22、『王鬼』
オウキが王鬼となると同時に、疑似レベル2達が一斉に動く。
右にいたガジラが放射能熱線を放ち、左にいたファーストゴンダムがビームライフルを連射。
が、その矛先は王鬼ではなく、コウリュウだった。
コウリュウは周囲に散っていた防御鱗を二つに分け、二枚の鱗の壁を形成。
サイドにできた鱗の壁により、二体の攻撃を防ぐことはできた。
だが、それが隙になってしまい、少しタイミングをずらした残りの三体の動きにコウリュウは反応できない。
前にいたごちゃませロボットが、両腕を飛ばしてコウリュウの翼を掴み、後ろのエブン初号機が、尻尾を掴んで身動きを封じる。
そして、ごちゃまぜロボットの後ろにいたメガネウサギの眼鏡が輝き、その正面に光の扉が現れた。
上空にも同じ光の扉が現れると共に、メガネウサギはそれに飛び込み、地面から空へと一気に瞬間移動する。
って、また踏みつけか!? というか!
「無視すんな!」
俺の不自然な激昂に美羽さんが驚きの表情になると共に、メガネウサギとコウリュウの間に黒い翼を広げた王鬼が割って入った。
メガネウサギは足元からの落下を止め、反転し、頭を下にして王鬼に顔を向けた。
眼鏡が輝くと共に、円錐状の光の障壁が発生し、王鬼を突き刺さんばかりに急降下してくる。
「受け止めろ!」
光の障壁と激突する寸前、王鬼が僅かにそれ、円錐先端を抱えるように受け止めた。
自然落下以外のなにかしらの力が加わっていたのか、王鬼の黒いウィングブースターが一気に大きくなる。
その瞬間、立っていられないほど意識が薄れ――
「夜衣斗さん!?」
慌てて美羽さんが支えてくれたので、倒れることはなかったが……無理矢理怒ってもやっぱり回復しないか……
「顔色が……どうしてこんな急に……あの姿のせいですか!?」
「ええ……」
美羽さんの問いに、俺は正直に頷いた。
『オーバードライブシステム』は、王継戦機内で守護機騎シリーズが使う切り札の一つ。
動力源であるライオンハート機関をフルドライブして、限界以上の活動を可能にするシステムだ。
ライオンハート機関は契約者の意志力をエネルギーやナノマシンに変える装置であるため、契約者が起きているだけで負担なく通常の活動が可能なように設定・制限されている。
それは同時に、フルドライブによってライオンハート機関から生じる莫大なエネルギーと負担から契約者のみならず、守護機騎の機体を守るためでもあった。
契約者の意識に支障が出るほど意志力を喰らい、発生したエネルギーとナノマシンは機体から出さなければいけないほど溢れ、溢れた余剰エネルギーを周囲に被害を出さないように固着させれば、その下の機体は新たに発生し続けるエネルギーによって壊され始めてしまい、それを同時に出ているナノマシンで強引に修復するので致命的な破壊にはならない。
が、契約者の意志力は限りがあるし、直す速度より壊れる速度の方が早いので、いずれは自滅してしまう。
直すより壊す方が早いのは自明の理だと、リアリティを求めて付けた設定だったが、今思うとクイックアップ機能同様になんでそんな設定にしたのかと後悔してやまない。
そんな諸刃の剣的なシステムだが、これによって生じる機体性能は、通常の何十倍、契約者によっては何百倍にもなるほど強力。
当然、機体性能が上がれば上がるほど、掛かる負担は大きくなり、活動時間、ナノマシンの自己修復限界が訪れるのが早くなる。
まさしく切り札の名の通り、これで何度も窮地を切り抜けさせているが、その度に大破した機体の修復のための長い眠りに就かせていて……いわゆる物語の転換期によく使っていた。
まあ、このオウキは武霊だから、大破しても再具現化すればいいだけの話だし、クイックアップよりデメリットは少ないだろう。
そう思って使ったんだが、ヤバい。これは物凄くヤバい!
ただ攻撃を防いでいるだけだっていうのに、ゴリゴリ意志力が削られている感じがする。
これでは戦わせるどころか、この状態を維持することすら難しい。
くそ! どうする! どうする!?
