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武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
28/85

16、『武霊強奪能力』

 夜衣斗を助けるために廃校上空へ駆け付けた美羽。

 その前に、赤いスライムの柱が突如として現れた。

 廃校グラウンドを埋め尽くすほど太いその柱は、美羽の乗るコウリュウの高度を越え、更に空へと向かって猛烈な勢いで伸び続ける。

 (こ、これって高神麗華の武霊よね?)

 突如として現れたスライム柱に、美羽は唖然とするしかない。

 何故なら、幾度となく高神麗華と戦ってきた美羽でさえ見たことがない形態だったからだ。

 「なんなのこれ……レベル2だって、ここまで巨大には……」

 思わず口にしてしまうほどの衝撃を美羽は受けていたが、それはなにも初めて見る姿だから、というわけではない。

 今まで培われてきた武霊に関する知識に照らし合わせても、この巨大さは常識外だった。

 巨大化するレベル2具現化『倍加具現』でも、元の大きさの最大五倍が限度だといわれている。

 実際、コウリュウの限度も全長二メートルから十メートルになるのが限界であり、それ以上の巨大化はそもそも意志力が持たない。

 (高神麗華の武霊はスライムだから、武霊能力で大きくなれるとは思うけど……)

 武霊能力の行使であれ、意志力を消費して具現化していることには変わらない。

 勿論、個体ごとや武霊使いによって意志力の消費量に違いはある。

 だが、そういう要素を鑑みても、武霊能力をここまで行使すれば普通は途中で意識を失う。

 それなのに一向に意志力切れになる様子を見せず、柱は伸び続けていた。

 (どこまで伸びるの?)

 美羽が思わずそう思ってしまった時、不意にその成長が止まった。

 いや、正確にはスライムの増殖自体は止まっていない。

 下から上へと増殖し続けてはいるが、一定の高さまでいくと、そこから先が消えてしまっている。

 それを確認した美羽は少しだけほっとした。

 (活動限界領域を越えられないってことは、武霊であることは変わってないのね)

 星波町の空にも武霊活動限界領域は存在する。

 当然、そこを越えて武霊は上空に行けないのだが、

 (でもこれって、武霊使いの常識よね? 領域を利用して何度も逃げている高神麗華がそれを知らないなんてことはないはずなのに、スライムの柱は更に上空へと伸びようと増え続けてる……なんで?)

 その明らかに無意味な行動に、高神麗華がいくら狂人であろうと、疑問を抱かずにはいられない。

 のだが、美羽はふとある可能性に気付く。

 (暴走してるの!?)

 思い浮かんだ言葉に、美羽は困惑した。

 武霊は時折宿り主である武霊使いの意思に関係なく暴走することがある。

 その一つがはぐれ化であり、そこまでいかなくても武霊使いがなんからかの危機に陥った時に、それに近い状態になったことを美羽は何度となく目撃していた。

 つまり、それは高神麗華が、なんらかの要因で追い詰められたということを示す。

 (もしかして夜衣斗さんが!? 昨日だって剛鬼丸をたった一人でやっつけてくれたし、もしかしたら今だって無事かも!)

 僅かな希望が美羽の中で生じた時、スライムの柱に変化が起きた。

 限界領域を越えようとすれば消えてしまうことに業を煮やしたのか、不意に頭頂部が広がり出す。

 武霊活動限界領域にそって広がるスライムは、まるで天井のように星波町を覆い隠し出した。

 「いくよコウリュウ! レベル2」

 嫌な予感を感じた美羽は直感に任せて、コウリュウを今まで以上に強く強くイメージし、美羽の中で存在を大きくする。

 それに伴ってコウリュウの姿が大きくなり、瞬く間に十メートル以上の姿になった。

 巨大化したことにより跨ってられなくなった美羽は、コウリュウの背に飛び上がるように立ち、スライムの柱を指差す。

 「ファイアブレス!」

 間髪入れずにコウリュウは胸を膨らまし、炎の息吹を吐いた。

 レベル2に巨体によって吐かれたファイアブレスは、巨大なスライム柱をあっさり包み込む。

 あまりの広範囲に、周囲の森が燃え始めるが、美羽は気にしない。

 (夜衣斗さんだったら、シールドサーバントとかで防いでくれるから大丈夫!)

