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武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
33/85

21、『切り札と切り札』

 「いいですか美羽さん。意志力はできる限り節約しながら倒さなくてはいけません。レーザーブレスをSP弾で開けたバリア穴に叩き込んだみたいに、臨機応変の協力攻撃が要です」

 「はい! 任せてください!  美羽はこう見えて武霊部の戦闘担当ですから、そういうの得意なんです!」

 なにその担当? 喫茶店で言っていたのはこのことか? ま、まあ、とにかく、

 「頼りにしています。弾幕を止めますよ!」

 「はい!」

 オウキがガトリングミサイルポット(ウロボロス)の連射を止めると同時に、コウリュウは上空へと上がろうとした。

 だが、急にガクッときて、上昇が止まった!? オウキ!

 オウキに下を確認させると、コウリュウの両足を掴む鋼鉄の両手があった。

 ごちゃまぜロボットの両腕だ理解すると同時に、木々の隙間から飛び出しているチェーンと繋がっているのに気付いた。

 よくよく確認させると、地面に開いた穴からチェーンが出ているので、爆発に晒される中、手をドリルとかに変えて掘り進めていたとか? 本当にごちゃまぜだな……

 そう思いながらごちゃまぜロボットを見ると、今まさにチェーンが出ている腕を引き抜こうとしていた。

 まずい! 引っ張られる!

 「オウ――」

 「平気です! 逆鱗剣! 二本!」

 美羽さんの命令に応えたコウリュウが、喉に手を当て、鱗でできた二振りの剣を取り出した。

 そんな能力まで追加してるのか!? 鱗飛ばすとかも赤竜物語にはなかったはずだったよな?

 思わずそんなことを考えている間に、コウリュウはチェーンを切り裂く。

 普通のレベル2と疑似レベル2だと、やっぱりコウリュウの方に分があるか。なら、サポートに徹するぞオウキ!

 「弾頭セレクト! SP弾+爆裂弾(エクスプロージョン)

 「防御鱗・傘」

 コウリュウが飛ばした鱗を前方上に展開すると同時に、強烈な弾ける音。

 上空にいるオウキが、こっちに落下しながらアサルトライフルを乱射しているエブン初号機を目撃。

 いつの間にジャンプしていた!? 下はこれの誘導だったのか? というか! 上なんか見てなかったはずの美羽さんはよく気付くことができって違う! 人のことを感心している場合か! オウキ!

 SP弾+爆裂弾(エクスプロージョン)の装填が完了すると共に、ガトリングミサイルポット(ウロボロス)を連射させた。

 ばら撒かれる小型ミサイルをエブン初号機がアサルトライフルで射ち落そうとするが、途切れることなく供給されるガトリングミサイルポット(ウロボロス)の連射率の方が高い。

 また、守護機騎が使う小型ミサイルには自動追尾機能も付いているため、直線的に狙わなくても対象に命中させることができる。

 デタラメな方向に撃ち出された小型ミサイル達が、エブン初号機通り過ぎ、明後日の方向に飛んで行く。

 だが、直接狙った小型ミサイルを撃ち出した瞬間、先にデタラメに撃ち出した方が反転・迂回し、エブン初号機へ一斉に殺到した。

 四方八方から同時に迫る小型ミサイルを、アサルトミサイルで全て射ち落すなんて無理。

 なはずだった。

 アサルトライフルの弾幕を抜けた小型ミサイル達が、エブン初号機に着弾しようとした時、無数の光線が走った。

 それがビームだと理解すると同時に、十数発以上の光線がエブン初号機に直撃。

 フレンドリーファイア!?

 と思った瞬間、直撃した個所に波紋状のシールドが発生し、俺の視界が暗くなった。

 ビームが弾かれ、拡散し、その余剰発光がこっちにきた? ってことは!?

 遅れて強烈な爆発音と爆風。

 やっぱりか!

