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武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
29/85

17、『分裂体乱舞』

 分裂体オウキ達の攻撃が開始された瞬間、コウリュウは背中の全ての鱗を飛ばし、全面に鱗の壁を作り出した。

 これによって雨のように降り注がれる攻撃から身を守ることができたが、こちらから攻撃ができなくなってしまう。

 向こうは数の暴力を使って途切れることなく攻撃を続けられる上に、時折、テレポーテーション能力を持った分裂体によって防御鱗の内にも接近型の分裂体が送られてくるため、下手に攻撃に転ずればハチの巣になりかねない。

 それがわかっている美羽は迂闊に動けなくなっていた。

 こういう時、いや、いつでも美羽は直感に任せて動く。

 だが、

 (どうしよう……動こうとすると怖い。物凄く)

 思い切って行動を起こそうとすると、一気に湧き上がる恐怖に襲われ、なにもできなくなる。

 (こういう時って、怖さを無視して動くとろくな目に遭わないんだけど……このまま高神麗華の意志力切れを待つ? でも、それにも嫌な予感がする。こっちの意志力がそれまで持たないってこと? 普通に考えれば、こんなに大規模な武霊能力をずっと維持なんてできないけど……)

 ここ数日、これまで培われてきた武霊に関する常識が次々と覆されている。

 今日のことを含めれば、安易に常識に頼った戦い方をするのは危険だと、あまり物を考えない美羽でもわかることだ。

 だが、それでは八方塞になってしまう。

 (どうすれば……どうすればいいの?)

 助けを求めるように背後を見る美羽だが、視界には町に次々と降り注ぐ分裂体達の姿と、その圧倒的な数に挑む武霊達の姿が見えるだけ。

 その激闘は、どう見てもこっちに駆け付ける余力がなさそうだった。

 それどころか、このままでは町の全てが蹂躙され、シェルターに避難しているであろう一般人まで被害が出かねない。

 (このままじゃ、高神麗華一人に町が……)

 一瞬、廃墟と化した町並みを想像してしまう美羽は、そのイメージを吹き飛ばそうと頭を振るう。

 (そんなこと、絶対にさせない!)

 生じた怒りと共に、元凶となっているスライム柱を睨む。

 そして、気付く。

 (美羽……だけだよね?)

 自然と美羽の手が震えた。

 美羽は、両手を胸の前に持ってきて、震えを抑えるように片手を握り、もう一方で包み込んで胸に強く強く抑え付ける。

 鼓動が痛みを覚えるほど高鳴り、抑え付けている手にも感じるほどだった。

 「怖い? 怖いよね? でも、美羽が、美羽だけがこの状況をなんとかできるんだもの」

 自分に言い聞かせるようにそう呟いた美羽は、微笑んだ。

 「ね? コウリュウ」

 美羽の問い掛けに、テレポーテーションで現れる分裂体達を殴り飛ばしていたコウリュウは咆えた。

 同時に、周囲に展開していた防御鱗が前面に移動し、円錐状に展開。

 そんなことをすれば当然、それまで防いでいた弾丸が次々とコウリュウの身体に当たり出ず。

 鱗が砕け、血しぶきが上がろうと、羽ばたきを強め始めるコウリュウ。

 念動力で位置を固定し、勢いを溜め、固定を一気に解放し、突撃する。

 「いっけぇえええええええ!」

 防御を捨てた特攻が、美羽の合図によって行われた。

 離れた場所からブレスを放っても効果がないのなら、接近して吐けばいい。

 単純だが、最も有効な手段を美羽は選び、命を賭けた。

 スライム柱を守っている分裂体オウキ達からの攻撃は円錐防御鱗に弾かれ、それ以外からの攻撃は、急加速したコウリュウに狙いを付けられず当たらない。

 「とどけぇええええ!」

 一気にスライムの柱まで接近し、分裂体達の防衛網を越えようとした。

 その瞬間、

 「きゃっ!」

 不意にコウリュウの突撃が止まり、予期しない衝撃であったために念動力による相殺が間に合わず、美羽は倒れてしまう。

 「なに!? なにが起きたの!?」

 慌てて周りを見ると、周囲にはシールドサーバント達が集まっており、彼らから柔らかいシールドが多重に張られているようだった。

 それがコウリュウを包み込み、捨て身の勢いを殺した。

 「っく! まだまだ!」

 美羽の気合の言葉に応え、コウリュウは喉から逆鱗剣を出そうとした。

 だが、その腕にすらシールドの力場が纏わり付き、動けなくなる。

 背に乗る美羽すら不可視の力場に抑え付けられ、倒れた姿のまま身動き取れなくなってしまう。

 (どうして! どうして嫌な予感も当たってしまうの!?)

