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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編ホラー

年賀状

作者: 壱原 一

恋人が去り生活が立ち行かなくなった□は私を連れて実家へ戻った。


昔□が実家を跳び出した時あるだけ金を盗んだ所為せいで後年祖*が病に臥した際十分に療養出来ず気の毒な最期を遂げたらしい。


“思う所があるだろうにそんな事はおくびにも出さずあんたの面倒まで良く見てあんたの祖□さんは本当に立派な人だ”とは、たまに玄関で立ち話をしてゆく祖□の友人による祖□が離れた隙のいいである。


実際祖□は祖□こそが私の□なら良かったと思う程私を可愛がってれ、私は□が癇癪かんしゃくを起こす位手放しで祖□に懐いた。


年の瀬に至る頃には、すっかり気を悪くした□は滅多に家へ帰って来なくなっていた。


その地域は年始に当年の守護をもたらす祖霊の神が訪れるとしていた。門松はお招き、注連しめ飾りは場の清めと御座みまし、鏡餅を供えてお迎えする。


準備万端の大晦日、□が新しい恋人といさかいの末泥酔して帰って来て、年越しは惨憺さんたんたる有様。


祖□は流血して動かず、□は一向に起きず、日の出前の門前の道で俯いて泣いていた所、気配を感じて見上げると少し高くに浮いた人が向き合って私を見下ろしていた。


きらびやかで古風な装いの、薄黒く干涸ひからびた人だった。両の手元は袖で覆い隠され、肘を折り鳩尾みぞおちの前で重ねている。


綺麗にかれていたであろう髪はかさついてほつれ、薄目を開けたまぶた眼窩がんかに落ちくぼみ、鼻は骨に沿ってしぼんで、縮み上がった唇から歯列がき出しになっている。


皮膚の随所に薄い蝋めいた欠片を張り付けたその人は、動かない歯の隙間から、じりじり粗く低い声で、「春の始めのおよろこび、祝い申しそうろう」とうなり、宙に浮いたままするすると家の中へ透けて行った。


いつまでも出て来ないので、寒さと狼狽ろうばいが極まって、立往生でまた泣き出して間も無く、初詣帰りのご近所さんに保護され救急車を呼んで貰えた。


祖□は幸い軽傷で、□は逃げたらしくそれきり。


祖□に見たものを訴えると、それは祖霊の神かも知れないと言われた。


あの異様が神で、あれを有難く招いていたとは幼心に衝撃だった。しかもするとまだ家に御座おわすのかと、小正月に正月飾りを祖□と焼納しょうのうに行くまで大層恐れおののいた。


*


最近親しくしている人が国内歴史物のオカルト好きで、る折にこの話をしてみたら、当時あの人が唸った“春の始めの”云々(うんぬん)は本邦最古の年賀状の文例に酷似しているとの事。


それなら矢張やはりあの人は祖霊の神か、随分怖いと鼻白むと、神は概してそう言うものだと文字通り神妙に返されてしまった。



終.

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