 オウキの視界を借りると、殺到していた小型ミサイルが全て、エブン初号機に届く前に爆発四散している。

 これではSPの効果が発揮されない。

 ビームの発射もとを見ると、ファーストゴンダムが十字の意匠が入った大盾に隠れながらビームライフルを構えていた。

 っち! 数を絞ったのは命令を分裂体達にしやすくするためか。

 初めて連携を見せた分裂体に、直ぐに対抗策を頭の中で見直したくなるが、そんな時間がない。

 クイックアップが使えれば! と未練がましく思いつつ。

 「右ガトリングミサイルポット(ウロボロス)に弾丸セレクト!」

 エブン初号機が防御鱗・傘に乗るタイミングに合わせて、

 「『発煙弾(スモーク)』! ファーストゴンダムに撃てぇ!」

 発煙弾(スモーク)は、ジャミングスモークと同じものが詰め込まれている弾丸。

 ジャミングスモークは攪乱・妨害のための白い煙だが、その煙という性質上、光学兵器の無効化・軽減化もすることができる。

 射ち落そうとするビームを交わしながら、オウキ右ガトリングミサイルポット(ウロボロス)を連射。

 何発かを途中で射ち落されるが、それによって生じたジャミングスモークが煙幕となり、煙の道を作ってファーストゴンダムを飲み込んだ。

 「み――」

 「逆鱗槍!」

 俺が合図を送るより早く、美羽さんはコウリュウに左腕の逆鱗剣を投擲させた。

 投げた瞬間に、逆鱗剣が投槍の形に変わり、ジャミングスモークの中に消える。

 「夜衣斗さん! 上!」

 「え? あ! 弾丸セレクト! SP弾+爆裂弾(エクスプロージョン)! エブン初号機に撃ちまくれ!」

 美羽さんに指示され、大慌てでオウキに命令。

 今度は邪魔されることなく、SP弾+爆裂弾(エクスプロージョン)をエブン初号機に叩き込むことに成功。

 というか、反応早過ぎだって、クイックアップ無しの俺では真似できない判断の速さだな……

 などと思っている間に、ファーストゴンダムが白煙の中から弾かれるように飛び出した。

 っく! 邪魔をさ……んん!?

 飛び出したファーストゴンダムは、こっちにではなく真反対に遠ざかっており、PSサーバントの望遠機能で確認すると、逆鱗槍が盾ごと突き刺さっているのが確認できた。

 飛んだんじゃなくて、吹き飛んでいたわけか……見ずにエブン初号機の攻撃を防いだ直感の鋭さに加え、自身の武霊能力をよく理解した的確な判断のなせるわざか?

 吹き飛ばされていたファーストゴンダムが、空中でゆっくり回転しながら落ちる。

 すると、逆鱗槍が背中まで貫通している様子が確認できた。

 その影響か、ファーストゴンダムは地面に落ちる前に霧散化。

 これで残り五体!

 他の疑似レベル2が襲い掛かって来る前にエブン初号機を倒したいが、何十発叩き込んでも消える気配はない。

 弾丸からミサイルに変えても駄目……じゃないな。

 生じる爆発の隙間から見えるエブン初号機の姿がぼろぼろになっていた。

 装甲は砕け、その下にある筋肉が露わになり、赤い血を流している姿はどうにも気分がよくないが、このまま打ち込み続ければいずれは倒せそうだ。

 今気付いたことだが、どうやら美羽さんは防御鱗・傘の一部を変化させて、エブン初号機の足を拘束していたらしく、ナイスサポート過ぎる。流石先輩。

 などとまた感心している暇はないだろうが! ええい! なんで俺は直ぐに関係ないことを考える!? これが油断に繋がるんだろうが!

 気合を入れ直した俺は、残りの疑似レベル2の位置を確認しようとした。

 ごちゃまぜロボットは、その位置を変えてはいないが、その両腕は元に戻っている。

 その肩に変わらず彼女は乗っているが……ガジラはどこだ?

