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武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
37/85

25、『星波神社』

 高神姉弟戦の経緯を話し終えた後、幸野さんは治療の終わった彼女を抱えてコロ丸に乗って病院へと向かっていった。

 その姿を見届けた後、俺と美羽さんは壊れた町の中を歩いて帰路についているのだが……俺にとっては初めての家であり、帰るという感覚よりようやくたどり着いたという感覚の方が強い気がする。

 考えてみると、家を出てから一日以上経っているんだよな……というか、

 「……病院に彼女を連れて行きましたけど、大丈夫なんですか?」

 「大丈夫って?」

 俺の問いに隣を歩いていた美羽さんが小首を傾げた。

 「……武霊を奪われたとはいえ、彼女は自分の欲のために人を殺す異常者です。そんな人物を病院に入院させるのはどうかと……勿論、武霊を奪われたことがはぐれ化と同じ現象を武霊使いに及ぼすと仮定するなら、長期間深い眠りに付く人間を置いておくには病院以上に最適な所はないでしょうが……」

 「どうして麗華の……って、夜衣斗さんの話だと、これって偽名なんでしたよね?」

 「……ええ、彼女の武霊の基となった作品・高神麗華は嗤うの主人公が高神麗華ですからね」

 「自分がそのキャラだと思い込むほど好きだったんでしょうか?」

 「……ただ好きで、真似だけしているだけならなんの問題もないんですけどね。どんな真意があったにせよ。彼女の犯した罪は重過ぎます……とは言っても、ここから先は俺達が関われる限度を超えてしまっていますからね……」

 「そう……ですね」

 なにか思う所があるのか、暫く沈んだ顔になってしまう美羽さんだが、掛ける言葉が見付からない。

 今日だけ襲われた程度の関係性では、どうしたって薄っぺらくなるだろうし、下手なことを言って余計な事態を引き起こす可能性だってある。だが、それは正しい選択なんだろうか?

 どうしたものかと思案していると、美羽さんはブンブンと頭を振るった。

 「とにかく、えっと、なんで武霊が奪われているって知っているんです?」

 「……美羽さんが自分で言ったじゃないですか?」

 「そ、そうでしたけ……」

 まあ、取り乱していたようだから、自分が口走ったことをよく覚えてないのはわからなくもないが、それはつまり、亮兄という人物はそれだけ美羽さんにとって重要で、因縁のある人物なんだろう。兄って言葉が付くぐらいだから、肉親か、幼馴染か……どちらであろうと、美羽さんが語らない限り、俺が踏み込むべき領域じゃないだろう。

 なので、俺は少々あからさまだが、そっち方面に美羽さんを意識させないように話を誘導することにした。

 「……それで、なんで病院なんです? 礼治を自称する少年に逃げられたという話もありますし、彼が彼女を奪還しようとする可能性だってあります。そこら辺を考えると、かなり危ないと思うんですよ」

 「え? あ、はい」

 ちょっとほっとした美羽さんの様子に、思わず苦笑し掛けたが、強引に顔を無表情にする。

 その俺の苦闘に美羽さんは気付いているのか気付いてないのか、

 「病院には犯罪武霊使いを想定した部屋が用意されているんです。武霊や武霊能力を相殺する武霊封じの文字が念入りに書かれた部屋とか、常駐しているお医者さんや看護師さんとかにも強力な武霊使いがいたりしますから、例え礼治が助けにこようと問題はないはずですよ。それに美春さんがいる商店街からも近いですからね。美春さんが相手なら一対一での戦いで勝てる武霊使いなんていませんから」

 なんだか自分のことのようにえっへんとする美羽さん。

 まあ、尊敬している感は明らかだし、ものすごく仲良しなのは確認しなくてもわかるから、そういう態度をするのはわからんでもないが……ん~僅かに見た幸野さんの強さは、確かに尊敬に値するとは思う。流石は自警団団長って感じだろうか?

