銃が、金属音を撒き散らして一斉に俺へと向けられる。

 見るからに必殺技を放とうとする転剣銃王に、オウキが二丁拳銃(ケルベロス)の弾倉を『貫通弾(ペネトレーション)』に変え、撃とうとした。

 貫通弾(ペネトレーション)は、貫通力を上げるために限界までの強度と加速を求めて作られている。その故、射出時の反動が酷く、空気摩擦で弾丸その物が消失してしまう欠点があり、長距離への連射は向かない。が、その分、近距離での貫通力は名の通り全弾丸の中で最も高い。

 そんな弾丸を使えば、確かに転剣銃王を貫けるだろう。

 だが、それでは駄目なんだよオウキ。

 トリガーに手を掛けようとしたオウキの胸に、伸びた刀身が突き刺さる。

 背中まで刀身が飛び出すと同時に、オウキの具現化が解け、霧となって消えてしまった。

 弾倉交換によって生じた隙に、転剣銃王がその手に持っていた日本刀の剣先をオウキに向けていた。

 オウキが弾倉を落とし、両腕から出る新たなマガジンと交換し、狙いを定める三つの動作があるのに対して、転剣銃王は剣先を向けて、刀身を伸ばすだけ。

 三つと二つでは、どうしたって後者の方に分がある。

 中距離・長距離戦ならまた状況は違ったかもしれないが、星波神社の敷地はそれほど広くない。

 普通の剣先が届かない距離から銃撃を放ってはいても、伸びる日本刀があることを知っているのなら、それはあってないようなものだ。

 二丁同時ではなく、片方を牽制に使いつつ、もう片方で変えるべきだったかもしれないが、その指示を出す暇はクイックアップ機能を切った俺にはなかった。

 王継戦機内でのオウキの戦い方は、基本的に全て二刀流。

 俺の趣味が最大限組み込まれた動作が、武霊であろうとオウキのベースになっているのだろう。

 昨日生まれた存在であるために、その空想の知識を頼りに戦うのは仕方がないことだが、実際の戦闘は過剰なぐらいに臨機応変が求められるし、俺が想定していない出来事なんていくらでも生じる。

 確かに今回の場合は、武霊自身の経験不足が大きな要因だろうが、俺自身の実戦経験の少なさもかなりの割合を占めているだろう。

 片や高々二日、もう片方は一昨日まで普通以下の高校生。

 そんな二人にそんな経験を求めるのは酷だって、わかってんのかこいつは!

 理不尽な絶体絶命に、俺の中に激しい怒りが生じるが、前後の危機に口にできるはずもなく、ただただ歯を噛み締めた。

 そんな俺に、自称最後の敵はノートパソコンを打つ。

 「「サービスで、具現化トリガーを使った具現化と、オーバードライブを使うまで待とう」」

 な! いや、この自称最後の敵が、謎の老人の弟子であるのなら、具現化トリガーを知っているのは当然か……

 「「わかっていると思うが、具現化トリガーを通常具現の具現化率を更に高めることができる特殊な言葉ではあるが、このことを町の武霊使いは知らない。この意味、賢明な君ならわかるだろ?」」

 「……あんたの師匠と、町の武霊使いの知識の出所が違うってことだろ?」

 「「その通り。なら、そこからさらに推測できるんじゃないか?」」

 さらに推測だと?

 その言葉に、不意にはっとなった。

 「……意志力回復薬! あんたがあれを作ったのか!?」

 「「早とちりするな。あれは僕が作ったものじゃない。僕はあんなものを望まない」」

 首を横に振る自称最後の敵に、俺は眉を顰めた。

 僕は? というか、あんなもの? いや、だとしたら、

 「……じゃあ、誰が?」

 「「言っただろ? 僕はそんなに優しくない。自分で辿り着くんだな。ただし、慎重にな。異なる知識、他の誰もが知らない知識は、あらぬ疑惑を呼ぶどころか、下手をすれば回避不能な死の運命を招きかねない。特に具現化トリガーを使う場合は気を付けることだ。熟練の武霊使いから見れば、明らかに具現化トリガーを使った武霊の具現化率が高いと見えるだろうからな。少なくとも、使っている所は目撃されるなよ? まあ、それもこれも、この最後の試しを生き残れたらの話だがな」」

