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武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
31/85

19、『疑似レベル2』

 上空に上がり反転する感覚が止まると共に、俺の身体がふわりと美羽さんから離れた。

 逆さまに急降下して、念動力を併用して俺を回収したんだろう。

 念動力って実際にあると随分利便性が高いんだな……

 そんなことを、血を流した影響かぼ~っと考えていた俺の傍に美羽さんが近付いてくる気配。

 「や――」

 声を掛けようとし時、ふとなにかに気付いたかのように言葉を止め絶句する美羽さん。

 反射的に美羽さんの方に視線を向けると、水色だったはずのパーカーが、胸元だけ赤黒くなっていた。

 ああ、やっぱり胸に当たっていたのか。

 そんなことを特に下心なく思った時、急にふらっときて、耐え切れず膝を付いてしまう。

 「や、夜衣斗さん!」

 駆け寄ってきた、美羽さんが息を飲む。

 きっと俺が顔中から血を流していたからだろう。

 「す、直ぐに病院に!」

 慌ててそう言う美羽さんだが……そんな状況じゃないだろうに……

 俺は苦笑代わりに首を横に振った。

 「……このまま、活動限界領域に沿って飛び続けていてください」

 「で、でも……」

 心配する美羽さんになんとか安心して貰うために、PSサーバントの機能を高めさせつつ、強引に笑みを作る。

 「……大丈夫です。これは今着ているPSサーバントの副作用みたいなもので、すぐ治ります」

 そう言って頬や口の血を拭う。

 機能を高めたおかげか、血の流れは止まったようだが……

 ちらっと美羽さんの服を見る。

 血って落とし難いよな確か。

 「……すいません。服、汚してしまって……」

 俺の謝罪に、美羽は困りながらも、微笑んだ。

 「いいんです。夜衣斗さんが無事なら」

 そう言って微笑んでくれる美羽さんに、俺は少しだけほっとした。

 美羽さんが怒るんじゃないかと不安に思ったからってわけじゃない。

 まあ、ちょっとだけ思ってはいたが……とにかく。普通に会話ができるってことは、高神礼治戦ではそれほど意志力を消費していないということだ。

 それなら美羽さんの方には問題ない。

 問題なのは俺の方だ。

 機能の限界が訪れたということは、暫くはクイックアップを使えないことを意味する。

 脳に蓄積されたダメージを治療するには、PSサーバントの機能では力不足だからだ。

 一応、PSサーバントにも治療機能は付いている。

 だが、それはサーバントから注入されているナノマシンで破損個所の代行をさせるいわば準治療といえるもの。

 その準治療によってクイックアップを使う度に脳の治療がされているのだが、あくまで変わりであるため耐久性が低く、脳が一定以上の代行ナノマシンになってしまうとクイックアップ機能に耐えられなくなってしまう。

 それ故に一気に血が噴き出し、直ぐに血が止まる訳だが、もう一度クイックアップを使えるようになるためには、安静状態でヒーラーサーバントによるちゃんとした治療をする必要がある。

 のだが、そんな暇も余力もなさそうだな……だとすると、余計な思考が挟まる自問自答では駄目だな……恥ずかしがっている場合でもないし……仕方ない。

 大きく息を吐き、追ってきているオウキの視界も借りつつ周りを見回す。

 ん? コウリュウの姿が小さくなっているな……まあ、あの疑似レベル2に囲まれた状況へ巨体で突っ込むわけにはいなかったのだろう。

 「……考えをまとめるためにとりとめもなく呟きますが、問われたら答えてくれます?」

 「え? ええ」

 「コウリュウが星降り山の中腹に沿って飛んでいるということは、つまり、この真横が活動限界領域ということですか?」

 「そうですよ」

 「なら、こちら側から襲われることはないですね。反対側、町の方は手前に分裂体、後ろに武霊って感じで激しい戦闘を繰り広げていますので、自警団と合流できる位置ではない。それに拮抗しているとはいえ、長引けば長引くだけ町に犠牲が出るだろうし、そこに疑似レベル2を引き連れた彼女と戦える余力があるだろうか? 今の段階でも彼女が加われば戦況は一気に分裂体側に傾くと考えると、俺と美羽さんでなんとかしなくちゃいけないことになりますが、美羽さんはあとどれくらい戦えそうですか?」