 なんて考えているぐらいだが、確かにそれはある意味合っていた。

 「え?」

 炎が吐き終わると共に露わになったスライム柱は、無傷。

 (ど、どうして? スライムの状態なら炎に弱かったはずなのに……そこまで変化したというの?)

 思わず出たその疑問の答えはスライム柱の周り存在していた。

 花弁の大きいひまわりのような円盤が無数に柱の周りに降り、周囲の空間を不自然に歪ませている。

 それがファイアブレスを遮ったと理解した美羽は愕然としてしまう。

 美羽にはその円盤に見覚えがあったからだ。

 「シールドサーバント……」

 愕然と円盤の名前を口にした美羽の前で、スライム柱の一部が変化し始めた。

 ぽこと音を立てて球体が現れ、それが柱から離れると共に瞬く間に人型へと変化した。

 (そんな……どう見たって夜衣斗さんの……)

 現れた分裂体は、赤い鋭角的な騎士甲冑の姿をしており、スライムで身体を構築しているとはいえ、見間違いようもなく黒樹夜衣斗の武霊・オウキだった。

 (じゃ、じゃあ、夜衣斗さんはもう、もう……)

 スライムから奪われた武霊が分裂体として出るということは、美羽の今までの経験から既に夜衣斗は殺されているということになる。

 「み、美羽は、また、また……守れなかったの?」

 あまりのことに美羽は膝からコウリュウの背に付き、座り込んでしまった。

 「ごめんなさい夜衣斗さん……美羽が、美羽がもっと早く高神姉弟のことを話していれば……」

 懺悔の言葉と後悔に、美羽の目から涙が溢れ、頬を伝って落ちる。

 そんな美羽をコウリュウは首だけで振り返り、心配そうに見ようとした。

 「前を向いてコウリュウ」

 自分の武霊の動きに気付いた美羽は、制止させると共に、勢いよく立ち上がる。

 腕で涙をぬぐった美羽は、強引に溢れ出るものを止めるように、キッと分裂体オウキを睨み付けた。

 「いくよコウリュウ! せめて、今日この場で高神麗華を捕まえ――」

 気合いの言葉と共に、攻撃を再開しようとした時、スライム柱から新たな球体が次々と現れ出した。

 別の奪った分裂体が現れると思った美羽だったが、現れたのは、

 「なんで!?」

 またしてもオウキだった。

 今までの高神麗華の武霊能力は、奪った武霊ごとに、一体しか分裂体を出さなかった。

 これは、分裂体を操っているのが、奪われた武霊の本体そのものだからではないかと予測され、実際同時に同じ分裂体が出たのを目撃した者はいない。

 なのに、今回に限って、例外的なことが起きた。

 (麗華にも能力的な変化が起きた? どうして急に……)