 そんな風に思いながら歩いていると、本日二度目の星波商店街に辿り着いた。

 廃校舎からここまでに見た町の被害はすさまじく、全壊している民家や、ぼこぼこに穴の開いた道路など、かなり悲惨な状況で、当然商店街も同じ。

 だったのだが、商店街は普通に開いているし、行きかう人達は平然と買い物をしている。

 商店街の店舗もかなりの被害を受けており、中には二階が吹き飛んでいたり、外灯が圧し折れていたり、壁に穴が開いていたりしているんだが……主婦らしき人は八百屋と談笑しているし、小さな子供はそこらで走り回って遊んでいるし……せ、戦火の町かここは? いくらなんでも慣れ過ぎだろうが……俺としてはそこかしこに散らばっている商店街の各店のモチーフになっている白猫のオブジェとかが無残に壊れている姿を見ると、心が痛んでしょうがないんだが……まあ、明日か明後日には源さんにより直されると考えるなら、日常生活を優先するのは当然といえば当然だろうし、戦場となっている異国の町とかでも戦火に晒されながら日常生活を営んでいる姿とかをニュースの特集で見たことがあるから、非日常であろうとやがては慣れる物なんだろう。とはいえ、その慣れをまさか日本で、しかも、自分が見ることになるとは……一生縁のないことであることを願っていたんだけどな……

 そんなことを思いながら商店街をなにごともなく抜け、星波神社を視界に収めた時、ふと気付く。

 直前に何度も視界に壊れた白猫のオブジェを見たせいなんだろうが、

 「……星波商店街の店って」

 「はい?」

 「……白い猫を名前や看板などのオブジェモチーフにしていたものが多いですが、もしかしてこの神社の御神体だったりします?」

 俺の問いに、美羽さんは何故かキョトンする。

 「いえ、違いますよ? 星波神社の御神体は確か隕石だったはずです」

 ん? そういえば、ここら辺一体に星の名前が多いのは、よく隕石が落ちてきたからだってインターネットに乗っていたような。まあ、なんであれ、的外れな予想をしてしまった訳か……恥ずかしい。

 思わず赤面していると、美羽さんは小首を傾げた。

 「なんでそんな風に思ったんですか?」

 「……いや、だって、商店街の直ぐ近くに神社があって、ほとんどの店がモチーフにしているのなら、何かしらの基が、伝統的な存在があるって考えられるんですが……」

 「そうなんですか? ん~まあ、伝統というか、伝説的な存在ではあるんですけどね。『美魅(みみ)』様は」

 「……美魅様?」

 「えっとですね。星波町が村の時から星波神社に住み着いた白猫がいるんですけど、その猫に出会った女の子は、必ず幸運が訪れたり、その時に起きている不幸とかをなんとかしてくれるそうなんです」

 「……なるほど」

 まあ、そういう都市伝説的な話が町には一つ二つあっても不思議じゃないよな。そもそもここには武霊なんていう都市伝説を飛び越えた超常的な存在がいるわけだし、今更そんな話を聞いても驚きもしないし、不思議にも思わないな……それにしても美魅様ね。単純な名前というかなんというか……ん? 美魅?

 「……もしかして、美羽さんや幸野さんの名前に『み』が入っているのって、その猫の影響なんですか?」

 俺のなんとなくの思い付きに、美羽さんは目を丸くして驚いた。

 「よく気付きましたね。夜衣斗さんの言う通りですよ」

 「……出会った町の女性で、二人も似た名前を聞けば、違和感を覚えますよ。まあ、ただの偶然だとさっきまでは思ってはいましたけどね」

 「え~っとうちのお母さんが産まれた頃から、美魅様の存在が町中に広まって、美魅様が生まれた子の前に現れますようにとか、もの凄く綺麗な白猫の美魅様みたいな女の子になってとか、現れた時からずっと同じ姿をしていることから長生きしてねとか、色々とあやかってみを女の子の名前に入れるのがブームになったそうなんですよ。っで、実際にみを入れた女の子の前に美魅様が頻繁に現れるようになったから、星波町に住んでいる人の中で女の子が生まれたら半ば慣習みたいにみが名前に付けられるようになったって話です」

 「……美羽さんは見たことがあるんですか?」

 「いえ、美羽はないですね。お母さんは見たことがあるみたいなんですけど……そういえば、武霊が発生するようになってから全然見かけなくなったってお母さんが言ってました」

 ふむ? となると、なにかしら武霊に関係あるんだろうか? 星波町が村の時から住み着いているとか、ずっと同じ姿で長生きしているとか、そういう情報を総合すると、普通の猫って感じじゃないしな。まあ、よっぽど遺伝子が安定した猫って可能性も捨てきれないから、変に勘ぐり過ぎるのは良くないな。まあ、調べるにしても……

 「……その猫が現れるのって女の子の前だけなんですか?」

 「みたいですよ」

 これじゃあ俺の前に現れる確率は低いな。ん? ってことは、

 「……オスなんですかね?」

 「いえ、メスみたいですよ?」

 ……百合ネコか? ユリは猫にとって毒なはずなんだがな……って意味が違うだろうが!