コウリュウは四体の攻撃に晒されて身動きが取れない。
攻撃するにも意志力が足りないのか、ブレスを吐く素振りすら見せていなかった。
もう俺しか戦えるのがいないっていうのに……
こちらがこれ以上なにもできないことを見越してなのか、じりじりと四方と上から迫ってくる疑似レベル2達。
なにが任せてくださいだ。くそ! 情けない……こんなことなら逃げ――
自分の行動に対して後悔に襲われそうになった時、俺を支えてくれていた美羽さんが唐突に抱き着いてきた。
真正面から腕を背中に回し、十センチぐらいある身長差から、顔を俺の胸に埋めるように強く強く抱き寄せる。
その瞬間、急激な意識の薄れが収まった。
さっきの美羽さんとの接触で、今日のコミュニケーションによる意志力の回復量は低減していると思っていたんだが、どうやら加減や方向性によって回復量は随分違ってくるみたいだ。
とはいえ、それでも意識の薄れはまだあるし、それが少しづつ強まっている感じがする。
この感じだと、この状態も長くは続か――
「逃げましょう夜衣斗さん。もうこれ以上は、美羽達だけでは無理です」
俺の思考を遮るように美羽さんが俺の胸の中で声を上げる。
その声は、回復限界が訪れているのか、その美羽さんの声に元気はなかった。
それでも、俺をこれ以上進ませないためにか、辛そうにそれでいて早口で言葉を続ける。
「夜衣斗さんは凄くても、武霊使い初心者です。加減とかそういうのを知らないそんな人が、これ以上意志力を消費したら、意志力切れになって……もしかしたら一年以上目を覚まさなくなるかもしれません! そんなこと、そんなことを夜衣斗さんにはさせられません! 元々、麗華の問題は町が解決しなくちゃいけない問題なんですから、夜衣斗さんが無茶をしてまで戦う理由なんてないはずです。大丈夫です。こうしたおかげで、もう一回だけなら再具現化する余裕ができました。だから、この状況ぐらいなら逃げ切るくらいできます。それに、残り五体だけなら、美春さんがなんとかしてくれますよ。ああ見えて、美春さんはとても強いですから」
確かに分裂体越しに見た幸野さんはとんでもなく強かった。が、美羽さんと同じように一昨日からはぐれと激闘を繰り広げているはずだ。そして今回の大量の分裂体を相手にしたと考えるなら、美羽さんの今の様子を鑑みても、幸野さんの意志力も少なくなっていると考えるのが自然で、それは他の自警団員の人にもいえることだろう。そんな状態で彼女が大量の自立分裂体達と合流したら、倒すことができても、倒し切るまでに被害が出るのは確実だ。場合によっては意志力切れによる人的被害も出る可能性もあるし、最悪、全滅という可能性だって否定できない。
俺も美羽さんの早口につられてか、素早くそう思考していると、美羽さんが俺の胸から顔を上げた。
「…………だから、これ以上無茶をしないで」
そう言う美羽さんの顔は、苦渋に満ち溢れていた。
ああ、美羽さんもわかっているんだ。
ここで止められなければ、町に被害が出るってことを……
どれだけの辛い決断だったんだろう?
どうして町の人ではなく俺を選んでくれたのだろう?
美羽さんの中で、どんな葛藤があったのか俺にはわからない。
だが、きっと彼女を殺すと決意した時より辛い決断をさせてしまった。
高々昨日今日会った俺と、ずっと住んでいる町の人達で天秤を掛けさせてしまったのだから、それは間違いようもないだろう。
正義感からか、責任感からか、俺を守ると言ってくれた言葉からすると、保護欲かもしれない。
なんであろうと、こんなに優しくて、強い人を俺は知らない。
ぞわっと俺の中から、自分に対する恥や怒りが、叱咤拒絶する感情が湧き上がる。
守るって思った。
いや、誓ったんじゃないのか?
情けない。本当に情けない。
直前まで思っていた誓いに等しい思いを、高々一年そこら寝るだけで放棄しようとするなんて……ああ、なんて俺は……
「や、夜衣斗さん!?」
思わず俺は美羽さんを強く強く抱きつき返してしまった。
驚く美羽さんの声が耳に入るが、それを止めようと思う心が生じない。
俺は選択した。
俺も、美羽さんも、誰も、麗華さえも、殺させない、殺しはさせない。
そう選択したんだ!
だから! 俺の意志力なんて気にするな! 後のことなんて考えるな! 今はただただ!