 周囲を見回すのを止め、美羽さんを真っ直ぐ見る。

 俺から視線を向けられた美羽さんは、驚いた表情で目を白黒させていた。

 「えっと……多分、全力で戦えて十分……ううん。五分ぐらいかもしれません」

 五分……なにを基準にそう判断したのかはわからないが、俺より長年武霊使いをやっている美羽さんの判断なら誤差は少ないだろう。

 つまり、一体一分? いや、それでは駄目だな。

 「コミュニケーションを取る以外の手段で、意志力の回復方法はありますか?」

 「え? いえ、ないと思います」

 なるほど……だとすると、確認する必要がある。だが、どう確認する。

 俺は思考をより深めるために、大きく息を吐き、腕を組み、片手で口を覆い、鼻だけでゆっくり深呼吸。

 少しだけ深く思考してから、片手を少し浮かせる。

 「具現化率にいくら差があっても、それには限度がありますよね? 例えば、レベル1では、一の強度がレベル2では五になるだけで、一の攻撃で五を超えるダメージを与えるか蓄積させることができれば、その強度を貫くことができる。とか」

 「はい、そんな感じで間違いないですけど……」

 美羽さんはなんで今そんなことを聞くんだ? って顔になったが、説明する時間が惜しいので、無視する形で思考に更に没頭。

 だが、頭の中で考えが纏まる前に、コウリュウが海を越えそうになる。

 くそ、クイックアップが使えないと不便過ぎるな。だが、

 「……とりあえず、一体倒して確かめるか」

 「え?」

 「ここで止まってください」

 「え? あ、はい? ええ!?」

 俺のお願いに美羽さんはますます訳がわからないって顔になりながら、海に越えるか超えないかのギリギリの場所で止まってくれた。

 「戦うんだったら、海上の方がいい気がするんですけど?」

 美羽さんの問いに俺は首を横に振る。

 「確かに戦うなら海に出た方が有利に働くでしょう。ですが、それでは空を飛べない疑似レベル2達が町の方に行ってしまうかもしれません。それは避けなくてはいけないですし、なにより、狙った状況(・・・・・)を崩す訳にもいきませんしね」

 「狙った状況?」

 俺の言葉に背後を見る美羽さん。

 その視界に俺の目論見通り(・・・・・・・)に縦一列になって追ってきている疑似レベル2達が入ったのか、絶句する美羽さん。

 町の方ではなく、活動限界領域に沿って飛んでもらったのは、この状況を作り出す為。

 流石に五体の疑似レベル2を同時に相手にできるなんて思えるほど、俺はオウキに対して自惚れていない。

 とはいえ、倒せないとも思っていないがな。

 先頭にいるのは、旧世紀エブンブリオンのエブン初号機。

 木々をなぎ倒し、吹き飛ばしながら迫る巨体は、原作の大きさをそのまま再現したかのような錯覚を覚えさせた。

 続く連中も同じ全長十メートルクラスの大きさなので、きっと地面に立っていればきっとかなりの振動を感じていただろう。

 とにかく、まず相手にしなくちゃいけないのはエブン初号機だ。

 こいつには強力なシールド能力があり、普通に攻撃しても簡単に防がれてしまうだろう。

 だが、生体兵器という設定でもあるので、シールドさえ貫ければ、その防御力は低い!

 「弾丸セレクト! 『SP弾』!」

 装備中のガトリングガン(ヒュドラ)にSP弾、『力場障壁貫通弾(シールドペネトレーション)』を装填させる。

 SP弾は、極小のシールド発生装置を弾頭に内蔵させた弾丸で、オウキと同じ守護機騎シールドシステムを持った相手のシールドを相殺させ、貫通させるための弾丸。

 設定上から考えると、他のシールド能力に有効かどうか不安だが、何事もやらないよりはましだ。

 ぶっ放せオウキ!

 ガトリングガン(ヒュドラ)にSP弾が装填されると同時に、エブン初号機が飛び掛かってくる。

 線の細い躯体だが、十メートル以上の全長が一気にこっちに迫る光景は、迫力というよりとんでもない恐怖を感じた。

 その両手は俺に向けられているので、捕まえることに固執しているようだが、というか、そんな勢いで握られたら死ぬってわかっているんだろうか? まあ、わかってないだろうな。この感じだと。

 思わずため息が出ていまい、まるでそれが合図かのようにガトリングガン(ヒュドラ)銃口マズルから電光が噴いた。

 エブン初号機の手が俺に届くより早く、SP弾が叩き込まれるが、周囲に波紋状にシールドが発生し、阻まれてしまう。

 が、それも一瞬のことで、次の瞬間にはSP弾はシールドを貫通し、その身体に次々と弾丸が突き刺さった。

 シールドを貫通できたことにはほっとしたが、攻撃に関することは大雑把に拡大解釈しているんだろうか? それとも再現に限度があり、似通った設定だとどうしても近い性質になってしまうとか? なんであれ、通じるのは大きな収穫だ。そのまま撃ち続けろオウキ!