 などとセルフツッコミをしている間に、星波神社を通り過ぎようとした。

 その時、不意に着信メロディが聞こえ出した。

 俺ではない。というか、俺のスマフォは最初の設定の電子音のままにしてあるし……いや、そもそも俺のスマフォは春子さんに奪われたまんまだったな……まあ、別にみられて困るようなことは入っちゃいないが、気分のいいものではないな。今更だが。

 まあ、とにかく、俺ではないということは、美羽さんということであり、確認すると既にスマフォを取り出して電話中だった。

 星電ではないってことは、普通の用事だな。

 友達からだろうか?

 なんてのんきに思っていると、美羽さんは深いため息を吐いて、俺を見た。

 な、予想外に俺に関係あること?

 「春子さんが夜衣斗さんの歓迎会用のケーキを買い忘れたんですって」

 「……それを俺に言っちゃいます?」

 「もうばれちゃってますし」

 「……そりゃそうですが……」

 「美羽、今から商店街の方に戻って、ケーキを買ってきますから、夜衣斗さんはそこの」

 横ある星波神社を指差す美羽さん。

 「境内で待っててくれます? 座る場所もあそこにあるはずですから。じゃあ、ちょっと行ってきますね」

 そう言って、俺の返事を待たずに美羽さんはさっき通り抜けた商店街に戻って行った。

 即決即断即行動はいいが、一々思考を挟む普段の俺では、ちょっとあのテンポというか動きについていけない時があるな……

 思わずそんなことを思いながら美羽さんの背中を見送った後、俺はため息一つ吐いて星波神社に向かった。


 星波神社は、十段程度の短い階段を上がった先にある周囲を林に囲まれた神社だった。

 若干薄汚れた鳥居をくぐり、階段を上って境内を見回してみる。

 石造りの参道に、左側に手水舎、適度な間隔で配置されている灯籠はあるが、それ以外はなぜか狛犬すら設置されていない本殿以外なにもない。

 どうやら神主とかがいない類の神社らしい。

 後継者問題とか、経営不振とかどこかと兼務とか、色んな理由でそういう神社があるって話を見たことがあるが、だからこそ分裂体の被害らしい被害がないのか? ……まあ、なんであれ、ちょっと休むには都合がいいな。

 俺は座れそうな本殿に近付き、一応の祀られている神様に失礼にないように鈴を鳴らし、財布に入っていた五円玉を賽銭箱にそっと入れ、二礼二拍手一礼。

 少しの間お世話になります。ついでに、これから俺に降り掛かるという死の運命をできる限り遠ざけてください。

 と、うろ覚えな参拝方法で、一応神頼みもしてみる。

 あ、考えてみると鳥居をくぐる時とか、手水舎とかにも作法があったような……まあ、これでどうにかなったら、とうの昔に武霊もどうにかなっているだろうし……うん。深く考えるのは止そう。

 そんなことを思いつつ、本殿に入るための階段をちょっと上がる。

 格子状の扉から少し見える本殿内部には、確かに隕石らしきものが大事そうに高級そうな座布団の上に置かれて鎮座していた。

 ん~日本は色々な神様を祀っているって話は聞いたことがあるし、確か、同じように隕石を祀っている神社もどこかにあるって話を聞いたこともあるようなないような。まあ、どうでもいいか。とりあえず座ろう。

