ミズガルズ七大陸総覧
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ミズガルズ七大陸総覧
属性都市・国家・世界勢力に関する設計資料
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1. 世界総論
ミズガルズは、並行世界の海の交差点に位置する星である。
星の内部にはエンタングルメントが巡り、地脈、水脈、鉱脈、大気、生命、都市構造を通して世界全土へ流れている。だが、エンタングルメントの性質は場所によって均一ではない。水に溶けやすい地域、結晶に宿りやすい地域、炎や熱として表出する地域、風や音に混ざる地域、植物や獣に強く反応する地域、死者の記憶に干渉する地域、そして光や影として現れる地域がある。
そのため、ミズガルズの文明は大陸ごとに異なる属性を持って発展した。
世界には七つの大陸が存在する。
水の大陸 《アクアリム》
火の大陸 《イグニス》
風の大陸 《エアリス》
土の大陸 《グランディア》
雷の大陸 《ヴォルトニア》
樹の大陸 《シルヴァーナ》
影の大陸 《ノクティルカ》
七大陸は単なる地理区分ではない。星の内部を巡るエンタングルメントが、各地で異なる属性として表出した結果、生まれた文明圏である。
属性とは、魔法の分類名ではない。
属性とは、エンタングルメントがその土地でどのように振る舞うかを示す性質である。水の属性を持つ土地では、エネルギーは流れ、記憶を運び、浄化と侵食を同時に起こす。火の属性を持つ土地では、エネルギーは熱、燃焼、鍛造、変質、衝動として表れる。風の属性では、移動、音、情報、自由、希薄化として現れる。
この属性差こそが、ミズガルズの国家間関係、産業構造、戦争、宗教、死獣化の形態を決めている。
ディープ・グラウンドのあるアクアリム大陸は、七大陸の中でも最もエンタングルメント制御技術が発達した地域である。だが、それは世界の中心であると同時に、世界全体の均衡を乱している場所でもある。
ウォーターエージェンシー、通称WAは、水の大陸を拠点としながら、七大陸すべてに影響力を伸ばしている。各大陸にはWAの支社、提携研究所、資源採掘権、軍事協定、医療施設、ランナー派遣部門が存在する。
しかし、すべての大陸がWAを歓迎しているわけではない。
エンタングルメントを文明の資源と見る国もあれば、星の血として畏れる国もある。死獣化を病と見る地域もあれば、神罰、進化、呪い、祖霊の怒り、世界の防衛反応と解釈する地域もある。
ミズガルズはひとつの星でありながら、七つの文明原理を抱えた不安定な世界である。
2. 水の大陸 《アクアリム》
◼︎概要
アクアリムは、世界最大の水脈エンタングルメント地帯を持つ大陸である。広大な内海、地下水路、巨大湖、人工運河、深層水脈によって構成され、都市の多くは水上、水中、あるいは水脈の上に築かれている。
この大陸の中心都市が、ディープ・グラウンドである。
ディープ・グラウンドは商業都市、防衛都市、研究都市、水上交通の要衝を兼ねる巨大都市であり、WAの本社機能と生命科学研究の中枢が置かれている。センター・ドームは都市の象徴であり、同時に世界最大級のエンタングルメント制御塔でもある。
アクアリムの人々は、水を神聖視する一方で、極めて実用的に扱う。水は命であり、通貨であり、記憶媒体であり、兵器であり、医療資源である。
◼︎属性特性
アクアリムのエンタングルメントは、流動性、記憶性、浄化性、侵食性に優れる。
水を媒体にすれば遠方への輸送や広域制御が可能であり、都市全体に安定化エネルギーを供給できる。医療との相性も高く、傷の修復、毒素分解、精神安定、汚染物質の除去などに広く使われる。
一方で、水は混ざる。
そのため、汚染が発生すると広がりやすい。ひとつの水脈が濁れば、地下網を通じて複数の都市へ影響が及ぶ。アクアリムの死獣化は、しばしば集団発生する。
◼︎主要国家・都市
ディープ・グラウンド