 美羽が愕然としている前で、次々と柱から分裂体が生じ始める。

 現れる分裂体はオウキばかりではなく、今まで奪われ殺されてきた他の武霊使いの武霊達も現れ始めた。

 当然、オウキ同様に同じ分裂体が次々と現れており、その現象は空を覆い始めているスライムの天井にも起き始めている。

 「コ、コウリュウ!」

 美羽が慌てて攻撃の指示を出そうとするが、それより早く分裂体オウキ達の攻撃が始まってしまった。



 気が付くと、俺は真っ暗な場所にいた。

 一瞬、またサヤに自分の心の中に引きずり込まれたのかと思ったが、周囲を見回してもただ暗い光景が広がるだけ。

 これはどう見ても公園ではなく、ここがまともな場所じゃないのは間違いなさそうだった。

 何故なら、足元に広がるのが、普通の地面ではなく、全て人形だったからだ。

 一体一体が、着物やドレスにセーラー服などの違う格好をした着せ替え人形か? それがびっちり。

 そのあまりにも気味の悪い光景に背筋が寒くなる。

 周囲の地面が全て人形ということは……

 恐る恐る足元を見てみると、やっぱりそこには人形がぎっしり。

 ぞぞぞっと全身に鳥肌が立つのがわかる。

 反射的に逃げたくなるが、この場の全てがこうであるのならどこにも逃げようがない。

 あまりにも恐ろし過ぎる現状にパニックになり掛けるが、反射的に腕を組み、片手で口を多い、鼻だけで呼吸。

 落ち着け、まずは落ち着け俺。

 考えろ、考えろ俺、今のはなんだ、どうして俺はここにいる?

 そうやって自分に念じることで、なんとか冷静になることができた。

 同時に直前のできごとを思い出す。

 高神麗華を演じていた少女の様子が不意に変わり、それまでしていた真似を止め、ペットスライムを具現化した。

 俺は再び自爆コードを使って倒そうとしたが、何故か効かず、急激な膨張に巻き込まれて……ってことは、もしかしてオウキを奪われている?

 なんて思うと、背後からなにかの気配。

 首だけ振り返って確認すると、オウキがいた。

 どうやらまだ奪われてはいないらしい。

 まあ、そもそも格好がPSサーバントのままだから、その心配は杞憂だったのかもしれないな。

 いや、そもそも奪われるイコール爆死なんだから、こうして意識を保っている時点でまだ奪われていないって証拠だ。

 とはいえ、もしここがペットスライムの中って仮定するなら、まだ奪われてはいないだけって話かもしれない。

 そんな一抹の不安を覚えた時、ふとあることに気付く。

 この場にある人形が、高神麗華を演じていた彼女の容姿を模していたことにだ。

 つまり、ここはペットスライムの中ではなく、彼女の心の中なのだろうか? あるいは、彼女の心を反映したペットスライムの中か? ……なんであれ、ここから早く脱出しないとヤバいのは間違いないな……だが、果たしてここは脱出できる場所なのだろうか?

 そう思って改めて周りを見回すが、地平線の先まで同じ風景が続いているようだった。

 空の方がどうなっているか気になり、見上げてみるが、真っ暗。

 心の中であると仮定するなら、星空があっても良さそうな感じだが、まるで光を一切通さない部屋の中のようだった。

 でも、ちゃんと周りを見れるんだよな……流石心の中? まあ、なんであれ、この感じだと上に飛び続けても脱出できるか疑問だな。だとすると下か?

 ちょっと忌避感を感じつつ、恐る恐る改めて足元を見る。

 当然、そこには彼女を模した人形がびっしりと敷き詰められており、再び全身に鳥肌が立ってしまう。

 あんまりにも精巧に作られている人形だからであり、一度そうだと認識してしまうと、どうにも……というか、これ、人形と認識していいんだろうか? 心の中であるのなら……いや、ん~……

 色々と悩みながら、俺は人形の下を確認するために、屈んで手を伸ばした。

 その時、オウキが俺に警告?

 送られてきたビジョンは俺を見下ろす形の視界。

 一瞬、なにを警告されているかわからなかったが、周囲から音が聞こえ始めると同時に気付く。

 周りに散乱している人形達がゆっくりと動き出していることにだ。

 ぎょっとした俺は、自分の目で足元を確認すると、そこにある人形達も次々と立ち上がっている所だった。

 嫌な予感がした。

 動けるってことは……

 立ち上がった人形達が一斉に俺の顔を見た。

 まずい!

 だが、周りは見渡す限りの人形。

 逃げ場のない俺に対して、立ち上がった人形達が一斉に飛び掛かった。

 オウキが庇うように動いてくれるが、人形の数はあまりにも多く、防ぎ切れない。

 次々と俺に取り付く人形を必死に剥がすが、しまいにはオウキの方にまでくっ付き始めてしまう。

 くそ! このままじゃいずれは人形に埋もれてしまう! どこかに、この状況を打破するなにかはないのか!?