 そう俺が思った瞬間、ジャミングスモークの中から、より赤くなったガジラが飛び出してきた。

 って、バ、バーニングガジラか!?

 ガジラはその身に核エネルギーを蓄えた怪獣という設定だった。

 赤いスライムで身体を再現された分裂体という状態では分かり辛いが、その状態になるとガジラは身体が燃えるような赤色に染まる。

 内に溜まった核物質がメルトダウンを起こすことにより、その身に宿る攻撃力を劇的に上げる状態らしいが、それはもろ刃の剣であり、一度その状態になると、身体が融解するまで止めることができない。

 つまり、攻撃を防ぎ切れば、一体は勝手に潰れるってことだが……

 コウリュウが残った逆鱗剣を振るう。

 だが、切り裂くどころか、刃が触れただけで刀身が融解してしまった。

 その振るった右腕が噛み付かれ、同時にガジラの背びれが発光し始めた。

 まずい!

 「美羽さん! アイスブレス!」

 「コウリュウ!」

 美羽さんの指示と同時に、ガジラの口から放射能熱線が吐き出される。

 その瞬間、コウリュウは翼を大きく羽ばたかせ、熱線射線軸上から身体を強引にずらす。

 コウリュウが斜めになると共に放射能熱線が吐かれ、脇の鱗を焼くギリギリで避けることができた。

 が、直撃を防げただけで、噛み付かれていた右腕は消滅してしまう。

 背後で海に着弾した放射能熱戦が海を爆発させる音が聞こえる中、至近距離からコウリュウはガジラの頭部に向けて白い煙のブレスを吐いた。

 バーニングガジラは作中で自衛隊だかの冷凍攻撃を受けながら融解した……らしい。実はこの作品、設定は知ってても実際に見てないんだよな……頼む効いてくれよ!

 アイスブレスの煙が晴れて現れたガジラは、その動きを明らかに鈍らせていた。

 よし! 効いているのなら!

 「防御鱗・棘!」

 美羽さんの命令と共に、ミサイルに晒されているエブン初号機の足元が変化。

 防御鱗・傘の一部が無数の鋭い円錐となり、エブン初号機の脇に突き刺さり、肩・背中へと突き抜けた。

 ほぼ同時に、エブン初号機が霧散化。

 残り四体!

 こっちの方にもパワーアップ能力があったはずだが、それを使わせる前に倒し切れたのは僥倖!

 「弾頭セレクト! 冷凍弾(コールド)! ガジラに撃ちまくれ! 美羽さんもアイスブレスを連続で!」

 「はい! コウリュウ!」

 冷凍弾(コールド)ミサイルの乱舞と、アイスブレスの連続で吐きまくる。

 一気に氷漬けになる周りの木々に対して、ガジラの姿は凄まじい蒸気を上げて赤いまま。

 だったが、その姿が徐々に融解し、頭部が解け始めたと同時に霧となって消えた。

 残り三体。

 と思った瞬間、上からもふっとした感じのに押し潰された!? なんだ!?

 直ぐにオウキが自分の視界を送ってくる。

 おかげでメガネウサギがコウリュウの背中に乗っているのを確認できた。

 異次元生物って設定から、瞬間移動能力があるのがわかっていたのに、ガジラを倒した一瞬の油断を突かれた!

 上からメガネウサギに踏みつけられたことにより、コウリュウが一気に地面に叩き付けられる。

 乗っかられている加重と叩き付けられた衝撃から念動力で守ってくれたのか、俺と美羽さんにはダメージがないが、代わりにコウリュウが凄まじい咆哮を上げて苦しむ。

 オウキがメガネウサギに冷凍弾(コールド)を撃ち込むが、掛けている眼鏡から散弾のように細かい光線が放たれ、小型ミサイル共々吹き飛ばされてしまった。

 メガネウサギが止めとばかりに、コウリュウに向けてメガネを輝きさせ始める。

 なんか見た目に反してとんでもなく強くねぇか!? っく! させるかオウキ!

