7、『喫茶店での語らい』
喫茶店白猫屋珈琲で出された料理は、ミートスパゲッティやピラフなどが乗ったワンプレートタイプで、皿の下には可愛らしい白い日本猫が描かれている徹底ぶりに、ちょっと呆れたというかなんというか、どんだけ猫が好きなんだか……
その昼食セットを食べ終え、いよいよ密かに楽しみにしていたデザートが配膳された。
「さて、じゃあ、改めて話を聞かせて貰いたいのだけどいいかしら?」
そんな時に幸野さんがそう切り出した。
あまりのタイミングに、思わず目の前の白猫パフェと幸野さんを交互に見てしまう。
白猫パフェは、細長い容器の中にホイップクリームやイチゴやメロン・リンゴなど色々な果物に、色とりどりなゼリー。特にゼリーは全て猫の肉球っぽく作られていて、妙に手が込んでいた。加えて、一番上には白猫を模した白い牛乳プリン。髭や耳までチョコクッキーやホワイトクッキーなどで再現しており、極めつけは容器に刺さっているスプーンが猫の尻尾っぽく作られているので、なんというか並々ならぬこだわりを感じる。
美羽さんがお勧めした理由を食べなくても感じて、物凄く美味そうだった。
早く食べたいんだが、まあ、パフェは逃げないから、我慢我慢。
そう思いながら、俺は幸野さんの問いに頷いた。
「じゃあまずは……あなたが初めて星波町にきたって話は人伝に聞いているわ。でも、本人の口からもう一度確認したいのだけど、本当に初めて?」
その問いに、俺は初めてですっと言おうとして、止めた。
考えてみると、サヤがいた見覚えのない公園が、星波町の公園である可能性だってある。
それにあの頃は両親の都合で色々な所に引っ越していた時期だから、可能性はなくもないか?
そう思った俺は、正直に話すことにした。
勿論、サヤや謎の老人に関することを省いてだ。
彼女に関しては、どうにもイレギュラー過ぎる上に、話してしまうことで、余計な方向に運命が変わる可能性がある。
なんせ、俺の運命を変える選択なわけだしな。
まあ、そもそも、彼女を完全に信頼していいかどうかも、現時点ではよくわからない。
「そう……もしかしたら幼い頃にきている可能性があるのね」
俺の可能性の話に幸野さんは考え込むように、黙ってしまった。
多分だが、昨日のはぐれ連日発生のとの関連性を疑っているのだろう。
俺自身ですら疑っているんだから、誰だって疑念を浮かべる。
だが、俺にはその疑いを晴らす術も、確固たるものにする証拠も持ち合わせていない。
そしてそれは、向こうも一緒。
まあ、だからといって、このままあらぬ疑惑をかけられ続けるのは困るので、俺なりの推論を口にすることにした。
「……個人的な考えですが、一日で武霊が具現化したのは、ただ単に相性が良かったんじゃないかと思います」
「相性?」
俺の言葉に、幸野さんは少し眉を顰めた。
「……俺は、子供の頃から空想好きでした。そういう人物は、武霊にとっては憑くには最適な相手なんじゃないんでしょうか?」
「それはあなたの叔母である春子にだっていえることでしょ? なのに彼女は、十年近くこの町に居ても、未だに武霊を具現化させたことがないわ」
「……春子さんは武霊使いじゃないんですか?」
「ええ、そうよ。本人から聞いていないの?」
「……はい……その、まだあまり喋ってませんので」
「そうなの?」
「……ええ……まあ……えっと、とにかく、さっき聞いた多くの武霊使いの初発現の仕方が、はぐれに襲われたことによるものであるのなら、春子さんは一度も窮地に陥ったことがないからなんじゃないんでしょうか? もしかしたら、この町にきてすぐに俺と同様にはぐれに襲われれば、同じように武霊が具現化していた可能性はあると思います」
「じゃあ、夜衣斗君は一ヵ月の法則は、個人差で覆せると思っているのね?」
「……一ヵ月という基準は、それだけではなく武霊に関するあらゆる知識は、経験則で導きだされたものだと聞きました」
「ええ、そうよ」
「……だとすれば、それには確固たる確証があるわけではないってことになりますよね? 加えていえば、その経験則自体も、偶々町に訪れた人や、星波学園に入学して直ぐの子供達を調べた程度の情報量であるのなら、一つの答えとして考えるには早計過ぎると俺は感じます」
