第12話「従者の夢を見る夜」
――視点:リゼリア・ローゼンブルク
⸻
彼が私の腕の中で眠っている。
胸に頬を寄せ、静かに寝息を立てているその姿は、まるで猫のようで、けれど猫よりも人懐こく、手放すにはあまりにも惜しい。
……私がここまで誰かを抱きしめたくなる日が来るなんて。
ルカ――私だけの愛しい獣は、私が思っていたよりもずっとずっと、しなやかで、強い。
呪印に込めた力に、最初はきっと苦しむだろうと予想していたのに。
彼は甘えるように笑いながら、「もっとください」とさえ言った。
「あなた、本当に……」
思わず指先でその額を撫でてしまう。
柔らかく、あたたかい。
私の冷え切った指にぴたりと吸いつくような肌の感触。
彼の中の“熱”が、まるで私に宿った“女”の部分を呼び覚ますかのようだった。
「ねえ、ルカ」
「……ん、リゼリア様……?」
小さく寝返りを打って、彼が私を見上げる。
ぼんやりとした瞳で、夢の続きのように微笑む。
「さっきまで夢を見てたの」
「夢?」
「うん。リゼリア様と、僕がどこかの湖にいて……水面にキスしてる夢。水の精霊たちが笑ってた」
彼の指先が、私の頬を撫でた。
まるで、夢の中でも現実でも、私を離す気などまったくないと言いたげに。
「……あなた、知らないでしょうけど。夢に入り込む魔術、わたくしは得意なのよ」
「え?」
「だから、今夜の夢はわたくしが見せたものかもしれない。あなたが欲しがるから、与えたの」
それは半分、嘘だった。
本当は、私が見たかった夢を……彼と一緒に見たかっただけ。
「リゼリア様……僕、本当に、幸せだよ」
彼が目を細めて囁く。
その声は心地よい呪歌のようで――魔女である私の胸を、静かに、けれど深く満たしていく。
今夜、私は確かに夢を見た。
従者と共に、湖で唇を重ね、産まれたままの姿で抱き合い、すべてを忘れるような甘い夜の夢を。
だが――それはもう夢じゃない。
すでに、現実になりつつあるのだ。
魔女が恋をするなんて。
それこそ、夢のような話だったのに。