天を見上げ、メガネウサギの円錐シールドを受け止めている王鬼を睨み、
「俺の選択に応えろ! 王鬼ぃいいいいいいい!」
有らん限りの力を振り絞って叫んだ。
その瞬間、メガネウサギの円錐シールドがひび割れはじめた。
同時に、俺の意識の薄れが加速し始める。
「ダメよオウキ!」
美羽さんが制止の叫びをあげるが、いい! そのまま砕け王鬼!
そう思った瞬間、王鬼は円錐シールドから腕を放した。
「は?」「え?」
俺と美羽さんが思わず間抜けな声を上げると共に、驚嘆するメガネウサギがこっちに急降下し始める。
なにを――
問いを考えるより早く、王鬼は通り過ぎるメガネウサギの腹めがけて突撃した。
「ええ!?」
美羽さんが驚きの声を上げると共に、メガネウサギが斜め上に吹き飛ぶ。
王鬼が突撃した腹部にも光の円錐シールドは展開されていた。
だが、王鬼の頭部がぶつかった瞬間、シールドは砕け散り、そのまま腹に突き刺さった。
よし! 王鬼ならやっぱり疑似レベル2に通じる!
俺と同じものを目撃した美羽さんが呆然としているのが気になるが、まあ、それは当然だろう。
二体を間に挟んだとはいえ、コウリュウの最大の攻撃を防がれた光の壁をレベル1の王鬼がただの体当たりで破ってしまったのだから。
しかも、
王鬼の体当たりで吹き飛んだメガネウサギが、ゆっくり弧を描きながら海の方へ落ちながら、霧散化して消えた。
これを目撃したら、絶句するしかない……か?
なんであれ、残り五体。
上空に黒いウィングブースターを広げて留まる王鬼。
王鬼自身はなんのダメージも受けていない。
流石オーバードライブモード。
だが、物凄く意識の薄れが緩慢になった途端、急に眠くなってきた。
眠い! くそ! 今すぐ横になって寝てしまいたい強烈な欲求がどんどん襲ってくる。
身体が不足した意志力の補充を求めているってことなのか!?
駄目だ駄目だ! 寝るな俺!
俺の眠気への必死な抵抗を余所に、残りの分裂体が一斉に動き出した。
エブン初号機がコウリュウの尻尾から手を放し、虚空から刀を取り出す。
って、そんな能力ないだろうが! これも追加能力か!?
解放されたコウリュウの尻尾が振るわれると同時に、エブン初号機が王鬼に向けてジャンプした。
コウリュウの尻尾が空を切ると共に、波紋シールドの力が加わった斬撃が王鬼に襲い掛かる。
「セレクト! 震王刀!」
王鬼の右腰装甲が弾け、黒光靄を撒き散らしながら震王刀が強引に飛び出す。
飛び出した震王刀を王鬼が握った瞬間、柄から刀身に腕の黒光靄が纏わり付き、禍々しい黒い刀と化した。
「伸ばし切り裂け!」
二振りの刀が空中で激突し、拮抗する。
かに見えて瞬間、震王刀の刀身が一気に伸びた。
王鬼の装甲と同じ黒光靄が固まって形成された刀身は、その切れ味を急上昇させる。
故に、エブン初号機の刀を切り裂き、波紋シールドを切り裂き、身体をなんの抵抗もなく真っ二つにした。
肩から脇に掛けて切断されたエブン初号機が、斜めにずれると共に霧のようになって散る。
残り四体。
ビームライフルの射撃を止めたファーストゴンダムが、俺を捕まえようと迫り、腕からビームサーベルを展開する筒を取り出す。
一気に接近したファーストゴンダムが、筒から青いビーム刀身を出し、左の鱗壁を斬り裂く。
バラバラになった鱗壁を体当たりで吹き飛ばしながら、更にこっちに突撃しよとするファーストゴンダム。
迫る敵に、コウリュウは翼を掴まれながらなんとか反撃しようと、尻尾を振るう。
だが、ファーストゴンダムは、襲い掛かる尻尾をビームサーベルでなんなく斬り飛ばしてしまった。
苦悶の咆哮を上げるコウリュウ。
「コウリュウ駄目!」
尻尾を斬り飛ばされた怒りからか、美羽さんの制止を無視して、咆哮で開いた口からレーザーブレスを放ってしまう。
ただし、狙いは何故か翼を捕らえているごちゃまぜロボット。
先に拘束を解いて、ファーストゴンダムを殴ろうとしたのか?