 錐もみ状態で吹き飛ばされていたオウキが、なんとか体勢を整えた瞬間、鋼鉄の手が強襲!?

 避ける間もなくオウキが捕まり、その握力でガトリングミサイルポット(ウロボロス)が破壊されてしまう。

 まずい! 今このタイミングでコウリュウを失う訳には!

 眼鏡の輝きがその顔を隠すほどに強まった瞬間、不意にメガネウサギの顔が上がった。

 発射された極太の光線が、オウキを掴んでいた腕のチェーンを切り裂き、俺と美羽さんの上からもふもふが消える。

 コウリュウの尻尾がメガネウサギの耳を掴んで強引に頭を上げさせ、後ろに倒したのだとオウキから送られてきたイメージでわかった。

 が、まだメガネウサギの脅威は消えてない。時間を稼げるか!?

 「PSサーバント! セレクト! 榴弾銃(パイソン)! 弾丸セレクト! 『催涙弾(ティア)』」

 簡易格納ホルダーから榴弾銃(パイソン)を出すと同時に、コウリュウの隣りで仰向けになって倒れているメガネウサギの頭部に向けて連射。

 催涙弾(ティア) は、弾頭に涙や咳を非致死性の黄色いガスが詰め込まれている弾丸で、直接倒すような代物じゃない。

 だが、防御力が高まっていても、異次元生物(・・)と設定が生きているのなら、こういう効果への耐性は高まり難いはずだ。

 メガネウサギの頭部が黄色いガスに包まれる。

 同時に悲鳴すら上げずに、周囲の木々をなぎ倒しながらのた打ち回り始めるメガネベア。

 まあ、悲鳴を上げる以前に、喋れないって設定だったはずだが、って、そんなことより!

 「美羽さん今です!」

 「はい! 飛んでコウリュウ!」

 倒れ伏していたコウリュウは、腕足尻尾の五つを使って強引に飛び上がり、上空へと一気に舞い上がる。

 隣に鋼鉄の手から解放されたオウキが並ぶと共に、コウリュウは停止し、メガネウサギに頭を向けた。

 「夜衣斗さん! SPを!」

 「セレクト! 『手榴弾(サラマンダー)』十個! 弾丸セレクト! SP弾!」

 両腰簡易格納庫から掌大の白銀の球体が十個飛び出す。

 オウキ専用の手榴弾は、余計な機能が付いていないので簡単に精製可能。

 素早く特殊弾を作りたい時には有効だが、その分手動で対象に投げ付けなくてはいけないデメリットがある。

 が、今はこれで十分!

 「投げまくれ!」

 周囲に散らばる手榴弾(サラマンダー)を、オウキは空中でキャッチし、下にいるメガネウサギに叩き付けた。

 投擲攻撃に反応したのかメガネウサギが、眼鏡を輝かせて光の壁を作り出し、手榴弾(サラマンダー)を防ぐ。

 だが、光の壁に触れたことにより爆発した手榴弾(サラマンダー)から発せられるシールド相殺力場が、光の壁を掻き消した。

 当然、その瞬間を美羽さんが見逃すはずがない。

 「レーザーブレス!」

 光の壁が消えた瞬間、メガネウサギにコウリュウのレーザーブレスが撃ち込まれ、一瞬で蒸発させた。

 残り二体。

 問題は、彼女がごちゃまぜロボットの肩に乗っていることだが、今は考える時じゃない。

 流れに任せていくぞ!

 「オウキでなんとか彼女を退かします。その隙に」

 「なら、コウリュウで抑えます」

 「お願いします。オウキ!」

 「コウリュウ!」

 急降下するコウリュウの影に隠れるようにオウキも続く。

 迎え撃つごちゃまぜロボットが、コウリュウに向けてライオンを模した胴体を向けた。

 ライオンの口にエネルギーが集まり、強力な光線を発射するのはこういう系統のロボットの十八番!