「十年の積み重ねでも?」
「……武霊が何であるか根本的にわかってもいないのに、上澄みだけの情報では、酷く頼りないと思いませんか? 現にはぐれ連続発生や、俺のような例外が出ているのですから」
「それは、そうかもしれないわね……」
「……そう考えると、個人差っていえなくないでしょうか?」
「どうなのかしら? 経験が不足しているとはいっても、私は多くの武霊使いを見ているわ。自警団団長という立場上ね。そんな私から見て、町にきてすぐに武霊を具現化したことを抜かしたとしても、夜衣斗君はとんでもないわよ? 特に武霊操作なんてどの武霊使いが見ても驚きを感じるでしょうね」
「……それも相性の問題とはいえないんでしょうか?」
俺の問いに首を横に振る幸野さん。
「少なくともこの十年間、そういう人がいた記憶はないわ。私だって、具現化してすぐに武霊をあれほど自在に操れなかった。普通は、何度も何度も具現化を重ねて、武霊をどう扱えばいいか学び、言葉無くとも互いの信頼を得て、ようやく自在に操れるようになるものだけど……勿論、それには個人差や、過程の違い・従わせ方の違いなどあるわ。それでも、初めて具現化してすぐに、自在に武霊を操るのは異例だったし、昨日見た限りでは、私と同等に操れているようにも見えたわ」
「……流石にそれは言い過ぎなのでは? 剛鬼丸を倒せたのだって、偶々相性が良かっただけでしょうし」
「相性だけで覆せるほど、剛鬼丸は弱くはないわ。例え武霊使いがいなくてもね」
田村さんが所属していた自警団の団長である幸野さんにそう断言されてしまえば、流石にこれ以上は否定できないが……自警団団団長と同等ね……
「更に言えば、そんな人物が現れたタイミングも、あまりにも良過ぎる。美羽から既に説明を受けているとは思うけど、これまでのはぐれ発生は、一度発生すれば、次に発生するのに少なくとも一週間の間が空いていたわ。なのに、昨日に限って、二日連続のはぐれ発生。そのせいで、予期していなかった私達は苦戦することになり、町に残っていた公認武霊使い達を緊急招集。そこまでしても、怪我人が続出し、町に侵入を許し……自警団員が武霊を失う被害を出してしまった」
そこまで言って幸野さんは小さく息を吐いた。
団長であるが故に、田村さんに対して責任を感じているのだろう。
しばらく少し辛そうに黙った後、幸野さんは不意に俺に対して微笑んだ。
「でも、それ以上の被害はでないですんだわ。これは夜衣斗君の活躍のおかげと言っても過言ではないわね」
またそんな……
「……偶々ですよ」
「事実なのだから、謙遜しなくても良いわよ」
そんなことを言われても、ただひたすらに困るしかない。
「っで、問題なのは、その被害と活躍にも、今までのはぐれにはない例外的な動きが多々あったことね」
「……俺やはぐれ発生以外にも例外が?」
「夜衣斗君に襲いかかったはぐれは、浜辺に現れたはぐれと違い、全身から炎を出さずに町に侵入していたわ。これは避難していた町民の証言からわかったことで、その証言者は更に不思議なことを言ったの。普通のはぐれなら、人を見付ければ即襲い掛かってくるはずなのに、その証言者を見付けても威嚇はしても、襲い掛かってくることはなかったって。そんなはぐれが、唯一襲ったのは、夜衣斗君と助けに入った田村遼だけ」
それって……
「まるで、浜辺に現れたはぐれを囮にして、夜衣斗君だけを狙ったようにも見えるでしょ?」
なんだそりゃ! いくらなんでも、いや、というか、
「……正直、そうなる心当たりがないんですが……」
「夜衣斗君に心当たりなくても、夜衣斗君自身になにかがある可能性は高いと思うわ」
幸野さんの言葉に、俺は思わずぎくりとしてしまった。
サヤや封じられた記憶。そして、死の運命のことを連想したからだ。
だが、その死の運命に関しても、自分でもよくわかっていないことが多過ぎる。