 焦る気持ちに突き動かされ、周囲に視線を巡らした。

 すると、無数の人形が広がる情景の中に、無数の人形に包まれているなにかを見付ける。

 唐突に現れた異質な存在に、俺は窮地を脱する手段を求めて目を凝らし、思わずぎょっとしてしまった。

 何故ならそこには、ビャッコボールの孫悟地やテレポーター小学生を始めとするさっき分裂体として襲い掛かってきた武霊達がいたからだ。

 しかも、その色は全身赤ではなく、肌の色も服の色も普通になっているので、ここにあるのが奪った武霊達の本体ってことなんだろう。

 つまり、人形が大量に動き出したことで、下に埋もれていた武霊達が露わになったってことか? ってことは、人形に埋もれてしまうことイコール武霊を奪われ、爆死!? くそ! このままでは……この場所で使えるか疑問だが、頼む! クイックアップ機能起動!

 祈りを込めた起動命令と同時に、俺に飛び掛かってきた人形達が、ぴたりと止まった。

 どうやらここでも武霊能力は正しく使えるようだ。ってことは、ここは精神世界ではないのか? いや、そんな思考は後だ後! なにか、なにかこの状況を覆せるものはないのか!?

 というか、そもそも、高神麗華は嗤うでこんな設定あったか? いやないよな? 俺の記憶が正しければ、作中で奪われた主人公の能力がどうなったか、どういう仕組みで奪われるかの描写はされていない。

 つまり、そういう元々ない部分は、他のイメージで補完されるということなのだろう。

 その補完が、彼女を模した人形。

 なんでそうなっているのかはわからないが、人形に包まれてしまえば、オウキが奪われるのは間違いないだろう。

 だが、武霊以外に周囲にいないことから考えると、まるごと武霊使いを奪うわけではないのか?

 いや、そもそも、爆発した後の死体がどうなったか聞いてないんだから、そこの思考は無意味だ。

 だが、少なくとも、俺に対して襲い掛かって来たことから考えると、奪う過程の中に武霊使いを襲う行程が組まれているのは間違いない。

 そう思いながら副眼カメラをフルに使ってなにか手掛かりになるものはないかと必死に探す。

 襲い掛かっている人形達は、喜怒哀楽に、無表情のどれかの表情をしている。

 って、これじゃない。

 奪われている人型の武霊達は、顔以外を人形に覆われており、目をつぶっているため、ちゃんとした意識があるわけではないのを窺わせる。

 だが、これでもない。

 他になにかないのか!? どんな些細なことでも見逃すな俺! よく見ろ……よく見ろ……ん?

 ふと気付いた。

 何故か武霊に抱き付いている全ての人形が空を見上げている。

 上になにかあるのか? さっきはなにもなかったはずだが……

 そう思いながら上方向が見れる副眼カメラを意識すると、そこにはどこかの町があった。

 武霊達の真上には、いつの間にか円形の穴が空いており、その中に町の光景が映し出されている。

 しかも、映し出されている映像には、大量の分裂体が映り、チラチラと入る普通の武霊達と戦っていた。

 その光景は、どう見ても星波町であり、このタイミング・この状況でってことは、今現在起きているってことか!?

 ちょっと待て! 武霊達の上にある映像全ては、それぞれ違う場所を映し出している。しかも、それぞれの画面を覆い尽くさんばかりに分裂体が、同じ武霊の分裂体が大量に存在しているっていうのはどういうことだ? それどころかよくよく見ると町の上空はスライムによって覆われているみたいだし……さっきの戦闘の時は、分裂体を大量に出しても、一武霊一体だった。奪った武霊の本体を操って分裂体として具現化しているのなら、それは自然なことだし、原作である高神麗華は嗤うでも、一作品一分裂体だったはずだ。それなのに……