だが、横からガジラが青い放射能熱線を放ち、レーザーブレスを相殺!? で、デタラメすぎるが、十分な時間稼ぎになった!
コウリュウがレーザーブレスを放った影響か、力の抜ける美羽さんを強く抱きなおすと同時に、王鬼が黒い閃光となって地面に落ちる。
落下に伴って放たれた斬撃が、コウリュウに直前まで迫っていたファーストゴンダムに襲い掛かったが、いつの間にか二刀流となったビームサーベルにより防がれてしまった。
二刀流の影響か、俺の意志力低下が原因か、今度の斬撃は拮抗をみせてしまう。
いや、違う。もう限界か!?
そう思った瞬間、震王刀がなんの前触れもなく爆発四散した。
咄嗟に背を向け、美羽さんを庇わなきゃいけないほどの爆風が襲い掛かり、身体が浮きそうになる。
必死に踏ん張ってなんとか吹き飛ばされずに済んだが、コウリュウの念動力も弱まっているのか、それとも爆発が至近距離過ぎたのか?
どっちであろうと、それだけ強力な爆風を至近距離で受けた王鬼がただで済むわけがない。
そう思った俺は、慌てて脳内ディスプレイで王鬼の状態を確認すると、動作エラーを示すモザイク文字が出ていた。
そのエラーは一瞬だけだったが、その隙をごちゃまぜロボットが逃さなかった。
胸部ライオンの口を輝き、ファーストゴンダムが飛び退くと共に、破壊光線が発射されてしまう。
極太の光線がコウリュウのすぐわきを通り、俺と美羽さんは熱と衝撃波に襲われる。
が、今度は念動力を強めてくれたのか、震王刀の爆発ほどの影響を感じず、踏ん張らなくても吹き飛ばされずに済んだ
しかし、極太光線の直撃を受けた王鬼は、周囲の土と木々が吹き飛んだことにより生じた土煙のせいで、姿を確認することができなくなってしまっていた。
「夜衣斗さんオウキが!」
「大丈夫。この程度なら……」
土煙の間近で立っていたファーストゴンダムの背中が、不意に爆発する。
いや、正確には黒い巨大な腕がファーストゴンダムの胸を貫いていたことによる爆発。
「今の王鬼にダメージなんて与えられませんよ」
巨大な腕は更に進み、土煙の中からオウキが飛び出すと共に、ファーストゴンダムは弾けるように霧散化して消えた。
黒いウィングブースターを広げ、ファーストゴンダムがいた場所に留まる王鬼のその姿は無傷。
ただし、その右腕を巨大化させている変化はある。
オーバードライブモード時の『黒光靄装甲』は、ライオンハート機関から発生したエネルギーとナノマシンによって強引に構築されているものであるため、出力を調整するれば、震王刀のように武器や兵器に纏わして、その攻撃力をあげることができるのは勿論、王鬼の姿を巨大化することもできる。
ただし……
不意に、王鬼の巨大化した右腕が爆発する。
震王刀と同じように四散し、跡形もなく消えてしまった。
ナノマシンによる修復が常に行われている本体なら、黒光靄によるダメージはある程度耐えられる。
だが、その機能が付いていない武器や兵器は、強化すれば掛かる負荷に耐え切れず壊れてしまい、機能が付いていても、過剰に纏わせれば壊れてしまう。
切り札である由縁だが、残り三体! 頼む! 持ってくれよ!
「一気に決着付けるぞ王鬼!」
俺の叫びに応え、王鬼が黒いウィングブースターを巨大化させる。
レーザーブレスの相殺をし終えたガジラがバーニングと化し、王鬼に向けて破壊力が増した赤い放射能熱線を吐いた。
翼を大きくしている最中の王鬼は避けられるはずもなく、赤い熱線に飲み込まれる。
唯一飲まれていない翼が羽ばたくように位置調整し終えた瞬間、熱線をくだるように一気にガジラへと突撃した。
途切れることなく続く熱線が吐かれる口に、王鬼の身体が突っ込み、そのまま通り過ぎる。
頭部が半ば吹き飛んだガジラはゆっくりと倒れ、地面に上半身が付く前に霧となってきた。
残り二体!
