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武装守護霊  作者: 改樹考果
プロローグ『選択の武霊使い』
2/85

2、『骸骨犬』

 叔母の唐突な警告に、俺は困惑するしかなかった。

 そして、更に困惑させたのが、

 「「「自警団から緊急警報。海側『はぐれ』発生ポイントにて『はぐれ』発生。外に出ている住民の方は至急避難マニュアルに沿って避難を始めてください。また、この放送に戸惑っている方は住民の避難誘導に従ってください。なお、『昨日』発生しているので訓練だと思う方もいるとは思いますが、これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません――」」」

 この放送内容だった。

 「……何です……これ?」

 そう俺が口にするが、周囲の無数のスピーカーから発せられる放送に俺の声がかき消されたのか、

 「「とにかく、今は何も考えずに避難して! 訳は後で説明するから!」」

 そう言って通話が切られた。

 一体何だっていうんだ?

 さっぱりわけがわからず、スマートフォンを暫く見続けるが、らちが明かないので、放送に従って、誰か周囲にいないか探す。

 だが、何の運の悪さか、それとも昼の住宅街だからか、いくら歩いても、いくら探しても人っ子一人いない。

 サイレンから十分ぐらいは経ってるだろうか? 放送も未だに続いてはいるが、ここまで大げさにしなくちゃいけないほどのことが起きている感じはしなかった。

 まあ、海側って言ってたから、何かが起きているのは海の方なんだろう。

 だとしたら、まだ時間的な余裕はあるか? ん~何が起きているかわからない以上、この考えは危険な気がする。というか、はぐれって何だ? まさか海賊とか、他国の兵とかが攻めて来たとか? バカバカしい、漫画やアニメじゃあるまいし、妄想も大概にしろよな俺? そんなことになるのなら、ネットで調べた時にそういう話がヒットするだろうし、そもそもテレビとかで大々的なニュースになってるって。放送の、訓練とか、マニュアルとかって言葉から推察するに、これは少なくとも『そういう仕組みができるぐらいに何度も起きていること』だろうしな。っていうか、それって一体何なのだろうか? 皆目見当もつかない。まあ、情報量が少な過ぎ――

 色々と思考を巡らしていた時、不意に何かが、軽くて硬い、獣が飛び降りて着地したような音がした。

 その音がしたのが進行方向上だった為、反射的に発生源に視線を向けると、一瞬、『それ』が何なの俺は理解できなかった。

 それは歓喜だろうか? 俺を見て空気が震えるような遠吠えを『それ』がした。

 それは『犬』だった。

 ただし、全身からまるで肉の代わりのように炎を噴き出す骸骨の犬。

 あまりの出来事に、俺は身体のみならず、思考も止まってしまう。ただ、

 まだ夢でも見ているのか?

 などと思ってしまった次の瞬間、骸骨犬が俺に飛び掛かってきた。

 っな! くそ!

 それは俺にしては上出来過ぎる反応だった。

 骸骨犬が飛び掛かってくると同時に、俺は反射的に手に持ったコンビニ袋をそいつに向かって投げていた。

 狙いを定めないで行った行動だったが、投げられたコンビニ袋は見事に骸骨犬の顔面に当たり、それが横に避ける隙を作った。

 噴き出す炎の熱風が通り過ぎるのを感じながら、俺は自分の反応に軽く驚きつつ、骸骨犬の着地音を聞くより早く全速力で駆け出す。

 通り過ぎた時に感じた熱さが、強烈な現実感を呼び込み、否応なしにこれは本物だと俺に感じさせた。

 だからこそ、思考を挟む余地もなく、湧き出した恐怖に促されての反射的な逃走。

 あまりにも非日常・非現実だが、そうだと思い込ませないほどの存在感が骸骨犬にはある。

 本来ならパニックになっても良さそうな物だが、俺は恐怖を感じても、何故か妙に冷静だった。

 許容範囲を一気に超える出来事だからこそ、そんな心理状態になっているのかもしれない。

 って、こんな状況で、こんなことを考えているってことは、やっぱりパニックになっているのか?

 と、とにかく、駆け出したはいいが、どう考えても俺の走る速度ではあっという間に追い付かれる。

 なんせ、骸骨ではあるが、向こうは犬だ。犬に走る速度で勝てるとは思えない。まあ、それ以前に、速度もそうだが、持久力も全くといっていいほど俺はない。というか、やっぱり夢でも見ているんじゃないのか!?

