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流星の魔法使い  作者: 冬島アサ
第一章 屍王討伐

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天地無用

 ポポムは、心で叫んでいた。


(どんな数でも、重さでも――)


 引っ越し屋としてのキャッチフレーズを。

 

(――お値段、変わらず! お気軽に!)

 

 スケルトンたちが、石の天井に叩きつけられる。その衝撃は、同じ高さから地面へと落下した場合と同じだった。すなわち――、


(ガシャガシャガシャアアアア!)


 骨は砕けて、バラバラになった。


「おお! ここで浮遊魔法か!」

「やるじゃないか、あの男!」

 

 騎士たちが喝采を送る。

 苦し紛れの策の絶大な効果に、ポポム本人があっけに取られていた。


(マジか…! こんなにうまくいくなんて…! )


 ポポムの浮遊魔法には、呪文も触媒も必要なかった。あらかじめ指で触れることさえできれば、いくつでも、どんな重さでも同時に浮かすことができた。

 

 天井から夥しい量の人骨が、降り注ぐ。

 その中の頭蓋骨が一つ、ごろごろと、ポポムの目の前に転がってきた。それは、ポポムをにらむように、ぴょこんと直立する。


「…ひ!」


 邪悪な黒い瘴気――、散らばっていた人骨が吸い寄せられ、たちまち元の形へと組みあがる。それはポポムの眼前だけでなく、あらゆるところで起こっていた。


(駄目か…! やっぱり…!)


 あっさりと、スケルトン軍団完全復活――白骨の兵士たちは、自らを組み上げながらポポムに襲い掛かった。

 ポポムは、ぎゅっと固く目をつむった。疲労困憊のポポムに、逃げる体力はもう残っていない。


「助けにいくぞ!」

「ダメだ、間に合わん!」

「いや…! 待て…!」 


 ポポムの指先が、光を放っていた。


「あれを見ろ」


 長髪の魔法使いが、指差したのは天井だった。そこには、あるものが淡く光って張り付いていた。


(…あ、あれ?)


 急に静かになった周りの気配に、ポポムがゆっくりと目を開けた。

 骸骨兵が、浮き上がっていた。

 天井に張り付いたままの、自らの骨に引き寄せられて。


(ガシャガシャガシャアアアア!)


 再び、天井へ向けて落下する。

 あとは同じ繰り返しだった。

 天井に叩きつけられ石床にばらまかれてはまた復活し、また天井の自分の骨に引き寄せられては叩きつけられ――恐るべき不死のスケルトンの群れは、浮遊魔法を使う引っ越し屋によって完封されたのだ。


「あんた、すごいな!」


 レンジャーが駆け寄り、ポポムを立たせた。

 長髪の魔法使いがポポムに尋ねる。


「この魔法、いつまで持つ?」

「そ、そうですね…仕事中はずっと使ってるので、まあ丸一日くらいは…」

「なんと…触媒もなしでか」


 長髪の魔法使いが、ポポムの指を興味深そうに見る。


「“風”がない…この魔法は【ゼフィラの加護】ではないのか?」

「…あ、はい…魔法学校は、落第してしまったので…」


 ポポムが恥ずかしそうにうつむく。


「ではこの力は一体…?」


(クアアアアアッ)


「おい、話は後だ。まだ助かったわけじゃない」


 階段側から迫るスケルトンたちは、いまだ健在だった。生かして帰さぬとばかり、飛び跳ねるように、こちらへ迫って来る。


「くそ…!」


 若い騎士が、ポポムを振り返る。


「あんた、こいつら全部、浮かせることは出来るか?」

「そ、それはちょっと…」

「いいや」


 そう言ってレンジャーが、迫る骸骨の群れに向かって踏み出ていく。


「もうその必要はないな」


 こちらを振り向き、敵に背を見せた。

 そしてあろうことか、その手のダガーをポポムに向かって投げた。


(ズドッ)


