表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された貴族は、国家を作り直す ― 内政だけで腐敗帝国を崩す方法 ―  作者: 鷹宮ロイド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第3話 秩序の名のもとに

夜明け前、官舎の扉が乱暴に叩かれた。


「閣下! 起きてください!」


代官マルセルの声だった。

焦燥が隠しきれていない。


アレインはすぐに身支度を整え、扉を開ける。


「何が起きた」


「帝国軍です。正規軍が……州境を越えました」


その言葉に、予感が確信へと変わった。


「どの規模だ」


「百名規模。指揮官は、中央直属の治安鎮圧部隊です」


――早いな。

だが、それも当然か。


昨日の市場での一件は、単なる地方トラブルではない。

**中央の権威に対する「異議」**として処理される。


「目的は?」


マルセルは唇を噛みしめる。


「名目は“秩序回復”。実際には……見せしめでしょう」


アレインは一瞬、目を閉じた。


秩序。

この国が最も好んで使い、最も雑に消費する言葉。


「住民への通達は?」


「まだです。ですが、噂はもう回っています」


そのとき、廊下の奥から足音がした。


「来たわね」


リシアだった。

いつもの外套のまま、眠った形跡はない。


「帝国軍は、夜明けと同時に動く。そういう組織よ」


「詳しいな」


「知ってるだけ」


彼女はそれ以上語らない。


三人は急ぎ、市街を見下ろす高台へ向かった。

朝霧の向こう、規則正しい隊列が進軍してくるのが見える。


槍と盾。

統一された装備。

地方の治安兵とは、明らかに違う。


「……これが“秩序”ですか」


マルセルが呟いた。


「ええ」


リシアが答える。


「帝国が定義する秩序。

 逆らう者を踏み潰すことで保たれる、完璧な形」


アレインは黙って隊列を見つめた。


逃げる選択肢はある。

黙認することもできる。


だが、そのどちらも――


「それでは、何も変わらない」


彼は踵を返した。


「住民を集めてください」


マルセルが目を見開く。


「正気ですか!? 今ここで集会など開けば、反乱と見なされます!」


「だからです」


アレインは静かに言った。


「軍が来る前に、こちらが“正当な統治者”であることを示す」


広場に人が集まる。

不安と恐怖が渦巻く空気。


やがて、帝国軍の先遣隊が到着した。

指揮官は、壮年の男。表情は硬く、感情がない。


「アレイン・フォン・ヴァルディス」


名を呼ばれる。


「帝国命令により、あなたの行政権限は一時停止される」


予想通りだ。


「理由を」


「越権行為。徴税の妨害。

 秩序を乱した」


アレインは一歩前に出た。


「秩序とは、誰のためのものですか」


ざわめき。


指揮官は眉一つ動かさない。


「秩序とは、帝国のためのものだ」


その瞬間、広場の空気が変わった。


「では」


アレインは続ける。


「帝国は、この地の民を守るつもりはないのですね」


沈黙。


「ならば私は、この地の責任者として、民を守る」


「反逆と見なす」


「構いません」


はっきりとした声だった。


「私は、この州を帝国から切り離すつもりはない。

 だが、“殺される秩序”を受け入れるつもりもない」


指揮官は剣に手をかける。


そのとき――


「待って」


リシアが前に出た。


「あなた方は、秩序を回復しに来た。

 なら、見てから決めなさい」


彼女は広場を指す。


「この人たちは、反乱者じゃない。

 生き延びたいだけの民よ」


一瞬の静寂。


指揮官は周囲を見渡す。

怯えた目、疲れた顔。

武器を持つ者はいない。


「……今日のところは、引く」


彼は剣から手を離した。


「だが報告はする。

 次は、もっと大きな力が来る」


帝国軍は撤退した。


その場に、安堵と恐怖が同時に広がる。


マルセルは膝から崩れ落ちた。


「……生き延びましたね」


「いいえ」


アレインは答える。


「始まっただけです」


リシアは彼を見つめ、静かに言った。


「あなた、もう戻れないわよ」


「分かっています」


「それでも?」


「それでもです」


彼女は少し考え、そして微笑んだ。


「なら、最後まで付き合う。

 この国が、どこまで壊れているのか」


灰境州の上に、朝日が昇る。

それは、帝国にとって不穏な光だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