水の都。世界最大の商業都市。WA本社所在地。
都市は階層構造を持ち、上層には富裕層の居住区、企業区画、商業港があり、中層には一般市民の生活圏、訓練施設、教育区画が広がる。下層には水処理施設、旧市街、廃棄居住区、封鎖区画が存在する。
都市の中心にそびえるセンター・ドームは、生命科学研究所、個相測定機関、ランナー管理局、エンタングルメント水脈制御室を内包している。
市民にとっては安全の象徴だが、反WA派からは「水の檻」と呼ばれている。
◼︎サーフェイス・リング
ディープ・グラウンド外縁に広がる交易都市群。運河を利用した物流拠点であり、世界各地の商人、移民、傭兵、学者、密輸業者が集まる。
WAの統制が比較的弱く、裏社会が発達している。死獣化患者の密かな逃亡先でもあり、違法治療師や非公認ランナーが活動している。
◼︎アルカ・ラグーン自由港
アクアリム南部にある独立港湾都市。名目上はWA傘下ではないが、経済的には強く依存している。
芸術と娯楽の街として知られ、劇場、水上競技、仮面祭、情報売買が盛んである。水面に映る幻影を利用した演出文化が発展しており、記憶性エンタングルメントを用いた追憶劇が人気を博している。
◼︎政治体制
アクアリムの政治は企業支配に近い。
名目上は都市連合議会が存在するが、実権はWAが握っている。水道、医療、防衛、交通、教育、死獣対策のほとんどをWAが管理しているため、住民生活は企業インフラなしには成り立たない。
WAは市民を守っている。
同時に、市民の生命線を握っている。
この二面性が、アクアリムの最大の特徴である。
◼︎死獣化の傾向
アクアリムの死獣は、水棲型、軟体型、結晶鱗型が多い。皮膚が濡れたように光り、身体が流体化し、壁や水路を通って移動する個体もいる。
最も危険なのは、群体型死獣である。
水脈を通じて複数の死獣が感覚を共有し、ひとつの意思を持つように行動する。これが都市内で発生した場合、通常のランナー部隊では対応が困難になる。
3. 火の大陸 《イグニス》
◼︎概要
イグニスは、火山帯、溶岩平原、赤い砂漠、熱風の谷を持つ大陸である。エンタングルメントは熱と変質の形で表出し、鍛造、兵器製造、機械工学、炉心技術が発展している。
アクアリムが水の文明なら、イグニスは炉の文明である。
この大陸の人々は、変化を恐れない。燃やし、溶かし、鍛え直すことを生命の本質と考える。身体改造や義肢技術も発達しており、ランナー用武装の多くはイグニス製の炉心部品を用いている。
◼︎属性特性
イグニスのエンタングルメントは、燃焼性、変成性、爆発性、意志増幅性を持つ。
感情、とくに怒り、闘志、情熱と強く反応する。訓練された者が扱えば強力な推進力や攻撃力になるが、未熟な者が扱うと暴走しやすい。
イグニスでは、エンタングルメントは「燃えるもの」ではなく「変えるもの」とされる。鉱石を刃に変え、弱さを強さに変え、敗北を復讐に変える力である。
◼︎主要国家・都市
炉都ヴァルカノア
イグニス最大の工業都市。巨大な縦穴火山の内部に築かれており、都市全体が炉のように熱を帯びている。
ヴァルカノアには世界最大の鍛造ギルド《赤鎚連盟》があり、ランナー用武器、装甲、炉心機関、都市防衛砲を製造している。WAとも取引があるが、完全な従属は拒んでいる。
赤鎚連盟は「水は火を消すが、火は水を沸かす」という標語を掲げ、WAに対して強い対抗意識を持つ。
◼︎灰都エンバーグ
過去の大噴火で半壊した都市。現在は灰の下に埋もれた旧市街を再利用し、地下居住区として発展している。
ここでは死獣化患者や戦災孤児が多く暮らしており、WA非公認の治療実験も行われている。エンバーグは犯罪都市と呼ばれる一方で、弱者を受け入れる避難所でもある。
◼︎焔冠王国ソルブレイズ
イグニス内陸部に存在する王国。王権と炉神信仰が結びついており、王は「最初の火を継ぐ者」とされる。
伝統的な騎士団を持ち、エンタングルメントを炎として纏う戦士《焔騎士》が存在する。WAのランナー制度とは異なり、彼らは国家と神殿に忠誠を誓う。