 自称最後の敵の余裕の態度に、思わず喉が鳴ってしまう。

 具現化率の差はそのまま武霊の攻防力に繋がるのは、昨日今日の戦いでよくわかった。

 通常具現とトリガーを使った具現化にも具現化率の差が生じるのなら、オウキの方が有利になるのは普通に考えれば変えようのないことだろう。そこにオーバードライブの力が加われば、疑似とはいえレベル2を撃破できたんだ。通常具現の転剣銃王に攻撃なんて平然と防げ、そのまま反撃に転ずることだって可能なはず。

 それなのに、この余裕。現状で俺を圧倒しているというだけで、ここまで自信を持てはしないだろう。

 「「勿論わかっているとは思うが、防ぐ以外の行動を取ろうとした瞬間、僕か転剣銃王が君を殺す」」

 選択の余地無しってことか……

 「「さあ、早く再具現をするんだ。それとも愚かにも時間稼ぎをしているのか? 言っておくが、僕はそんな君を僕は求めていない。これ以上時間稼ぎをしようというのなら――」」

 俺は自称最後の敵の言葉を聞き流しながら、大きく息を吸い、吐いた。

 今の俺に自称最後の敵とまともに戦って勝てる可能性は低いだろう。

 勝てるとしたら、俺より武霊戦の経験がある美羽さ……なにを考えているんだ俺は! こんなことに美羽さんを巻き込むわけにはいかないだろうが馬鹿が!

 只でさえ、高神礼治を取りのがして気落ちしているだろうし、なにより、因縁のあるであろう相手が復活したことを知り、心中は見た目の明るさに反して複雑に暗くなっているのは間違いない。

 俺に気を使ってくれるのか、本気で忘れているのかはわからないが、今日これ以上の負担を美羽さんに掛けるべきじゃないんだ。

 当然、俺がこの場で死ぬなんて負荷は、最も無しだ!

 行くぞオウキ!

 「我が呼び声に応え、現れ、武装せよ今は名も無き守護霊! 汝は機械の王にして全てを守る王の騎士!」

 全力全開今持てる全てをお前に託す!

 「武装守護霊オウキ!」

 俺の前に飛び出したオウキが、消された前以上の存在感を発して具現化する。

 その時、背後の自称最後の敵が不可解そうな顔を一瞬だけした気がした。

 が、今はそんなことを気にしている場合じゃない! 続けていくぞ!

 「契約者黒樹夜衣斗が今ここに、封印の鍵穴を乞う。我が身を鍵とし、封じられし禁忌のシステムを開錠せん! 今こそ! そのもう一つの名の意味を知らしめる時! シールアーマー解放! ライオンハート機関フルドライブ!  オウキは、王の機械! オウキは、王の騎士! そして、オウキは、王の鬼! オーバードライブシステム解禁! 王鬼! これで満足かこの野郎!」

 一気にオウキを王鬼化。

 具現化トリガーからオーバードライブモード起動まで言い切ったせいで、やや酸欠気味になり、思わず荒い言葉が口から出てしまう。

 そんな俺に自称最後の敵は不敵に笑い。

 「「満足だ。だから、死ぬなよ」」

 そうノートパソコンに言わせると、キーボードを打っていた片手を振り上げた。

 くるか! というか、自分ごと攻撃させるつもりか!? 直前で逃げるのに合わせて俺も逃げようかと思っていたのに、それすら読まれていたのか? っく!

 「セレクト! ダブルシールドリング!」

 オウキが両腕に簡易格納庫からレンズの付いたリングを出して自動装着する。

 「「ミリオンガンソード」」

 事前に打っていたのかそうノートパソコンが言うと共に、上げていた片手を振り下ろした。

 同時に転剣銃王の全身の刀身がさらに増え、一気に射出された。

 刀がダガーが長剣が、ありとあらゆる剣が王鬼を、その背後にいる俺を突き刺さらんと迫る。

 オウキが展開した両腕のシールドを正面で二つに合わせ、更に黒光靄による強化が加わることによって、王鬼を全て隠すほどになっていた不可視のシールドがさらに大きくなり、かつ毒々しいぐらい黒く染まった。