 そんな分かり易い攻撃を!

 コウリュウとごちゃまぜロボットの間に防御鱗・傘が割り込む。

 遅れてライオンの意匠から光線が発射され、地面へと反らした。

 美羽さんが喰らうかってんだ! ん? なんか情けなさををを!?

 光線に晒され、大地と木々が吹き飛ぶ中、コウリュウが一気に急上昇。

 あまりの加重移動で、俺自身はなにが起きたかわけがわからなかったが、オウキの目が捻り宙返りのように回転しながら、防御鱗を越えるコウリュウを目撃していた。

 なんつう動きを咄嗟にするねん!

 思わず文句が心の中に浮かぶと同時に、コウリュウがごちゃまぜロボットの背後に勢いよく着地した。

 ひねりを加えた回転を空中で行っていたため、コウリュウの正面にはごちゃまぜロボットの背中。

 このまま攻撃しても良いほどの状況だが、咢で頭を、両腕で両二の腕を、尻尾で足を拘束してくれた。

 「今だオウキ!」

 俺の合図に合わせ、光線を防ぎ切った防御鱗・傘が飛び散った。

 そこからオウキが飛び出し、彼女を捕まえようと迫る。

 だが、彼女は着ている赤いドレスから翼を生やし、あっさりオウキの突撃を避けてしまう。

 ま、まあ、それならそれで別に全然構わない。

 「美羽さん!」

 「サンダーブレス!」

 頭に噛み付いているコウリュウの口から、電撃が放たれる。

 強烈な電撃がごちゃまぜロボットの身体を駆け抜けた瞬間、霧散化した。

 なんというか、美羽さんとコウリュウの意思疎通は、俺とオウキの一歩、いや、数段上だな。

 イメージによる意思伝達を俺より頻繁に、そして、密度を濃く行っているんだろう。

 だから一言、時にはなにも言わなくてもコウリュウはよく動く。

 武霊使いとしての経験の差を実感させられるが……とにかく、これで残り一体。

 ん? いや、これでチェックメイトだな。

 全ての疑似レベル2を失った彼女は、赤い翼で飛びながら、こっちを見下ろしていた。

 その背後にはオウキ。

 手には既に思考命令で拳銃(ケルベロス)を出している。

 装填されているのは、弾頭に人を眠らせる透明なガスが詰め込まれている『睡眠弾(スリープ)』。

 この睡眠弾(スリープ)は、例え口を塞いだとしても、肌にガスが触れさえすれば、そこから浸透し、対象を眠らせることができる強力な物。

 電撃はスライムで防がれる可能性はあるが、ドレスという形を取っている以上、肌の露出は避けられないし、全身を防ぐのにだって多少の時間が掛か……ん?

 ふと気付いた。

 こっちを見下ろしている彼女の頬が、妙に膨らんでいることにだ。

 ま、まさか!? もう既に口にしていたのか!? まずい!

 俺の危機感に反応したオウキが、拳銃(ケルベロス)を撃つ。

 だが、彼女のドレスから爆発的にスライムの粘液が現れ、弾丸はガスを発生させることなく止められてしまった。

 その光景に美羽さんが驚きの表情を俺に向ける。

 「や、夜衣斗さん!」

 「……どうやら向こうは、回復薬の数で追い詰められることを想定していたみたいですね」

 瞬く間に五体の疑似レベル2が作り出される光景に、俺はため息が出た。

 「……まあ、予想通りですが」

 「はい?」

 俺の思わず出た苦笑に、目を瞬かせる美羽さん。

 そんな驚くことだろうか? 俺はちゃんと捕まえられる(・・・・・・)じゃなくて、追い込むことができる(・・・・・・・・・・)って言っていたはずなんだが、まあ、言葉が足りなかったのは確かだな。