◼︎政治体制
イグニスは都市国家、職人連盟、王国、傭兵団が複雑に並立する大陸である。
統一政府は存在しないが、外敵や資源問題が起きると《大炉会議》が開かれる。大炉会議では、主要都市の代表、鍛造ギルド、王国使節、傭兵団長が集まり、大陸全体の方針を決める。
◼︎死獣化の傾向
イグニスの死獣は、炭化、発火、金属化、暴走衝動を伴う。
火の死獣は非常に攻撃的で、痛覚が鈍く、傷口から火花や溶融体液を噴き出す。中には自爆する個体もおり、都市部での戦闘は大きな被害を出す。
イグニスでは死獣化を「燃え残り」と呼ぶ。完全に燃え尽きられず、歪んだ形で生き残った魂という意味である。
4. 風の大陸 《エアリス》
◼︎概要
エアリスは、高山、浮遊岩礁、断崖都市、空中航路によって構成される大陸である。常に強い風が吹き、地上よりも空の交通が発達している。
この大陸では、エンタングルメントは風、音、振動、情報として流れる。
エアリスの人々は、定住よりも移動を重んじる。商人、飛行士、伝令、音楽家、記録者、空賊、巡礼者が多く、国境の感覚は他大陸よりも薄い。
◼︎属性特性
エアリスのエンタングルメントは、拡散性、伝達性、軽量化、感覚拡張に優れる。
音や声に乗りやすく、遠距離通信や索敵との相性が高い。また、重力感覚を一時的に薄めるため、飛行装置や浮遊艇の技術が発展している。
一方で、情報汚染に弱い。
噂、恐怖、幻聴、集団錯覚がエンタングルメントに乗って広がりやすく、都市全体が同じ悪夢を見ることもある。
◼︎主要国家・都市
空都スカイリム
巨大な浮遊岩盤の上に築かれた都市。空中港、気象観測塔、音響通信塔を持ち、七大陸間を結ぶ空路の中心地である。
スカイリムには《風読み》と呼ばれる専門職がいる。彼らは風に混ざるエンタングルメントの揺らぎを読み、天候、死獣発生、遠方の災害、政治変動まで予測する。
ただし、風読みの予測は常に正確ではない。彼らが読んでいるのは未来ではなく、可能性の流れである。
◼︎鳴峡都市リュートベル
巨大な峡谷に吊り橋と音響塔を張り巡らせた都市。峡谷を吹き抜ける風が常に楽器のような音を鳴らすことから、音楽と記録の街として知られる。
ここでは歴史が楽譜として保存される。王の死、戦争、災害、恋人たちの誓いまでもが旋律化され、都市の大図書館ならぬ《大楽庫》に収められている。
◼︎雲上自治領アステル
空を移動する船団国家。固定領土をほとんど持たず、巨大飛行船群がそのまま国家として機能している。
アステルはWAの支配を受けにくいが、燃料や医療技術ではWAと取引している。密輸、亡命、情報取引の温床でもある。
◼︎政治体制
エアリスは緩やかな連邦制に近い。都市ごとの自治が強く、大陸全体を束ねる権力は弱い。
その代わり、情報網が強い。
エアリスの伝令組織 《白翼連絡団》は、七大陸の政治、戦争、死獣化情報を最も早く集める。WAですら彼らの情報網を完全には掌握できていない。
◼︎死獣化の傾向
エアリスの死獣は、鳥型、薄膜翼型、音響型、透明化型が多い。
厄介なのは、声を模倣する死獣である。家族や仲間の声で呼びかけ、ランナーを誘導し、崖や汚染区域へ追い込む。
また、風の死獣は実体が希薄な個体も多く、通常武器が効きにくい。相関音波や個相固定弾を使わなければ討伐できない場合がある。
5. 土の大陸 《グランディア》
◼︎概要
グランディアは、広大な山脈、地下迷宮、鉱山都市、石造要塞を持つ大陸である。七大陸の中で最も地脈エンタングルメントが安定しており、鉱物資源に恵まれている。
この大陸では、土地そのものが記憶を持つと信じられている。
都市は頑丈で、文化は保守的で、家系や契約を重んじる。変化よりも継承を尊び、石に刻まれたものは紙に書かれたものよりも信頼される。
◼︎属性特性
グランディアのエンタングルメントは、固定性、耐久性、記録性、重力性を持つ。
建築、防壁、封印、結晶保存、長期記録に適している。アクアリムの水が流れる記憶なら、グランディアの石は動かない記憶である。