 逃げていることで僅かに骸骨犬から離れることができたせいか、思わずそう思ってしまう。

 が、走ることによって生じる息苦しさや、足から伝わるアスファルトの感覚が夢だと思わせてくれない。

 夢じゃないなら、骸骨犬のあからさまに鋭い爪と牙は、俺を簡単に引き裂く。

 そう改めて思った時、何かがアスファルトの上を走る音と共に熱風が、背後に明確な死の気配を感じた。

 追われる恐怖感を強く感じ始め、今より早く走ろうとするが、気持ちに反して、身体は思いどおりに動かない上に、息切れを起こし、苦しくなる。

 だが、背後から振り向かなくてもわかるぐらいに、先程より近くに骸骨犬の足音がはっきりと聞えてきた。

 くそ! これでは足を止めるわけには!

 足音の距離と、自分の速力・体力から数秒後に追い付かれると判断した俺は、賭けに出ることにした。

 さっきの放送の中に、住民の避難誘導って言葉が在った。

 それはつまり、この『町の住民』なら何とかできる。もしくは『何からの手段』を持っているってこと。そして、さっき探しても彼らが見当たらなかったってことは、外に出ているって言う言葉からも考えて、家に引きこもっているってことだ。ん!? ってことは、建物の中に入ればこいつは襲ってこないのか!?

 そこまで考えた時、一際大きい足音がした。

 飛び掛かってきた!?

 そう判断した次の瞬間には、俺は咄嗟に近くの家に飛び込んでいた。

 俺が飛び込んだのは、コンクリートの塀に囲まれた二階建ての家。

 塀には門の無い入り口があり、家の玄関まではそれなりの広さの土むき出しな庭があった。

 その庭に俺が転がり込むように入ると同時に、背後に熱気を感じ、着地音が聞こえる。

 こけそうな体勢を無理矢理戻して、何とか玄関まで駆け寄り、ドアを叩こうとして、気付いてしまった。

 玄関の郵便受けに溢れるほど手紙やら新聞やらが詰まっていることに……っはは……最悪だ……

 そして、背後に気配を感じて思わず振り返ると、そこには当然、庭に入ってきた骸骨犬がいた。

 飛び掛かるタイミングを計るかのように俺から少し離れた場所でうろうろする骸骨犬。

 その距離はとてもさっきみたいに避けて逃げる距離じゃなく、周りも一足飛びに越えられるほど低い塀ではなかった。

 加えていえば、俺に再び走って逃げる体力は残されていない。

 多分、目の前の骸骨犬も野生の本能? でそれがわかっているからこそ、いきなり飛び掛かって来ることはしないんだろう。

 絶体絶命。そんな言葉が実に似合う、今までの人生の中で一度も経験したことがない状況に、俺の動悸は走った影響以上に激しくなり、頭がくらくらし出す。

 正直、現実感があっても、これが現実だとは思えない。だが、骸骨犬から発せられる炎の熱気、土が焦げる臭いが、否応無しに俺をこれが現実だと自覚させようとする。

 吐き気がした。

 それと共に、

 死

 『久し振り』に実感したその言葉。

 もっとも、『前は自ら望んで』だった。

 が、今はそんな気はさらさない! しっかりしろ俺!

 だが、だが、骸骨犬の鋭い牙は勿論、その足先にある鋭そうな爪、全身から出ている炎、そのどれもが喰らえば大怪我。いや、絶対にそれだけでは済まない。殺され、きっと喰われる。

 そんなのは、絶対に……嫌だ!

 だからこそ、俺は覚悟を決めた。

 いや、これはただの逆切れなのかもしれない。

 理不尽で、唐突過ぎる死という現実。

 それが『昔の記憶』と重なって、噴き出した過去と現在の怒りが混ざり合い、いつもの俺なら絶対にしないことを決意させた。

 腕一本を犠牲にして、骸骨犬を壁に叩き付ける!

 明らかにキレた思考を理性が抑えるより早く、骸骨犬が足に力を溜め、飛び掛かって来た!

 狙いは明らかに俺の喉元。

 だったら!

 喉の前に左腕を出し、前に突き出そうとした次の瞬間。

 地響きを立てて何かが俺と骸骨犬の間に着地した。

 そして、

 「やれ、剛鬼丸」

 と頭上から聞こえると共に、目の前の何かが動き、再びの地響き。

 え? ……えっと……え!?

 何が起ったかわからず、突き出した腕を唖然としながら俺は降ろした。

 俺の前には、教科書とかで見る戦国武将が着ているような鎧甲冑があった。

 しかも、二メートル以上はある巨体で、腕を地面に突刺しているようだった。

 その周囲には、炎を纏った骨が散らばっていた。

 つまり、この鎧甲冑が骸骨犬を殴り潰してくれたってことか?

 俺が唐突な出来事とその鎧甲冑に戸惑い始めると、鎧甲冑がゆっくり地面から腕を抜き、振り返った。

 目に映ったその顔は、何処をどう見ても『鬼』の顔だった。

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