 と命令したものの、SP弾はその仕組み上、他の弾丸より威力が低い。

 弾頭の中に他の弾丸を組み込めなくもないが、容量の問題から威力はどうしても落ちてしまう。

 なので、下手に特殊弾にするより通常弾の方がいいかと思い、ただのSP弾のままにしたんだが……

 途切れることなく叩き込まれるSP弾により、こっちに落ちてくるエブン初号機を空中に押し留め、それ以上近付くことをさせなくしている。

 だが、それだけだ。

 一向にエブン初号機のその身を包む装甲を破壊できない。

 疑似とはいえ、強度が通常より上がっているってことか? 一体目でまごついている場合じゃないっていうのに、撃ち出す弾丸の中に別の弾丸を混ぜ――

 「まかせてください夜衣斗さん!」

 は?

 美羽さんがそう言ったかと思ったら、急激に視界が動く。

 コウリュウが勢いよく反転したのだと理解すると共に、その姿が一気に巨大化。

 巨大化の勢いを加えて空中に張り付けになっているエブン初号機に拳を叩き込んだ!?

 飛行能力がないエブン初号機に打撃に抵抗する力はなく、木々を圧し折り、吹き飛ばしながら地面に叩き付けられる。

 その際にコウリュウの腕にもSP弾が叩き込まれたが、元々の威力が低い上に、レベル2の具現化率が加わったためか、無傷でほっと……じゃない!

 「美羽さん! 攻撃す――」

 「下に降ります! 夜衣斗さんはオウキにSP弾を打たせ続けてください!」

 「りょ、了解!」

 あっさり主導権を奪われると共に、コウリュウが山中ギリギリまで降下。

 同時にエブン初号機が勢いよく立ち上がったので、襲い掛かられないようにオウキにSP弾を叩き込ませる。

 「目をつぶってください! コウリュウ! レーザーブレス!」

 れ、レーザーブレス!? 赤竜物語のコウリュウってファイアドラゴンじゃなかったけ?

 思わず出た疑問を聞くより早く、コウリュウは胸を膨らまし、口をエブン初号機に向けて大きく開けた。

 次の瞬間、鼓膜に突き刺さるようなバン! という音と共に視界が暗くなる。

 強烈な閃光が生じた際のPSサーバントの防御機能が起動したんだろう。

 視界が暗くなったのは一瞬のことで、一回瞬きした後には元の視界に戻る。

 なにが起きたか確認するために、エブン初号機に目を向けると、その胸に大きな穴が開いていた。

 しかも、その背後から迫っていたファーストゴンダムの頭部も消し飛ばしていたので、二体同時に霧散化する光景を見ることになった。

 とはいえ、残念ながら、更に後ろいたメガネウサギは、メガネから光の障壁を出して防御していたので、それ以上は倒せなかったが……いやいや、それより、どういうこと!?

 俺の驚きと疑問の視線に、美羽さんは苦笑。

 「武霊は武霊使いのイメージ次第で後付けで能力を追加できるんです」

 な、なんじゃそりゃ……って、やっぱりさっき考えた予想通りだったのか……

 「とは言っても、基礎となっているイメージからかけ離れたものの追加は無理みたいなんですけどね」

 なるほど、だからレーザーブレス(・・・)か……個人的にはそれでもファイアドラゴンとはかけ離れている気がするが、コウリュウの武霊使いである美羽さんが近いと思っていたから追加できたって感じか? まあ、なんであれ、ブレスにバリエーションがあるのは戦略に幅が広がって助かる。

 「レーザーブレス以外のブレスは?」

 「他に六つありますけど……」

 不意に美羽さんがふらっとし、俺に寄りかかってきた。

 思わずPSサーバントの硬化機能なみに固まってしまう自分に、またしても情けなさを感じてしまった。

 瞬間、

 「その人は! 私のだぁああああああ!」

 絶叫が耳に突き刺さった。

 発しているのは、疑似レベル2達の最後尾にいるごちゃまぜロボットの肩に乗っていた彼女。

 肉眼では豆粒ほどにしか見えない彼女の声がここまで聞こえたってことは、どんだけ大きな声で、いや、それより……

 チラッと美羽さんを見ると、目が合った。

 「なにをしたんですか?」

 目を瞬かせてそんなことを聞いてくる美羽さんに、

 「さ、さあ?」

 と言うのが精いっぱいだった。

 いや、というか、俺もなんでああなったのか、本当にさっぱりわからないんですけどね……

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