ただし、固定性が強すぎるため、いったん汚染されると浄化が難しい。汚染された鉱山や地下都市は、数十年単位で封鎖されることもある。
◼︎主要国家・都市
岩都バルドハイム
山脈をくり抜いて作られた巨大要塞都市。城壁、居住区、工房、神殿、墓所がすべて岩盤内部にある。
バルドハイムは世界有数の結晶鉱山を管理しており、エンタングルメント結晶の供給地として各大陸に影響力を持つ。
WAは長年、バルドハイムとの独占契約を望んでいるが、岩都議会は拒み続けている。
◼︎地底都市オルドメイン
地下深くに存在する鉱夫と学者の都市。太陽光は届かないが、結晶灯によって青白く照らされている。
オルドメインでは、古い人類遺跡が発掘されている。人間の骨、機械、文字、生活用品、破損した記録媒体が見つかっており、WAの研究者も頻繁に訪れる。
この都市には、人が最後に地下へ逃げたという伝承が残っている。
◼︎石碑国家レガリア
国家全体が巨大な石碑群を中心に成立している宗教国家。法律、歴史、契約、王の系譜はすべて石に刻まれる。
レガリアでは、口約束は軽んじられる。石に刻まれて初めて真実になる。
◼︎政治体制
グランディアは議会制と氏族制が混在している。
鉱山を所有する氏族、石工組合、封印術師、地脈管理官が大きな権力を持つ。王国も存在するが、王の命令よりも古い契約が優先される場合がある。
◼︎死獣化の傾向
グランディアの死獣は、岩石化、結晶化、巨大化、鈍重化が多い。
動きは遅いが極めて頑丈で、通常の攻撃では外殻を破れない。鉱山内部で死獣化が発生すると、坑道そのものと融合することがあり、討伐ではなく封鎖が選ばれる。
グランディアでは死獣化を「石に負ける」と表現する。肉体が自分の意志よりも土地の記憶に引きずられ、動く墓になるという考え方である。
6. 雷の大陸 《ヴォルトニア》
◼︎概要
ヴォルトニアは、常に雷雲が渦巻く高原、金属質の荒野、電磁嵐の海岸を持つ大陸である。七大陸で最も工学と情報技術が発達しており、電力、通信、演算装置、義体神経、都市制御システムの中心地である。
ヴォルトニアの文明は速い。
交通も、通信も、政治判断も、流行も、戦争も速い。待つことは停滞であり、停滞は死に近いと考えられている。
◼︎属性特性
ヴォルトニアのエンタングルメントは、電導性、瞬発性、接続性、演算性を持つ。
雷属性のエンタングルメントは、結晶回路や神経系と相性がよく、機械制御や思考補助に用いられる。ランナー用の反応加速装置、照準補助、個相解析装置などの多くはヴォルトニアで開発された。
一方で、精神への負担が大きい。情報が過剰に流れ込み、記憶障害、感情の断裂、人格同期障害を引き起こすことがある。
◼︎主要国家・都市
電脳都市ノヴァ・キルヒ
ヴォルトニア最大の都市。無数の塔、空中送電線、雷受け尖塔、演算結晶炉で構成される。
都市全体が巨大な演算機関として機能しており、行政、交通、警備、医療が半自律的に管理されている。市民は個人端末を通じて都市の情報網に接続している。
ノヴァ・キルヒでは、死獣化予兆の早期発見率が高い。だが、検知された者は即座に隔離対象となるため、人権問題が絶えない。
◼︎磁海沿岸都市ポラリス
電磁嵐が吹き荒れる海岸沿いの都市。特殊な金属砂が海岸一帯を覆い、雷が海へ落ち続けている。
ここでは電磁航路技術が発達し、他大陸への高速輸送船が発着する。危険な航路だが、通常の船より数倍速い。
◼︎自由研究区ラボラトリア
国家の干渉を嫌った科学者たちが築いた研究都市。倫理規制が緩く、危険な実験が行われる場所として知られる。
WAから追放された研究者や、WAに対抗する技術者も集まっている。死獣化治療、人工個相、記憶複製、ルカと人間の比較実験など、危険な研究が噂される。
◼︎政治体制
ヴォルトニアは技術官僚制が強い。政治家よりも技術者、技術者よりも演算管理官、演算管理官よりも都市中枢AIに近い結晶演算体が信頼される。