 神社の敷地を真っ二つに分断するほど大きくなった黒光靄シールドなら、どんな攻撃がきても防ぐことができるはず。

 だが、これでは向こうでなにが起きているかわからないのが難点だな。

 黒光靄シールドが形成され終ると同時に、強烈な爆発音が連続で発生し始め、更に王鬼の身体がこちらへと擦り寄り始める。

 ミリオンという名から察するに百万、もしくはそれに近い数の攻撃が行われていることは間違いない。

 そして、僅かな戦闘で転剣銃王が使っていた剣と銃は、全て特殊な能力が付与されていた。

 そう考えると、ただ防ぐだけではだ――

 不意に、俺の身体が固まった。

 それと同時に、斜め後方でなにかが爆発し、土が飛び散る音。

 「「転移爆裂弾か。その硬化機能もなかなか優秀だな」」

 などとノートパソコンに言わせる自称最後の敵だったが、俺はそれに反応することはできなかった。

 何故なら、次々と剣や弾丸が展開されている黒いシールドを越えて俺に襲い掛かってきたからだ。

 クソ! やっぱりこうなるか! クイックアップ機能起動! 

 極限まで体感時間を遅くし、現状を確認する。

 ランスのような剣が俺の頭を、音叉のような剣が俺の腹を狙っていた。

 更に、五十七発の弾丸が、俺の身体に余すことなく迫っている。

 しかも、黒いシールドの方を確認すると、いくつもの剣先が見え始めており、百発近い弾丸が既に通り抜けているようだった。

 シールドが壊されたのではなく、貫通したと判断せざる得ない状況に、俺は歯軋りをしたい気分になる。

 俺だって力場障壁貫通弾を考えているのに、自称最後の敵が同じようなものを考えないはずはない。

 ああもう! 素直に防ぐことに専念するなよな俺は!

 とにかく、やってしまったことは仕方がない、今は起きていることに対して全力で考えろ!

 剣と弾丸に特殊な能力を有しているのなら、まともに受けるとどんな効果が発揮されるかわからない。

 シールドを貫通する能力があることを考慮するなら、硬化機能を過信しては駄目だ。

 そう思った俺は、自分の愚かさを呪いながら、オートマチック機能を起動し、クイックアップを低減モードに移行。

 右手に震騎刀・左手に拳銃(ドーベルマン)を持たせ、襲い掛かってくる剣を刀で反らし、弾丸で弾丸を弾かせる。

 初撃の二振りと五十七発はなんとか防ぐことができたが、シールドを貫通して迫る次の攻撃は未だに増え続けており、このままでは防ぎ切れそうにない。

 だったら、後先考えるな、出し惜しみなんてしている状況じゃないだろ黒樹夜衣斗!

 『アクセレーター機能』起動!

 俺の命令と共に、両腕が低減モードのスローモーションの世界であるはずなのに、肉眼では捉えられない速度で動き出す。

 アクセレーター機能は、一時的に行動速度を上げることができる機能。

 強力な機能だが、肉体の限度を超えた速度を強制的に出させるので、通常以上に着用者に負担が掛かってしまう。

 その為、過剰にしようすると、使用個所の筋肉は切れ、骨が砕けるなどのダメージを受け、最悪準治療機能が間に合わない程のダメージを受け、その部分が使い物にならなくなってしまうリスクがある。

 とはいえ、そんなリスクを恐れている場合じゃない。

 途切れることがない第二波が殺到し始めた。

 王騎刀によって逸らされた剣が、次々と周りに突き刺さり、転がり落ちる

 拳銃(ドーベルマン)が撃ち出す通常弾(ノーマル)によって、弾かれる弾丸達が神社や木々に穴を開けた。

 剣の山が周囲にでき始め、弾丸の穴がハチの巣のようになると共に、両腕に激痛が走り出す。

 激痛が増すに従って、脳内ディスプレイにある俺の状態を示すデフォル絵の両腕が徐々に赤くなり始める。

 これ以上の痛みは思考に影響を及ぼすか、仕方ない。

 痛感カット!

 俺の思考に応えたPSサーバントが痛みを感じさせないようにしてくれたが、所詮一時凌ぎでしかない。

 このままではいずれ……まだ攻撃は途切れないのか!?

 本当に百万もの攻撃が繰り出され続けるのかと思った時、不意に攻撃が途切れる。

 オートマチック機能の一時停止により、俺の両腕がだらりと下がった。

 もはや腕の感覚はなく、自分で動かそうと思っても動かせられない。

 PSサーバントの外部人工筋肉が、強制的に両腕を動かしてくれていたのだろう。

 脳内ディスプレイに映るデフォル絵の両腕は真っ赤であるため、今このままPSサーバントを脱いだらとんでもないことになるのは間違いない。

 だが、両腕を犠牲にしてなんとか乗り切ることが――

 「「悪いが、まだ終わってないぞ?」」

 安堵し掛けた俺の耳に、自称最後の敵の言葉が入った。

 その瞬間、オウキの両腕が爆発する。

 当然その両腕に装着されていたシールドリング消失したので、黒光靄シールドも同時に消えてしまう。

 まずい!

