↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/23

京都の宴と、死神の計算

京に入った信長を迎えた祝勝会は、どこか殺伐としていた。三好の残党を掃討し、将軍・義昭を奉じた信長の権威は、もはやこの国の頂点にある。

 私は酒を酌み交わす隙を見て、信長の傍らに寄った。

「織田殿、京制圧、誠におめでとうございます。これでこの国の舵取りは、貴殿の手の中にございます」

「浅井か。若狭の経営、悪くない成果だったな」

 信長は上機嫌だった。私はすかさず、冷徹な一手を打つ。

「若狭という前線を得た今、背後にある越前の朝倉が、いつ牙を剥くか分かりませぬ。奴らは今、浅井の若狭支配に対し異常な憤りを見せております。……織田殿、朝倉を叩くべきです。それが織田の天下を盤石にする、最後にして最大の掃除となります」

 信長は盃を止め、俺をじっと見た。

「朝倉か。義景……あの無能に付き合う義理は、確かにもうないな」

「承認をいただけますか。朝倉が動けば、それが我らが討伐する大義名分となります」

 信長は不敵に笑い、「好きにしろ」と頷いた。これで法的な「狩猟許可証」は手に入った。

 小谷城に戻ると、予想通り朝倉義景の軍が国境を越えて押し寄せていた。

「朝倉様のために!」と叫ぶ越前兵に対し、私は冷ややかな笑みで応じる。

「よし。ここからは予定通りだ。景鏡(かげあきら)、動け」

 朝倉軍の先陣を切っていた朝倉景鏡は、事前の密約通り、我が軍が押し返した瞬間に反旗を翻した。彼らは「義景の命令で無理な戦を強いられている」と触れ回り、朝倉本隊の退路を断つべく背後から襲いかかった。

 朝倉軍の中枢で景鏡が叫ぶ。

「義景様こそが、朝倉を滅ぼす元凶だ! これより我が陣は、浅井長政公に付く!」

 朝倉の陣形は一瞬にして崩壊した。パニックに陥った兵たちが同士討ちを始める中、私は冷徹に戦況を見守る。景鏡は、自分が朝倉を滅ぼす「英雄」になったつもりで悦に入っているだろう。

 だが、景鏡の役割はここまでだ。彼は利用価値が尽きた。

 私が合図を送ると、潜ませていた甲賀の刺客たちが、混乱する朝倉の本陣で景鏡の背後を狙った。

「な、なぜだ……浅井殿、これはどういう……!」

 景鏡が絶叫する中、彼は自らの配下だと思っていた影に討たれた。

「混乱した軍をまとめ上げるには、指導者の急死が最も効率的だ」

 私は傍らの石田佐吉に言った。

「景鏡を討てば、朝倉軍は名目上の指揮官を失い、完全に崩壊する。あとは逃げ惑う者たちを刈り取るだけだ。佐吉、戦後の資産整理の準備をしておけ。朝倉家の蔵、すべてを没収する」

 若狭から持ち込んだ商人の情報網と、信長の承認、そして景鏡の裏切りと暗殺。全てのパズルのピースが噛み合い、北陸の雄・朝倉家が、雪崩のように崩れ去っていく。

 戦場に広がる混乱を眺めながら、私は確信していた。

 これで北近江から若狭、そして越前へと至る、完璧な「経済圏」が完成する。俺の天下は、武力よりも早く、金と策謀で形作られているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。