ただし、完全な機械支配ではない。最終判断は人、正確にはルカの評議員が行う。だが、その判断材料はすべて演算体によって整理されるため、実質的には情報を握る者が政治を握っている。
◼︎死獣化の傾向
ヴォルトニアの死獣は、神経暴走型、発電型、機械融合型が多い。
肉体から電流を放ち、通信網に侵入し、機械装置を誤作動させる個体が存在する。最悪の場合、都市制御システムと融合して、街そのものを死獣化させる危険がある。
ヴォルトニアでは死獣化を「同期落ち」と呼ぶ。世界との接続に失敗し、壊れた信号として暴走する状態である。
7. 樹の大陸 《シルヴァーナ》
◼︎概要
シルヴァーナは、巨大樹海、湿原、花粉海、蔓に覆われた古代都市を持つ大陸である。生命の密度が非常に高く、植物、菌類、昆虫、獣、ルカが複雑な共生関係を築いている。
この大陸では、エンタングルメントは生命力、成長、繁殖、再生、共感として表れる。
シルヴァーナの人々は、都市を建てるというより、森と交渉して住む。建物は木を切って作るのではなく、生きた植物を誘導して形成する。道は季節によって変わり、森に拒まれた者は同じ場所を歩いても目的地へ辿り着けない。
◼︎属性特性
シルヴァーナのエンタングルメントは、成長性、再生性、共生性、感情共有性を持つ。
医療や食料生産に優れるが、個体の境界が曖昧になりやすい。森に長く住む者は、植物や動物の感覚を夢に見ることがある。
シルヴァーナでは、個人より群れ、都市より生態系が重視される。
◼︎主要国家・都市
樹都エルムガルド
巨大樹の幹と枝の上に築かれた都市。樹齢数千年の大樹《母樹》を中心に、住居、神殿、治療院、市場が広がる。
エルムガルドの治療師は、世界最高峰の再生医療を持つ。WAもシルヴァーナの植物性エンタングルメントに注目しており、共同研究を申し出ているが、森の長老たちは警戒している。
◼︎花都ミラフロラ
一年中、巨大な花が咲き続ける都市。香り、花粉、幻覚、感情治療の技術が発達している。
ミラフロラでは、精神疾患や個相の乱れを香りによって鎮める治療が行われる。ただし、依存性があり、長期滞在者は現実感を失うこともある。
◼︎獣盟領ガルムウッド
ルカと大型獣が共同生活する地域。獣は家畜ではなく、契約相手と見なされる。
獣盟領の戦士は、獣と個相を部分同調させて戦う。これは強力だが、同調に失敗すれば人獣境界が崩れ、死獣化を招く。
◼︎政治体制
シルヴァーナは長老制と生態系信仰によって統治されている。
大きな決定は、ルカの長老だけでなく、母樹、獣盟、菌糸網の反応を見て行われる。外部の者には迷信に見えるが、シルヴァーナでは森そのものがエンタングルメントを通じて意思に近い反応を示す。
◼︎死獣化の傾向
シルヴァーナの死獣は、植物融合型、獣化型、寄生型、群体型が多い。
一見すると美しい花や樹木に見える死獣も存在する。近づいた者の記憶や感情を吸い上げ、根に取り込む。
シルヴァーナでは死獣化を「森に還りすぎる」と呼ぶ。生命の輪へ戻ること自体は悪ではないが、自分の形を保てなくなった状態として恐れられている。
8. 影の大陸 《ノクティルカ》
◼︎概要
ノクティルカは、長い夜、黒い海岸、霧の都市、廃墟、古戦場、地下墓所が広がる大陸である。太陽光が弱く、昼でも薄暗い地域が多い。
この大陸では、エンタングルメントは影、記憶、死、夢、沈黙、忘却として表れる。
ノクティルカは七大陸の中で最も謎が多い。地図が頻繁に変わり、存在したはずの村が消え、廃墟に誰かの生活音が響く。過去と現在の境界が曖昧で、死者の記憶が残留しやすい。
◼︎属性特性
ノクティルカのエンタングルメントは、隠蔽性、記憶残留性、精神干渉性、境界希薄化を持つ。
諜報、封印、魂の研究、夢解析、死者記録に関する技術が発達している。だが、他大陸からは不吉な土地と見られる。
ノクティルカでは、死は完全な終わりではない。死者が蘇るわけではないが、強い記憶は影として残る。声、姿、癖、未練が土地に焼き付き、生者へ干渉することがある。
◼︎主要国家・都市
霧都レイヴンズホルム
