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流星の魔法使い  作者: 冬島アサ
第一章 屍王討伐

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朝日にまたたく星

 ポポムは目を覚ました。

 もたれかかっているのは、玉座のあった高座の縁だった。レルが運んでくれたのだろうか。

 尻も背中も冷たかったが、気分は良かった。

 顔をあげる。

 見えた光景に、思わず声が漏れた。


「あー、良かった…」


 広間の入口付近で、レルが騎士たちに囲まれているのが見えたのだ。

 遠くからでも分かる。彼らとレルの話す距離が違っていた。誰ももう、レルを飾りだとも疎ましいとも思っていない。


「――ふむ。良かったじゃないか」


 え――。

 高座の上から、幼い声がした。

 ポポムが振り向き見上げると、まず子供が履くような木靴が見えた。

 十歳? いや、それにも満たないような――それはネクロヴァルドの隠し部屋で見た、少年をかたどった人形だった。見事な金髪に美しい青い瞳――精巧なかわいらしさが、逆に胸の奥をざわつかせた。


「ひ…!」


 思わず声をあげるポポムに向けて、少年人形は(しーーっ)と指を立てた。


「大丈夫、怖がらないでいい」


 子供らしい、かわいらしい声で人形は囁いた。

 生気のない作り物の瞳が、からかうようにポポムを見る。


「一緒に行こうじゃないか、王都へ」


 声に合わせて仕掛けが動き人形の口がパクパクと開いた、次の瞬間――

 ポポムは急に地面が無くなったような浮遊感を感じた。


(ヌルファッ…)


 ポポムの周囲が遥か彼方に飛び去って、周りは一転、暗闇となった。すぐさま次の光景が彼方から矢のように飛んできて、ポポムの周りに定着する。


「えっ…」


 それが幻影でないのは、吸い込んだ空気の匂いで分かった。

 微かに潮の香りがする、冷たく澄んだ空気。


「そ、そんな…!」


 ポポムは思わず立ち上がる。

 切り出した石を並べただけのベンチを越えて、同じ石で組まれた低い手摺りから身を乗り出した。

 見慣れた巨大な港と、帆を畳んだ何艘もの帆船が見えた。

 そこから視線を上げると、入り組んだ繁華街が広がっており、さらにその上にある高台には王都の象徴である大王宮メガ・ティサリアが見えた。


(嘘だろ…)


 王都マリオン――。

 さっきまで馬車で丸一日はかかる古城にいたはずだった。

 夢を見ているのか。なら、どこから?


「ふーむ、これが王都か」


 声がした。

 見ると、人形が――、あの少年人形が、手すりに座って海を見ていた。金髪が風に揺れる。


「さっきの執事の一人――ライカンスロープの方は名をルーファスというんだがね。買い出しやら商談やらで、年に何度かこの王都に通ってもらっているのだよ。もののついでに空間転移術の出口を、作っておいてもらったのだが」


 かくかくと首が動いて、ポポムの方を見る。

 人形の顔に朝日が当たった。


「ネ、ネクロヴァルド…?」と、ポポムは言った。

「ああ、そうだともポポム君。だがね――」


 人形が指を鳴らす。

 すると、いかなる魔術か――作り物にしか見えなかったその顔と体は、朝日の中でたちまち生き生きとした人間のものに変わっていく。


「この姿の時は、ヴァルと呼んでくれたまえ」


 そう言うと少年は、にっこり微笑んだ。


(…!)


 その愛らしさに絶句するポポムの頭上で、朝日に負けぬ星が一つまたたいた。

 

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