第13話「夜明け、魔女の吐息と共に」
――視点:ルカ
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まだ夜が明けきる前。
空がほんのりと青に溶けかけたその瞬間、僕はふと目を覚ました。
視界の隅で、柔らかな銀の髪が揺れている。
リゼリア様は、僕の胸に額を預け、浅い眠りの中にいた。
――それだけで、息が詰まりそうになるほど、愛おしい。
寝台に身を沈めながら、僕はそっと彼女の背に手を添える。
ナイトローブ越しの彼女の身体はとても薄く、肌のぬくもりと鼓動が、すぐそこに感じられる。
「……リゼリア様」
耳元で囁くと、彼女はゆるやかにまぶたを開けた。
「……まだ、夜明け前よ」
「うん。だから……一番深い時間に、一番近くにいたいんだ」
僕はそっと、彼女の頬に唇を落とす。
すべてを壊してしまいそうなほど繊細で、それでいて背徳的な甘さがそこにあった。
彼女の睫毛が震え、唇が微かに開く。
「ルカ……そんな目をして、わたくしに何を求めてるの?」
「全部。あなたの声も、肌も、温もりも、苦しみも、悦びも。……魔女のすべてを、僕の中に刻みたい」
もう言葉はいらなかった。
僕はゆっくりと、彼女の身体に自分を重ねる。
ナイトローブの裾が滑り落ちて、象牙のような肌が露わになる。
指先でなぞるたび、彼女の肌が熱を帯び、細い吐息がこぼれる。
その音が、僕の耳を痺れさせ、胸の奥に甘く沈んでいく。
「……ルカ、そこは……ッ」
「嫌なら、逃げていい。僕を拒絶してくれても、いいよ」
「……逃げない。逃げる気なんて、最初からないわ」
彼女の指が僕の髪に絡む。
その仕草はまるで、壊れ物を扱うように優しく――けれど、芯には確かな欲があった。
唇が触れ合い、舌先が触れ、そして――すべてが混じっていく。
朝靄の中、濡れた吐息と淡い快楽が、幾重にも重なっていく。
世界がふたりきりになったかのように、どこまでも甘く、濃く、深く――
「……はっ...ぅ....リゼリア様、好き、です」
「わたくしも……ルカ。私の、可愛い、獣」
夜明けと共に、魔女は微笑んだ。
その瞳には快楽と支配と、そして確かな愛が混じっていた。
朝の光が、ふたりの身体に降り注ぐ。
まるで、魔女と従者の交わりを――世界が祝福しているかのように。