深い霧に包まれた都市。街路は入り組み、昼夜の区別が曖昧で、鐘の音によって時間が知らされる。
レイヴンズホルムには《影記録院》があり、死者の記憶、失踪者の痕跡、古い戦争の記録を保管している。WAもこの記録院に強い関心を持っているが、影記録院は外部への情報提供を極端に制限している。
◼︎黒岸都市ネブラ
黒い砂浜と暗い海に面した港町。夜光生物と影灯によって照らされる幻想的な都市だが、密輸、諜報、暗殺、亡命者の受け入れ地としても知られる。
ネブラでは、名前を変えて生きる者が多い。過去を捨てたい者、追われる者、死んだことにされた者が流れ着く。
◼︎旧王都モルグレイス
かつて栄えた王国の廃都。現在は公式には無人とされているが、影の中に住む者たちがいると噂される。
この都市では、人間時代の遺跡が大量に残っている。人が最後に何を恐れ、何から逃げたのかを知る手がかりが眠っている。
◼︎政治体制
ノクティルカに明確な統一国家はない。
霧都、黒岸都市、影記録院、旧貴族、諜報組織、墓守組合がそれぞれ権力を持つ。表向きの支配者と実際の支配者が異なることも珍しくない。
この大陸では、誰が権力者かを明言しないことが安全とされる。
◼︎死獣化の傾向
ノクティルカの死獣は、影化、幽霊化、記憶寄生型、擬態型が多い。
実体を持たず、影から影へ移動し、人の記憶に入り込む個体が存在する。討伐には物理攻撃よりも個相固定、記憶照合、光属性結晶が必要になる。
ノクティルカでは死獣化を「名を失う」と呼ぶ。自分が誰だったかを忘れ、影の中で別の何かになるという意味である。
9. 光の大陸ではなく、七大陸に存在しない属性
ミズガルズには光の属性を持つ大陸が存在しない。
光は七大陸のどこにも偏在せず、すべての属性を観測し、境界を明らかにする性質として扱われる。光は土地ではなく、現象である。
光属性のエンタングルメントは極めて希少で、主に以下の形で現れる。
個相を安定させる。
死獣化の進行を一時的に止める。
幻影や記憶汚染を暴く。
並行世界由来の混線を切断する。
星の相関層を観測する。
WAは光属性の研究を極秘に進めている。理由は、光が死獣化治療の鍵である可能性が高いからである。
だが、光はエンタングルメントを増幅しない。むしろ、過剰な相関を切り離す。つまり、光属性は現在のエンタングルメント文明そのものと相性が悪い。
もし光の技術が完成すれば、死獣化は治療できるかもしれない。
同時に、WAの水脈支配、都市管理、個相登録、ランナー装備の多くが無効化される可能性がある。
そのため、光属性の研究は救済であると同時に、体制への脅威でもある。
10. 七大陸間の関係
◼︎アクアリムとイグニス
水と火は対立しながらも依存している。
アクアリムはイグニスの炉心技術なしには大型装備を作れない。イグニスはアクアリムの水脈冷却技術なしには高出力炉を安定稼働できない。
表向きは商業協力関係だが、裏では軍事技術の主導権争いが続いている。
◼︎アクアリムとエアリス
水と風は情報流通で結びついている。
WAはエアリスの通信網を取り込みたいが、白翼連絡団は独立性を守っている。エアリス側はWAの医療技術を必要としているため、完全な対立には至っていない。
◼︎アクアリムとグランディア
水と土は資源契約で結びつく。
アクアリムは結晶鉱石を必要とし、グランディアは水脈浄化技術を必要としている。ただし、グランディアはWAの支配を強く警戒している。
◼︎アクアリムとヴォルトニア
水と雷は都市管理技術で協力している。
ディープ・グラウンドの個相管理システムにはヴォルトニア製の演算結晶が使われている。逆に、ヴォルトニアの医療インフラにはWAの水脈安定化技術が導入されている。
しかし、両者は市民管理と監視技術をめぐって倫理的な問題を抱えている。
◼︎アクアリムとシルヴァーナ
水と樹は生命科学で結びつく。
死獣化治療において、シルヴァーナの再生医療は不可欠である。だが、シルヴァーナはWAによる生命の商業化を嫌っている。