 そう思った時には、俺の視界に剣と弾丸の壁が現れていた。

 剣先弾頭全てがこっちに向けられているその壁は、シールドに阻まれていたにも関わらず、その動きは止まっていない。

 ゆっくりとこっちに向かって迫る壁。

 もう、駄目なのか?

 両腕を犠牲にして防ぎ切った攻撃量の百倍以上でもまだ不足に感じるほどの密度に、俺は一瞬心が折れ掛けた。

 だが、まだ全てをやり切っていない! 諦めるな俺! そして、王鬼もだ!

 俺の呼び掛けに応えるように王鬼はその姿を巨大化させる。

 PSサーバント! ウィングブースター起動! セレクト! 王騎刀! 拳銃(ドーベルマン)

 マントを翼状の飛行装置・ウィングブースターに変え、俺は少しだけ宙に浮き上がった。

 同時に簡易格納庫ホルダーから飛び出した新たな王騎刀と拳銃(ドーベルマン)を左足と右足で受け取る。

 守護機騎シリーズ並びにPSサーバントの両足は、『守護機騎脚部システムマルチレッグ』というシステムにより、様々な形態に変化することができる。

 今使ったのはその中でも『ハンドフット』という足を手のように変化させるバージョンで、これを使うことによって足でも武器を持つことが可能になる。

 俺の両腕は既に限界だ。

 動きをほとんどPSサーバントの外部筋力で補っている状態では、万全な状態より動きが鈍るのは必然。

 なら、単純に手数を増やす為に足を使いやすいようにしようと思ったのだが、それだけでどうにかできる量か?

 巨大化した王鬼の身体が激しく揺れ出す。

 生じるのは爆発だけではなく、冷気や電撃、霧や光線など、あらゆる現象が王鬼の正面側で立て続けに発生する。

 その度に王鬼の黒光靄装甲が砕け、弾け飛び、黒い靄に戻って削られていく。

 王鬼の身体に当たらなかった剣と弾丸が、周りに次々と突き刺さり、穴を開ける。

 爆発しては凍り、土が飛び散っては一気に地面に叩き付けられ、木々が切り刻まれては歪な形でくっ付く。

 異常現象が次々と周りで巻き起こる中、一部の剣や弾丸が、その軌道を変えて俺に向かって殺到し始める。

 これを予期しての手数の増加だったが、塊のようになって襲い掛かる剣と弾丸の数に防ぎ切れると思っていた淡い希望すら砕かれた。

 だが、それでも、諦めるわけにはいかない。

 いかないんだぁあああああああ!

