京都の宴と、死神の計算
京に入った信長を迎えた祝勝会は、どこか殺伐としていた。三好の残党を掃討し、将軍・義昭を奉じた信長の権威は、もはやこの国の頂点にある。
私は酒を酌み交わす隙を見て、信長の傍らに寄った。
「織田殿、京制圧、誠におめでとうございます。これでこの国の舵取りは、貴殿の手の中にございます」
「浅井か。若狭の経営、悪くない成果だったな」
信長は上機嫌だった。私はすかさず、冷徹な一手を打つ。
「若狭という前線を得た今、背後にある越前の朝倉が、いつ牙を剥くか分かりませぬ。奴らは今、浅井の若狭支配に対し異常な憤りを見せております。……織田殿、朝倉を叩くべきです。それが織田の天下を盤石にする、最後にして最大の掃除となります」
信長は盃を止め、俺をじっと見た。
「朝倉か。義景……あの無能に付き合う義理は、確かにもうないな」
「承認をいただけますか。朝倉が動けば、それが我らが討伐する大義名分となります」
信長は不敵に笑い、「好きにしろ」と頷いた。これで法的な「狩猟許可証」は手に入った。
小谷城に戻ると、予想通り朝倉義景の軍が国境を越えて押し寄せていた。
「朝倉様のために!」と叫ぶ越前兵に対し、私は冷ややかな笑みで応じる。
「よし。ここからは予定通りだ。景鏡、動け」
朝倉軍の先陣を切っていた朝倉景鏡は、事前の密約通り、我が軍が押し返した瞬間に反旗を翻した。彼らは「義景の命令で無理な戦を強いられている」と触れ回り、朝倉本隊の退路を断つべく背後から襲いかかった。
朝倉軍の中枢で景鏡が叫ぶ。
「義景様こそが、朝倉を滅ぼす元凶だ! これより我が陣は、浅井長政公に付く!」
朝倉の陣形は一瞬にして崩壊した。パニックに陥った兵たちが同士討ちを始める中、私は冷徹に戦況を見守る。景鏡は、自分が朝倉を滅ぼす「英雄」になったつもりで悦に入っているだろう。
だが、景鏡の役割はここまでだ。彼は利用価値が尽きた。
私が合図を送ると、潜ませていた甲賀の刺客たちが、混乱する朝倉の本陣で景鏡の背後を狙った。
「な、なぜだ……浅井殿、これはどういう……!」
景鏡が絶叫する中、彼は自らの配下だと思っていた影に討たれた。
「混乱した軍をまとめ上げるには、指導者の急死が最も効率的だ」
私は傍らの石田佐吉に言った。
「景鏡を討てば、朝倉軍は名目上の指揮官を失い、完全に崩壊する。あとは逃げ惑う者たちを刈り取るだけだ。佐吉、戦後の資産整理の準備をしておけ。朝倉家の蔵、すべてを没収する」
若狭から持ち込んだ商人の情報網と、信長の承認、そして景鏡の裏切りと暗殺。全てのパズルのピースが噛み合い、北陸の雄・朝倉家が、雪崩のように崩れ去っていく。
戦場に広がる混乱を眺めながら、私は確信していた。
これで北近江から若狭、そして越前へと至る、完璧な「経済圏」が完成する。俺の天下は、武力よりも早く、金と策謀で形作られているのだ。




