表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装守護霊  作者: 改樹考果
第一章『渇欲の武霊使い』
16/85

4、『星波町限定携帯電話』

 役場の中は今日がゴールデンウィーク残り一日であるためか、人もそれなりにおり、役場の人間がそこそこ忙しそうにしていた。

 そんな中を、美羽さんは迷うことなく進み、福祉課と書かれているカウンターの前まで移動したので、俺は黙ってその後を追う。

 するとそこには、儚げな感じの女性とその人に対応している福祉課職員がいた。

 「あ!」

 と美羽さんが驚きの声を上げた。

 その声に気付いた二人がこっちを見ると、女性は美羽さんを見て力なく微笑み、俺を見て少し驚いた様子を見せる。

 「えっと……夜衣斗さん。この人は……昨日……」

 何故か言いにくそうな美羽さんを少し見て、俺の方に身体を向ける。

 「私は田村遼の妻です」

 そして、真っ直ぐ俺を見てそう自己紹介した。

 田村遼? って、美羽さんの反応から予測できる田村は一人しかいない。

 「……剛鬼丸の武霊使いだった人の?」

 そう聞くと、田村さんの奥さんは頷いた。

 というか、結婚してたのかあの人。ん~意外と思うのは失礼なことだよな……

 「今朝、夫のお見舞いに行った時には寝てらしたのに……もう回復なさったのね。少し驚いたけど、ある意味、丁度良かったかしら?」

 言葉の最後はつぶやくように言って、福祉課の人を見た。

 福祉課の人は、二つ折り携帯電話をパソコンに繋いで何やら操作している。

 今気付いたが、胸に付けている名札に『高木(たかぎ) (はがね)』と書かれていた。

 なるほど、この人が高木先生の旦那さんか……なんだかほんわかした癒し系デ……ふくよかな容姿をしているな……

 そんなことを思っていると、作業が終わったらしく、高木さんが俺を見る。

 「君が黒樹夜衣斗君だね?」

 そう問われたので、俺は頷くと、近くにいた他の職員の視線が一斉に集まった。

 な! 何なんだ!?

 俺が戸惑っていると、高木さんは苦笑した。

 「昨日の今日だから自覚はないだろうけど、君はもう既にかなりの有名人だよ」

 へ? 俺が? ゆ、有名人!?

 高木さんの言葉に、俺は酷く困惑してしまう。

 「えっと……その……はい、こんなのが出回っていますから」

 そんな俺に美羽さんは困った感じで言いながら、ショートジーンズの後ろポケットからパソコンに繋がれていたのと同じ携帯を取り出し、何やら操作してその画面を見せた。

 そこには星波動画と書かれている動画サイトらしき物が映されており………んん!?

 「今朝はそれほど動画の数も、賢覧数も少なかったので、特に気にしてなかったんですけど……今見たら、凄いことになってますね……」

 なんて言いながら、画面を操作する美羽さんの言葉を俺はあまり聞いていなかった。

 何故なら、星波動画には、美羽さんが画面を操作する度に、昨日の剛鬼丸戦の映像が様々なアングルから映し出されていたからだ。

 しかも、物凄い数の動画投稿数と賢覧数になっていて、俺としてはただただ愕然とすることしかできない。

 さっき美羽さんが凄い凄いと言ってくれてはいたが、だからといってその言葉を額面どおり受け取れるほど俺は素直じゃなく、お世辞程度にしか考えていなかった。

 とはいえ、考えてみれば、一ヵ月以上星波町にいるか通わないと、武霊は人に憑かず、武霊使いになれないっていうのに、たった一日、より細かくいえば、たった数時間で武霊が憑き、更に武霊まで具現化させたとなれば……そりゃ有名にならない方が不思議か……

 加えて考えてみると、何事も初めてということは戸惑ったり、不慣れがでてくる。なのに俺は、はぐれ化したとはいえ、自警団五本指に入るといわれている武霊使いの武霊を倒した。

 普通に考えればビギナーズラックを越える戦果だといえなくもない。

 だが、武霊の具現化に関しては、そんなに難しい感じじゃなった気がする。俺はずっとイメージしているだけで、後はオウキが殆どやってくれたし……ん~

 「……ちょっと質問なんですが」

 「はい?」

 俺の問いに、美羽さんは小首を傾げた。

 「……武霊の具現化とかコントロールってそんなに難しいものなのですか?」

 「え?」

 俺の質問に、美羽さんは唖然となったが、直ぐに表情を戻して頷いた。

 「美羽が初めて武霊を具現化した時は、ちょっとでも気の抜くと具現化が解けてましたし、戦闘中とかそういう時なんか特になってましたね。後、いうことを聞かないってことはなったですが、美羽の思いに過剰に反応したりしてましたよ。だから、夜衣斗さんみたいに初めて具現化してあそこまで武霊を安定的に具現化し続けられた上に、上手くできているなんて……星波動画に流れている映像を何度見ても、正直、信じられない所があります」