ガジラを倒した勢い殺さずに王鬼は旋回。
そのままごちゃまぜロボットに突撃した。
だが、ガジラを倒している間に、ごちゃまぜロボットは両腕をコウリュウの翼から戻していたため、ウィングブースターを掴まれ、ぶち当たることができなかった。
それでも王鬼の出力の方が上だったため、ごちゃまぜロボットの位置が後ろへと下がり始める。
よし! だったらこのまま活動限界領域まで押し込んでしまえ!
そう命令した瞬間、ごちゃまぜロボットの両腕に付けられたシリンダーが、腕の中に撃ち込まれる。
それによって生じた衝撃が、腕を通り、爆発的な衝撃となってウィングブースターを千切り飛ばした。
「まだだ!」
俺の叫びに応えた王鬼が、全身を巨大化させる。
地面を蹴り、巨大化した左腕を突き上げるようにごちゃまぜロボットの胸に放つ。
その瞬間、ごちゃまぜロボットは足に付いたローラースケートを起動し、足元の木々をなぎ倒しながら一気に後ろに避けてしまう。
僅かに触れた黒い拳が、ごちゃまぜロボットの胸部ライオンの頭部をごっそり削るが、致命傷にまで至ってないのか、霧散化しない。
お返しとばかりに、腕を上げきった王鬼に向けてダブルチェーンパンチが放たれる。
発射された両腕が、王鬼の胸に突き刺さると同時に、再びシリンダーが撃ち込まれてしまう。
衝撃が王鬼の身体を突き抜け、背後の木々を砕き、吹き飛ばす。
受けた場所の黒光靄装甲の一部が砕け、元の黒い靄に戻り盛大に周囲に撒き散らされると共に、王鬼が膝を突こうとする。
同時に、俺の意識がぐらっときた。
慌てて美羽さんは力を込めてくれるが、その力は弱く、身体が傾くのを止められない。
駄目だ。時間がない。ここで手間取るな!
「負けるな王鬼ぃいいいいいい!」
俺の思いを乗せた叫びに、膝を付きかけた王鬼が踏ん張り、左手で戻り掛けていたチェーンパンチの鎖を握った。
そして、そのまま倒れそうな勢いを利用して体全体を回転させ、ごちゃまぜロボットを引き寄せる。
ごちゃまぜロボットが引き寄せられる勢いによって宙に浮いた瞬間、鎖を離し、王鬼も飛ぶ。
二体のロボットが空中で交差する瞬間、ごちゃまぜロボットは残っていたライオンの口から光線を発し、王鬼はその光線に対して更に巨大化させた拳を打ち込んだ。
「いっけええええええええええ!」
光線を弾きながら、ごちゃまぜロボットの胴体に王鬼の拳が突き刺さる。
その勢いのままごちゃまぜロボットを地面に叩き付け、木々と土を吹き飛ばして削りながら止まった。
次の瞬間、更なる巨大化させた影響で、王鬼の右腕も爆発してしまう。
そのおかげで、爆発に巻き込まれたごちゃまぜロボットは、内部から吹き飛び、消えてなくなった。
これで残り一体。
彼女のドレスとなっているペットスライムの本体だけだ!
そう思った瞬間、
「夜衣斗さん!」
呼び掛けにハッとなった俺は、美羽さんを見ると、何故か横を向いていた。
緊迫したその横顔に反射的に視線の先を追うと、そこにはコウリュウの背中に今まさに着地した彼女。
まずい! 疑似レベル2ばかりに気を取られ過ぎていた!
コウリュウの背に着地すると同時に、一気に彼女は駆け出す。
俺に向かって。
相手は武霊を身に纏っている。なにも着ていない美羽さんを巻き込むわけには!
咄嗟に美羽さんを突き飛ばすように離し、俺は腰の簡易格納ホルダーに手を伸ばした。
「セレク――」
しかし、PSサーバントの武装を出すより、彼女の体当たりの方が早かった。
抱き着くような体当たりに、俺は踏ん張って抵抗しようとした。
その瞬間、彼女との接触でも意志力の回復が起きたのか、意識の薄れが一瞬だけ消え、生じた落差から力を上手く入れられなくなる。
結果、彼女の勢いを殺せなくなった俺は、コウリュウから一緒に落ちそうになり、
「夜衣斗さん!」
こっちに手を指しのばす美羽さんの姿を見ながら、俺は彼女と共に転落してしまった。