プラズマの太陽
滞空したままのプラズマの太陽に照らされ、七色にその光を分解しながら屹立する聖盾ヴァルカンティス――。
「ふん、なかなかよい盾じゃないか」
白骨の指で、その一点の曇りもない表面に触れる。
「僕が作ったこの球体の放つ温度は、岩も鉄も溶けだす数千度――その中で魔術も併用しているとはいえ、この輝きを維持できているとは――巨神結晶製かね?」
盾の後ろのレルたちに尋ねるが、もとより答えなど期待はしていない。
「では、試してみるか」
カキン、と再び白骨の指を鳴らすと、
(ギュアッ)
恐るべき球体の温度がさらに上がった。
床石がついに、白熱化し溶解を始める。
「あわわわわわーー!」
あまりの恐怖に、盾の後ろでポポムが叫ぶ。
ネクロヴァルドは、一点の曇りも見せぬ聖盾をじっと見つめ「うむ…これはよい品だ…」とひとりごちた。そして、顔をあげてカチカチと白骨の手を叩く。
「さ、ヴァレンティン、ルーファス。盾の後ろに回り込みたまえ。彼らはもう一歩も動けん」
「御意に。旦那様」
この夜、何度目かの絶体絶命――。
いかに聖なる盾ヴァルカンティスがその防御面積を広げたとはいえ、三人が自由に動けるような空間はない。
「奴ら、この熱の中、動けるらしい。両側から来るぞ…!」
ポポムはレルの顔を見る。盲目の集中力――レルは気配に集中している。ポポムにも、魔物の殺気がすぐそこまで近づいたのがわかった。
「ぼぼぼぼ、僕はどうすれば!」
「代わりに盾を支えて!」
「はいっ!」
ポポムがはっしと盾を握った瞬間だった。
右と左、両方から襲い来る二匹の獣――その牙を、爪を、まさに紙一重で躱しつつ、戦闘の天才たる二人の少女は、先制の一撃を食らわしていた。
「うおおおおおおおおお!」
追撃しては、安全な範囲を出てしまう。だが――何の打ち合わせもなく、レルとリズは一撃ごとに相手を変えながら必殺の攻撃を連打していく。
(ズガガガガガガガ!!)
二匹の獣は、ずたずたになって吹っ飛んでいった。
「や、やった!」
ポポムが喜びの声をあげる。
どさりと尻もちをつくように、二人は盾の陰に倒れ込んだ。
息の荒い二人の顔から、緊張は消えていない。
「いいや、奴らすぐにまた復活してくる。このままじゃジリ貧だ」
「あの二人の再生能力…きっと、ネクロヴァルドが魔法で強化してるんだと思う」
「だろうな。じゃあ先に頭を叩かねえと…」
「それがね、リズ…」
レルは自分の右の拳を見つめ、続けた。
「さっきの戦闘で何回か、あいつに神聖魔法の攻撃を当てたの。一度は灰にまでなった。なのに、復活してくる。だから、たぶん…」
リズが、後を引き取る。
「魂は別の場所にある…そういうことか」
レルがうなづく。
「えっと、それはどういう…?」
「あいつは自分に不死の呪いをかけた元・魔術師、リッチってやつだ。肉体から切り離した魂を、別の容器に保管してる奴が多い」
「魂の器、フィラクテリーと呼ばれるものです」
「倒すには、それを壊すしかない」
「なるほど。それは、どんな形の?」
「わかりません。どこにあるのかも」
「そ、それじゃあ…」
倒すことは不可能だ。
「この広い城のどっかに隠してあるってんならお手上げだ。だがもし、この謁見の間のどこかにあるとしたら?」
そのレルの言葉でポポムは――、自分の大事な聖騎士コレクションが母親に見つけられそうになった時のことを思い出していた。
あの時、自分は母親とコレクションの間に立ち、母をなんとか遠ざけようと苦心した。
人は隠したいものを、背にする。
では、この謁見の間で、ネクロヴァルドが常に背にしているのは――?
「…玉座?」
ポポムがそう呟いた瞬間だった。
(ズオオッ!)
レルの影から無数の触手が生え、レルの体を絡めとった。
「レ、レルさん!」
「くそっ!」
リズが、ダガーで触手を切り裂く。
自分でも触手を引きちぎりながら、レルは何かの気配に天井を見上げた。
「リズ! 上から来る!」
見上げると、上空に牙を剥いた二匹の獣がいた。
天と地、両方からの挟み撃ち。
左右に身を躱したいところだが、出れば一瞬で黒焦げになる灼熱地獄だ。
「くそ!」
上空の二匹を迎え撃とうとしたリズの腕に、触手が絡みつく。
ポポムの思考は凍りついた。
死ぬ。
目の前で、レルさんが――。リズさんが――。
全くの無意識だった。
ポポムは指先で、レルとリズ、そして聖なる盾に触れた。
「――浮遊ッ」
触手を引きちぎり、三人と巨大な盾が同時に浮かび上がった。
「よくやった、引っ越し屋! 褒めてやる!」
レルとリズはそのまま、空中で狼男と吸血鬼を迎撃する。
魔物の鮮血がポポムの顔にかかる。
「うわわわわーーー! ポポポポ、ポポムです! ポポポポ、ポポム!」
空中にて、ポポムの握った盾を引き取り、レルが言う。
「ポポムさん! さっきの推理はきっと正しいと思います! 行きましょう、このまま玉座へ!」
「は、はい!! レルさん!!」
三人は空中を滑るように、玉座へと向かっていく。
屍王は、この予想外の展開にしばしあっけにとられながらも、
「盾ごと浮くとはね、面白いじゃないか」
呵々と、嗤った。