 タヌえもんの上に映る光景はメインストリート。

 今日何度か通った道を、分裂体タヌえもん達が埋め尽くし、まるで軍隊の行進のように進みながら、腕に付けた簡単な砲身から空気を乱射していた。

 周囲の建物が圧縮空気で壊される中、分裂体タヌえもん達の行く先には、スプーンみたいな目をした銀色の巨人・ハイパーマンのレベル2武霊が立ち塞がり、光りのシールドを展開している。

 その背後には避難している人達がおり、誘導している自警団らしき人をサポートしているようだった。

 アドムの上に映る光景は、星波駅周辺。

 分裂体アドム達は星波駅上空を飛び回りながら、避難している人達に向かって次々と急降下していた。

 その分裂体アドム達が地上に接近し切る前に、極太の光線が空を走る。

 光線に巻き込まれた分裂体アドム達が一瞬で消滅。

 レーザー光線?

 映し出されている光景の視点が移動し、星波デパートの屋上が映し出された。

 そこには銃らしき物を持った人物がおり、誰か確認しようとする前に閃光が生じて、再び映像が切り替わってしまう。

 どうやら分裂体達の一体の視線が映し出されているようだが……

 志村剣人の上に映る光景は、病院。

 分裂体の志村剣人・セーラアース・アドムなどの接近戦タイプが病院に殺到し、建物内に侵入しようとしていた。

 他のどの場所よりも分裂体の密度が違う激戦区だったが、一歩でも病院敷地内に入ろうものなら、白い閃光と呼べるなにかが走り、武器を持つ分裂体ならその武器ごと一閃され、瞬く間に霧散化!?

 次々と真っ二つにされてるけど……なんだ? やたら病院を守っている武霊強くないか?

 思わずどんな武霊か状況を忘れて凝視しようとすると、その意思に応えたPSサーバントが停止映像を脳内ディスプレイに映し出した。

 その映像には白い……犬か? ん? 誰か背に乗っているな……伸びた体毛を固定具にしているみたいだな……白くて簡素な長袖のブラウスに黒色のジーパンで、前掛けを……って? あ! 幸野さんだ。

 停止映像に移っていたのは、武霊と思われる白い犬に乗り駆けている幸野美春さんだった。

 自警団団長という立場だから、簡単に動かせられない人達が大勢いる病院を守っているんだろうが、たった一人で?

 その疑問の答えは直ぐに見つかった。

 数の多さから、分裂体志村剣人の一体が病院に接近してしまう。

 追うのかと思った幸野さんは何故か無視。

 って、まずいだろ! なんで!?

 そう思った時、建物を破壊しようと分裂体剣人が剣を振るってしまう。

 その瞬間、外壁が輝き、分裂体剣人が霧となって吹き飛んだ。

 輝く外壁をアップさせると、そこには『武霊封じ』と書かれた文字が浮かんでおり、それが輝いているようだった。

 なるほど……つまり、武霊の存在や能力を封じる方法があるのか……多分これも武霊能力の一種なんだろう。そうだとすれば、武霊の性質上施せる場所には限度があるだろうし、守っているってことは許容限界がある。

 避難している人達の動きから察するに、同じ処置を施した施設が町の各所にあると考えるなら、早々と人的被害は出ないだろうが……やっぱり何度見ても町に大量の分裂体が襲い掛かっているようにしか見えないな。

 つまり、能力が変化した? なんでいきなり……そもそも、これだけ大量の分裂体を出して意志力が持つこと自体おかしくないか?

 二十体の分裂体を出した際に疲弊した振りをし、その後再び同じ数を出現させても、疲弊感はないように見えた。

 とてつもなく意志力消費の効率がいい武霊能力なのか、彼女が常人以上の意志力を保有しているとか色々と考えられるが、そんな都合のいい非常識が非常識の中に存在するんだろうか?

