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追放された貴族は、国家を作り直す ― 内政だけで腐敗帝国を崩す方法 ―  作者: 芋平


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第10話 失敗の証明

帝国の調査団は、三日後に到着した。


白と金の紋章を掲げた馬車。

整った装備。

記録官、法務官、宗教監察官。


その陣容を見ただけで、結論は決まっていると分かった。


「……裁きに来た、というより」


マルセルが呟く。


「記録しに来た、ですね」


「ええ」


アレインは静かに答えた。


「“失敗した事例”として」


調査は迅速だった。

帳簿は押収され、役人は事情聴取を受け、

暴動現場は「秩序崩壊の証拠」として整理されていく。


死者の名は、数字に置き換えられた。


「統治責任者、アレイン・フォン・ヴァルディス」


法務官が宣告する。


「あなたの暫定統治は、帝国法第八十七条に基づき、

 “社会的安定を損なった試み”として認定されます」


それは、刑罰ではなかった。

評価だった。


「よって、灰境州モデルは正式に破棄され、

 以後、同様の制度変更は禁じられます」


――これが、帝国の勝ち方か。


アレインは、黙って聞いていた。


「あなた個人に対する処分は――」


法務官は、一瞬だけ間を置いた。


「中央への身柄移送。

 事情聴取後、処遇を決定します」


マルセルが息を呑む。


「……牢獄ですか」


「未定です」


それが答えだった。


夜、灰境州の町は静まり返っていた。


灯りは減ったが、消えてはいない。

市場の片隅では、小さな取引が続いている。

人は、生きている。


アレインは、広場に立っていた。


あの日、暴動が起きた場所。


「……あなたのせいだと思ってる人もいる」


隣に立ったリシアが、そう言った。


「当然でしょう」


「でも」


彼女は続ける。


「あなたのおかげで、生き延びた人もいる」


沈黙。


「それは、帝国の記録には残らない」


「ええ」


アレインは頷いた。


「だが、消えもしない」


翌朝、移送の準備が整った。


護送兵が来る。

帝国の馬車が待っている。


その前に、数人の民が集まってきた。


誰も、声を張り上げない。


ただ、帽子を取る。

頭を下げる。


「……ありがとう」


小さな声が、確かに聞こえた。


アレインは、何も言わなかった。

言葉は、もう十分だった。


馬車に乗り込む直前、

リシアが一歩、近づく。


「これで終わりじゃないわ」


「分かっています」


「帝国は、“失敗”を固定化した」


彼女は言う。


「でも、あなたは“成功の途中”を見せた」


アレインは、初めて微かに笑った。


「なら、それで十分です」


「……私も、行く」


その言葉に、彼は目を見開いた。


「あなたは、ここに残れば――」


「残れない」


リシアは、はっきり言った。


「私は、宗教からも、帝国からも異端よ。

 ここにいれば、次は私が火種になる」


一瞬の逡巡。


「なら、一緒に来てください」


馬車が動き出す。


灰境州の城壁が、ゆっくりと遠ざかる。


帝国は、この出来事を

「一地方での改革失敗例」として処理するだろう。


だが、アレインは知っていた。


あの地で――

人は一度、

“国家が機能する姿”を見てしまった。


それは、消せない。


馬車の中で、リシアが静かに言った。


「第二幕ね」


「ええ」


アレインは答える。


「次は、地方ではない」


「帝国そのもの?」


「帝国を――

 “国家として成立させ直す”」


馬車は、帝都へ向かう街道を進む。


第一部は、終わった。


失敗という名の証明を携えて。


そして第二部は、

国家そのものを舞台に始まる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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