 俺の意思に応え、両手足が武器を振るい出し、その姿が掻き消えた。

 塊のようになって迫る剣と弾丸が次々と逸れ、弾かれる。

 だが、次の瞬間には、一本の剣が弾かれる剣と弾丸の中から飛び出してきた。

 硝子のように透明なその西洋剣に、通常弾(ノーマル)が当たっていないわけではなく、弾丸がすり抜けるのを俺は目撃する。

 「「ノーヒットソード。物理攻撃は効かないぞ?」」

 その自称最後の敵の説明と共に、足から放たれた王騎刀をノーヒットソードはすり抜けた。

 オートマティック機能が自動的にウィングブースターを操作し、心臓狙いの軌道から逃れるために横になった。

 その瞬間、ノーヒットソード軌道を変え、ウィングブースターの右翼を斬り飛ばしてしまう。

 自動制御システムが働き、片翼だけで飛行状態は維持されるが、それでも一瞬の揺れは致命傷だった。

 弾丸に弾丸を当てる行為は、人間ではできない精密な作業であり、事前の軌道は勿論、こっちの現状を計算に入れてなくてはならない。

 そして、刀の動きも、右腕と左足で振るっている以上、その範囲はどうしたって限られ、かつ、届かない場所が生じてしまう。

 故に、ノーヒットソード以外の剣が塊の中から飛び出し、刀の届かない左肩にばねのような剣が突き刺さる。

 突き刺さったばね剣が回転し始め、更に身体に喰い込もうとする。

 体内への侵入に反応した左腕が、拳銃(ドーベルマン)でばね剣を吹き飛ばし、少し穴が開いただけで済んだ。

 だが、それによって一瞬だけ弾幕が減ったことにより、左腕に弾丸が着弾。

 特に効果らしい効果は発生しなかったが、それでも硬化機能が起動してしまい、左腕の動きを封じられてしまう。

 左腕をカバーしようと右腕の王騎刀がさらに激しく動き、降り注ぐ十本の剣を斬り飛ばし、一本の鉄さびにまみれた長剣を砕いた。

 次の瞬間、右腕と王騎刀がまるで鉄さび剣と同じように砕け散る!?

 痛感がカットされているため、痛みはないが、激しく血と肉片を撒き散らす右腕の光景に、俺は一瞬気が遠くなりかけた。

 が、しっかりしろ俺! どうせすでにほとんど使い物にならなくなっていたんだ!

 右腕を失った肩が自動的に止血されると共に、

 「「道連れの錆び剣。効果は体感した通りだ」」

 忌々しくも剣の名前と効果の説明をする自称最後の敵に怒りが噴き出しそうになったが、ふと思う。

 それぞれ個別の剣の効果があるのなら、いや、弾丸もそうだが、襲い掛かってくる剣と弾丸はどうして俺に向ってこれる?

 目撃した剣や弾丸の効果は、一つに一つだった。

 複数の能力を有しているタイプの武霊能力ではないと考えるなら、つまり、どこかに方向操作の能力を有している剣か弾丸があるはずだ。

 全ての剣や弾丸がこっちに向かってこないことと、塊となって一定方向からしかこないということは、それができるのは一つのみということになる。

 どこだ! どこにある!? こっちがなんとか耐えきっている内に見付けないと!

 クイックアップ機能の低減モードを止め、ほぼ止まった状態になる通常モードに変更。

 肉眼と副眼カメラを使い、進む方向を操る能力を持つであろう剣と弾丸を探す。

 弾丸の効果は直接的で、着弾しない限り効果を発揮してなかった。

 だとすると、剣である可能性が高い。

 停止した状態で見ると、俺に向ってくる剣と弾丸は、まるで蛇のように連なっていた。

 つまり、その根本に注視すれば……あった!

 剣と弾丸が曲がる場所の中心に、球型コンパスのような刀身を持った大剣が浮いていた。

 あれさえ破壊すれば!

 そう思った瞬間、クイックアップ機能が唐突に切れた。

 急激に動き出す視界。

 目まぐるしく動く自分の身体に、俺の思考はついて行かなくなる。

 だが、それでも、狙え! あの球型コンパス剣を!

 果たして俺の命令は実行されたのか、俺にはわかりようもない。

 だが、まるでその答えであるかのように、命令を思考した瞬間に、胸に深々と大剣が突き刺さった。

 その勢いを片翼のウィングブースターが殺せるはずもなく、地面に張り付けにされてしまう。

 間に合わなかったのか?

 そう思うと共に視界に入る空の光景には、明後日の方向に流れて行く剣と弾丸の塊。

 ということは、球型コンパス剣の破壊には成功したんだろう。

 だが、一歩遅かった。

 胃から急速になにが込み上げ、ごぼりと吐く。

 口の中に広がるのは、鉄さびのような味。

 痛感をカットしているため、ショック死は免れたが、口から血が溢れ出るのを止められない。

 直ぐに止血が始まらないということは、心臓と肺が一緒に破壊され、食道に血が流れ込んでいるのかもしれない。

 くそ! こんな、ところで……死にた……くな――

 血を大量に失った為か、意識が混濁し始め、王鬼の具現化どころか、PSサーバントの維持すらできなくなり、元の服に戻ってしまう。

 その瞬間、胸の大剣が消失した。

 軽く落下した俺の身体が、バチャと地面に落ちる。

 どうやら血だまりができるほど血を流していたらしい。

 「「まあ、ギリギリ合格だな」」

 その言葉と共に、再び胸になにかが突き刺さる。

 なんとか動く眼球で胸元の方向を見ると、翼が見えた。

 癒しの翼剣……

 「「正直言えば、このままでは次の宿命の悪意を退けるのは難しいだろうな。起きたことに対して対処はできても、それは君の思考力・知識力に頼り切った形でだ。クイックアップ機能が使えなくなれば、途端に対応できなくなる。勿論、それ以前の問題として、予期しない攻撃や不意打ちの攻撃に対応ができなさ過ぎるし、後手に回り過ぎている。今回の高神麗華戦で、何度君は攻撃を見逃し、勝てるチャンスを逃した?」」