 常識的に考えるのなら、外部的要因(・・・・・)、なにかしらの回復手段(・・・・)を彼女が持っているということになるんだろうが、それを確認できる状況ではないし、俺自身もこれ以上それに思考を向ける余裕がなくなった。

 町を映し出している光景の中に、オウキの姿を見たからだ。

 ぎょっとなって背後のオウキを確認すると、周りにいる武霊達のように完全に人形達に包まれてはいない。

 だが、既に俺とオウキは人形に包まれつつあり、他の武霊と同様に顔以外を包まれてしまった時……俺は殺されるのか? オウキを完全に奪い切るために。

 そのぞっとする想像を肯定するかのように、オウキの真上には既に町の光景を映し出す穴が開いていた。

 しかも、そこに映し出されたのは、コウリュウの背に乗った美羽さん!?

 分裂体となったオウキ達が、コウリュウを取り囲み、二丁拳銃(ケルベロス)による集中砲火を浴びせていた。

 コウリュウは巨大な鱗を周囲に飛ばして銃撃を防いでいるので、背に乗っている美羽さんは無事なようでほっと一安心。

 だが、明らかに防戦一方になっている状況は、非常にまずい。

 町も町の方で空から降ってくる他の分裂体達に対応するので精一杯なようで、とても美羽さんの援護に入れる状態ではない。

 弟の方を速攻で倒してこっちに駆け付けてくれたのか、美羽さんがいる場所は廃校近くのようだったが、つまりそれは町のはずれという位置。そうなると助けに入ってくれる武霊使いが周囲にいない可能性も……くそ! なんでオウキで美羽さんを襲う!? 俺への当てつけか!? ふざけんな!

 俺の中に唐突に強烈な怒りが込み上げてきて、ダイレクトに感じているオウキが少し怯えた気がしたが、湧き上がる感情を止められない。

 昨日今日だぞ! 新たな死の運命が降り掛かるか普通! いや、死の運命なんてもんがどんなものかしらんから、これが普通なのかもしれんが、だったらだったらで、なんで町に、美羽さんにもその運命が降り掛かる! 自分だけならまだしも! 自分だけにすることができるならまだしも! それどころか俺の、オウキの力を使って振り撒くだと!? ふざけんなよ! 冗談じゃない! こんな運命、町ごと絶対に覆してやる!

 そうだろが!? オウキ!

 俺の思いに、オウキが何故か戸惑ったような否定の感情を送ってきた。

 オウキはあくまで俺の運命を変える選択。他の人間の運命を変える選択じゃない。

 って言いたいんだろ?

 その問いに、オウキは弱弱しく肯定の感情を送ってきた。

 っは! 違うね! 俺に降り掛かった死の運命が発端であるのなら、例え町規模に拡大しようと、これはもう全部俺の運命だ! そうだろ!?

 俺の強い思いに、今度は力強く肯定の感情を送って来てくれるオウキ。

 なら、覆して見せる! いや、見せてみろ!

 そう一方的に思った後、俺はオウキの返事を待たずに思考に没頭した。

 彼女の武霊は能力変化を起こしたとしても、ベースは高神麗華は嗤うのペットスライムを基にしていることには変わらないはずだ。

 なら、弱点もそのまま残っているはず。

 なのに自爆コードが利かなかった。

 それは何故か?

 いや、原因を考えるより、弱点を突けなくなったと仮定して次へ思考を進めるべきだ。

 では、どこを突く?

 そもそも、武霊が具現化再現しているのは、武霊使いの根底にあるイメージだ。

 つまり、弱点だけではなく、その特徴や属性なども再現しているということになる。

 ん? 特徴や属性(・・・・・)? ……そうか!

 ある可能性に気付いた俺は、自分の中にある高神麗華は嗤うの全てを懸命に思い出し、確信を得ようとした瞬間、クイックアップ機能が切れ、止まっていた人形達が動き出す。

 またこのタイミングか!? なんか呪われてんのか俺は! だが、もう十分だ! これに賭けるぞオウキ!

 「セレクト! ハ――」

 オウキから新たなサーバントを出そうとした時、それに反応したのか、それまで一体一体飛び掛かってきた人形が、まるで津波のような塊となって一斉に襲い掛かってきた。

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