なので、ここで正直に心当たりを答えることはできない。だが、ここで嘘を吐くのも、誤魔化すのも変に思われるだろう。疑いが強まれば、何かしらの余計なトラブルを抱え込むことになりかねない。
なので、嘘は言わずに、疑念を呼ぶようなことは口にしないことにした。
「……俺が武霊使いに目覚めることになった、なにかしらが原因である可能性があるってことですね?」
俺の問いに幸野さんは頷いた。
「ええ、そう考えれば自然でしょ?」
「……確かにそうかもしれませんが……」
口籠る俺に、幸野さんは優しく微笑む。
「いいの。夜衣斗君が本当に確かな心当たりはないのはわかったから、これ以上夜衣斗君に聞く気はないわ」
確かな、ね。今の感じだと俺が何かしら確証のない心当たりを隠しているってばれているっぽいな……まあ、それを確認するのは、藪蛇になりそうだから、これ以上喋らない方がいいか。
「それにはぐれの能力自体も、今までにない擬死という変化も見せていたから、ただ単に武霊の性質がなにかしらの理由で変化したとも考えられなくもないわ」
「……これまでは単純な能力ばかりだったってことですか?」
「そうとも言い切れないけど、少なくとも死んだフリなんてすることはなかったわね。これまでのはぐれは、身体がどれだけ傷付こうと、相対した人や武霊に向かって襲いかかってきていたわ。そこに演技とかを挟むなんてなかったから……その先入観が、私を含めた多くの武霊使いに怪我人を出す結果に導いてしまったんでしょうね」
そんなことを言って、幸野さんは少し暗くなった。
また責任を感じてしまっているのだろう。
「……個人的な意見で言えば、十年間大きな変化がなかったのなら、それに油断が生じてしまうのは無理からぬことだと思います」
流石に二回も目の前で落ち込まれてはフォローせざるを得なかったが、慣れないことに思わず恥ずかしくなってしまう。
そんな俺に幸野さんは優しく微笑む。
「ありがとう」
そう言われてしまうと、ますます恥ずかしくなるって、あ~なんでフォローなんてしてしまったんだろう? とにかく! 恥ずかしさを誤魔化すためにも俺の考えを口にしよう。
「……えっと……さっきも言いましたが、全ての根本となる武霊について、わかっていることは経験則で得た上澄みだけの情報でしかありません。ですので、極論にはなりますが、全てがたまたまだったという可能性も捨てるべきではないと思います。勿論、だからといって、俺が発端になっている可能性を捨てるのも止めておいた方が良いでしょう」
俺の言葉に、幸野さんは驚いた顔になる。
「夜衣斗君は自分が疑われることになってもいいと思っているの?」
「……俺が疑われるのは当然でしょう。正直、自分でも疑っているぐらいですからね。とは言っても、どこをどこまで疑い、どう晴らせばいいかわからないのが現状です。だったら、自分から疑いを晴らすのではなく、第三者の手によってある程度疑いを晴らして貰うしかないと思います」
「本当にあの春子の甥っ子だとは思えないわね……」
呆れたような面白そうな顔になった幸野さんは、苦笑すると共に頷いた。
「わかったわ。それじゃあ、監視を付けさせて貰うけど、いい?」
「……ええ、どうぞ」
なんてこともなげに答えると、次の瞬間には予想外なことを幸野さんは口にした。
「じゃあ、夜衣斗君の監視をお願いね、美羽?」
「へ?」
それまでず~っと幸野さんの隣で所在無げにしていた美羽さんが、急に名前を呼ばれたことにびっくりした。
どうやら俺と幸野さんの話を聞かずに、何事かをぼ~っと考えていたようだ。
その美羽さんの反応に、幸野さんはちょっと呆れた顔になる。
「美羽も武霊部部員なんだから、こういう話にちょっとは興味を示しなさい。先輩として恥ずかしいわよ?」
ん? 先輩? まあ、名前からして、武霊に関することをしている部活なんだろうが、ん~なるほど。だから、仲がいいのか……
「えへへ。そういう頭脳労働は、他の人達の担当ですし」
なんて可愛らしく笑う美羽さん。
既にある知識はちゃんと説明してくれたってことは、記憶力は良いとは思うんだが、というか、頭脳労働は他の人が担当ってことは、美羽さんはなんの担当なんだ?
