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流星の魔法使い  作者: 冬島アサ
第一章 屍王討伐

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消えた引っ越し屋

 レルの体に取りついていた遺物は、すでに力を失い、元の形に戻って謁見の間の床に転がっていた。

 自分に何が起こったのか、レルにはわからなかった。だが、強大な力の奔流に身を任せることの心地よさは体が覚えている。


「ひとつふたつ、持って帰るかね?」


 陽気な調子で、レルの手に提げられたネクロヴァルドが言った。

 レルは、半身のままの彼を目の高さに持ち上げて言う。


「あなたの本体フィラクテリーはどこ?」

「この体だよ」

「嘘つかないで」


 くくく、半身の屍王は嗤う。


「言っておくが僕は君に全面降伏したわけじゃない。ただ、王都に行って裁判を受けてやろうというだけだよ。僕が無罪か有罪かは裁判で決めるんじゃないのかね?」


 その時、広間の入口付近に倒れたままの騎士たちからうめき声が上がった。


「騎士どもの魂が戻ったようだな」

  

  言いながら傍らの二人の執事に目線を送った。


「ルーファス、ヴァレンティン」


 二人の名を呼んだ主の声が響いた時にはもう、二人の執事の姿は消えていた。


「彼らがいると、ややこしくなるだろう?」

「ええ、そうね――」

 

 レルは同意する。

 目覚めた四十余名の本隊の騎士たちが最初に見たのは、美しい聖騎士の笑顔だった。


「気がつかれましたか!」


 自分たちの無事を心底から喜んでくれるその明るい声に騎士たちの心は救われた。同時に、その手にだらりと下がるネクロヴァルドの半身は、一太刀も交えることなく倒れたふがいない自分達を思い出させる。


「アウレリア様――!」


 隊長である老騎士を先頭に、レルに近付き片膝をついた。


「ご無事で何より――、我ら金剛騎士団なんのお役にも立てず…!」


 目線を上げると、ちょうどレルの手に提げられたネクロヴァルドの骸骨が見える。

自分達を一瞬で恐慌状態に陥れ、魂まで奪ったあの恐ろしい魔導士にこの少女は勝ったのだ。


「立ってください、ヘミング卿――皆さんも」


 自分の名を少女が覚えていてくれていた――そのことに、老騎士の胸に熱いものがこみ上げた。


「いいえ、立てませぬ。我らは自分たちの保身と体面のみを考え――王と聖女を欺き、その魔導士と商人どもとの密約に加担しておったのです…!」


 はあーあ、と呑気なため息が聞こえた。


「んなこたあ、だいたい知ってんだよ、こっちは」


 まだ子供のように見える褐色のエルフが、左腕の付け根をおさえ手のひらを閉じたり開いたりしながら広間の出口へ向かった。


「指が上手く動かねえ。レル、道中そいつが襲ってきても俺は当てにすんなよ」


 そう言って顎でネクロヴァルドを示し、そのまますたすたと広間を出て行ってしまう。

 その姿に苦笑を返し、少女は騎士たちに向けて言う。


「この作戦がなんであったか、それは裁判の場で詳らかにされるでしょう。ですが、これだけは言わせて下さい。皆さんが駆けつけてくれなければ、わたしはさらに苦戦を強いられていた――皆さんの同僚である四人の魔法使いがわたし達を助けてくれました。戦いの最中でしたのでおそらくですがモンド卿、ランス卿、シルベス卿、タバル卿」


 おお、と声が漏れた。


「あの火魔法の…」


 かは、とぶら下げられたままのネクロヴァルドが嗤い声をあげ、すぐさま「失礼」と取り繕った。

 何も聞こえなかったようにレルは、続ける。


「勇敢に戦い、立派に戦死されました。つまり――、この屍王ネクロヴァルドは皆さんと共に討ち取ったのです」


 そう宣言し、半身のネクロヴァルドを皆の前に掲げた。全員が顔を上げ、熱い視線で史上最年少の聖騎士を見つめていた。


「――では、立っていただけますか? 皆さん」


 レルはまだ幼さの残る目元をすこし下げ、不安げに微笑んだ。その表情を前に、騎士たちは立たないわけにはいかなった。

 その時、十名の男達が謁見の間に入ってきた。


「おぬしらは、降下部隊の」


 レンジャー三名と魔法使い五名、そして騎士が二名、全員がぼろぼろだった。だが、その目は生気に溢れていた。


「アウレリア様、ご無事でしたか…!」

「皆さんこそ」彼らに近づきながらレルが言う。


 長髪の魔法使いが広間を見渡した。


「あの方は?」

「あの方…?」

「引っ越し屋殿です。無事にアウレリア様の下にたどりつかれましたか?」

「ポポムさんですね。ええ、来てくれました」


 若い騎士が進み出る。


「我らは彼に命を助けられたのです」


 その言葉を聞いて、レルの胸に何故か誇らしい気持ちが湧いた。


「ええ、わたしもです」

「そうですか。大した男です」と、魔法使いが言った。

「で、今はどちらに?」

「そこに――ポポムさん」


 レルが振り返りざまに声をかけた。さきほど、あの巨体をもられさせた高座に向けて。

 だが、そこにポポムの姿はなかった。

 ポポムは走っていた。

 潮風の香る、王都の広場を。

 

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