朝日にまたたく星
ポポムは目を覚ました。
もたれかかっているのは、玉座のあった高座の縁だった。レルが運んでくれたのだろうか。
尻も背中も冷たかったが、気分は良かった。
顔をあげる。
見えた光景に、思わず声が漏れた。
「あー、良かった…」
広間の入口付近で、レルが騎士たちに囲まれているのが見えたのだ。
遠くからでも分かる。彼らとレルの話す距離が違っていた。誰ももう、レルを飾りだとも疎ましいとも思っていない。
「――ふむ。良かったじゃないか」
え――。
高座の上から、幼い声がした。
ポポムが振り向き見上げると、まず子供が履くような木靴が見えた。
十歳? いや、それにも満たないような――それはネクロヴァルドの隠し部屋で見た、少年をかたどった人形だった。見事な金髪に美しい青い瞳――精巧なかわいらしさが、逆に胸の奥をざわつかせた。
「ひ…!」
思わず声をあげるポポムに向けて、少年人形は(しーーっ)と指を立てた。
「大丈夫、怖がらないでいい」
子供らしい、かわいらしい声で人形は囁いた。
生気のない作り物の瞳が、からかうようにポポムを見る。
「一緒に行こうじゃないか、王都へ」
声に合わせて仕掛けが動き人形の口がパクパクと開いた、次の瞬間――
ポポムは急に地面が無くなったような浮遊感を感じた。
(ヌルファッ…)
ポポムの周囲が遥か彼方に飛び去って、周りは一転、暗闇となった。すぐさま次の光景が彼方から矢のように飛んできて、ポポムの周りに定着する。
「えっ…」
それが幻影でないのは、吸い込んだ空気の匂いで分かった。
微かに潮の香りがする、冷たく澄んだ空気。
「そ、そんな…!」
ポポムは思わず立ち上がる。
切り出した石を並べただけのベンチを越えて、同じ石で組まれた低い手摺りから身を乗り出した。
見慣れた巨大な港と、帆を畳んだ何艘もの帆船が見えた。
そこから視線を上げると、入り組んだ繁華街が広がっており、さらにその上にある高台には王都の象徴である大王宮が見えた。
(嘘だろ…)
王都マリオン――。
さっきまで馬車で丸一日はかかる古城にいたはずだった。
夢を見ているのか。なら、どこから?
「ふーむ、これが王都か」
声がした。
見ると、人形が――、あの少年人形が、手すりに座って海を見ていた。金髪が風に揺れる。
「さっきの執事の一人――ライカンスロープの方は名をルーファスというんだがね。買い出しやら商談やらで、年に何度かこの王都に通ってもらっているのだよ。もののついでに空間転移術の出口を、作っておいてもらったのだが」
かくかくと首が動いて、ポポムの方を見る。
人形の顔に朝日が当たった。
「ネ、ネクロヴァルド…?」と、ポポムは言った。
「ああ、そうだともポポム君。だがね――」
人形が指を鳴らす。
すると、いかなる魔術か――作り物にしか見えなかったその顔と体は、朝日の中でたちまち生き生きとした人間のものに変わっていく。
「この姿の時は、ヴァルと呼んでくれたまえ」
そう言うと少年は、にっこり微笑んだ。
(…!)
その愛らしさに絶句するポポムの頭上で、朝日に負けぬ星が一つまたたいた。




