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追放された貴族は、国家を作り直す ― 内政だけで腐敗帝国を崩す方法 ―  作者: 鷹宮ロイド


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6/11

幕間 帝国は失敗を許さない

帝都ルクサリア。

白亜の宮殿に設えられた円卓の間では、低く抑えた声が交錯していた。


「……灰境州の件は、もはや無視できん」


最初に口を開いたのは、軍務卿だった。

甲冑すら脱がぬ男の声は、苛立ちを孕んでいる。


「帝国軍を引かせた?

 それが事実なら、単なる地方不安ではない」


「事実だ」


応じたのは、深紅の外套を纏う老貴族――

ローデリック・フォン・ハインツ。


帝国枢密院の重鎮。

財務・宗教・軍部に影響力を持つ、実質的な“国家の設計者”。


「彼は、剣で勝ったのではない。

 制度で勝った」


円卓に、沈黙が落ちる。


制度。

その言葉が意味する危険性を、ここにいる全員が理解していた。


「税を下げ、流通を回し、民心を掴んだ」


ローデリックは淡々と続ける。


「それだけなら、過去にも例はある。

 だが――」


彼は一枚の報告書を卓上に置いた。


「灰境州の税収は、前期比一二〇%。

 闇市場は縮小。

 人口流出は停止し、逆に流入が始まっている」


誰かが、舌打ちした。


「……成功している、ということか」


「“成功してしまった”のだ」


ローデリックの声は冷たい。


「諸君、考えてみよ。

 帝国が数百年かけて“仕方がない”としてきた問題を、

 一人の追放貴族が解決したとしたら?」


答えは、明白だった。


「帝国そのものの正統性が、揺らぐ」


宗務卿が呟いた。


「国家宗教は、現状を“神の定め”として説明してきた。

 だが、より良い統治が可能だと示されれば……」


「信仰は揺らぐ」


ローデリックは即答した。


「信仰が揺らげば、秩序が崩れる。

 秩序が崩れれば、帝国は保てん」


軍務卿が拳を卓に打ちつける。


「ならば、軍で潰すだけだ!」


「それは最悪手だ」


ローデリックは、初めて強い口調になった。


「軍で潰せば、彼は“殉教者”になる。

 灰境州は“理想郷”として語られるだろう」


静寂。


「必要なのは、正当な失敗だ」


その言葉に、宰相レオニスがゆっくりと顔を上げた。


「……失敗、ですか」


「ああ」


ローデリックは微笑む。


「制度は、必ず歪む。

 人は、必ず争う。

 それを“彼の責任”として表に出す」


「具体的には?」


「内部から壊す」


ローデリックは、別の報告書を差し出した。


「灰境州の豪族、グラント。

 彼はすでに、こちらに接触してきている」


軍務卿が鼻で笑った。


「裏切り者か」


「忠誠とは、立場の問題だ」


ローデリックは静かに言った。


「彼に、“正当な不満”を与えろ。

 物資、資金、言葉。

 武器は不要だ」


「……武器がなくて、どうやって?」


ローデリックは、円卓の中央を指した。


「言葉と制度で作られた国家は、

 言葉と制度で壊れる」


一同が、息を呑む。


「アレイン・フォン・ヴァルディスは、優秀だ」


ローデリックは続ける。


「だからこそ、危険だ。

 彼は“英雄”になってはならない」


宰相レオニスが、苦い顔で呟いた。


「……彼は、かつて私の前で、正論を語った」


「正論ほど、国家を壊すものはない」


ローデリックは立ち上がる。


「準備を始めろ。

 灰境州が“失敗例”として語られるように」


円卓の間に、低い同意の気配が広がった。


窓の外では、帝都が今日も静かに輝いている。


誰もが信じている。

この秩序は、永遠だと。


だが今、

帝国は気づいていなかった。


本当に危険なのは、

反乱ではなく――


成功する国家モデルであるということに。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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