◼︎アクアリムとノクティルカ
水と影は、人間研究で密接に関係する。
ノクティルカには人間時代の記憶や遺跡が多く残る。WAはそれを求めているが、影記録院は簡単には渡さない。
11. 七大陸におけるランナー制度の違い
ランナー制度はWA発祥だが、七大陸で形を変えている。
アクアリムのランナーは、企業管理された正式兵である。個相登録、装備支給、任務評価、治療記録まですべてWAに管理される。
イグニスでは、ランナーに相当する者は焔騎士や傭兵である。彼らは国家やギルドに属し、個人の誇りと契約を重んじる。
エアリスでは、空路護衛や死獣追跡者がランナーに近い役割を持つ。彼らは固定部隊よりも小規模な機動班として動く。
グランディアでは、封鎖官と坑道守が死獣対策を担う。討伐よりも封印と隔離を重視する。
ヴォルトニアでは、即応部隊 《ライトニング・レスポンダー》が存在する。情報分析によって死獣化を事前検知し、発生前に拘束する。
シルヴァーナでは、森守と獣契約者が死獣に対応する。彼らは討伐よりも鎮静、分離、森からの切断を試みる。
ノクティルカでは、影狩りと記憶照合官が活動する。彼らは死獣を殺すだけでなく、その者が誰だったのかを記録し、名を回収する。
12. 世界規模の脅威
七大陸はそれぞれ異なる死獣化を抱えているが、近年、それらが連動し始めている。
アクアリムでは水脈汚染が進む。
イグニスでは火山活動が異常化する。
エアリスでは同じ悪夢が複数都市に広がる。
グランディアでは封鎖鉱山の奥から人間時代の信号が発せられる。
ヴォルトニアでは演算結晶が存在しない言語を出力する。
シルヴァーナでは母樹が「知らない季節」の花を咲かせる。
ノクティルカでは死者の影が、同じ名前を囁く。
これらは偶然ではない。
星の内部に巡るエンタングルメント循環が乱れ、七大陸の属性がそれぞれ異なる形で悲鳴を上げている。
WAはこの異常を把握している。
だが、全容は公表していない。
もし七大陸すべての属性汚染が同時に臨界へ達した場合、ミズガルズは単なる死獣化の蔓延では済まない。
世界そのものの個相が崩れる。
星が、自分がどの世界に属しているのかを見失う。
そうなれば、ミズガルズは並行世界の海の交差点から、並行世界の海そのものへ沈む。現実に近い現在として保たれていた世界の輪郭がほどけ、無数の可能性が流れ込む。
その時、ルカはルカでいられるのか。
都市は都市でいられるのか。
死者は死者でいられるのか。
人は本当に消えたままなのか。
七大陸の物語は、すべてこの問いへ向かっている。
13. 七大陸一覧
【大陸/属性/代表都市/主な特徴/死獣化の傾向】
□ アクアリム / 水 / ディープ・グラウンド / WA本社、水脈文明、商業都市 / 水棲型、群体型
□ イグニス / 火 / ヴァルカノア / 鍛造、炉心、傭兵文化 / 発火型、金属化型
□ エアリス / 風 / スカイリム / 空路、情報、音響通信 / 鳥型、音声模倣型
□ グランディア / 土 / バルドハイム / 鉱山、要塞、結晶資源 / 岩石化、巨大化
□ ヴォルトニア / 雷 / ノヴァ・キルヒ / 演算、通信、都市管理 / 神経暴走、機械融合
□ シルヴァーナ / 樹 / エルムガルド / 再生医療、森、生態系信仰 / 植物融合、寄生型
□ ノクティルカ / 影 / レイヴンズホルム / 記憶、死者、諜報、遺跡 / 影化、記憶寄生型
七大陸は、七つの属性に分かれているように見える。
だが、本質的にはすべて同じ星の内部を巡るエンタングルメントの異なる表情である。
水は流れる記憶。
火は変わろうとする意志。
風は届こうとする声。
土は残ろうとする形。
雷は繋がろうとする信号。
樹は増えようとする生命。
影は忘れられなかった過去。
そして、そのすべてを結びつけているのが、並行世界の海から届く揺らぎである。
ミズガルズは、七つの大陸を持つ星ではない。
七つの方法で、自分が何者であるかを保とうとしている星である。