 自分の直感の正しさを身を以って体験し、心の中で絶叫する美羽。

 その彼女に更に追い打ちをかけるように新たなサーバントが現れ、コウリュウは取り囲まれてしまった。

 突撃前に叩き込まれた弾丸は、元々防御力に優れている鱗が間に入ったことにより、致命傷にはなってはおらず、回復力も高いという設定であるため、放っておけば瞬く間に完治してしまう程度の傷だった。

 だが、こうして身動きの取れない状態で攻撃され続ければ、いずれは致命傷に至り、それどころか最大の急所である武霊使いを攻撃されかねない。

 無論、美羽には、コウリュウによる念動力の保護が掛けられている。

 これによりコウリュウがアクロバティックな空中戦を繰り広げても落ちることはなく、また、近くで爆発や炎が吹き荒れてもある程度無傷でいられた。

 当然、そこにも具現化率の影響も加算されるので、一対一であったのなら、コウリュウは美羽になんの影響も与えずに分裂体オウキ達を突破することができただろう。

 だが、いくら具現化率の差があろうと、こうも多勢で攻められればその優勢などあってないようなもの。

 現に美羽の身体には、弾丸で砕け飛び散った鱗の破片により傷付けられた傷がいくつもある。

 その傷の痛みが、美羽に否応なく窮地を自覚させた。

 (はやくなんとかしなくちゃ! なにもできないまま無駄死になんて!)

 美羽の思いに反応したコウリュウが、自らの力を全て使わんと空気を震わすほどの咆哮を上げる。

 それでも一切動くことができないコウリュウに、サーバント達が次々と取り付き始めてしまう。

 その内の何機かが、美羽にもピタリと取り付く。

 (やられる!)

 そう思った美羽は、思わず目をぎゅっとつぶってしまう。

 (ごめんなさいお父さんお母さん。美幸さん自警団に皆、町の人達、守れなくて……ああ、こんなことだったら沙羅と……あれ?)

 その時が来るのを覚悟した美羽だったが、いつまで経ってもなにもない。

 恐る恐る目を開けてみると、まず目に入ったのは手首に突き刺さっている針とチューブだった。

 ビクッとして反射的に取ろうとしたが、身体を押さえ付けられているため、それはできない。

 (な、なにをされるの!?)

 直接的な攻撃じゃなかったことに、言い知れぬ不安を感じた美羽だったが、ふと気付く。

 (あれ? これって……ヒーラーサーバント!?)

 昼に幸野美春の腕を治療した時は勿論、昨日も見ている治療用のサーバントが自分に取り付いていることに美羽は混乱した。

 (なんで? なんでわざわざ治療用のサーバントで? え? これって攻撃もできるの?)

 などと思っていると、コウリュウからも戸惑った感情が送られてきた。

 (え? 回復してる?)

 それなりの年月武霊使いをしている美羽は、言葉が通じなくてもある程度コウリュウがなにを言いたいかわかる。

 わかるが、意味がわからなかった。

 直前まで殺す勢いで銃撃を行っていた相手が、殺そうとしていた相手を回復させる。

 ますます混乱する美羽だったが、不意に抑え付けられる感覚がなくなると共に、ヒーラーサーバントが離れた。

 わけがわからないが、状況が状況なので慌てて立ち上がり、周囲を見回す。

 「な、なんで!?」

 すると周りでは更にわけがわからないことが起きていた。

 銃口をコウリュウや美羽に向けていた分裂体オウキ達が、一斉に反転し、他の分裂体達に銃撃を浴びせ始めたからだ。

 拘束に使われていたシールドサーバント達も、力場を張る方向を反対に向け、美羽達に攻撃が晒されないようにしていた。

 まるでそれが合図であるかのように、分裂体オウキ達に対して攻撃を開始する他の分裂体達。

 つまり、分裂体同士が仲間割れをしているのだ。

 「次から次と! なに? なんなの? なにが起きているの!?」

 思わずそう叫んでしまう美羽だが、当然、それに答えられる者は周りにはいなかった。



 人形達が、まるで津波ように、しかも四方から襲い掛かってくる。

 そのあまりの光景に思わず命令を飲み込んでしまう。

 ほぼ同時に、足元から鎖状に繋がった人形達が絡み着き、俺とオウキは人形の大地に固定されてしまった。

 これではウィングブースターを使って空に逃げられない。

 このまま人形に覆い潰されてしまえば、オウキは完全に奪われ、俺は殺されるのだろう。いや、殺す役目を引き受けているであろう弟が美羽さんに倒されていることを考えれば、ただ奪われるだけで終わるのだろう。

