第11話「魔女の寝室、僕の天国」
――視点:ルカ
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リゼリア様の寝室は、昼間とまるで別の空気を纏っていた。
深紅の天蓋に覆われた大きな寝台、夜の闇を映す黒いカーテン、かすかに揺れる魔導のランプが、柔らかく甘い香りを漂わせている。
香はおそらく、魔女自身の術式――気を抜けば、理性ごと溶かされそうになる。
「……そんなに緊張してるの?」
ベッドの端に座ったリゼリア様が、薄いナイトローブの襟元から、鎖骨をちらりと覗かせながら言った。
「だって、魔女の寝室だよ。しかも、“直接、身体に教えてあげる”なんて言われたら……」
僕の声は自然と小さくなる。
でも、目は離せなかった。
薄布越しでも感じ取れる、彼女の体温、匂い、そして色気。
それらすべてが、僕の本能を煽ってくる。
「こっちへいらっしゃい」
僕は言われるまま、彼女のそばに膝をついた。
彼女は僕の手を取り、まるで花びらを扱うようにそっと指先を撫でた。
「あなたの中にある刻印……これは、わたくしの呪いと愛が混ざり合ってできている。制御を誤れば、身体の内側から焼かれる」
「……でも、僕はそれで構わない」
「どうして?」
「だって、リゼリア様の痕が、僕の中にあるって感じられるなら……それはもう、幸せそのものだから」
彼女の手が止まり、視線が交わる。
その瞳はいつもより柔らかく、熱を帯びていた。
「……ほんとに、どうしようもない子ね。いいわ、そこまで言うなら」
リゼリア様が手を差し伸べる。
僕はその手を取ると、彼女の寝台に導かれ、横たえられた。
ふと、彼女の指先が僕の胸に触れる。
その瞬間、淡い光が灯り、僕の刻印がほのかに脈打った。
「さあ、感じて、わたくしがあなたの中にどれだけ深く刻まれているか」
「……うん。リゼリア様」
彼女の指先がなぞるたび、僕の身体の奥に熱が広がっていく。
魔法の触れ合いなのに、どうしてこんなにも甘く、切ないんだろう。
まるで、恋そのもののようで――
いや、違う。
これはもう、恋じゃない。もっとずっと深い。もっと狂おしい。
「僕はもう、どこにも行けないね……」
「それでいいのよ。あなたは、ずっとここにいればいい」
そう囁かれた瞬間、僕は本当に“帰る場所”を見つけた気がした。
魔女の寝室は、僕にとって――天国だった。