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追放された貴族は、国家を作り直す ― 内政だけで腐敗帝国を崩す方法 ―  作者: 芋平


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第12話 英雄になってはならない

帝国において、評判は事実よりも先に流通する。


それは噂ではない。

公式な形を取った、管理された空気だ。


アレインが帝都に戻って一週間後、

彼の名はすでに「説明済み」の存在になっていた。


《改革熱心だが、経験不足》

《理想先行型の官僚》

《善意はあったが、現実を見誤った》


どれも否定はできない。

そして――どれも、致命的だった。


「見事ね」


リシアが、いくつかの文書を机に並べる。


「あなた、もう“危険人物”じゃない」


「ええ」


アレインは頷いた。


「だからこそ、消される」


危険な思想家は、処刑すればいい。

だが、失敗した善人は、見本にする。


その日、アレインは官僚向けの非公式懇談会に招かれた。

名目は「地方行政の反省会」。


「貴重な経験を、ぜひ共有してほしい」


主催者は笑顔でそう言った。


円卓を囲むのは、若手官僚たち。

彼らの目には、敬意と警戒が混じっている。


「灰境州では、なぜ暴動が起きたのですか?」


一人が、丁寧に尋ねた。


アレインは、少し考えてから答えた。


「制度が、人の不安に追いつかなかった」


「つまり、改革は早すぎた?」


「……そう捉えられるでしょう」


その瞬間、数人がメモを取った。


言葉は、すぐに要約される。


《本人も“時期尚早”と認めた》


「もし、もう一度同じ立場になったら?」


別の官僚が聞く。


「同じ改革を?」


アレインは、即答しなかった。


沈黙。


その沈黙こそが、欲しかった答えだった。


《本人、再挑戦には慎重姿勢》


懇談会が終わる頃には、

アレインは“反省する元改革者”として完成していた。


その夜、ローデリックの元に報告が届く。


「順調です」


側近が言う。


「彼は、自ら語ることで、

 自らの可能性を狭めています」


「良い」


ローデリックは頷く。


「英雄は、語らせてはならない。

 だが、語りたがる者には、語らせる」


「彼は、誠実です」


「だから使いやすい」


ローデリックは冷たく言った。


数日後、別の動きが始まった。


地方行政誌に、論文が掲載される。


《灰境州改革の失敗要因分析》

著者名は、帝国大学の教授。


内容は理路整然としていた。


・急激な制度変更

・宗教的配慮の欠如

・統治者のカリスマ依存


結論:


《制度ではなく、人物に依存した改革は再現性を欠く》


リシアは、その一文を指でなぞった。


「……あなたを、“例外”にした」


「ええ」


アレインは言う。


「制度ではなく、私個人の問題に」


「これで、誰も真似できなくなる」


それが、帝国の狙いだった。


真実を否定せず、

再現性を奪う。


「あなた、怒らないの?」


リシアが尋ねる。


「怒るべきですか」


「普通は」


アレインは、少し考えた。


「彼らは、正しいやり方で私を封じています」


「……それが一番腹立たしいのよ」


夜、アレインは一人、記録を書いていた。


公開しない。

提出もしない。


ただ、残すために。


《制度は、人を救う。

 だが、人は、制度を信じる理由を必要とする》


《国家は、成果ではなく“語り”で維持される》


《英雄が不要な国家は、

 英雄を生み出さない仕組みを持つ》


ペンを置く。


「……英雄になってはならない」


それは、忠告ではなかった。

戦略だった。


翌朝、リシアが言った。


「噂が変わり始めてる」


「どう変わった?」


「あなたはもう、“危険な改革者”じゃない」


一拍。


「“惜しい人材”よ」


アレインは、微かに笑った。


「それなら、動けますね」


「え?」


「惜しい、という評価は」


彼は静かに言った。


「再登用の余地があるという意味です」


帝国は、彼を閉じ込めたつもりでいる。

だが実際には――


檻の扉を、半分だけ開けた。


第二部は、ここから本格化する。


剣ではなく、

制度でもなく――


評価と正統性を奪い合う戦争として。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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