 だが、例え命が助かっても、運命を変える選択であるオウキが奪われれば、今回の死の運命を生き残れたとしても、いずれは他の死の運命に殺される。

 なんせ俺は、オウキ以外のことを抜かせば、平均以下の高校生でしかないんだからな。

 だから、絶対に奪われるわけには、って、盛り上がった人形達が今まさに俺達を飲み込もうとしているのに、ここで悠長に考えるか普通!? ええい! 思考に現実逃避してるんじゃない俺! PSサーバントがこの場所でも再現されているということは、このサーバントもちゃんと使える可能性が高いんだ。不安に思うな俺。これは一か八かの賭けじゃない! 勝てる賭けだ! だから、頼む! 出てくれ!

 「ハッカーサーバント!」

 俺の祈りを込めた命令に、オウキの右肩簡易格納庫が開き、白銀の球体が飛び出した。

 それは吸盤の付いた八本の足を持つ、一言でいえば蛸のようなサーバント。

 まず出たことにほっと一安心しつつ、

 「オウキに取り付いている人形を捕まえろ!」

 ハッカーサーバントに命令。

 足元から俺とオウキの身体を包み込むように上ってくる人形達の一体に、ハッカーサーバントはその八本足を巻き付けた。

 捕まえた着物姿の人形は、激しく暴れ、それを見た他の人形達が着物人形を助けようとしたのか、ハッカーサーバントに次々と飛び掛かり始める。

 だが、もう遅い!

 「セレクト! クラッキングモード! クラック!」

 ハッカーサーバントは、電子戦用サーバント。

 八本の足で対象に取り付き、吸盤から出るナノマシンによってハッキングを行う機能を持つ。

 そして、クラッキングモードは、より攻撃的に、強制的に機械類と繋がるときに使用する。

 そう機械類にだ。

 原作にてペットスライムの正体は明言されていない。

 だが、時折パソコンが繋がれた円筒形のカプセルの中から出てくるシーンがあったため、マニアの間ではナノマシンの群体なのではないか? といわれている。

 もっともあくまでそれはマニアの間でいわれていることであるため、彼女がペットスライムを機械だと認識しているかどうかは不安ではあった。

 だが、ちょっとでも調べれば行き着く情報なので、頼む! 通用してくれ!

 思わず願ってしまう俺を嘲笑うかのように、迫る人形津波がこっちに向かって落ち始める。

 くそ! やっぱり機械として認識していないのか?

 そう思った時、脳内ディスプレイに新たなモザイクが現れた。

 モザイクであるため、一瞬なんであるかわからなかった。

 が、直ぐにクラッキング成功のサインだと理解できる。

 何故なら、纏わり付いていた人形達が動きを止め、迫る人形津波も音を立てて瓦解したからだ。

 ちゃんとペットスライムを機械系だと認識していたみたいだな。いや、もしかしたら武霊の方がそう思っていた可能性もあるが、そこら辺を検討するのは後だ。

 脳内ディスプレイに意識を向けると、円形グラフが現れる。

 そのグラフは、赤一色だったが、徐々に銀色に変わり始めており、赤がペットスライムの支配率、銀色がハッカーサーバント支配率を表しているのだろうが……銀色の侵蝕率がかなり遅い。

 ハッカーサーバントの設定では、人格を有する高度な電脳に対してはあまり有効ではないという設定だった。

 ペットスライムに人格があるような設定はなかったが、実際に使っているのは武霊だ。

 武霊の人格がクラッキングの邪魔をしているのだろうか? あるいは、具現化率の差か? 考えてみると、二度目の自爆コードが効かなかったのは、具現化率の差だったという可能性もなくはない。スピーカーサーバント越しだったから効かなかったと仮定するなら、あのタイミングで具現化率の急上昇があったということになるが……なんの要因、どんな方法でだ? ……まあ、色々と気になるが、これも後で思考するべきことだな。