 なるほど、やっぱり想像どおりなことが武霊常識となっているようだな。

 「それと、ここまで注目されているのは、タイミングも悪かったんだと思います」

 タイミング? ああ、なるほど、

 「……二日連続のはぐれ発生中でしたものね。それも今までなかったことなんですね?」

 俺の確認に、美羽さんはこくりと頷き、

 「今までは、少なくとも一度はぐれが発生したら、一週間以上間が空くんです。なのに、一昨日発生したばかりなのに、その翌日にも連続で発生するなんて……少なくとも、武霊が発生するようになってから一度もなかったことです」

 だとすると、否応なしに注目度が高まってしまうのは必然か……

 周囲をちらっと見回すと、この場にいる全員の視線が俺に集まっており、何やらひそひそと話している人物も居れば、興味深そうに無遠慮に俺をじろじろと見ている人もいた。

 なんというか、あまりの注目度に完全に委縮してしまう。

 まあ、唯一の救いは、星波動画に投稿されている動画が、戦場が海上上空だったこともあり、全て俺の顔がよく映っていないことか……ここで素顔が晒されていたら、きっとダッシュでこの場から逃げてただろうな……

 などと思いながら、俺は高木さんに言われるがままに武霊使いの公式登録をした。

 他の武霊使い(美羽さん)の証明から、登録用紙に必要な情報を書き、顔写真を撮って、所有武霊を具現化させてこれも写真撮り。

 オウキを具現化した際に、周囲がどよめくのが分かり、思わず動揺してしまう。

 その時、一瞬、具現化が解け掛けたので、慌てて集中し直し具現化を維持。

 つまり、初心者武霊使いはこういうことを戦闘中にもやってしまうってことか……ん~なんで昨日はずっとオウキのイメージを平然とできていたんだろうか? 今思うと不思議というか何というか。まあ、子供の頃からイメージしてきたことだから、イメージすること自体は息を吸うのと同じぐらいに簡単といえば簡単だが……

 そんなことを思っていると、隣にいた美羽さんがクスリと笑った。

 どうやら、周囲のざわめきに俺が一瞬でも具現化を解きかけたことが可笑しく感じたらしい。

 ん~何だろう? 妙に恥ずかしく感じるな……

 とにかく、公式登録が終わった武霊使いには、美羽さんも持っていた二つ折り携帯が貸出されるらしい。

 その携帯は、正式名称『星波町限定携帯電話』と名付けられている『星波町内で全てが完結している携帯電話』とのこと。

 通称『星電』と呼ばれているこれは、全ての登録武霊使いに町から貸し出されているものらしいので、これを持っていない武霊使いは公式登録をしていない証になるらしい。

 具体的な説明は受けてはいないが、どうやらさっき美羽さんがちらりと言った忘却現象のせいで、星波町から外に武霊に関する知識とか物証とか持ち出せないみたいだな。じゃなきゃ、星波町内で全てを完結させる必要性なんてないだろう。

 っで、その星電は、町や自警団は、はぐれ発生とか武霊によって起きた町の状況の変化とかを武霊使いに知らせる役割以外に、星電同士でも普通の携帯電話同様に通話可能だったり、その他にも町から出るはぐれを倒した武霊使いに支払われる報奨金などもその星電に振り込まれるらしい。

 報奨金が出ることにはちょっと驚いたが、要するにこれが公式武霊使いになることで生じるメリットの一つなんだろう。

 人間、どんな時でも金は大事だしな。まあ、ちょっと残念なのが、その『星電マネー』と呼ばれる電子マネーは、当然というか何というか、星波町内でしか使えないことだな。多分、それも武霊のことが星波町の外に出ない理由に関わってるんだろう。

 が、誰も説明してくれないんだよな……忘却現象ってどんな現象なのさ……

 まあ、話を聞く限り、武霊使いになる人間は、そもそもそんな説明がいる人間じゃないはずだから、説明することに慣れてない・必要性に気付いていないって感じなのだろう。

 流石にこんなに注目を集めている場所で、基本的ぽい質問を再びする勇気はないしな……

 最初の質問だって、星波動画に自分の動画が大量にアップされていることに動揺していたからこそ聞けたものだし……ん~まあ、町の案内途中で説明してくれることを期待するしかない。

 それにしても、その星電で使える専用の動画サイト星波動画は、プライバシーとかそういうのが関係なく出回っちゃう代物なんだな。これ、絶対、色々と問題になってるって……というか……