 「……逃げの一手に所有している回復薬全部を使う必要なんてありませんし、四回って特定できたってことは、わざと四回しか回復してなかったとしか思えません」

 「えっと……じゃあ、美羽は騙されていたんですか?」

 「……まあ、そういうことになりますね。多分ですが、太ももにでもタブレットケースを入れられるケースバンドでも付けているんじゃないんでしょうかね? あのケースの大きさから察するに、片足に四ケースが最高じゃないかと思っていましたが、やっぱりそうみたいですね……いわば、切り札を使ったって感じでしょうか?」

 再び五体の疑似レベル2を形成し終えた彼女の顔色は、酷く青くなっていた。

 それを回復する素振りを見せないということは、もう回復薬がないんだろう。この状況下で回復しないメリットはない。

 俺の推測に美羽さんはぽか~んとしていたが、直ぐにはっとなる。

 「って、なに呑気に言ってるんですか!? ど、どうするんですか夜衣斗さん! 美羽の意志力結構ヤバいですよ」

 そう言う美羽さんの顔色は、確かにさっきより悪くなっている。

 レーザーブレスを使ってしまったのが効いているのか、レベル2の維持がそれだけ消費するのかわからないが、まあ、とにかく。

 「ここまで追い込んでくれれば十分ですよ。本音を言えば、切り札を使われる前に倒したかったんですが……頬に溜めるなんてことをするとは思わなくて」

 「そ、そんなことより、わかってます!? オウキはレベル1で、美羽はもう――」

 「言ったでしょ? 任せてくださいって……まあ、見ててください」

 そんな会話をしている間、疑似レベル2達はコウリュウを逃がさまいと取り囲み始める。

 こっちの主力であるコウリュウがもうほとんど戦えないことを見越しているんだろう。

 彼女の目的が、俺を捕まえることなら、それは当然の行動だ。

 だが、切り札(・・・)があるのがそっちだけだと思うなよ?

 俺は大きく息を吸い、右腕を前に突き出し、掌を上にして開く。

 「契約者黒樹夜衣斗が今ここに、封印の鍵穴を乞う」

 俺の言葉に反応して、文字化けした文字が掌の前に現れる。

 「我が身を鍵とし、封じられし禁忌のシステムを」

 言葉と共に文字達が、一部が鍵穴のように円形となり、残りが俺の右腕に纏わり付く。

 右拳を握って振り被り、

 「開錠せん!」

 形成された文字鍵穴を打ん殴った。

 腕の文字と鍵穴の文字が触れた瞬間、砕け散り、四散。

 持てよ俺の意志力!

 自分に気合いを入れ、王継戦機の一シーンを思い浮かべると共に、包囲網を完成させた疑似レベル2達が、じりじりと間合いを詰め始める。

 「今こそ! そのもう一つの名の意味を知らしめる時!」

 その言葉と共に、オウキの全体に光の筋が生じる。

 「シールアーマー解放!」

 光の筋を起点に、装甲が全て開き、そこから黒い光の靄が出現。

 「ライオンハート機関フルドライブ!」

 俺の言葉と共に、オウキの動力源ライオンハート機関が限界近くまで稼働。

 更に装甲の下にあった黒い光の靄・ライオンハート機関から漏れる余剰エネルギー体『黒光靄(こっこうあい)』が溢れ出し、

 「オウキは、王の機械! オウキは、王の騎士! そして、オウキは、」

 一気にオウキの姿を覆い隠し、

 「王の鬼!」

 更なる言葉と共に余剰エネルギー徐々に形を変え、

 「オーバードライブシステム解禁!」

 言い切る共に余剰エネルギーが完全に固着化し、機体の姿が白銀の騎士甲冑から、『黒い大鬼』の様な姿になり、

 「『王鬼』!」

 が完全起動した。

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