 なんであれ、人形からアクセスしたから、彼女らの動きが真っ先に止まったんだろう。

 だが、上空に浮かぶ外の光景を見ると、相変わらず大量の分裂体達が暴れ回っている。

 主に狙っているのは、町を守っている武霊使い達のようだが、主を守る武霊達との攻防の流れ弾で次々と町が破壊されていた。

 ビャッコボールの孫悟地による気功派を、ロングツインテールの魔法少女の武霊が魔法陣で防ぐが、弾かれた気功のエネルギーがデパートに当たり屋上を吹き飛ばす。

 ツーピースのウキー・B・ルヴィが足を身体の倍以上巨大化させ、上空から振り下ろし、緑の巨人の武霊が受け止めるが、衝撃を殺し切れずに道路が大きく陥没。

 鉄の錬金術師のイドワード・ブルリックが、コンクリート塀を巨大な矢に変え、眼帯を付けた男子高生の武霊が念動力でその方向を反転させるが、それによって民家が次々と破壊されてしまう。

 他の分裂体との攻防も似たような感じで、圧倒的な数の多さから、武霊側は常に防戦を強いられていた。

 今の所、武霊を奪われている武霊使いはいないようだが……もし仮に、俺のように捕まって誰かしらの武霊が奪われたら、防戦すら難しくなるかもしれない。

 多分、武霊使い側は、奪われた武霊の特性や分裂体の性質をある程度心得ているのだろう。

 だから防戦一方になり、町に被害を出しつつも持ち堪えられる。

 ように見えるが、そこに新たな分裂体が加われば、パワーバランスが崩れるのは間違いない。

 早くなんとかしなくちゃいけないんだが、焦る俺の気持ちに反して銀色の侵蝕率がなかなか進まなかった。

 くそ! このままじゃ……

 いつ取り返しのつかない被害が起きるか不安な思いが、捕まった武霊達の上に映る光景へと目まぐるしく視線を向けさせてしまう。

 そんな光景の一つに俺は思わず固まってしまう。

 オウキの上にある映像で、コウリュウが前方に鱗を集中させ、突撃体勢を取り始めていたからだ。

 周りには分裂体オウキ達は勿論、瞬間移動で次々と送り込まれる分裂体達の姿がある。

 当然、そんな状況で防御を一定方向に固めてしまえば、おろそかになった部分に攻撃が通り出す。

 分裂体オウキから放たれる弾丸がコウリュウの鱗を砕き、身体の至る所から血飛沫を上げさせる。

 瞬く間に真紅の身体が赤黒く染まるが、コウリュウは構わず羽ばたき、姿が霞むほどの速さで突撃を開始してしまう。

 狙いは分裂体オウキが最も多く配置されている巨大なスライムの柱。

 強引に防衛網を突破し、至近距離で必殺の一撃を喰らわせようとしているのは明らかだが、そんな単純な力押しでは駄目だ!

 大量に出ている分裂体達の行動は、廃校グラウンドで戦った分裂体達より単純だった。

 基本的で強力な攻撃や防御などを繰り出し、その動き自体も単調なので、守ることに集中すればやられることはない。

 実際になんとか町の武霊は持っている訳だから、それは間違いないだろう。

 だが、それはあくまで防御に徹すればの話であり、攻撃に転じた場合、一気に数の暴力による攻撃に晒されてしまうことになる。

 その上、相対しているのは汎用性の高い能力を持つオウキであり、突撃先にはシールドサーバントが大量に配置されていた。

 美羽さんは知らない。

 シールドサーバントのシールドが、受け止めることに特化させて張ることができるということをだ。

 このままではコウリュウの突撃は不発に終わり、捕まってしまう。

 そうなれば、無防備になった美羽さんに……クソ! クソ! 駄目だ! そんな最悪の予想なんて受け入れられるか!

 進め進め!

 俺がハッカーサーバントを睨み付けなら願った。

 だが、俺の願いを無視するように、予測通りコウリュウは捕まってしまう。

 まずい! くそ! 頼む! 間に合ってくれ! せめてオウキの――

 分裂体オウキが鱗の後ろへと回り込み、攻撃を開始しようとする。

 狙いはシールドによって押さえ付けられている美羽さん。

 そのオウキ達を見た瞬間、俺は叫んでしまう。

 「いい加減にしろオウキ!」

 俺の怒鳴り声に、ビクッとオウキが反応してしまう。

 いや、お前のことじゃないから、と思うと同時に、脳内ディスプレイの侵蝕率グラフにオウキのミニデフォルメが現れた。

 次の瞬間、分裂体オウキの動きが止まった。

 一番最後に奪ったのがオウキだからか、奪いかけだからか、あるいは怒鳴ったからかは知らないが、十分だ! そしてナイスタイミング!