「まあ、とにかく、美羽にはしばらく夜衣斗君の監視をして貰いたいの。いい? お隣さんなんだから簡単で――」
「監視!? 何でそんなひどいことをするんですか! 夜衣斗さんのおかげで昨日のはぐれ発生は被害を最小限になったものでしょ? そんな人に監視なんて必要ないです」
「勿論、私もそう思うわ。でも、そう思わない人も確実にいるの。だから、その人達を納得させるためにも、監視をする人が必要でしょ。それに、そんなに本格的に監視をしなくてもいいわ。できる限りでね」
「だからといって美羽は納得できません。失礼過ぎますし、酷過ぎます!」
美羽さんの思いの外頑固な抗議に、幸野さんは困った感じで俺を見た。
ん~どうにも美羽さんは感情的に動く性質みたいだ。
それも悪くはないが、今はそういうのが必要な状況じゃないと思うんだがな……なんであれ、
「……美羽さん。これは俺も納得していることなので、大丈夫ですよ」
俺の説得の言葉に美羽さんは首をブンブンと横に振る。
「夜衣斗さんが納得しても、美羽は納得できません! だって、監視を付けるってことは、夜衣斗さんが疑わしい人だって、悪い人かもしれないってことじゃないですか!」
「……いや、だから、そういうことなんですけど」
「違います! 夜衣斗さんは絶対に悪い人じゃないです! 良い人です!」
なんか変な構図になった。
疑われるべき本人である俺が容認しているのに、何故か疑わなくてはいけない美羽さんがそれを否定する。
普通は逆なんじゃないんだろうか? いやだって、美羽さんと俺は昨日会ったばかりで、出会ってから一日も経ったか経ってないかで、お互いのことをそんなに知っているわけじゃないんだぞ? そんな人間を断定するかのような勢いで、良い人だとか肯定するか? いや、これはもう、信頼と言ってもいいレベルだ。
そんな無条件な信頼、向けられたことなど今まで一人だって……いや、一人はいたか、まあ、でも、その子と美羽さんでは事情も状況も違う。
そんなことを思っていると、美羽さんは隣の幸野さんに対してむす~っとしたような顔を向けた。
「それに美春さんだって見ていたでしょ? 夜衣斗さんの昨日の活躍。今日だって、武霊を具現化して直ぐだっていうのに、部分具現化だってできたんです」
「部分具現化を?」
美羽さんの言葉に驚いたように幸野さんが俺を見る。
増々疑われるようなことをわざわざ言わなくても……
「そんな凄い人なら、きっと絶対、大活躍してくれますよ! 美羽が保証します! だから、夜衣斗さんに監視を付けるなんて酷いことを言わないでください!」
興奮したように美春さんに懸命にお願いする美羽さん。
別に酷くもなんともないと思うんだがな。言葉としては強い感じがしないでもないが、どうしたもんだろうか?
どう美羽さんに納得して貰おうかと考えていると、幸野さんが何故か苦笑した。
「わかったわ。美羽がそこまで言うのなら、私も夜衣斗君のことを信頼しましょう」
はい? な、なんでそっちの折れるわけ!?