 思考を放棄して、俺は階段最上段に腰掛けた。

 と同時に大きく息を吐く。

 なんかどっと疲れが出てきた。

 考えてみると、病院を出てから、喫茶店で昼食を取った時以外はずっと動きっぱなしだもんな……

 なんとなく空を見上げてみると、少し空色が赤くなり始めていた。

 そろそろ夕方なのだろう。

 どれだけの時間戦っていたかよくわからないが……よく生き残れたな俺は……

 思い起こすのは、今日一日の出来事。

 病院から始まって、美羽さんの町案内、星波橋で高神姉弟に絡まれ、廃校舎に転送されて姉と戦闘になり、武霊の基の原作に気付いてなんとか倒した後にすぐに捕まり、精神世界? でオウキを奪われ掛け、ハッカーサーバントで奪い返して町を覆う程いる分裂体を倒しまくり、精神世界で彼女に接触したおかげかなんかで脱出できたと思ったら、なんか妙に俺に執着されるし、疑似レベル2だの、意志力回復薬だのまあ、次から次と窮地の連続を予測しつつなんとか乗り切り、ギリギリの所で倒し切ったかと思ったら、今度はブルースターに横取り的に彼女の武霊を奪われ……激動過ぎる。どこのラノベさんですか? まったく……昨日の窮地がたった一日で霞むほどの出来事だな……まさかこんなことがずっと続くってわけじゃないよな? まあ、明日も同じようなことが起きないとは限らないし…………オウキに予知能力とか持っている設定にすればよかったな……いや、考えてみると、予知能力は割とポピュラーな能力設定だから、探せば武霊使いの中にそういう武霊を持った人がいるかもしれない。って、その人を俺の死の運命に巻き込む気か? それに、未来を予知するという行為は、なにかしらのリスクを持っている描写が多いし、それほど便利というわけでもなかったり、未来は変えられなかったりと、色々とデメリットがある設定が多いからな……迂闊には頼めない……が、どうにかして死の運命に関することを知る手段が欲しい。だがどうや――

 「「教えてやろうか?」」

 は?

 没頭していた思考を遮るように、妙に耳に入る声が聞こえた。

 意識せざる得ないほど特徴的なその声は、抑揚がなく機械的。

 人工音声か?

 そう思った瞬間、

 「「正解だ」」

 そう俺の心の中の言葉(・・・・・・)を肯定する人工音声。

 ぞわっと一気に全身の毛が逆立った気がした。

 心を読まれている!? 誰だ!

 周囲を確認するために、勢いよく立ち上がろうとした瞬間、オウキの両腕が勝手に具現化し、俺を庇うように腕をクロスさせた。

 防御具――

 オウキの防御具現に驚くより早く、俺の胸になにかが刺さった。

 う、嘘だろ……

 クロスしているオウキの腕がちょうど重なっている部分から、細長の両刃刀身が飛び出し、俺の胸に深々と突き刺さっていた。

 しかも、背中にも違和感を感じさせている。

 貫通……しているのか? オウキの腕を越え、俺の肉体も簡単に貫いて?

 オウキの腕の向こうに見えるのは、三対の白い翼。

 それがオウキの腕にくっ付くように止まっているので、白い翼の正体は鍔だとわかったが……まずい、まずい!

 セレクト! ヒーラーサーバント!

 部分具現化でヒーラーサーバントを出し、同じく部分具現化しているオウキの腕は俺から剣を抜こうと前に動こうとする。

 だが、ヒーラーサーバントとオウキの腕は、四発の銃声と共に霧散化してしまう。

 くそ!

 刀身に両手で挟み込み、なんとか抜こうとして思い留まる。

 このまま抜けば血が一気に吹き出し、瞬く間に出血死しかねない。というか、胸のこの位置って……心臓の上じゃないか!? いや、即死してないってことは、外れているのか?

 今更ながら、刀身が自分の心臓近く? に突き刺さっていることに気付くと共に、前の方からモーター音が聞こえ出した。

 反射的に目を向けると、そこには電気車椅子に乗った壮年の男性。

 太く濃く長い眉に、強い意志を感じさせる大きな目。

 少々無骨な顔に、無造作に肩まで伸ばされた黒髪。

 全てが真っ白なスーツ。

 ノートパソコンが二台収納されている電動車椅子。

 色々と目を引くところがある男だが、なにより気になる所があった。

 それは喉元。

 そこには、よく死ななかったなと思うほど酷い傷跡があり、まともに喋れなさそうに見えた。

 その男が電動車椅子に取り付けられているノートパソコンを打つ。

 すると、

 「「初めまして黒樹夜衣斗」」

 と人工音声がノートパソコンから流れた。

 あんたがこの剣の持ち主か!? なんでこんなことを! というかいきなり現れて! なんなんだあんたは!

 俺の心の中の激怒の疑問に、その男は苦笑した。

 「「僕かい? 僕は君の『最後の敵だ』」」

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