 「セレクト! ヒーラーサーバント! まずは美羽さんとコウリュウの傷を治せ!」

 俺の命令に応え、分裂体オウキ達が次々とヒーラーサーバントを出し、美羽さん達を治療し始めた。

 「よし! このまま美羽さんで守りつつ、他のオウキ達は他分裂体に対して攻撃開始!」

 次の命令にも素直に従った分裂体オウキ達が、次々と他の分裂体に攻撃を仕掛ける。

 しかも、都合のいいことに町にいた分裂体オウキは、飛行能力と攻撃能力の性質のためか、分裂体達の後方、もしくは上空にいた。

 結果、背後から不意打ちの形で次々と銃弾を叩き込むことに成功し、多くの分裂体を霧散化させる。

 だが、残った分裂体達は驚く素振りすら見せず、敵となった分裂体オウキに対して攻撃を仕掛けてきた。

 反射的な行動のように見えるってことは、やっぱりこの分裂体達には単純な思考しかないのか? まあ、百どころか千近い数の分裂体を一体の武霊本体で操るにはそれしかないだろう。

 だとするなら、それは実にこっちに都合がいい。

 何故なら、オウキは設定的に千近いサーバント達を操れる機能があるからだ。

 ついでに俺のサポートもあるしな! やるぞオウキ!

 俺の意思に応え、脳内ディスプレイに簡易的な星波町の立体地図と共に分裂体オウキ達の視界が無数に現れる。

 「クイックアップ機能起動!」

 ほとんど動きが止まった世界で、相対する分裂体ごとに合った指示を与える。

 ビャッコボールの孫悟地は接近戦が圧倒的に強く、遠距離攻撃も強力だ。なら、数機で囮になりつつ、遠距離から意識外から攻撃しろ! ツーピースのウキー・B・ルヴィは銃弾が効かない弾性の身体だから、爆発系の銃弾で牽制しつつ、震王シリーズで切り裂け! 鉄の錬金術師のイドワード・ブルリックは周りに変換できる物質が無ければ能力を使えない。なら、シールドサーバントで囲い、シールドごと貫け! うろうに剣人の志村剣人は剣士である以上、遠距離攻撃は少なく、素早い。範囲攻撃で潰せ!

 などなど、全ての分裂体に対応する攻撃方法を急いで命令し終えたギリギリのタイミングで、クイックアップ機能は強制停止した。

 次の瞬間、分裂体達が分裂体オウキ達によって次々と撃破され始める。

 瞬く間に町を埋め尽くさんばかりにいた分裂体が霧散化するが、それに反応したのか天井のように覆い尽くしているスライムから新たな分裂体が落ち始めた。

 っは! いくら出てこようと無駄だってえの! 出始めを狙え分裂体オウキ達!

 スライムの天井からぽこぽこと現れる分裂体は、活動を開始するまで一瞬の間があった。

 つまり、そこを狙えば、もぐら叩きより簡単に叩き潰せる。

 分裂体オウキ達が、俺のさっきの指示を守りながら、次々と新たな分裂体を倒す。

 防御も回避もできない分裂体達が次々と消滅することで、赤一色だった星波町の空が、徐々に元の空色に戻り出した。

 ふと町の武霊達が戦闘に参加していないことに気付く。

 何事かと慌てて武霊使いの人達を確認すると、全員が全員、呆然とした面持ちで空を見上げていた。

 その瞬間、ゾクゾクっとなにかが俺の中に走る。

 ヤバい……これは理解してはいけない感情だ。ハマったら俺が俺でなくなる。切り替えろ。切り替えるんだ……今はそういう場合じゃないだろ?

 腕を組み、片手で口を覆い、鼻だけでゆっくり深呼吸して、強引に生じた感情を黙らせる。

 そもそも、これは俺の力じゃない、オウキの力だ。勘違いするなよ俺。

 そう自分に言い聞かせつつ、そのまま深呼吸して、意識を外へと向けた。

 すると、いつの間にか周りの光景が変わっており、オウキと、ハッカーサーバントに掴まっている着物姿の人形以外、なにもない空間になっていた。

 さきほどいた空間とは全く違う、真っ白でなにもない空間。

 その場所に、彼女はいた。

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