俺が急な方針転換に驚愕していると、幸野さんはちょっと困った顔になってこっちを見た。
「夜衣斗君もごめんね。いくらイレギュラーが多いからといって、あなたを疑い過ぎたわ」
「……いや、それが普通だと思いますし、怪しい人間を疑うのは当然かと」
俺の言葉に、幸野さんは首を横に振り、美羽さんに視線を向けた。
「美羽はちょっと頭が弱いけど」
「美羽、頭は弱くないです。こう見えても結構硬いですよ」
幸野さんの言葉に即座に反論する美羽さんだが、そういう頭の弱さじゃないって。
「ほらね」
苦笑する幸野さんに、俺もつられて苦笑してしまう。
なにがほらねなのかわからなかったのか、当の美羽さんはキョトンとしていたが、ちょっと不安になる反応だな。悪い男とかに騙されてホイホイ付いて行ってしまいそうだ。
「こんな感じだけど、美羽って人を見る目はあるのよ。今まで美羽が良い人だって言った人に悪い人がいたためしがないのよ」
なにそれ? 自警団団長が信頼するほどの見極めって……ま、まあ、とにかく、いまいち釈然としないが、それならホイホイと付いていくことはなさそうだ。
というか、そういうの抜きにしてもそんな風に思われるのは困った感じだ。
俺みたいな平均以下の奴に向けられる信頼と期待じゃないし、いつかそれを裏切ってしまうんじゃないかと不安に思ってしまう。
それに、俺は信頼に値する人間だと自分でだって思っていない。
思わずネガティブな方向に思考が沈み始め、黙ってしまうと、幸野さんは俺に対して苦笑した。
「まさか夜衣斗君がここまで考えてるとは思わなかったわ」
「……先ほども言ったとおり、俺は子供の頃から空想好きなので、この手の話はよく考えているんですよ」
「そう。あなたみたいな子がもう少し早く現れてくれればね……」
俺の答えに幸野さんは妙に含みを感じさせる言葉を口にしたが、ん~
「……何の進展もしていないと思いますけど?」
「それでも考え方の裾野は広がるわ」
なるほど、確かに違う考えが入ることで、今まで向けられていなかった方向に思考が向かうこともあるだろう。だが、それが俺によって起こるとはいまいち思えないな。
「じゃあ、そろそろこのパフェを食べましょ? 早く食べてあげないと、いじけちゃうから」
俺が幸野さんの言葉をいぶかんでいると、幸野さんはそんなことを言って目の前の白猫パフェを食べ始めた。
というか、いじけるって誰が?
ふと気になって顎鬚マスターを見ると、なんか沈んだ感じで若干俯いていた。
どうやら見た目に反して、内面はナイーブな性格をしているようだ。
思わず苦笑してしまう事実に気付きつつ、パフェを口にすると、予想どおりとても美味しかった。
が、どうにも目の前で食べ辛そうにしている幸野さんが気になってしまう。
片腕がギブスに包まれているから仕方がないが、なんで急に気になりだしたんだ?
って、考えてみるとさっきの昼食はワンプレートタイプだったから、片腕だけでも食べやすくなっていたな。
きっとあの顎鬚マスターが、外見に似合わず繊細な配慮をしたんだろう。
だが、流石にパフェに関してはどうすることもできなかったみたいだな……ん? もしかしたら、そのせいで若干沈んでいるんだろうか? まあ、とにかく、
「……その腕、治しましょうか?」
倒れないように慎重にスプーンを動かしている幸野さんにそう提案してみる。
「そういえば、致命傷を負っていた田村を治してくれたのは夜衣斗君の武霊能力だったわね」
俺の提案に幸野さんはじーっとこっちを見てきた。
なんでそんなに凝視されているのかわからないので、こっちとしては戸惑うしかないんですけど……
「確か昨日は意志力切れになったのよね? 意識ははっきりしているの?」
「……はい。大丈夫です」
問いに素直に答えると、幸野さんは少し呆れた顔になって、ちょっと苦笑した。
「本当に武霊を初具現化したばかりに子には思えないわね……じゃあ、お願いするわ」