 腕を組み、片手で口を覆い、鼻だけでゆっくり深呼吸をして、少し考え、

 「……さっき見せてくれた動画、色々なアングルから撮られていますね…………武霊使いって町全体にどれくらいの数がいるんですか?」

 「えっとぉ~」

 俺の質問に美羽さんは困った顔になり、それを見た再びパソコンを使って携帯電話ではなく、星電を操作していた高木さんは苦笑して、代わりに答えてくれた。

 「大体千人ぐらいかな? 公式登録しているのは」

 公式登録しているのは? 確か、引っ越す前に事前に調べた情報では……

 「……星波町の今の人口は約一万人ぐらいでしたよね?」

 俺の言葉に、高木先生の旦那さんは少し驚く。

 「よく知っているね」

 「……引っ越す前に町のホームページを見ましたから……十分の一という割合は幾分少ない気がしないでもないですね……」

 素直な俺の感想に、高木先生の旦那さんは苦笑して、

 「まあ、確かに武霊使いになった人、全てが武霊使いになったと公言してくれるわけじゃないからね。人によってはもう千人ぐらいいるんじゃないか? って言っている人もいるよ」

 なるほど……多分だが、公式登録すると、色々と利便もあるが、その分、面倒なこともあるんだろう。全員が全員、望んで武霊使いになりたいわけでもないだろうし、なったらなったでなれなかった者達からどんなことを思われるか分かったもんじゃない。

 今周囲から集まる視線が、好意的な物から否定的な物まで、良くも悪くも入り混じっていることぐらい、人の視線を受け慣れていない俺でも、それぐらいはわかる。

 思わずため息が出そうになっていると、

 「まあ、そうはいっても、武霊使いの数に関していえば、星波学園の方が圧倒的に多いからね」

 そう言うと共に、複雑そうな表情で高木さんは美羽さんを見た。

 視線を受けた美羽さんは、同じような顔になって頷く。

 「ええ、星波学園は教職員を併せて大体三千人ぐらいですけど、その内の半分が武霊使いですから……」

 高木先生の旦那さんと美羽さんの町と学園を分けた説明に、俺はピンとくるものがあったので、

 「……町と学園は対立関係にでもあるんですか?」

 思ったことを口にすると、美羽さんは慌てて、

 「い、いえ、別に対立してるってほどの対立はないんですけど……公式登録だって、ちゃんと町が出張してやってますし……」

 「……なるほど……出張ですか……微妙な関係といったところなんですね……」

 俺は思わずそうつぶやいて、大きなため息を吐いてしまった。

 やっぱり学園に通いたくないな。ただでさえ余計なトラブルというか運命というか、そんなのを抱えているっていうのに……だが、サヤの言った運命は変えれば変えるほど他の運命を引き寄せるって言葉が真実であるのなら、まあ、そういうのを抜きにしても、あんなに有名になって何のトラブルも引き寄せないってことはないか? 全くなんでこんなことになったんだか、数日前の俺からしたら絶対に妄想はできても、想像はできない状況だよな……

 そんなことを思っている間に、星電の書き換えが終わり、俺に星電が貸出された。

 これで公式登録は終わりとのことだが、その貸出の際に高木さんは、

 「星電はその限定性から町の予算のみで完全に作らなくちゃいけないものでね。年々増加傾向にある武霊使いの数に常に在庫不足なんだよ。だから、通常は公式登録してくれた武霊使いには数週間待ってもらうことが多い」

 そう言いながら、星電を俺に渡した。

 ん? じゃあ、この星電はどうして直ぐに俺に貸出されるんだ?

 その心の疑問を感じ取ったのか、高木さんは少し微笑んだ。

 「だが、今回のように武霊使いではなくなった人から返却される場合、返却者から新たな貸出者を指名してもいいことになっていてね」

 その高木さんの言葉に、俺が思わず田村さんの奥さんを見る。

 「あなたが武霊で治療してくれたから、夫が死なずに済んだわ。だから、あなたに夫の星電を受け取ってほしかったの……きっと、夫も目を覚ましたらそうしたと思うから……」

 奥さんはそう言って、俺に微笑んだ。

 何かを求めて田村さんを助けた訳ではないが、行ったことがこういう何かしらの形で返ってくるのは素直に嬉しく思ってしまうが……

 「夫が起きたら改めてお礼に行かせて貰いますね」

 「いえ、当然のことをしたまでですから」

 続けざまに奥さんが口にした言葉に俺は反射的に、テンプレの言葉を口にしてしまった。

 嬉しさを感じると同時に、

 そもそも俺なんかが感謝されるべきだろうか?

 そういう疑問が生じ、それが俺の心をかき乱し、思考することを放棄させたからだ。

 客観的に見れば素直に感謝されるべきことのはずなのに、それでもそのことに自信が持てずに否定の言葉を考える自分が情けなく、嫌になってしまう。

 本当にどれだけ自分が嫌いなんだか……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