 そんなこと……言われなくたって……

 倒れ、強制的に治療させられているために声すら出せない俺に対して、容赦なく語る自称最後の敵。

 「「君のことだ。言われなくてもわかってはいるだろうが、心のどこかでこうは思ってなかったか? オーバードライブモードを使えば、どんな敵だってなんとかなるだろう。と。勿論、君の意識はそう思っていなかったかもしれない。だが、無意識では信じていた。いや、過信していたはずだ。何故なら、オウキは、君が作り出した君の根幹をなす幻想だからな。だが、幻想は所詮幻想でしかない。そして、君が今出せるオウキも、君自身が思い描いた幻想そのものではない。つまり、決して君が考えた物語のように必ず勝てる存在ではない」」

 重ね重ね言われなくてもわかることを言う。

 治療によって意識の混濁は薄れたが、代わりに全身にこれまで感じたことがない激痛が駆け回る。

 のた打ち回りたくても、癒しの翼剣によって地面に繋ぎとめられているため、動くこともできない。

 しかも、喉の中に血が溜まっているためか、叫ぶ代わりにごぼごぼと血が口から洩れた。

 酸欠で気絶しないのは、癒しの翼剣の影響か?

 痛みの中、冷静な自分がそう考え、自称最後の敵の言葉を聞き続けることに、己の異常性を俺は強く感じてしまう。

 否定する心が生じ、肉体的にも精神的にも苦痛に晒され始めている間も、自称最後の敵は言葉を続けている。

 「「現段階では星波町は勿論、星波学園の上位武霊使いにさえ勝てないだろう。当然、赤井美羽にも君は勝てない。今回勝てたのは、何度も言うようだが、なにもかもが君にとって有利に働いていたからにすぎないのだからな。それをより実感するためにも、一度は赤井美羽と戦ってみるといい。彼女は君と真反対な戦い方をするタイプであるが故に、丁度良い相手と言えるだろう。なにより、実戦はよい修練となる」」

 美羽さんが俺とは違うタイプだということは、僅かな共闘だが重々わかるし、彼女が強いのは当然だ。なんせ武霊使いとして先輩なんだからな。可能性として考えるなら。高神麗華を自称していた彼女が、今日のように逃げることをせずに向かってきていたのなら、美羽さんは勿論、幸野さんだけでも勝てていただろう。というか、これだけあんたに叩きのめせば、そんなことしなくても十二分にわか……

 激痛が収まり、口から血が出なくなって呼吸も正常にできるようになった途端、意志力回復の今日の限度を迎えたのか、それとも意志力供給をしていないのか、酷く眠くなり始めた。

 「「君が次の宿命の悪意に晒されるまでに、より強い武霊使いになっていることを祈るよ。君自身のためにも、そして、僕のためにもね」」

 意志力睡魔に晒され始めた俺の耳に、自称最後の敵が乗る電動車椅子のモーター音が聞こえ出し、それがゆっくりと遠ざかり始めた。

 完敗だ。

 別に調子に乗っていた訳でも、過信していた訳でもない。

 俺は俺の現在持てる限りのことをしたはずだ。

 後から思えば他にもやりようがあったかもしれないが、それは終わったからこそ出てくるのだろう。

 それが戦闘中に出てこなければ、意味がない。

 やはり自称最後の敵が言うように、無意識下で俺はオウキのオーバードライブモードを過信していたのかもしれない。

 何故なら、今更ながら模索すれば、使わなくてもなんとかなったはずだからだ。

 それを今思い付いたということは、オーバードライブモードに無意識に過信し、選択肢を自ら狭めていたということに他ならない。それでは駄目なんだ……それでは……

 そんな風に薄れる意識で考えていた時、不意に遠ざかるモーター音が止まる。

 「「最後に一つ。渇欲の悪意(・・・・・)はまだ(・・・)終わっていない(・・・・・・・)」」

 ……は?

 「「だが、これより先は、君が関わらなくても自然に消滅するだろう。だから、関わるか関わらないかは、君の選択次第だ」」

 なにを言って――

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