 つるし肉に突き刺さるようなその鈍い音は、ポポムの体ではなく、ポポムの遥か後ろにある、扉の横の石壁からだった。

 ダガーの突き立った石壁から、赤い液体がしたたっていく。


「ど、どういうことだ? 壁から――血が?」


 床に向かって流れていく血を中心線として、人型の輪郭が浮かんでいく。石壁から滲むように現れた男は、喉にダガーを生やしたままゆっくりと床へと倒れた。


「この距離で、レンジャーの感覚を誤魔化せると思うなよ」


 スケルトンを操るネクロマンサーに違いなかった。男が倒れたと同時に、迫るスケルトンたちも崩れるようにただの骨へと戻った。


「助かった――のか?」

「そのようだ」


 安堵の声が漏れる。


「で、どうする?」

「最後の命令は撤退だ」

「そりゃそうだが」


 ポポムは話す男たちの横をすり抜けていく。

 ポポムが扉を押し開けると、予想通り階段があった。

 今度は大階段だったが、暗く不気味なことに変わりはない。だが、下りていかねばレルに会えない。


(レル様――)


 と、若い騎士がポポムの肩に手を置いた。


「?」

「助かったのは、あなたのお陰だ。礼を言わせていただきたい」

「――ちょっと先を急ぎますので」


 ポポムは扉をくぐる。

 大階段を下り始めたポポムに、今度は長髪の魔法使いが、扉の向こうから声をかけた。


「その魔法といい、君は何者なのだ。術士でないなら、一体?」


 ポポムは振り返り、こう言った。


「引っ越し屋です」


 そのポポムの言葉が響いたのと、死にゆくネクロマンサーが最期の呪文を完成させたのは同時だった。


「おい、あ、あれ…」

「ま、まさか…嘘だろ、そんな…」


 男たちの震える声で、呪文の成功を知ったネクロマンサーは、にやりと笑い息絶えた。

 その呪文の対象は、骨ではなかった。散乱する骨の山からずるりと立ち上がったのは、さっきまで共に戦い死んでいった戦友たちであった。術者が死んでなお、屍たちは男たちに襲いかかった。

 ポポムが暗い階段を十段ほど下りた時、背後から痛切な悲鳴と恐ろしい咆哮が聞こえた――ような気がしたが、ポポムはその真相を確かめることなく先を急いだ。




 その頃、レルこと聖騎士アウレリアは、城のさらなる下層にいた。

 巨大な屍鬼(グール)の斧槍の一撃が、レルに迫った。


(――速い!)

 

 頬を刃がかすめる。

 間一髪で懐に飛び込んだレルは、屍鬼の着こんだ重騎士の鎧の上から構わず鉄拳を叩きこむ。


(ドゴン!)


 ただの拳ではない、神聖魔法を込めた聖なる一撃(ディバイン・スマイト)である。レルに倍する体躯の重装グールの体が、二つに曲がった。


(ゴアアアア!)


 その下がってきた頭部めがけて、身をひねり聖盾ヴァルカンティスを叩きつける。

 

(ガギィン!)

 

 兜と盾がぶつかる金属音が、耳をつんざく。

 

「うおおおおおおーっ!」


 意に介さずそのまますぐそばの石壁にグールの頭部を押しつけ、すりつぶすように兜ごと砕いた。

 倒れたグールの死骸に、すかさず浄化の呪文を唱える。これで不死属性の怪物も、蘇ることはない。


「そろそろ謁見の間だな」


 レルの勝利に視線も送らず、リズが言う。


「ええ、行きましょう。体力は温存できてる」


 レルは歩き出す。

 待ち伏せの魔物も、仕掛けられた罠も、二人はほとんど捨て置き、最低限の戦いしかしていない。

 

(体力はな…)


 リズはレルの手の、わずかな震えを見逃さなかった。

 二人は、城の中心部に向かう。そこにある謁見の間の玉座に、魔物の長が鎮座しているはずだった。

 屍王しかばねおうネクロヴァルド――自らに不死の呪いをかけた、二千年を生きると豪語する悪の魔導士――、すわなちリッチである。

 


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